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2022.01.29

世界の国々が妖怪に!大岩オスカール氏の巨大壁画はコロナ禍をどう捉えたか?

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ブラジルに生まれ、日本での生活を経てアメリカを拠点に活動を続けている現代美術家の大岩オスカールさん。角川武蔵野ミュージアム(埼玉県所沢市)のアマビエプロジェクトに出品した絵は、たくさんの妖怪がうごめいているモノクロームの壁画でした。何だか怖い。でもじっと見ていると…。作品を目の当たりにしたつあおとまいこの二人は、その不気味さの中に一縷の光を見出します。そして、その後出かけた東京都現代美術館でも、大岩さんの大作壁画と向き合い、神を感じる経験をするのです。

妖怪から神まで!今回のテーマはまさに浮世を離れ、あの世まで近づいてしまってますね!

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生が、ぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

妖怪になった世界の国々

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 2020年 展示風景(角川武蔵野ミュージアム)

つあお:この絵、世界地図っぽいんですけど、何か変ですよね。海の中にいろんな国が浮かんでいるような…。

まいこ:何となく不気味! よく見ると、見慣れた国の形もちらほら。

つあお:さすがに、右のほうにある日本は、すぐわかっちゃう。でも、なんでこんなところにあるんだろう?

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 部分 (角川武蔵野ミュージアム)

まいこ:確かに日本はとてもわかりやすいですね! イギリスも、私は留学してたのですぐ目に入って来ましたよ! 真ん中のちょっと上にある。

つあお:イギリスは何となくメダカっぽいかも(笑)。

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 部分 (角川武蔵野ミュージアム)

まいこ:確かに目玉と胴体としっぽがあるような…。それが、あの見慣れた国の形の中にぴったり収まってますね。

つあお:そう言われてみると、日本は新幹線っぽい! 紀伊半島の辺りに鼻先の部分がある。そして、アメリカとかロシアとか…いろんな国が描かれてるんだけど、大体みんな目がついてますね。

まいこ:ついてますねぇ。目がつくと、何でも生き物のように見える。

つあお:イタリアは目の下にある鼻が長いから象っぽい。

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 部分 (角川武蔵野ミュージアム)

まいこ:少女漫画みたいにうるうるした瞳に長い鼻がついてる! ウーパールーパーのようにも見えます。

つあお:さすがまいこさん! たわくし(=「私」を意味するつあお語)もそんな見方をしたいもんだと思います。イタリアの右上にあるフランスは、ちょっとカバっぽいかな。

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 部分 (角川武蔵野ミュージアム)

まいこ:カバにたんこぶがいっぱいついてる感じですね。大黒天の長い額のようにも見えますよ。

つあお:こうやって一つ一つを見ていくと楽しいですね。

まいこ:生き物というよりも、妖怪が描かれている感じ。

つあお:世界のいろんな国に妖怪が取りついているのかな?

まいこ:うわー。

つあお:作者の大岩オスカールさんは、コロナ禍が早く過ぎ去るよう、疫病退散のシンボルとして知られる妖怪アマビエをテーマにこの絵を描いたという話なので、きっと全部妖怪なんだな。

大岩オスカールさんの言葉(取材:浮世離れマスターズ)
コロナ禍の下で混乱した世界を表現しようと思い、海の中を泳ぐ生物が国の形になった様子を描きました。中国、イギリス、イタリア、アメリカ、ブラジルなど10カ国です。全体は深い海あるいは宇宙のような光が少ない空間、つまりよくわからないところで何かが起きているイメージです。真ん中の小さな丸くて白い点が太陽、光、ワクチンを象徴しています。国になった生物は、得体のしれない存在。日本の妖怪のようなものです。

まいこ:妖怪の国日本で育った私たちには刺さりますね!

つあお:うんうん。どの国にもコロナウイルスという妖怪が取りついてるってことだ。

まいこ:大岩さんは、なんでこんなにいろんな妖怪を描いているのかしら?

つあお:大岩さんはブラジル生まれで今はニューヨークにいるけど、日本にも10年以上住んでましたもんね。水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』なんかも読んでいて、日本の妖怪には親しみがあったようですよ。

まいこ:どの妖怪も目がまん丸なのが印象的ですね! 星のように光ってる!

つあお:確かに。日本の妖怪とはまた違った、グローバルな妖怪なのかもしれない。この絵は、モノクロっていうところがまたちょっと不気味さを増していますね。

まいこ:一見世界地図を描いているようなのに、モノクロだから宇宙のようにも見える! 不思議!

コロナ禍とよく間違えられがちなコロナ渦(うず)ですが、この絵は本当に渦の中っていう感じもしちゃいます。

大岩オスカールさんの言葉(取材:浮世離れマスターズ)
絵を描き始めた子どものころは紙に鉛筆で描いていたし、そのうち黒いインクで漫画を描くようになったので、モノクロは自分の表現の原点と言えます。家にあった手塚治虫の漫画や『ドラえもん』もモノクロで、自然に親しんでいました。その後油彩を始めましたが、やはり最初は木炭でスケッチを描くので、バックステージにはモノクロがあるわけです。(火事で焼けてしまった)瀬戸内海の男木島の壁画もモノクロで描きました。

つあお:男木島の壁画『大岩島』は取材で見たことがあります。森と水の純化された描写が印象的で、今もくっきりと目に焼き付いています。だから火事で焼けたと聞いたときに、残念で仕方がなかったんです。

まいこ:それは悲しい!

