Gourmet
2020.11.25

徹底検証!「仙薬」とも呼ばれていた抹茶に、美肌効果はあるのか!?

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茶道の家元に稽古に伺わせていただいているのですが、そこにはたくさんのお茶の先生方がいらっしゃいます。ふと見れば、どの先生もお肌が綺麗……。90歳を超えるおばあちゃん先生もいらっしゃったのですが、多少のシワはあるものの、お肌は白くてすべすべ……シミも見当たらない。あるとき、「美肌の秘訣はなんですか?」と聞いて回ってみると、どの先生からも、「特にこれと言ってはしてないけど……ずっと抹茶を飲んでるからかしらね」と返ってきたのでした。

抹茶はその昔、中国から伝わり、薬として飲まれていました。ということは、何か健康に関する効果があるのでは?今回、お茶の老舗「升半茶店(ますはんちゃてん)」を訪ね、抹茶飲用がどのような効果をもたらすのか、果たして美容にいいのかを調査してきました。

古くは薬として飲用された、お茶

抹茶が中国から伝わった当時、苦みのあるこのお茶を飲用することが、健康につながるということで人々は愛飲していました。しかし、時代と共に禅的要素や文化的要素が加わり、茶の湯というものが出来上がり、楽しむために飲むものへと変化していきました。鎌倉時代に建仁寺を創建した栄西禅師は、お茶飲用のススメ本『喫茶養生記』で「茶は養生の仙薬、延命の妙術なり」と説いています。栄西は、幼少のころから抜き出た英才少年だったそうで、若い頃から大志を抱き、幾度と宋の国に行き学び、日本に持ち帰ってきていました。茶葉の栽培と薬効を広めていったのも、禅の修行には、茶の持つ不眠覚醒作用が重要だったからだといいます。今から800年も前に、すでにお茶の効能が認められ、人々は薬として飲用していたのです。

800年前に語られていたお茶の効能とは?

栄西は、お茶のことを「古今を通じてのめずらしい得難い仙薬」と説いています。薬ともされていたお茶の効能とは、どのようなものなのでしょうか?

『喫茶養生記』によると、健康であるには、養生することが一番大切なことだと書かれています。その養生は、どう得られるかと言うと、心臓を中心とする五臓を健全にすること。そのためには、お茶を喫することが一番だと言っています。 経典のひとつの『尊勝陀羅尼経(そんしょうだらにきょう)』の破地獄法秘鈔(はじごくほうひしょう)によると、「一に肝臓は酸味を好む、二に肺は辛味を好む、三に心臓は苦味を好む、四に脾臓は甘味を好む、五に腎臓は鹹味(かんみ・塩辛さ)を好む」とあります。辛・酸・甘・鹹は食事で摂取する機会が多いが、苦みはあまりない。よって、心臓は日常的に弱りがちなので、積極的に苦みを摂取することがいいということを意味しています。心臓は、五臓の中でも君主の位にあり、苦みは五味の中の最上の位にあり、お茶は苦みの中の最上の位にあるとされていることから、そのためお茶の飲用を勧めるということが書かれています。

当時のあらゆる書物にも、お茶の効能が多く記されていたようです。眠気を覚ます、二日酔いを治す、消化不良をなくす、意力を増す、精神を整える、身体の疲労を取り除くなどです。お茶を飲用することが、健康をキープするための手段であることが書かれており、ただ薬というより、今でいうサプリメントのような感覚で摂取していたのではないかと思います。

栄西は、健康であるための秘訣の一つが、日常的に「永く」お茶を飲むことであり、日本人は飲む習慣がないので身体が弱いとまで書いています。『喫茶養生記』は、どちらかというと医書として書かれており、鎌倉幕府の3代・将軍源実朝に献上したことで知られています。また実朝が二日酔いで苦しんでいるとき、栄西のお茶を飲んで回復したことから、積極的に飲むようになったという話も残っています。それ以前にも、最澄らによってお茶が日本に持ち込まれたことはありますが、一度廃れてしまいました。日本で本格的にお茶の飲用が広まったのは、栄西以後ということです。

老舗茶店に聞く!抹茶と煎茶を比較

今回、お茶の老舗販売店「升半茶店(ますはんちゃてん)」を訪ね、お茶について、代表取締役の横井信裕さんに色々と教えていただきました。升半茶店は、1840(天保11)に名古屋で創業されました。今でも「升半のお茶」と言うと喜ばれ、愛され続けている日本茶専門店です。

