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2019.08.15

刀剣・源氏物語絵巻などの名宝が一堂に!「徳川美術館」の基本情報と魅力を紹介

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徳川家康の遺品を中心に、尾張徳川家に伝わる大名道具を所蔵・展示している徳川美術館。500振ほどの刀剣や、大名家伝来の家宝のコレクションでは日本最大規模! その保存状態の良さも魅力のひとつです。質・量ともに見応えのある美術館の見どころや基本情報をご紹介します。

徳川美術館とは

尾張徳川家第19代当主義親が伝来の美術品の保全を図るとともに、大名文化を後世に伝えるため、1931年財団法人尾張徳川黎明会を設立し美術品を寄付。その後1935年に私立美術館として美術品の保存・公開が始まりました。

かつての尾張徳川家名古屋別邸の表門、通称「黒門」をくぐると、徳川美術館が見えてきます

大名家の家宝をメインにした豊富なコレクション

収蔵品は、世界的にも有名な『源氏物語絵巻』などの国宝9件、重要文化財59件、重要美術品46件をはじめ、徳川家康の遺品や、尾張徳川家の歴代当主やその家族らの遺愛品を中心に、明治維新後に大名家が売りに出した品や、寄贈品など、総数およそ1万件。また、近年の刀剣ブームから、豊富な刀のコレクションにも注目が集まっています。その中でおすすめの国宝が、次の2つです。

平安時代の貴族の様子を伝える国宝、『源氏物語絵巻』

12世紀前半に制作された『源氏物語絵巻』は、紫式部が書いた『源氏物語』を叙情的な画面の中に描き出した、日本を代表する絵巻物です。

もともと80場面を超える大作だったと考えられていますが、現存するのは絵画19面、絵巻物の説明文にあたる詞書(ことばがき)37面と、きれぎれに残っている断簡(だんかん)類少々のみ。

そのうち『蓬生』『関屋』『絵合(詞書のみ)』『柏木(一)〜(三)』『横笛』『竹河(一)・(二)』『橋姫』『早蕨』『宿木(一)〜(三)』『東屋(一)・(二)』の絵画15面、詞書28面を所有。

国宝 『源氏物語絵巻 橋姫』 平安時代(12世紀) 徳川美術館蔵

『源氏物語』宇治十帖(じゅうじょう)の最初、第45帖『橋姫(はしひめ)』は、光源氏の子、薫が姫君姉妹を透垣(すいがい。板または竹で、間を透かして作った垣根)から垣間見ている場面です。

袿(うちき)と呼ばれる装束に身を包み、琴や琵琶を奏でる姫君たちの艶やかな様子や、透垣の部分に描かれた晩秋の草花など、平安時代の貴族たちの暮らしぶりが、匂い立つように感じられます。

徳川美術館では毎年概ね11月末頃に、『源氏物語絵巻』を特別公開しており、2019年は『柏木(三)』・『宿木(一)』が11月23日(土・祝)〜12月1日(日)に公開されます。

▼橋姫ってどんなお話? 源氏物語のあらすじがわかる記事はこちら
源氏物語あらすじ全まとめ。現代語訳や原文を読む前におさらい

優美!華麗!「初音の調度」

3代将軍家光の長女千代姫が、数え年わずか3歳で尾張徳川家2代光友に嫁いだ時の婚礼調度類の「初音の調度」は、漆工品の最高峰とされ、国宝に指定されています。

硯箱の蒔絵には『源氏物語』第23帖「初音」の帖の情景と、明石の上が詠んだ「年月をまつにひかれてふる人に今日鶯(うぐいす)の初音きかせよ」の歌の文字が描かれています。

「初音」では、この年の正月元日がちょうどおめでたい「初子(はつね)」の日で、春の訪れを告げる鶯の「初音(はつね)」と重ねて、めでたい婚礼の品にふさわしいテーマにされています。

その品々には卓越した技術が用いられ、あらゆる蒔絵技法を駆使されていて、あまりに豪華さで一日中見ても飽きないことから、「日暮らしの調度」とも呼ばれるそうです。

▼源氏物語をもっと知りたくなったらこちら
「源氏物語」現代語訳をもっと楽しむための登場人物と基礎知識

重厚感あふれる本館も見どころ

昭和初期の日本の美術館建築を代表する建造物として国の有形文化財に登録されている本館も魅力のひとつ。城郭を思わせる和洋折衷の帝冠(ていかん)様式の建築は、開館当時は展示棟と収蔵庫。現在は本館展示室および南収蔵庫として、主に企画展・特別展が開催されています。

写真正面が本館

国宝だけじゃない! 徳川美術館の魅力

1.大名道具が実際に使われた空間がある

新館の名品コレクション展示室は、尾張徳川家当主の公的生活の場であった名古屋城二之丸の茶室や能舞台などが部分的に復元された仮想的空間の中で、尾張徳川家伝来の名品を中心にした美術品を往時のように展示。大名の生活と文化をリアルに感じることができます。

部屋ごとにテーマが決まった6つの展示室は、弓矢・刀などの武具に始まり、茶道具、能装束、大名家の夫人たちや姫君たちの愛用した品々を季節に合わせて展示。また、先程ご紹介した「初音の調度」も、数点ずつ展示されています。

展示品はほぼ毎月、季節ごとに替わるのでいつ訪れても新たな名品に出合えそうですね!

