Gourmet
2020.06.24

江戸から続くヘチマ信仰!?「ヘチマ」は祈りや薬膳料理でも親しまれる貴重な存在だった

この記事を書いた人

夏の野菜がぶらーりぶらーり。

こう聞くと、真っ先に思い出すのはナスやトマト、ゴーヤーなどの野菜かもしれませんが、今回注目したいのは「ヘチマ」! これも、夏の代表的なぶらぶら野菜のひとつです。

ヘチマと言えば、タワシや化粧水にも使われる素材。それだけでなく、薬膳料理として食べられたり、神経性の病気平癒の信仰に使われたりもする、とても貴重な存在なんです。

ではさっそく、知っているようで知らないヘチマの魅力についてお伝えしていきますね。

刺激で肌を丈夫にする「ヘチマタワシ」

入浴時に身体を洗うスポンジとして使われる、ヘチマタワシ。人工的に作られたボディスポンジとは違って、何とも言えない存在感があります。

繊維が硬く肌への刺激がやや強いため「肌が丈夫になる」という効果もあるのだとか。身体の汚れや角質などをしっかり落としたい時にも向いています。

私も子どもの時に作ったことがありますが、自分で手作りすると愛着が湧きます。お子さんをお持ちの方などは、夏の自由研究として一緒に作ってみてもいいかもしれません。

ヘチマタワシは、7~9月頃に収穫できる実を使って作ります。いろいろな作り方がありますが、一番シンプルな方法は「乾燥させる」こと。成熟した実を収穫しして放置しておくと、少しずつ枯れていきます。水分が飛んでカラカラに乾いたら、皮と種を取り出します。これで完成!

ヘチマタワシは、昔は台所の洗い物などにもよく使われていたのだとか。特に、鍋やフライパンなどの焦げ付きなどの汚れを落とすのにぴったり。また、独特の硬さを利用すれば、運動靴や園芸用品のお手入れなど、いろいろな汚れを落とす道具としても重宝しそうです。

美人水とも呼ばれる「ヘチマ水」

ヘチマを使った化粧水「ヘチマ水」は、昔ながらの日本のスキンケアのひとつ。その効果から「美人水」と呼ばれ、江戸時代には庶民にも広がっていきました。当時は、自宅などでヘチマを育てる風景も珍しくなかったそうです。

私も少し前からヘチマ水を使っていますが、さらりとしているのに潤う感じが、夏の肌にもぴったりだなと感じています。ちなみに最近の研究では、日焼けやほてりを抑えるヘチマ独自のサポニン群や、肌に栄養と透明感を与えるペクチンなどの成分が含まれていることが分かってきたそうです。

ヘチマ水の作り方は、完熟した実の茎を切り、その切り口から出る液体を集めるだけ。驚くほどシンプルですが、これこそ自然の恵みですね。

ちなみに、ヘチマ水はそのものに防腐作用があるため、密封した状態でしっかりと管理すれば、防腐剤や安定剤を使わなくても1~2年程度は保存できるのだとか。

ヘチマ水が気になる、すぐに試してみたいという方は、市販品なども多く出回っているのでぜひチェックしてみてくださいね。

夏の乾いた身体を潤す薬膳「ヘチマ料理」

ヘチマは、日用品として使うだけでなく、美味しく食べることもできます。タワシや化粧水には成熟した実を使いますが、食用には「成熟前の柔らかいもの」を選びます。

ヘチマ料理は、沖縄や台湾などでは一般的な家庭料理。沖縄ではヘチマのことを「ナーベラー」と呼び、味噌煮や油炒めなどで食べられています。私自身も昨年沖縄に行った時に「ナーベラーチャンプルー(ヘチマの炒めもの)」をいただきましたが、あっさりしていて食べやすく、とても美味しかったです。

また、ヘチマは薬膳料理でもよく使われています。薬膳では「余分な熱や水分を取る」という働きが期待されるのだとか。つまり、蒸し暑い夏を健やかに過ごすのにもぴったりの食材ということです。

本州ではあまり販売されていない、ヘチマ。個人的には、ヘチマがもっと気軽に手に入ればいいのになぁと思っています。

神経痛などの病気平癒を願う「へちま薬師」

最後は、別名「へちま薬師」とも呼ばれる、愛知県名古屋市東区の東充寺へ。

神経の病・神経痛治癒のパワースポットとしても知られる、こちらのお寺。境内に入ると、無数の大きなへちまの姿が目に飛び込んできます。



境内のあちこちに、ヘチマ、ヘチマ、ヘチマ……。何気なく訪れた人にとっては、ちょっとびっくりする風景かもしれません。

では、どうしてヘチマを祈祷するようになったのでしょう。きっと誰もが気になるところですよね。

話は、さかのぼること江戸時代。当時の住職であった温空上人が、突然激しい疝痛に見舞われます。その際に、へちま加持祈祷を行うと、次第に痛みが和らぎ翌朝には回復していました。この出来事がきっかけで、世の人々の病苦を取り除くためにへちまを祈祷するようになりました。

住職の星野賢裕さんによれば、ヘチマの繊維が人間の神経にも似ていることから、昔は「ヘチマのなかに神経がある」と信じられていました。そこから、神経性の病気の治癒を願って、ヘチマが使われるようになったそうです。

「当初は神経性の腸カタルや赤痢を抱えた人が多かったのですが、現在は心の病などで悩む方も増えてきています。時代とともに、ヘチマに託す願いは変わってきているようです」とのこと。

ヘチマが実を付けるのは7~9月。果実が採れる時期は、限られています。そこで、現在のへちま祈祷は、乾燥させたヘチマの雌花に真言を書いた紙を巻き、それを包み紙などに入れて祈祷を行っています。願いが成就したら、「お礼参り」として大きなヘチマを納めているのだとか。

ヘチマの力で「悠々自適」に過ごそう

身近な存在でありながら、意外と知らないことが多い「ヘチマ」。タワシだけでなく、化粧水や薬膳料理、そして祈祷にも使われるほどの奥深いパワーを秘めた素材だったとは驚きですね。

ちなみに、ヘチマの花言葉は「悠々自適」。気持ち良さそうにぶらぶらと揺れている様子から付けられたそうですが、ヘチマを上手に活用すれば、のんびりと安らかな生活が送れそうな気がしてきました。

ゴーヤーなどのように夏の陽射しを遮る「グリーンカーテン」としても使えますので、この機会に、ご家庭などでヘチマを育ててみるのもいいかもしれません。

ヘチマが実を付けるのは、これからの7~9月。旬の素材のパワーを取り入れて、健やかに過ごせますように。

◆東充寺
住所:愛知県名古屋市東区東桜2-8-15
ホームページ:http://www.toujyuji.com/

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/