Culture
2019.10.06

少林寺拳法って何?日本の武術なの?少林拳や空手との違いを解説

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「少林寺拳法」と聞いて、思い浮かべるものは何でしょうか。私の小学2年生の息子に質問をしたところ、拳法らしきポーズをばっちり決め「あちょー!でしょ?」との回答が(笑)読者の方も、ジェット・リー主演の映画「少林寺」やチャウ・シンチーの映画「少林サッカー」、「中国武術」などを想像されたかもしれません。ですが、実はどれも少林寺拳法とは関係ありません。

よく似た名称の、中国武術の「少林拳」と混同されがちですが、少林寺拳法とはまったく違う団体で、目的も技法体系も異なっています。

少林寺拳法がどんなものか、中国武術や空手との比較からご紹介します。

少林寺拳法のなりたち

少林寺拳法は第二次世界大戦後の香川県で生まれた日本発祥の武道です。終戦後の1947年、荒れ果てた社会を目の当たりにした創始者・宗道臣(そう どうしん)氏が「平和で物心ともに豊かな社会をつくろう」と決意して、香川県の多度津で若者たちに指導したのがはじまりです。さまざまな武道の中では、まだ新しい武道ですが、日本九大武道のひとつに数えられています。

宗道臣氏は少林寺拳法の教えの軸を「力の伴わない正義は無力、愛のない力は暴力」とし、その基本に「力愛不二(りきあいふに)」という言葉を掲げています。愛と力、この二つが調和統一された状態こそ人間生活の思想や行動の中心であるべきという考え方です。この教えのもとに集まった拳士たちが、「自他共楽」の思想と共に技法を学ぶのが少林寺拳法です。

勝つことが目的ではなく、技法を学ぶことで勇気と思いやりと正義感を持った本当に強い人間を育て、培った強さを他人や社会に役立てさせる、それが少林寺拳法の神髄なのです。

ちなみに、少林寺拳法の昇格試験(昇段・昇級試験)では、さまざまな教えに関する筆記試験や宿題の提出があります。つまり、単に少林寺拳法の技術だけあれば受かるのではないところが、ほかの武術と違うポイントのひとつでもあります。

中国武術とは?

中国武術には多数の門派が存在しています。まずはその分類技法や性質の面から紹介します。少林拳に代表される筋力や体力を強化して剛の力を用いるものを外家拳(がいかけん)と呼び、「太極拳」などに代表される呼吸法などを利用するものを内家拳(ないかけん)と呼びます。今回はわかりやすく外家拳を中国拳法として少林寺拳法と比べてみます。

少林寺拳法と中国武術の違い

まず、少林寺拳法では筋トレのようなことはしません。意外でしょうか? 技の練習の中で必要な筋力はついてくるため筋肉増強のためのトレーニングなどはあまり必要ないといわれています。また剛柔一体(ごうじゅういったい)といって、剛法(突きや蹴りなど)と柔法(投げや関節系の技)の両方を修めます。これは、日本九大武道のなかでも少林寺拳法だけの特徴です。

また修練の方法で、中国拳法はひとりで行う套路(とうろ)を基本とするのに対し、少林寺拳法は組手主体でふたりで行う相対練習を主体とするなどの違いがあります。

少林拳とは?

「少林寺拳法」と「少林拳」。名前はそっくりなこの二つの拳法は全くの別物です。少林拳には中国北部の河南省嵩山少林寺に発する「北派少林拳」と、南にある伝説上の福建少林寺に発する「南派少林拳」の二大系統があります。少林寺拳法と特に混同されるのは北派少林拳です。

少林寺拳法と少林拳の違い

少林拳と少林寺拳法の大きな違いが一番大きいのは、少林拳がいかに相手の急所に先手を打つかに対して、少林寺拳法は主守攻従(しゅしゅこうじゅう)といって、まず守り、それから攻撃するというところです。

少林拳はかなり実戦的で、カウンターで急所攻撃をし戦意を喪失させたところに追い打ちをかける連続技など、突き詰めると殺人術レベルの技があります。

少林寺拳法は殺人のための拳ではなくあくまで制圧のための拳であり活人拳、人を活かす術なのです。敵の攻撃を防ぎ、敵の戦意を喪失させ戦いを終わらせるための少林寺拳法の技法は、護身の技術。強者になるための攻撃テクニックではないのです。

カンフー? ウーシュー?

