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2020.09.14

ドラマ「私たちはどうかしている」を20年先取り!? 男社会に挑んだ創作和菓子作家を直撃!

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独学で和菓子を学んだ女性が、いきなり厳しい和菓子業界に飛び込んだら? まるで現在放送されている人気ドラマ「私たちはどうかしている」の中で浜辺美波さん演じる主人公のようですが、このことに20年前に挑んだアバンギャルドな女性がいたのです。それが鎌倉で工房と和菓子教室を営む「鎌倉 創作和菓子 手毬」の御園井裕子さん。

2003年に立ち上げた「鎌倉 創作和菓子 手毬」の代表である御園井裕子さん。和菓子の魅力を伝えるべく、日本全国飛びまわっている。モダンにアレンジされた和菓子は海外の方からも注目されている。神奈川県の指定銘菓でもある

練り切りをケーキのような美しさで発信!

和菓子の中でも、上生菓子と呼ばれる練り切りが、今ほど種類のなかった時に、デザイン性のある美しい練り切りを生み出し、イメージを一新。お茶席や特別な頂き物などでしか食べる機会のなかった練り切りを、ケーキのように日常的に楽しめるスイーツへと変身させました。最近では、和食の料理人や和菓子業界の人たちに教えたり、海外のスイーツブランドからオファーが相次ぐなど、活動の幅を広げています。そんなスーパーウーマンの御園井裕子さんに「和菓子の世界に飛び込んだ理由」を聞きたくて、鎌倉にある工房を訪ねました。

人気ドラマ「私たちはどうかしている」の主人公「椿」と「七桜」をイメージして御園井さんが作った和菓子。9月の毎週水、金、土、日/11~15時で販売中。商品は売り切れ次第終了になります

まるでギャラリー。宝石のような和菓子が出迎えてくれる

閑静な住宅街の中にある「鎌倉 創作和菓子 手毬」の工房に一歩入ると、シックな店内に色鮮やかで美しい和菓子が目に飛び込んできます。まるでギャラりーに飾られている作品のような繊細な美しさ。白のこしあんに、白玉粉と砂糖と水を合わせた求肥などのつなぎを使用して作る練り切りは、日持ちのしない上生菓子。素材の味がシンプルに伝わってくるフレッシュなお菓子です。その分、手作り感と季節の風物詩を眺めるように色・形が楽しめるのが魅力。

和菓子界のアバンギャルドに直撃インタビュー

- 和服を美しく着こなし、まさに和菓子作家といったイメージの御園井さんですが、もともと和菓子の世界に興味があったのですか?

御園井:いえ、それが全く。もともとスポーツが大好きで、大学卒業後はスポーツクラブの会社に入って、スキー選手になることを夢見ていました(笑)。でもスキー選手は箸にも棒にも引っかからぬ状況で、会社を辞めたんです。それでスキー選手がダメなら、もう一つの憧れだったアナウンサーになろう!とアナウンス学校に通いました。でも結局、アナウンサーにもなれず、婚礼などの司会業をやりながら、教員免許を持っていたので、小学校の臨時教員として働いていたんです。

何気ないきっかけが人生を変える?! 製菓学校に入り、どら焼きを作る毎日に

- そこから、どうして和菓子の世界に?

御園井:子どもが幼稚園に入った頃、少し時間の余裕ができたので、本屋さんで見つけた和菓子の本を買って、家で和菓子を作ってみたんです。今までお菓子作りなんてやったことがなかったのに、美味しくてはまってしまいました。私ってとことんやらないと気がすまないタイプなので、やるなら製菓学校に入って一から学んでみようと(笑)。材料を量ることから習い、ケーキやパンを作り、和菓子はどら焼きを作りました。私は甘いものが苦手だったんですが、あんこも自分で作るとこんなにおいしいんだと感激。凝りだすと止まらない性格で、パンケーキのようにふわふわの生地と甘さ控えめのあんこの研究をして、気づいたら5年ぐらいが過ぎていました(笑)。

- どら焼きが御園井さんの和菓子のスタートだったんですね! すごく身近に感じられてきました。そこから和菓子を仕事にしようと?

