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2019.08.20

東京観光で訪れたい下北沢「山本商店」時代和家具、初心者におすすめ商品は?

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「昔の日本映画の生活シーンにキュンときちゃう!」、「古い日本家屋が大好き」――そんなアナタなら、きっと虜(とりこ)になってしまうのが、ちゃぶ台・茶箪笥・本箱など、かつて日本の家庭で使われていた時代和家具。時代和家具を、実際に「見て」「触って」「気軽に買える」東京・下北沢の『アンティーク 山本商店』を訪れ、3代目店主の山本明弘さんに、魅惑の世界を案内してもらいました。

時代和家具は置き物ではなく、普段使いして楽しむもの!

「僕の祖父が戦後すぐにこの山本商店を始め、今年で創業74年になります。うちの店で扱う時代和家具は、古くて江戸時代末期、下っても昭和初期までのもの。これらの家具は、名もなき日本の家具職人たちが丁寧に製作した品々なんです」と語る山本さん。日本の生活様式に合わせて作られた「和家具」。その中でも、大量生産の時代に入る前の和家具を山本商店では「時代和家具」と呼んでいます。地下1階から地上2階まである店舗内に、床から天井までぎっしりと並べられた時代和家具は圧巻です!


幼い頃から、幾千もの時代和家具を見てきた山本さん。確かなその目で、家具1点1点の製作年代、地域、使われている木材や金具の違いを瞬時に見分けることができます。

「アンティークとか骨董って聞くと、ただの飾り道具なのかな? って思われる方もいるかもしれませんね。でも、うちで販売している時代和家具は全て復元修理(※)をしてあるので、生活道具として使うことができます。日常生活の中に取り入れてこそ、本当の良さがわかると思いますから」。

※山本商店では、経年に伴う質感の変化や古い傷は味わいとして生かしつつ、蝶番の破損や引き出しの詰まりなど機能的に支障になる部分は、全て専門スタッフが直してから販売している。

初心者なら、まずはちゃぶ台から

そんな山本さんに、時代和家具初心者におススメの物を教えてもらうと――
「初心者なら、まずは何と言っても丸ちゃぶ台を使ってみて欲しいですね! 何もない空間でも、ぽんと1台置くだけで生活の視線がぐっと下がり落ち着きますよ」。ということで早速、今日入荷したというちゃぶ台を見せてもらいます。

 
実は、時代和家具のちゃぶ台には、現代の家具には見られないさまざまな工夫が施されているのだそう。
「天板は、2、3枚の板を接(つ)いで円形になっているんです。接ぎ目の部分を見ると、わずかな遊び(隙間)がありますよね? これが気候の変化によって生じる木のわずかな収縮を吸収してくれます。だから天板の歪みが出ず、後ろの額縁(脚をしまう木枠)が何年経っても外れないんですよ」。また、天板の縁はわずかにふっくらと丸みを帯びています。これはデザインを整えているだけでなく、腕が当たったときに痛くならないよう施された処理なのだとか。

「それから、脚を畳んで収納する額縁には、パーツを同時に組み立てることで分解できないようにする『羽目殺し(はめごろし)』というワザが使われています」。
かつて、ごく普通の家庭で、日用品として使われていたこのちゃぶ台。シンプルに見えて、さりげなく手が込んでいます。

さて、ここで素朴な疑問が。丸ちゃぶ台が、わざわざ円形に作られている理由とは……?
「脚を畳んで転がせるのは大きな理由でしょうね。昔は、居間でご飯を食べ、そこを片付けて布団を敷いて寝る、というご家庭が多かったですから」。なるほど! 確かに丸ちゃぶ台ならば、部屋中転がして移動させることが可能ですね。
 
店頭に並ぶちゃぶ台の価格をチェックしてみると、数千円から2万円代位が相場のよう。これなら初心者でも、手を出しやすそう! ちなみに、お盆くらいのサイズの豆ちゃぶ台なら、3千円前後のものも。
「豆ちゃぶ台は、元々はお父さんの晩酌用に作られたものですね。食事とは別に、ここに徳利を置いて一杯やる。小さな豆ちゃぶ台でも、造りは同じ。通常のちゃぶ台と同じようにきちんと額縁と、脚を固定する跳板(はねいた)が取り付けられています」。

時代箪笥の装飾に込められた願いとは…?