つあお:モノクロって、実はすごく深い表現ができるんですよね。今回の作品の真ん中の丸い点は太陽だと聞きました。小さいのにすごく強い存在感を放っている!

まいこ:小さいけど歪みのない真円(しんえん)ですね。白抜きにしているだけなのに強い光を放っています。まさに希望の光。きっと救世主ですよ! ところで、妖怪にも強そうなのと弱そうなのがいますね。たとえば、中国に取りついている鳥の恐竜みたいな妖怪はすごく強そう!

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 部分 (角川武蔵野ミュージアム)

つあお:これは怖い! コロナウイルスと一緒にやっつけたいなぁ。

まいこ:やっつけなければ! または共生?! アメリカの妖怪も全土にドスンと居座っていて、かなり手ごわそうです。

つあお:ここは、正義のヒーローを呼ばなければ。

まいこ:きてきて!

つあお:いくいく。

まいこ:あれ、つあおさんてこと?

つあお:そんなわけはないんですが(笑)、この絵をじっと見ていると、中心にある太陽の存在感がどんどん強くなってくるので、絶対大丈夫だと思えてきました! これはやっぱり宇宙なのですね。壮大だなあ!

だまし絵壁画の大迫力

大岩オスカール『オリンピアの神:ゼウス』 2019年 作家蔵 展示風景
東京都現代美術館のコレクション展「MOTコレクション Journals 日々、記す vol.2」に特別出品された作品
※同展の展示室はコロナ禍対応のため、1月12日から当面の間臨時休室とのこと。

つあお:この壁画は、すごい迫力ですね。3枚の絵が連なっている!

3枚繋げると20メートルを越すらしいです。これは生で見たい!

まいこ:絵の中に入って行けそう!

つあお:妖怪の絵とはまったく違っていて、こちらでは山などの風景や建物が画面を埋めていますね。

まいこ:建物も、お花なんかの風景も楽しい感じ。見ていると旅行したくなってきます。

つあお:右側の絵のまんまるい坊主頭のようなものの上に何かが乗ってるのは、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ​​の山の上に立っている有名なキリスト像だと思います。

大岩オスカール『オリンピアの神:ゼウス』より 展示風景(東京都現代美術館)

まいこ:へえ。ミニチュアのお土産みたいなのを見たことがあります。

つあお:たわくしはここに1回行ったことがあるんですけど、街のすぐ近くに屹立している山の頂上にキリスト像がある。本当に世の中が一望できると思える場所なんですよ。

まいこ:すごい!

つあお:ここからキリスト様が皆さんを見守っていると思うと、なんだか感慨深くて。

まいこ:この壁画では、キリスト様の眼下に長く漂っている煙みたいなのがとても気になります。

つあお:日本の洛中洛外図屏風なんかでも似た感じの雲が描かれることがあるけど、ちょっと文様っぽい。こちらの絵では、煙としての実在感がかなりあるなぁ。

まいこ:そうそう。そして煙がほかの2枚の絵にもつながっている!

つあお:真ん中の絵には富士山とかが描いてある。これは日本ですね。東京スカイツリーとか京都のお寺の石庭みたいなのもあったりする。

大岩オスカール『オリンピアの神:ゼウス』より 展示風景(東京都現代美術館)

まいこ:よく見ると、新幹線も横切っています!

つあお:日本から見て地球の真裏にあるブラジルが煙でつながっているわけだ。ブラジルの絵には、貧困層が暮らしていると思われる住宅街なども描かれている。どちらの国も、コラージュのようにいろんな風景が組み合わせて描かれているのですね。

まいこ:かなり意味深な感じ!

つあお:左の絵を見ると、今度はエッフェル塔みたいなのとか、ルーヴル美術館にある『アルルのヴィーナス』のような像が描かれていたりするから、これはフランスですね!

大岩オスカール『オリンピアの神:ゼウス』より 展示風景(東京都現代美術館)

まいこ:やっぱりパリは素敵! と言いたいところなのですが、円形広場の中心が怪しげな穴になってますよ!

つあお:しかもそこに、ブラジルから来た例の煙が流れ込んでる! これは何なのだろう?

まいこ:最初はこの穴から煙がぐるぐると立ち上がってるのかと思ったんですが、流れはもしかして逆かも?!