新館は名古屋城をモチーフにしているそう

2.当時の姿、そのままに。刀剣などの保存状態の良さが秀逸!

徳川美術館の所蔵品の大多数は、尾張徳川家が名古屋城で家宝として大切に保存してきたものなので、甲冑や武具のほか、書画・染織品・漆工品などの品々はきわめて良い状態で保存されています。

また、短刀や長刀(なぎなた)を含めれば1,000振近くにのぼる、トップクラスの質と量を誇る刀剣のコレクションは、江戸時代の研ぎのまま新たな研ぎを加えてない、江戸時代当時の姿をそのまま鑑賞できることも大きな魅力です。

3.徳川美術館ならではのイベントも充実

特別展・企画展のテーマに即した記念講演や特別講演会をはじめ、大名の生活など一定のテーマをシリーズで受講できる講座などを開催。年間を通じ、大名文化の体験や展示品の説明を受けられる「土曜子ども教室」や、「夏休み子ども歴史教室」など、子ども向けのプログラムも充実。秋には美術館所蔵の茶道具を実際に使用し、名品を間近で鑑賞できる徳川茶会なども行なわれています。

徳川美術館の利用案内

住所:愛知県名古屋市東区徳川町1017

開館時間:10:00〜17:00 (※入館は16:30まで)

休館日:月曜日 (※祝日・振替休日の場合は翌日)

入場料金:一般 1,400円 高校・大学生 700円 小・中学生 500円

徳川美術館へのアクセス

【名古屋駅から】
■市営バス・・・名古屋駅バスターミナル10番のりば 基幹2系統 「猪高車庫」方面ゆき 「徳川園新出来」停留所下車(所要時間約30分)。徒歩約3分。

■名鉄バス・・・名鉄バスセンター3階 4番のりば 「三軒家」方面ゆき 「徳川園新出来」停留所下車(所要時間約30分)。徒歩約3分。

■JR・・・JR中央線「多治見」方面行 「大曽根駅」下車(所要時間約20分)。南出口から徒歩約10分。

■なごや観光ルートバス「メーグル」・・・名古屋駅バスターミナル11番乗り場 名古屋駅発着で平日30分~1時間に1本、土・日・休日は20分~30分に1本運行。(約30分)

【栄から】
■市営バス・・・栄バスターミナル(オアシス21)3番のりば 基幹2系統 「引山」「四軒家」方面ゆき 「徳川園新出来」停留所下車(所要時間約20分)。徒歩約3分。

■市営地下鉄・・・名城線(右回り)「大曽根駅」下車(所要時間約15分)。E5番出口から徒歩約15分。

駐車場情報

■徳川美術館専用駐車場
台数:乗用車17台
利用時間:9:45〜17:30
料金:無料

■徳川園市営駐車場
台数:乗用車80台
利用時間:9:15〜18:00
料金:乗用車は30分ごとに120円

立ち寄りたい観光スポット

日本の百名城のひとつ、名古屋城

1612年に、徳川家康の子義直の居城として築城。戦災で焼失しましたが、1959年、五層の大天守閣と小天守閣が再建。第一級の史料をもとに忠実に復元された本丸御殿、名勝二の丸庭園、重要文化財の櫓(やぐら)など多くの見どころがあります。

自然の風景、景観が凝縮された大名庭園、徳川園

尾張藩2代藩主徳川光友の隠居所として元禄8年(1695)に造営された大曽根御屋敷跡に造られた池泉回遊式の日本庭園。変化に富んだ景観は、大名庭園の「荘厳さ」が感じられます。

蓬左文庫

尾張徳川家の旧蔵書を中心に和漢の古典籍を所蔵・公開。現在の蔵書数は、約11万点にも及びます。19代当主徳川義親氏が、蓬左城(名古屋城)内にあった書物を伝える文庫という意味を込めて「蓬左文庫」と名付けられたそうです。

参考:徳川美術館ホームページhttps://www.tokugawa-art-museum.jp/、徳川美術館ガイドブック(徳川美術館 編集・発行)、週刊ニッポンの国宝100 vol.9[FILE17 縄文のビーナス FILE18 源氏物語絵巻] 小学館

※この記事で紹介している作品は美術館の所蔵作品ですが、必ずしも常時展示されているものではありません。
※本記事は2016年和樂8・9月号『ニッポンの名画50原寸探訪!』を再編集したものです。