続いて、「もう少しハードルの高そうなものも見てみたい!」という要望のもと案内してもらったのが、時代箪笥(たんす)のコーナー。たくさんの時代箪笥が艶やかで深い色の木目を見せており、長年受け継がれてきた家具の威厳を感じます。
「衣装箪笥は、東北地方で作られた物が圧倒的に多いですね。寒い東北の方は衣装もちですから。大雪で外出できない冬季に、納屋で家具を作っていたという作り手側の事情もあって、装飾が凝った物が多いんです」。

衣装箪笥の引き出しには、さまざまな変わった形の金属製のモチーフが取り付けられています。その中の一つ、福島県二本松市で作られた衣装箪笥にはこんな可愛らしい金具が付いていました。
「これは、蓑(みの)と巾着と傘。3つとも風雨など苦労から身を守ってくれる物。嫁入り道具として作られることの多い箪笥には、娘に嫁ぎ先でも安全に幸せに暮らして欲しい、という親心が込められているんですよ」。

鍵穴の蓋は、スライド式の「打ち出の小槌」。チャーミングな演出!

ちなみに時代箪笥の寿命はなんと500年(!)だそう。100年に一度の修理が要るそうですが、山本商店では販売前にしっかり修理しているので、購入後は100年使えることになります。

「数年単位のインテリアのブームは絶え間なくありますけど、結局は本物が残るんだなって、この仕事を数十年やってきてつくづく感じるんです」。
では、山本さんが考える「本物」とは――?
「修理しながら使い続けることができるかどうか。そこが線引するポイントになりますね」。
かつての日本の暮らしでは、日用品はリサイクルを重ね、徹底的に使い切るのが当たり前の事でした。その考え方は、時代和家具の中にしっかりと息づいているようです。

「その和家具が、どこでどういう風に作られ使われてきた物なのか。家具に刻まれたストーリーを感じ取り、いい意味で自分が日々使う物に対して執着をもつこと。自分にとって特別な生活道具があることで、もっと豊かな気持ちで暮らせるんじゃないかなぁって思っているんです」。

さらにディープな世界へ

最後に、もう少し店内を見せていただくことに。こちらは、現在店内にある物の中では一番古いという江戸時代の帳入れ。
「この形の取手は、角手(かくて)といって江戸後期から明治初期の家具に見られる形ですね。引き出しに使われている木は、ベニヤ板みたいな薄い板。物流が少ない中、鉄も木も、いかに材料を効率的に使うか考えて作られていたんでしょうね」

「それからこの新潟の箪笥、引き出しの表面に見えるこのぐるぐるとした模様は欅の玉杢(たまもく)といいます。これは樹齢400~500歳くらいの樹じゃないと出ない珍しいもの。中でもこれは、うずら玉杢という模様で、一番高級なもの。製材する時、カットした断面に現れる物なんですが、偶然じゃないと出てこないから、まさに千載一遇の品です」。

上段の引き出しの取手右側などに「うずら玉杢」がハッキリと見えました

時代和家具は日本の生活文化の入り口

立派な時代和家具を使うとなると、それなりの覚悟が必要になるのでは? と尋ねてみると…
「かつて数百万円程かけて誂(あつら)えられた高級品であっても、時代和家具ならば数万円、十数万円程度でも購入できますよ。うちが値付けを骨董品価格にしていないのは、一般的な家具と同じくらいの気持ちで使ってみて欲しいと思っているから」と山本さん。「お客様は、箪笥の中に食器や鍋をしまったり、テレビ台にしてみたりという感じで、自由気ままに使われているようです。職人たちは、生活の中で役立ち長く愛される事を願っていたはずですから、愛着もって使われるならそれでいいと思うんです。壊れてしまったら、また修理もできますし」。
店内を歩き回るだけで、かつての日本の生活を垣間見ることができる山本商店。今は亡き職人たちの手仕事に触れながら、束の間のタイムトリップを体験することができました。

アンティーク山本商店

店舗名:時代和家具の店 アンティーク山本商店
住所:155-0031 東京都世田谷区北沢5-6-3
営業時間:11:00~19:00
定休日: 月曜日 ※祝日の場合営業し、翌火曜日が振替休業となります。
公式webサイト:アンティーク 山本商店

書いた人

大学院まで日本文学を専攻。和歌や俳諧、江戸から昭和にかけての生活文化などが好き。神保町中のカレー屋を制覇するという課題を自らに課し、1.25倍に増量した過去をもつ。そのため茶室では、常ににじり口で身体をぶつけている。縁のあるエリアは東京と会津。メダカ飼育歴約10年。