つあお:リオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)・東京(日本)・パリ(フランス)は、このところの夏のオリンピックの開催都市ですね。

《オリンピアの神:ゼウス》は、パリの日本文化会館での「都市とスポーツの祭典」をテーマとした展示のため2019年に描かれました。リオ、東京、パリ、とオリンピック開催都市のそれぞれが作家の私的な記憶と象徴的モチーフとの混合として描かれ、3点の繋(つな)ぎ方で絵巻にも肖像画にも姿を変えます。日本の絵巻などから想を得た画面を横断する雲のモチーフは、作家にとって、広く地球を覆う世界規模の循環、人の交流にも準(なぞら)えられるものでもあり、本作でもその帯が複数の時空をまたぐようにダイナミックに描かれています。(出典:コレクション展「MOTコレクション Journals 日々、記す vol.2」解説パネル)

まいこ:この雲みたいな煙が国境を越えて漂っているので、時節柄なんとなくコロナっぽい気がしてきました。

つあお:東京オリンピックは本当にコロナ禍に翻弄されましたからね。大岩さんが制作したのはパンデミックより前だから、コロナ禍を予見して描いたとも思えてしまう。煙をコロナウイルスと読み替えると、パリまでには収束しそうですね!

まいこ:そうそう、巨大掃除機のバキューム管みたいな感じで、今、オリンピックに向けてものすごい勢いで全世界から吸い取ってるイメージです。

つあお:そうかぁ。とにかくすぐにでも収束してほしいですからね。

まいこ:角川武蔵野ミュージアムの『太陽と10匹の妖怪』を見たときに話した救世主って、実はこの穴だったんじゃないのかな?

つあお:確かに、あの白い太陽、穴にも見えますもんね。さすが大岩さんだなぁ。

まいこ:絵の中でコロナ禍を収束させちゃった!

穴と太陽が繋がるとは!

つあお:この3枚を遠くから眺め直すと、右にキリストが描かれていて左にはヴィーナスがいる。では真ん中の顔は一体誰なのだろう?

まいこ:顔ってどこですか?

つあお:富士山の右側です。石庭の石が片方の目になっていて、もう片方の目はお月様になっていて、その下の真ん中あたりが鼻みたいになっていて、その下に口があってヒゲが生えてます。

まいこ:あー、見えてきました! だまし絵みたい。全能の神ゼウスかな?(やまかん)

つあお:作品名に「ゼウス」と書かれている。ギリシャ神話のゼウスを描いたんですね。これはやっぱり救世主になって必ずや、疫病を退散させてくれますよ!

まいこセレクト

大岩オスカール『オリンピアの神:ゼウス』のためのドローイング 2019年 展示風景(東京都現代美術館)

つあおとまいこの鑑賞法として、「感覚で見る」というのがあります。作品を見ながら、直感に響いてきたことをその場で次々に語って行きます。作品解説やタイトルは二の次なんです(笑)。
東京都現代美術館で展示された大岩さんの大作の3連作も、そんな感じでグワーッと入っていきました。すると真ん中の絵に巨大な顔が! 真ん中の絵に描かれているのは日本だったので、最初「聖徳太子かな」「伊藤博文かな」などと話していたのですが、彫りが深いので日本人というよりは欧米人っぽい、ということに。「はっ! そういえば左側のパリの風景にはヴィーナスがいた! 全世界を貫通するパンデミックが煙で予見されてるし、これをコントロールできるのはギリシャ神話の全能の神ゼウスかも?!」と発展。「まあそういうことにしましょうか」という感じで話していた中で、展示室の反対側の壁にあったドローイングをふと見たら、この一枚があったのです。
「あ~っ! ゼウスって書いてあるじゃないですか!」と大当たりの快挙に我ながらびっくり。でもそもそも3連作のタイトルにも『オリンピアの神:ゼウス』と書いてありましたね(笑)。でもタイトルを知らずに回り道したからこそ、直感で、制作していた時の大岩オスカールさんとシンクロできたような、ミラクル体験ができました。
そんなわけで、浮世離れマスターズ式「感覚で見る」鑑賞法、オススメです!

つあおセレクト

大岩オスカール『太陽と10匹の妖怪』 部分 (角川武蔵野ミュージアム)

この作品の真ん中に描かれた太陽、最初見たときは絵全体が大作であるがゆえに白い丸が小さく感じられて、「妖怪」たちに本当に勝てるのだろうか? との疑問が頭をかすめたのですが、じっと見ているうちに、広大な宇宙の真ん中で示している厳然たる存在感が迫ってきました。きっと、どの妖怪にも屈しない…そんなパワーが伝わってきます。

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『厄除けヴィーナス』

はい。Gyoemonといたしましても、一日でも早くコロナウイルスに第一線からご退出いだたくことを願っております。厄除けヴィーナス様、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

展覧会基本情報

展覧会名:コロナ時代のアマビエプロジェクト
会場:角川武蔵野ミュージアム(埼玉県所沢市)
会期:2020年11月6日〜2022年5月8日
公式ウェブサイト:https://kadcul.com/amabie

展覧会名:MOTコレクション Journals 日々、記す vol.2
会場:東京都現代美術館(東京都江東区)
会期:2021年11月13日〜2022年2月23日(1月12日から当面の間臨時休室)
公式ウェブサイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-211113/

参考情報

小川敦生『瀬戸内芸術祭 写真で巡る「島とアートと海の旅」』(日本経済新聞電子版、2010年8月22日付)

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

この記事に合いの手する人

平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。