御園井:友達においしいと評判になり、どんどん注文が入って、1日200枚ぐらいどら焼きを作るうようになっていたんです。でもこのままだったらどら焼き屋さんになってしまうなと(笑)。それで一旦、どら焼きは封印して、本当にやりたかったデザイン性のあるワクワクするような練り切りを作り始めました。

季節のてまり

和菓子だって「おしゃれ~」と言わせたい!

- まだ、そのころは練り切りといっても、あまり種類もなく、桜とか鴬とか、色も単色のものが多かったんですよね。

御園井:色形とも定番なものが多い中、考えついたのが市松模様の手毬だったんです。その頃、FacebookなどのSNSが流行り初めた時期だったこともあり、話題になったり、そこから雑誌に取り上げられるようになったり。企業の宣伝用のポスターにも使われました。

御園井さんの代表作「市松手毬」は意匠登録された商品

自分が美しいと思うものを追求! そこから様々なデザインが生まれた

- あの市松模様の手毬はとてもインパクトがありました。絵やデザインは得意だったんですか?

御園井:いえ、中学の時には美術が10段階で2だったんですよ! でも、作りたいもののイメージができていたから、たくさん試作するうちに形になっていったんです(笑)。当時、和菓子にパステルカラーがなかったので、和菓子でグラデーションの美しさを表現したいと思い、淡い4色を組み合わせて作ったのが紫陽花の和菓子。パステルカラーで作ったら女性の方にすごく喜ばれて。自分の思い描く、美しいと思う練り切りは何百種類も試作しました。

紫陽花

「女性だから」「新参者」と厳しい言葉はたくさん浴びた

- 順風満帆のように思えますが、和菓子の世界は男社会で、周りからの反発などもありましたか?

御園井:それはものすごくありました。和菓子を作りはじめたばかりの頃、和菓子屋さんに勤めたことがあったんですが、「30㎏の砂糖袋が女性に持てるのか」と言われ、全く作らせてもらえず、販売だけを担当していました。そんな時に、臨時教員でお世話になった小学校の先生から、夏季研修で、教員に和菓子をレクチャーしてほしいと言われたんです。職人さんたちには、「一般の人に和菓子を教えるなんてありえない」と言われてしまったんですが……。50人も申し込みがあり、反響もすごく良かったので、こんなに喜んでもらえるなら、今までにない和菓子のアプローチもあるんじゃないかと思うようになりました。それで和菓子屋さんを辞め、教室を始めることにしたんです。

いろいろな経験が活きて、「今までにない美しいデザインの練り切り」「新しいタイプの和菓子教室」と次々挑み続けた御園井さんですが、そのたびにバッシングもたくさんあったとか。

御園井:百貨店から依頼が来て出展すると、買ったお客様から「新参者が老舗と肩を並べるなんて!」とか「同じお菓子なのに大きさが違う」とか、厳しいお手紙をいただくこともありました。でも喜んでくださるお客様もいらっしゃるし、自分のやりたいことをやるなら、突き抜けて、続けるしかないと思って。

練り切りは作るのに手間がかかる上、日持ちもしないため、和菓子屋は注文販売でしか受け付けないところが多いのです。それなら、他店に差がつく「練り切り専門」として、常時15種類ぐらいの練り切りをお店で販売しようと思ったのだとか。明るく笑いながらも、御園井さんは不屈の精神で、自分の世界を切り開いていったのです。

不器用でもできる? 初心者向けの和菓子レッスンにチャレンジ!

和菓子を日常的に気軽に楽しんでほしいと「和菓子づくり体験講座」を開催している御園井さん。鎌倉だけでなく、全国から依頼があり、あちこちで教室も開催しています。そこで、今回は和樂web内で、一二を争う不器用な私が和菓子作りにチャレンジしてきました。美しく和菓子を作るコツも教えていただきましたよ!

