読み解きはラブレターからも!土方歳三資料館館長・土方愛さんに聞く、幕末に生きた人々の魅力

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幕末というと、激動の時代と評され、時代が大きく変わっていくその様や、偉人たちの活躍が魅力的。現代では、大河ドラマや小説、漫画、ゲームなど、様々なジャンルの題材になっていて、幕末を入り口に歴史が好きになったという人も多いのではないでしょうか。

和樂web編集長セバスチャン高木が、日本文化の楽しみをシェアするためのヒントを探るべく、さまざまな分野のイノベーターのもとを訪ねる対談企画。第16回は土方歳三の子孫で東京・日野市にある土方歳三資料館館長の土方愛(めぐみ)さんと、幕末や新選組の魅力を語り合いました。

ゲスト:土方 愛さん
東京都日野市出身。土方歳三(以下、歳三)の兄の子孫。歳三の生家に生まれ育ち、現在は土方歳三資料館館長として史料の研究、保存、公開に携わる。voicyにて配信中の「ゆるっと幕末トーク」はvoicy2021年上半期【旅行・地域&歴史】部門で1位を獲得する人気コンテンツ。

今回の合いの手は取材に同行した私です

幕末アレルギーがなくなった!きっかけは漫画『風雲児たち』

土方(以下、土):高木さんは、新選組とか幕末ってどのように捉えているんですか?

高木(以下、高):実は数年前まで幕末アレルギーというか、幕末のことは苦手だったんです。負けた旧幕府軍は悲惨で、勝った新政府軍は歓喜しているイメージでした。教科書的に決まった歴史から逆算して見ていたので、あまり楽しめなかったんです。

それがみなもと太郎先生の『風雲児たち』という漫画を読んで、全然違っていると感じて。というのが、当時って、誰もが自分の信じた道を激流に揉まれながらそれぞれ歩んでいたので、どれが正解かなんてわからなかったと思うんです。

今回伺った土方歳三資料館では歳三の愛刀である和泉守兼定や池田屋事件で使用した鎖帷子、新選組隊士が使用した誠の袖章など、歳三や新選組にまつわる貴重な史料の数々を展示

土:すごく共感します。当時の本人たちの心もちや決断力を考えると、幕末という時代は混沌としていたと思います。

高:私たちは新政府軍が勝ったという歴史に基づいているので、必然的にああいう風になった、というように見えていますが、実際はどっちに転んでもおかしくなかったと思うんです。場合によっては徳川幕府が大政奉還で政権を返したとしても、そのまま実権を握っていたかもしれない。

土:蝦夷共和国みたいに自治が認められて生き残っていたかもしれません。

幕末は1人ひとりのドラマが魅力

高:それだけ幕末が先行き不透明で混沌とした時代だと考えると、1人ひとりのドラマがありすぎて最近めちゃくちゃ面白くなっていました。

土:本当にそうなんですよ。幕末・明治時代の方々って、自分の芯があるから、1人ひとりの人生を追いかけると学びがあるんです。

高:あと、皆さん若いことにびっくりしました。僕は今50歳をすぎているんですが、幕末の志士の人たちって、10代の人もいたりとか、上の人も30代です。若者たちがあのくらいのエネルギーをもって繰り広げたドラマなんだなと思うと全く見え方が変わってきていますね。

土:すごい時代だなと思います。その時にベテラン勢はどうしていたんだろうというくらい、若い方たちが活躍しています。

高:私たちは歳三であるとか、西郷隆盛であるとか、名が残った人々の話しかわかりませんが、名もなき若者たちのドラマは無数にあったと思います。

歳三の戦死を伝える書状。斜めの書体からは五稜郭の慌ただしい様子が伺える。この手紙は新政府軍に見つかって奪われることがないよう、紙縒りのように細く折りたたまれ、持参した人物の着物の襟の内側に縫い付けられていたそう
書状を書いた安富才介(新選組出身で陸軍奉行添役)や、手紙の持参者にもドラマがあったんだろうな

高:意外とそういうものって資料に残っていないので、研究が進んでいるようで進んでいないのが幕末の面白さなのかなと思っています。

資料の読み解きでも変わる!幕末の姿

土:そうなんです。幕末の資料っていろんなものがありすぎて何から手をつけていいのかわからないということもあります。

高:幕末の動乱の最中に書かれた資料だけではなく、明治時代になって書かれた徳川慶喜の回顧録みたいな、ちょっと解釈が加わったものを中心に書かれたものもある。なので、幕末って資料によっても見方が変わりますよね。

土:資料解釈はすごく難しいです。

高:だから土方さんは大変だなって。歳三をいろんな風に捉える人がいらっしゃるんじゃないかって。

歳三の肖像写真。元々は手札判のような大きさだったものを、日野の小西六写真工業株式会社(現、コニカミノルタホールディングス株式会社)の当時の研究者の精鋭が引き伸ばしてくれたそう。「亡くなる半年前に函館で撮影されたものです。私としては、最後辛い状況だったにもかかわらず、柔和な表情で写っているのがよかったなと思っています」(土方さん)

土:ただ、研究されているのはすごく喜ばしいことです。幕末は研究によって今でもわかってくることが結構あります。なので、エキサイティングな発見がこれからもあるんじゃないかなと。もしかしたら歳三が送ったラブレターの束が見つかったりとか!