丁寧に質問に答えてくださった代表取締役の横井信裕さん

お話を聞くために工房のある建物に入っていくと、どこかしらかお茶の香ばしい香りが漂ってきて、思わず深呼吸してしまいました。頭の中にあったごちゃごちゃが消え、緊張感も消え、とっても贅沢な空間にいるような気分になりました。茶葉には、「青葉アルコール」や「ピラジン」という香り成分が含まれており、脳をリラックスさせたり、ストレス解消などの効果も期待されるそうです。茶店に入ると、香りに惹きつけられ、気持ちが落ち着くのも、その成分のためかもしれません。残念ながら横井さんは、香りに慣れ過ぎてもう感じないそうです。毎日いられるなんて羨ましい!!と思いましたが、時折茶店に行く私たちの方が、香りも楽しめていいかもしれません(笑)。

日本茶の種類は数多くありますが、この記事では代表的な「抹茶」と「煎茶」を比較していきたいと思います。まず横井さんに、抹茶のもととなる「碾茶(てんちゃ)」というものを見せて頂きました。

鮮やかな色をした碾茶

ある期間、玉露と同じように茶樹に覆いをかぶせて育てます(被覆栽培)。日光を遮ることで、旨み成分が渋み成分に変化することを抑え、また新芽が柔らかく育つことで、ふくよかな香りになるそうです。茶摘みをした後、蒸して発酵を止め、一切揉まずに乾燥させてから、茎や葉脈を取り除きます。そうして出来た碾茶を、石臼でゆっくり挽いて出来た粉が、「抹茶」です。石臼を1時間回し続けて出来る抹茶の量は、たったの40gほどだそうです。この少量しか出来ないのも、抹茶が高価な理由のひとつなのでしょう。

薫りも癒される煎茶

碾茶とは逆に日光を遮らずに栽培されます(露天栽培)。摘み取った後、蒸して発酵を止め、「揉む」という工程が入ります。もともとは、釜炒りした茶葉にお湯を注いで成分を煮出す「煎じ茶」と呼ばれていたもので、当時は赤黒いお茶だったそうです。それが1700(元禄13)年頃、永谷宗円(ながたにそうえん)が現在の作り方(青製煎茶製法)を確立し、一気に普及しました。急須で簡単に出せる綺麗な緑色のお茶が、商人を始め人気が広がり、庶民もお茶を日常的に親しむようになったそうです。形は細くて針状のものが品質がいいとされ、一番茶新芽の新鮮なものが香りもいいそうです。

茶葉は、摘み取った瞬間から発酵が進んでいくそうです。そのためすぐに蒸して、発酵を止めるのが、日本茶の特徴です。そのまま発酵を進ませると茶色くなり、紅茶やウーロン茶になります。このような作り方をするお茶は、世界でも日本だけなのです。「グリーンティー」というと、みんな日本茶を思い浮かべるのは、その所以なのでしょう。そして煎茶が、茶葉にお湯を浸して作った抽出液だとすると、抹茶は、茶葉を丸ごと摂取することができる飲物です。抹茶は、近年スーパーフードとしても海外で注目されています。

一般に茶の木(茶樹)は、学名でカメリア シネンシス(Camellia sinensis)と呼ばれ、ツバキ科ツバキ属の常緑樹のことを言います。「茶の木」から作った抹茶や煎茶ならば、800年前から摂取できる成分に違いはないはずだそうです。また、抹茶に関しては、茶葉を丸ごと摂取するということから、注ぐ湯の温度によって違いが出る煎茶と比べて、成分が変わることもなさそうです。ということは、今でもお茶を飲むことで、800年前に言われていた効能を得られるとも言えるかもしれません。

以下に、茶種別に主要成分含有量をまとめました。この成分の違いを見て、とても面白いことに気が付きました。
(茶研報より抜粋)

同じ茶種でも、品質の上下に分けて細かく含有量が書かれているのですが、注目したいところは、「タンニン」と「アミノ酸」の量の違いです。タンニンは、苦みを感じさせる成分ですが、どの茶種も、「上」の方が含有量が少ないです。そして、旨み成分である「アミノ酸」は、「上」の方が多く含まれているのです。基本的に、どのお茶も、上質(上等)のものの方が、苦みが少なく、美味しいと感じるということです。玉露と抹茶は、ほぼ同じような方法で栽培されますが、旨み成分も断トツで多く含まれていることが分かります。このふたつが、比較的日本茶の中でも高級とされているのには、理にかなった訳があるようです。

抹茶は、本当に美肌にいいのか?

