Gourmet
2019.09.25

名古屋グルメ「ひきずり鍋」とは何だ?愛知旅行なら名古屋めしの王者を食べるべし!

この記事を書いた人

名古屋めしという言葉も今ではすっかり定着し、愛知はB級グルメの宝庫!と思っている方も多いですよね。「鰻を出汁茶漬けで!」や「カツに味噌!」とか、「バタートーストに小倉?」や「スパゲッティにあんかけ?」などなど、何とも言えない組み合わせが特徴の名古屋めし。でも、実は郷土料理として古くから親しまれ、隠れた王道の名古屋めしがあるのです。それが「ひきずり鍋」。なんとも不思議なネーミングですが、簡単に言ってしまうと、鶏肉で作るすき焼きのこと。ここで「鶏肉か~」と侮ってはいけません。鶏肉といえども、使用するのは「名古屋コーチン」。これは秋田の比内地鶏、鹿児島の薩摩地鶏と並ぶ三大地鶏の一つなんです。他の種類の鶏と交配させることなく、100%純粋な血統を守る名古屋コーチンだからこそ、味わえる美味しさ。「牛鍋の歴史」を考えたら「すき焼きは牛肉しかありえない!」と思っている方にも、ぜひ食べていただきたいのがこの「ひきずり鍋」なんです。

弾力のある歯ごたえやコクのある旨味は、感動的な味わい

「ひきずり鍋」は40~50年前までは、尾張地方で秋祭りやお祝いの席、年末や年始などに食べられていた郷土料理の一つです。名前の由来は、「鍋の中で引きずりあって食べた」や「一度食べたら病みつきになる、引きずるほどの美味しさ」から来ているとも言われています。その味といえば、野菜と一緒にぐつぐつ煮込んでも、コリコリとした弾力のある歯ごたえで、味も濃く、鶏肉の柔らかく淡泊といったイメージを覆します。肉質は脂肪が少なく、ミネラルが豊富に含まれており、栄養バランスに優れています。卵黄の粘りは、普通の卵の倍以上とも言われ、まさに地鶏の王様なのです。

味を知る食のプロたちから熱望され、復活した名古屋コーチン

郷土史家入谷哲夫氏の著書「名古屋コーチン作出物語」には、
「尾張人は、名古屋コーチンの肉や卵の滋味に着目しました。病中・病後の人に、『病気にゃ、卵がよう効きますでねぇ。飲んでちょうでゃあ』と肉や卵をお見舞いに贈って回復を祈りました」と書かれているように、名古屋コーチンは尾張人の健康を支えていた貴重なたんぱく源でもありました。

昭和30年代後半から、海外産の安いブロイラーが台頭し、一時は危機的状況にあったとされる名古屋コーチンですが、その美味しさを昔から知っている飲食店や小売店などからの強い要望もあり、再び名古屋コーチンを育てる養鶏場が増えてきたのだそうです。栄養価も高く、コクのある旨味などから、名古屋コーチンの魅力は今、再評価されています。

名古屋コーチンは生育期間が120日以上で出荷されるため、肉質も良く、旨味がのっている

名古屋コーチンひきずり鍋レシピ

小牧・名古屋コーチンひきずり保存会提供

名古屋コーチンひきずり鍋には、キンカン(産み落とす前の卵)が入っていて栄養価も満点

1)コーチンは薄くそぎ切りにする
2)ネギは斜め切り、焼き豆腐は八つ切り、生麩は八枚にそぎ切りにします。生椎茸は切込みを入れ、えのき茸は根本を切り、白菜はざく切り、春菊は葉をちぎっておきます。
3)糸こんにゃくと生麩はさっと茹でておきます。
4)すき焼き鍋に火をかけて、弱火で十分鍋を焼く。
5)名古屋コーチンの脂肪を入れて、油をだす。
6)名古屋コーチン肉をザラメ、たまり、酒で炒め、まず鶏肉を味わう。
7)椎茸、えのき茸、生麩、こんにゃく、ねぎ、白菜などをザラメ、たまり、酒を入れて、味を調える。
8)残りの名古屋コーチンと具材を適宜加え、ザラメ、たまり、酒を足しながら、煮込む。

鶏肉のコリコリした触感を味わえるよう、野菜と鶏肉の旨味を十分引き出すため水は入れず、濃いめの甘辛味で食べるのが特徴。

武士も帰農せよ!リストラされた尾張藩士が一念発起で手掛けた養鶏業

この名古屋コーチンの発祥地と言われているのが愛知県小牧市です。時代が江戸から明治へと移る際、尾張藩士であった海部壮平がこの地に養鶏場をつくり、身を立てたことが始まりとされています。今でいえば、リストラされたサラリーマンが、Iターンで農業を始めるといった状況でしょうか。

鶏が運動できるスペースを作り、木々を植えるなど、ストレスなく成長できるよう考えられた養鶏所。雛鳥を含め5,000羽が飼育されていた。(海部養鶏所百分之一図 絵図)

「明治政府が発令した、武士も自分たちで身を立てていかなくてはいけない。農に帰れという『帰農の御触れ』が出た時代に、私の祖先が庄屋をやっていたため、海部壮平さんに土地を提供し、先に三重県で養鶏場を始めていた弟の正秀さんからの助言もあって、養鶏場を始めたと伝えられています」と語ってくれたのは『小牧・名古屋コーチンひきずり保存会』の代表・松浦光良さん。幾度となく失敗を繰り返し、品種改良を重ね、血のにじむ努力で、交配をさせて生み出したのが、地鶏と中国のバフコーチンを掛け合わせた名古屋コーチンだったとか。松浦さんの自宅には、当時の資料なども数多く残されており、祖先が海部壮平さんに土地を提供した縁もあり、古くから伝わる郷土料理を残していこうと保存会を立ち上げたそうです。現在では、商工会議所と組んで、秋祭りやイベントなどで有志たちと「ひきずり鍋」を提供するなどの活動をしています。

名古屋コーチンの生みの親である海部壮平の墓がある大泉寺

名古屋コーチンは進化し、次々と新商品が生み出されている

小牧駅前に建てられた名古屋コーチンのモニュメント

現在、 小牧商工会議所では、名古屋コーチンプロジェクトとして、地元企業と組んで、カステラやなめらかプリン、チーズケーキ、コーチンを使ったカレーやシューマイ、ハム、ソーセージなども製造しています。ふるさと納税のお礼の品には「鍋セット&名古屋コーチン1羽分セット(寄付金額 10,000円)」もあります!

ひきずり鍋には、「今年の悪いことは引きずらず、食べつくす」という謂れもあるとか。滋味深い名古屋コーチンの「ひきずり鍋」を、ぜひ今年の鍋の一つに加えてみてはいかがでしょうか。