日本では中国武術のことを「カンフー」と呼ぶことが多いですよね。でも本来カンフー(功夫)は「長期間努力して身に着けた技術」という意味合いの言葉です。たとえば、「カンフーが足りている」のような感じで使います。

欧米ではスポーツとしての現代中国武術全般のことを表現するときは武術(ウーシュー)、古武術をカンフーと区別します。そのほかにも広東ではカンフー、そのほかの地域では武術(ウーシュー)と使用するそうです。

空手とは?

空手は同じ日本発祥の武道で、少林寺拳法と一見似ているようにも見えますがいろいろな面で異なる武道です。

空手の発祥には諸説ありますが、1300年代の沖縄に遡ります。原型である琉球唐手が生まれたのは、その後の1609年の薩摩による琉球侵攻をきっかけにして、徐々に武術として体系化され、流派ごとに土地の名前を冠し、「首里手」、「泊手」、「那覇手」の3系統に集約され、空手の原型が完成しました。

1922年に首里手の名人として名をはせた船越義珍の活動により「唐手術」が全国的に認知されるようになり、1935年に船越義珍により「唐手術」から「空手道」に改称。それにより格闘術の側面の強かった唐手から、精神修養の武道へ昇華され現在の空手の隆盛に繋がったのです。

なぜ「唐手」から「空手」の字にしたのかについても諸説あるのですが「徒手空拳」の「空」の字をとったという説が有力です。

少林寺拳法と空手の違い

空手は正しくは空手道といい、いろいろな流派があり、それぞれによって異なる訓練方法や試合規則があります。少林寺拳法は道場によって個性はあるものの、全世界どこでも同じ技術を学べます。空手の流派は今なお増えているので、入門する際には事前に種類(組手において直接の打撃がOKかどうかなど)の確認が必要です。

また、空手には試合(組手)があり、対戦相手との勝ち負けをはっきりさせますが、少林寺拳法には試合がありません。これは少林寺拳法は勝敗がどうとかの競技性を重要視していないから。その理由は2つあり、一つはあくまで少林寺拳法は拳禅一如(けんぜんいちにょ)つまり心身の研鑽が目的であること。もう一つは実戦性を重要視する拳法なので、金的や目つぶしなどの急所攻撃が技として存在し、本気でやりあうと安全性をそこなう可能性があるからです。

関節技について

打撃技がメインの空手と剛柔一体の少林寺拳法では関節技の有無が異なります。少林寺拳法では柔法と呼ばれる関節技と剛法と呼ばれる打撃系の技があり、その両方に優劣はなく、ふたつが一体となってこそ護身術としての威力があると考えられています。

少林寺拳法の柔法は、自然の法則を利用した方法で、原理を理解した上で技を習得します。例えば、相手が立てない状態にする為にどうすればよいかを頭で理解した上で拳法の技をマスターするイメージです。

具体的には、相手の重心を不安定にすれば立てない状態になるので、生理的な原理(神経や関節、筋肉の仕組み)を知り、物理的な原理(重心が支えている面から外れると倒れるなど)を利用すればいいのですが、それらを座学でなく練習を通して学ぶのです。

空手と少林寺拳法の違いは、構えや型の有無なども含めかなり沢山あります。知識がないと同じような格闘技に思いがちですが、違いを知ると興味深くなってきませんか?

最後に

画像提供:一般社団法人SHORINJI KEMPO UNITY

中国武術の一つのような印象をもっていた少林寺拳法が実は日本の武道で、深い精神性に根差していたこと、お分かりいただけましたか? 中国武術や空手などと比較して優劣をつけるのではなく、どの武術や武道にも特徴があり、修練すれば心身ともに強健になれるということです。そして、少林寺拳法にもっと興味をもっていただけたら幸いです。