病気や老化の原因のひとつとなっているのが、「身体の酸化」です。りんごを切って置いておくと、茶色く変色してしまうように、人間の体も酸素に触れると、どんどん酸化していってしまいます。もともと私たちが持っている抗酸化作用も、20代をピークにどんどん減少していってしまうので、抗酸化作用を持った食事などを摂取することが、健康にも美容にも大切になってくるとも言われています。日本茶には抗酸化作用はありますが、中でも特に効果が高いのが、抹茶だと言われています。その訳は、抹茶は粉末状のため、水溶性成分も脂溶性成分も丸ごと摂取することが可能だからです。

日本茶というとよく聞くのは、「カテキン」ですよね。カテキンは、ビタミンCを上回るほどの抗酸化性を持つそうで、動脈硬化や脳梗塞防止にもいいと言われるポリフェノールのひとつです。カテキンの持つ抗酸化力は、ビタミンEの10倍、ビタミンCの80倍とも言われているそうです。

栄養学的にも、水溶性のビタミンCをカテキンと同時に摂取することで、分解を防ぐ相乗効果もあり、しっかり体内に届けることが可能になるので良いと言われています。目や皮膚の粘膜を健康に保つビタミンA、脂質の抗酸化作用を強くするビタミンB、骨の健康維持にも重要なビタミンKなど、一緒に摂取することで相互作用するビタミン類が含まれています。

日本茶は、意外にもビタミンも豊富な飲物です。コラーゲン生成を助ける「ビタミンC」や、肌トラブルを防ぐ「ビタミンB群」も含まれています。また、日本茶の成分であるカテキンやビタミンA、C、E、フラボノイドなどは、活性酸素の働きを止める抗酸化作用があります。抹茶が美肌に良いと言われているのは、これらの成分が豊富に含まれているからかもしれません。

しかし、今回色々と調べていくうちに、本当に「抹茶は美肌を作る」と言えるのか?という疑問が浮かびました。と言うのも、「抹茶は美肌を作る」というのは、「抹茶にビタミンCが多く含まれているから」という説を事前に耳にしていたからです。先述した碾茶の栽培方法では、旨み成分を多く残すために、日光を遮る被覆栽培が用いられるとご紹介しました。ビタミンCは、日光に当たらないと生成されないはずで、わざわざ日光を遮っている碾茶に、ビタミンCは多く含まれていると言えるのか?と気付いてしまいました。この点を、思い切って升半の横井さんに尋ねてみました。

横井さんの見解では、「抹茶が、直接的に美肌作りを助けるとは言い難い」とのことでした。上記の茶種別主要成分表で、ビタミンCの含有量を一緒に確認してみました。やはり、太陽のもとで栽培する煎茶に比べ、玉露や抹茶は、ビタミンCの含有量は少ないようです。さらに、玉露や抹茶でも、上質のものの方が、丁寧に茶樹を覆うためか、ビタミンCが少ないことが分かります。

ただ、一概に言いきれないのは、「含有量が少なくても、抹茶は茶葉を丸ごと飲むため、他のお茶よりは摂取できているのかも?」という点です。しかしもともと、ビタミンCは、熱に弱い栄養素です。そのことからも、お茶からビタミンCを摂取しようとすることは、少し矛盾が生じる気もします。

そうだとしても、「美肌にいいかどうかは分からないけれども、健康にいいだろうということは間違いない」と、横井さん。お茶は、無糖飲料のため、昔から常々日常的に摂取されてきた飲物です。「身体にいいもの」を、「毎日飲んでいる」ことこそが、日本人の健康につながっているのだろうということです。

お茶の先生方に関しても、抹茶が美肌を作るから肌が綺麗なのではなく、年齢を増しても、健康であるがために肌ツヤもよく、その結果美肌でいられるのではないかという結論に至りました。以前に、内臓が綺麗だと肌も綺麗になると聞いたことがあります。やはり、薬として飲まれていただけあって、抹茶は内側から身体を強く、健康にしていってくれるものだということが分かりました。

抹茶に含まれている栄養素は?

では、抹茶1服分には、どのくらいの栄養素が含まれているのかを、見てみましょう。
(https://calorie.slism.jp/)

その他にも、渋みのもととなるタンニンやカテキン。苦みのもととなるカフェイン。旨みのもととなるテアニン。抹茶を点てたときに出る泡のもとサポニンなどが、含まれています。日本茶のどの葉にも含まれているものですが、抹茶はこれらを丸ごと摂取できるため、抽出して飲む煎茶などとは摂取量が変わってきます。

「サポニン」とは、あまり聞いたことがないかもしれませんが、植物の根、葉、茎などに含まれている成分です。殺菌・抗菌作用があり、コレストロールの除去も手伝ってくれます。漢方薬にサポニンを含む生薬が使われることも多く、古から人々に健康効果が認められている成分です。

また、カフェインは、覚醒作用があると言われていますが、抹茶にも含まれています。しかし、テアニンが、カフェインの持つ作用を抑制する働きをしてくれるため、抹茶を飲むとリラックスした気分になれるのです。

お茶を購入してみよう!

