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2020.11.02

えっ、世界遺産のお寺で温泉に入れるの?しかもお湯は熱々45度以上!?日光山温泉寺訪問レポート

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世界遺産「日光山輪王寺」の別院「日光山温泉寺」。実はこのお寺、全国でも珍しい温泉に入ることのできるお寺だとか。日光を開山した勝道上人(しょうどうしょうにん)によって発見された、ご利益たっぷりな温泉とは、いったいどのようなものなんだろう……。ということで、和樂webライターで温泉を愛してやまない矢野詩織が現地取材に行ってきました。

開湯1232年もの歴史を刻む名湯、奥日光湯元温泉へ

紅葉シーズンを迎え、ハイキングや登山客で賑わう湯ノ湖

東武日光駅からバスに揺られること約80分。栃木県日光市奥日光と群馬県利根郡片品村の境、金精峠の麓に広がる奥日光湯元温泉を目指します。同温泉は、開湯から約1232年もの歴史を刻む名湯であり、将軍家ゆかりの温泉として有名。道中、戦場ヶ原から赤沼あたりに差し掛かると車窓から美しい紅葉の風景が楽しめました。

「日光山温泉寺」から徒歩3分ほどの場所にある湯ノ平湿原。「奥日光の湿原」としてラムサール条約湿地に登録されている

目的地である、湯元温泉駅に到着。下車すると温泉地らしい硫黄の香りに包まれます。せっかくなので、取材の前に源泉が湧き出る湯ノ平湿原に足を運びました。

源泉が湧き出る「湯の元」。湯量豊富なため、光徳温泉や中禅寺温泉へも配湯が行われている

ススキが揺れる湿原の木道を数分歩くと視界が開け、通称「湯の元」と呼ばれる場所に出ます。硫黄の香りと湯気が漂う源泉小屋は、まるでジオラマのよう。温泉好きにはグッとくる光景が広がっていました。

取材時にもニホンジカの群れを発見

また、同湿原は年中温泉が噴出しているため冬場も温かく、動物にとってはオアシスのような場所。ニホンジカやコガモなど野生の動物を間近で観察することができるスポットです。

世界遺産「日光山輪王寺」の別院「日光山温泉寺」へ

石灯籠が並ぶ長い参道。左手に深い森、右手に湯ノ平湿原が広がる

湿原を散策したら、目的の温泉寺へ向かいます。今回、出迎えてくれたのは、世界遺産日光山輪王寺一山の畠山慈朋住職。想像していたイメージより、はるかにお若いお坊さんの登場に驚きながらも、畠山住職の爽やかな笑顔と優しい人柄に緊張もほぐれ、温泉寺の歴史について詳しくお話いただきました。

「日光山輪王寺」の別院「日光山温泉寺」の外観

畠山住職「温泉寺の歴史は古く、日光山を開山された勝道上人が788年にこの地に温泉を発見し、病気による苦しみを救う、薬師瑠璃光如来様をお祀りしたのが始まりと伝えられています。820年には、弘法大師空海(こうぼうだいしくうかい)が新湯を開き自在湯(しざいゆ)と命名、848年には慈覚大師(じかくたいし)によって功徳力のある名湯、日光九湯(にっこうきゅうゆ)として世に広められ、輪王寺の支配下に置かれました。当時は、薬師湯(やくしゆ)や瑠璃湯(るりゆ)などと呼ばれ、これが奥日光湯元温泉の始まりと言われています。」

江戸時代、庶民は入ることができなかった温泉

「日光山温泉寺」の「薬師湯」

実は、温泉寺を含め、湯元温泉の温泉は、江戸時代、この霊場を管理していた中禅寺上人(ちゅうぜんじしょうにん)と日光奉行の許可を受けなければ入ることができませんでした。そして、輪王寺に任された9軒の湯守が温泉を守り、入湯者の世話役もおこなったと伝えられています。当時の入湯者は、一人百文を収めたそう。また、山岳信仰の聖地であった男体山は、女人禁制だったため、女性が利用できるようになったのは明治時代に入ってからです。
そんな湯元温泉も、お薬師様の信仰を残し、現在では奥日光を代表する温泉地へと生まれ変わっています。