ラブレターから読み解く、親戚との繋がりの深さ

高:歳三には恋人はいたんですか?

土:いたと思います。京都に行って半年くらいたった頃から芸妓や舞妓の方とは馴染みが深くなったようです。「報国の 心を忘るる 婦人かな」という歌を末尾につけて、もらったラブレターを送ってきたみたいです。ラブレターの束はどこかに紛失してしまったようなんですが、手紙を送れるくらい、多摩の親戚との結びつきは強くて、懐が深かったのだと思います。

歳三の発句集「豊玉発句集」。丸で囲った部分は消すという意味で、「しれハ迷ひ しなけれハ迷わぬ 恋の道」と書かれている。「左側には『知れば迷い 知らねば迷う 法の道』と、固い句に書き直していて、京都へ行く前に恋の歌なんて詠んでる場合じゃないと恋の歌はボツにして、格調高い句に変えたみたいな心の動きが伝わってきます」と土方さん
発句集は歳三の人柄が伝わって、ぐっと身近に感じられるエピソードでした

高:敗軍になったわけですが、多摩で歳三はどのように捉えられたんですか。

土:うちは敗軍になった人物を輩出した家なので、一族郎党根絶やしにされるという噂がたちました。今みたいにネットで情報収集ができるわけではないため、親族は遺品を処分したようです。手紙とかも点数が残っていないのは、燃やした可能性が考えられます。

ただ、歳三のもので、剣術のお免状だとか、「遺してあげたい」という思いのあるものはまとめて残してあったことから、親族たちは誇りに思っていることがわかります。

高:そりゃそうですよね。

土:当時は薩摩・長州の人たちに敵視されていたことはあったようです。でも時代を経て、戦争も終わって、歴史も色んな角度から見直されるようになってかなり解釈も変わってきましたね。

今だからこそ見直したい、幕末の人たちの志

高:以前、幕末の史料は薩摩藩や長州藩目線のものが多かったと思うのですが、最近はそうじゃない掘り起こしが始まりました。

土:そうですね。

高:旧幕府軍の考えについて、僕はあまり学校の教科書では習いませんでした。薩摩と長州が連合して天皇陛下とともに明治政府を立ち上げたみたいになっていますが、そんなシンプルな話ではなく、すごく面白いです。

土:幕末から明治時代に至るまでの歴史を知ってもらって、同じような内戦が起こらないようにしてもらえたらと思います。

高:そうですね。旧幕府軍も、新政府軍も、皆が皆自分が思う国のために行動していたと思うんですが、それと比べると今は悲しいなっていう気持ちにはなったりして。言い方は悪いかもしれませんが、国のためとか皆のために動いていらっしゃる方ってどのくらいいるのかなって。

土:自分のためが最優先になっていたり、自分がいかにうまく生きれるかっていうのが主になっていてそういうことをできる人が優秀な人、みたいな価値観もありますが、幕末の人たちのことを学んでいくと社会全体のことを考えている。例えば、皆のために鉄道を通してあげたいとか。それはすごいことだなと思います。

幕末から希望を「その気になれば何でもできる」

土:若い人たちが「私たちがやらなければ」と自分ごとのように捉えて動いているというのはすごいですよね。

高:そうですね。でもとんでもない話だと思うんですよ。それまで政治なんて担ったことがない人たちが担っていくわけじゃないですか。

土:渋沢栄一もそうですよね。

高:今って逆にクラスがはっきりわかれてしまっていますが、若い人たちっていっぱい才能をもっていると思うのでそういう人たちが政治をやればいいのにって思うこともあります。

土:今若い方たちが鬱屈としているのを見ると、飛び越えられない壁に押し込められている感じがします。幕末とか明治時代の歴史を知って可能性を感じて欲しいです。その気になれば何でもできるというか。

高:本当にそう思います。無我夢中になってやってほしいですね。

土方歳三資料館

住所:東京都日野市石田2丁目1−3
時間:12〜16時
入場料:大人:¥500、小・中学生:¥300

資料館では土方さん自ら史料の解説をしてくださります!

資料館ではオリジナルグッズも販売。中でも人気はトートバッグ。オンラインショップでも購入可能

※公開日等、最新の情報は土方歳三資料館HPtwitterでご確認ください。

▼写真でも一部を紹介した、土方歳三資料館の魅力を徹底紹介!セバスチャン高木が実況レポートした音声はこちら!

「賊軍」という汚名を着せられながらも戦い続けた男の人生——。この漫画もおすすめです。

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