さて、抹茶やその他日本茶が身体に良いことが分かりました。そこで今度は販売店でお茶を購入するとき、どのようにしてお茶を選べばいいのか、横井さんにポイントを教えていただきました。

店による違いはあるのか?

お茶の販売店による一番の違いは、「どこの産地のお茶を扱っているか?」という点だそうです。今では、昔に比べ、流通のスピードも速くなったため、遠くにある産地のお茶を仕入れている店ももちろんありますが、基本的には近くの産地から仕入れているため、店によって土地柄がとても出るそうです。また、その店と代々お付き合いのある産地から仕入れていたり、店主好みにより選んだりしているところもあります。全ての店を試すのは、お茶好きの方でも、なかなか難しいことかと思います。「まずは近くのお茶の販売店に行き、そこのお茶が好きか好きじゃないかというところから、選んでみたらいいのでは?」ということでした。

「上」を選んでみるのもいいかも?抹茶の選び方

横井さんいわく、「その店にある一番高い抹茶が、その店の実力のようなもので、是非一度飲んでいただきたい。その抹茶を飲んで、美味しいとか、好き、好きじゃないなどという判断をしていただければ有難いです」とのこと。ですが、一番高い抹茶となると、40gで5千円を越える店もあります(目安として一服2g程度)。少しハードルが高いなと思わる方には、40gで2千円から3千円の価格帯でも充分に美味しい抹茶を味えるので、おすすめだそうです。

抹茶の銘柄が同じでも、店によって味や品質が異なることがあります。例えば、格の高い抹茶には「千代昔」という銘柄が付けられたりしますが、その店の「千代昔」と違う店の「千代昔」は異なるそうです。そのため品質が同じものを選ぶのであれば、価格が同程度のものを選ぶといいそうです。

自分の美味しいを見つけよう!

ついでに、煎茶の選び方についてもお聞きしてきました。目安としては、大体100gで千円以上するものは高級な煎茶で、800円程度のものなら、美味しくいただけるお茶だそうです。また、玉露や他の種類のお茶の場合は、価格帯も変わってくるでしょう。店によっては、試飲を用意している場合もあります。基本的には、「高いお茶=いいお茶」と考えていいようですが、出来ることなら、色々と試してみて、自分が「美味しい」と思うお茶を探してみるのもひとつです。

最後に、横井さんからのアドバイスは「はじめに飲むお茶が印象を決めるため、出来たら初めてその店のお茶を飲む際には、いいお茶を飲んでみて欲しい」とのことでした。

今回改めて「お茶の効能」について知り、もっと飲みたい!と思いました。私は、抹茶をいただくまでの工程も好きで、精神的な効能もあると思っています。湯を沸かし、茶碗と茶筅を温め、茶碗を拭いたら、抹茶を入れ、水を少し足した湯を注ぎます(80℃くらいが適温のため)。そして、しゃかしゃかと「おいしくなあれ」と念じながら点てます。この流れの中で、段々と自分の気持ちが落ち着いていくのを感じるのです。茶道の家元で稽古をするときも、玄関に足を踏み入れてから、服装を正し、手を清め、茶室に向かう。そこから、すでに精神統一のような流れがあるように思います。悩みや考え事などがあるときも、気持ちが集中していくため、自然と自分との対話が出来たりするのです。禅的な要素は、こんなところにも含まれているのでしょう。

抹茶は、お茶会で飲むイメージが強いですが、まずは自宅で自分のために点てる一杯としてチャレンジしてみてはいかがでしょう。

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松柏園 升半茶店

店舗名: 升半茶店 本店
住所: 460-0003 愛知県名古屋市中区錦二丁目七番一号
営業時間: 9:00-17:30
定休日:  日曜・祝日
公式webサイト: https://www.masuhan.co.jp/

《参考文献》
栄西 喫茶養生記 (講談社学術文庫) – 2000/9/8 古田 紹欽 (著)
新版 日本茶の図鑑 – 2017/7/31 公益社団法人日本茶業中央会 (監修)、 NPO法人日本茶インストラクター協会 (監修)

書いた人

好奇心と行動力で何とか生きてきたバックパッカー兼茶人。現在は、日本とフランスを行き来しながら3人の子供を育てている。世界青年の船乗船後、江戸時代から続く茶家にご縁を頂き、本格的な茶の湯修行を始め、現在はフランスでも茶の湯のデモンストレーションをするなどその普及にゆるく励んでいる。心理学を織り交ぜた茶の湯セラピストとしても活動中。