桔梗

教えていただくのは、紫色が美しい桔梗の花。練り切りの材料は、白のこしあんと求肥を合わせて練った生地とこしあんを使用。材料を3等分に分けます。白あんと黄あんで作った生地、ゴマで飾りを作ります。

生地を練っていくうちに、空気が入って白っぽくなったら、指先で折りたたむようにして広げていきます。粘土細工を作る感覚で指先に心地よい感触が広がります。

掌に広げた紫色の生地にあんこを包む包餡(ほうあん)という作業になります。下から上に生地を伸ばしていくのがコツ。

上の部分を中心に寄せて閉じ、閉じ口を下にして丸めていきます。上の部分を少し平らにします。花芯の部分に白い生地をのせていきます。透明感が出るよう薄く伸ばすのがきれいに見えるコツだとか。

竹串で中心に穴をあけ、そこに黄色の芯の部分をのせます。指先を布巾で湿らせ、ゆっくりとなじませます。

私の作った形は、かなりいびつで、出来上がりに一抹の不安を覚えましたが、先生曰く「いろんな形のお花がありますからね!」と励ましてもらいました!

三角棒を使って、花びらを作っていきます。横から中心に向かって1本の線を引きます。次は、90度のちょっと手前に線を引き、5枚の花びらを順次作ります。

先生はきれいな5等分になりましたが、「花びらが大小になっても大丈夫です」とのこと。花びらを広げながら調節していきます。

指の腹で花びらを表面に伸ばしていきます。上から下に押し出すように広げるのがコツ。

ここが一番の山場! きれいに花びらを1枚1枚広げていきます。

出来上がりました! 一目瞭然ですが、左が私の作品(泣)で、右が先生の作品。私のは桔梗というより、焼売になりました!

最後は芯の中心にゴマをトッピングしていきます。3回挑戦しましたが、一つとして同じ形にならず……。先生に「これは創作和菓子だから大丈夫!」と言っていただきました(笑)!

なぜ、みんな同じじゃなきゃいけないの? 教育現場でも感じていた「みんな違ってていい」

- 御園井さんが和菓子作りで大切にしていることって何ですか?

御園井:伝統を受け継ぐことは大事。でも楽しくやることも大事。私は、職人ではないので、「和菓子を作るって楽しい!」と思ってもらえればいいんです。教室にサンプルを置くと、みなさんそれと同じように作ろうとするんですが、まず、すべて同じじゃなきゃいけないという概念を取っ払ってもらいます。自然の花だって、葉だって一つも同じものはないでしょう。「違ってていいんだよ~」と。職人さんたちに教える時も、まずはマインドを変えるように伝えるんです。「もっと遊び心を持って」と(笑)。

最近では、和菓子を教えるだけでなく、ディスプレイやデザインの考え方、ひいては接客や話し方まで、指導してほしいと言われるとか。職人気質の世界で、柔軟な発想と持ち前の好奇心で常識を打ち破ってきた御園井さんのお人柄がそのまま、業界に風穴を開けてくれています。そして、女性はもちろん、小さいお子さんや外国の方にも人気があるのは、和菓子を特別なものから、日常の中で楽しむものへと変化させてくれているからだと思います。ふっくらしたあんこを頬張る時、人はみな幸せな笑顔になります。御園井さんのたゆまない努力は、これからも多くの人に元気とハッピーを与えてくれそうです。

2013年7月に出展した「JAPAN EXPO Paris」でのデモンストレーションの様子。パリジャンにも和菓子の可愛さが伝わった瞬間だ

 

鎌倉創作和菓子 手毬

神奈川県鎌倉市坂ノ下28-35
公式ホームページ

和菓子づくり体験講座

毎月、水・金・土・日曜日の10時、14時と1時間程で、季節の和菓子づくり(上生菓子3個)の体験講座を開催。お一人様:2900円(税込)
特別講座【椿と七桜の和菓子体験】
・9月18(金)20(日)25(金)27日(日)
・12:00~1時間程度
・2種各1つ製作
・2900円(税込)

※詳しくはホームページにて。