再建された本堂には伝説の薬師瑠璃光如来の仏像が祀られる

また、現存する本堂は、昭和48年に輪王寺によって再建されたものだと教えていただきました。「薬師堂」という名前で別の場所にあった建物は、1966年に起こった台風で大岩が落下したことにより崩壊。その際、薬師瑠璃光如来の仏像だけは、落下した大岩の上に無償で鎮座していたという奇瑞から地元の方々の願立てがあり、再建が実現したそうです。
「一般的な薬師如来様は、薬壺を左手でお持ちになり、右手を挙げているお姿ですが、ここの仏像は両手でしっかりと薬壺を持っています。このようなお姿は珍しいんですよ」と畠山住職。サイズは小さいものの、お堂の中央で黄金に輝くお薬師様の姿は、心に強く訴えかけてきます。さらに温泉寺では、本堂で15分の写経体験を開催。写経と温泉をセットで体験すれば、よりご利益が期待できそうです。

健康増進・延命長寿!ご利益たっぷり熱々な「薬師湯」を体験

入浴の希望者は庫裡の入り口で受付を行う

「温泉に入って帰られますか」という畠山住職のお言葉に甘えて、楽しみにしていた「薬師湯」を体験。

浴槽は1つのみとシンプルだが、ただならぬ雰囲気を醸し出している

お風呂は、本堂と庫裡の間にあり、男女別に用意されています。入浴の希望者は庫裡の入り口で呼び鈴を押し、管理人へ志納金として500円を払います。また、タオルの貸出はないので、持参して行くのがおすすめ。タオル販売(1枚300円)は行っています。(以下、日光山輪王寺公式サイト引用:https://www.rinnoji.or.jp/

泉質は、含硫黄‐カルシウム・ナトリウム‐硫酸塩・炭酸水素塩泉。泉温は71.4℃。加温なし、加水有、完全かけ流しの温泉です。お湯の温度がかなり熱いので、加水をしなければ入れません。ですが、大変成分の濃い温泉ですので、効能は十分感じることができると存じます。源泉の色は薄いエメラルドグリーンですが、加水すると乳白色に変わります。

お湯は、成分が濃いと定評の硫黄泉。乳白色で肌ざわりが柔らかい温泉は、糖尿病、神経痛、慢性婦人病、病後回復期などに効果が期待できるそう。また、メタケイ酸も多いので美肌にも効果的だとか。
管理人さんにお話を聞くと「毎朝加水しているけど、朝一番はそれでも45度以上あるかな。」と教えてくれました。一番風呂を楽しみに来る、熱湯好きなリピーターさんも多いとか。

奥日光の自然のパワーがギュッと詰まった濃い温泉

いざ入浴してみると、凛としたエメラルドグリーンのお湯は見た目とは裏腹、かなり熱いです。この熱さに慣れるまでじっーと浸かっていると、足の先から頭のてっぺんまで、じんじんとお湯が全身へ染みわたるような心地よい感覚へと変化。
いつの間にか日常の雑念が削ぎ落とされて、心が軽くなりました。また、すぐ隣が本堂だと思うとありがたみも倍増します。
もちろん、自由に加水して入浴ができるので、熱湯が苦手な方もご安心を。

温泉で心も体も癒やされた後は、休憩所で一休み。温泉を利用するとお菓子を出してくれる嬉しいサービスがあります。ここの休憩所、以前は宿泊できるスペースだったのですが、十数年前から日帰り入浴のみとなっています。「維持することは大変ですが、お寺の由来となった大切な温泉です。心身を癒す憩いの場としてこれからも守っていきたい」と畠山住職。「日光山温泉寺」には、国宝級……いや世界遺産級の名湯がひっそりと存在していました。
冬から春先にかけては雪が深くなるため、今年利用できるのは、2020年12月6日までとのこと。深まる秋、ご利益たっぷりな「薬師湯」を体験しに「日光山温泉寺」を訪れてみてください。

日光山温泉寺の概要

日光山温泉寺:https://www.rinnoji.or.jp/temple/onsenji/
期間:令和2年6月1日~令和2年12月6日
※令和2年はコロナ禍の為、6月より開湯。例年は4月下旬~12月上旬まで
受付:8時~17時頃まで
積雪など、その年の気候条件により多少の変動がありますので、
詳しくは必ず事前にお問い合せ下さい。
参篭時間:1時間
志納金:大人 500円/小人(4歳~小学生) 300円
お問い合わせ:0288-55-0013(中禅寺・立木観音)

書いた人

後世に残したい温泉や旅館、名建築を取材。温泉好きが高じて、温泉ソムリエの資格を取得。民藝が大好きで、各地の民藝館を巡るのが趣味です。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。