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2019.10.17

大分別府のホテル「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」はまるで美術館?

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NOTギャラリーBUTホテル!温泉とアートが融合したら…
エントランスをくぐると、そこには圧巻の竹アートが…。

新しいギャラリーではありません。ここは大分・別府にオープンしたラグジュアリーホテル「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」。国内屈指の温泉地に、インターコンチネンタルホテルズグループが、世界初として手がけた温泉スパリゾートなのです。しかしながらホテル内には、いたるところに現代作家のアートワークが。その風景はまるでギャラリーか美術館のようです。温泉とアート…なんだか不思議な組み合わせのようにも思えますが、実際に訪れてみると、心からリラックスできる特別な空間でした。

まずは別府温泉についておさらいします

別府は、言わずと知れた国内、いや世界有数の温泉地で、日本の源泉の約1割にあたる約2300の源泉があります。湧出量は世界第2位(気になる第1位は、アメリカのイエローストーン国立公園ですが入浴不可)。市内8つの代表的温泉郷は「別府八湯(べっぷはっとう)」と呼ばれ、古いものは8世紀初頭からの歴史があるとか。これらは点在しているので泉質が異なり(世界で確認されている11種類のうち10種類が別府では湧出しているというから驚きです)、市内にいながら、さまざまな温泉が楽しめるというのも別府の魅力。

ちなみに「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」のある明礬(みょうばん)温泉は、江戸時代は明礬の採取地として質量ともに全国一に、湯治場としても発展しました。今でもホテルから山を見下ろすと、白い噴煙が立ちのぼるのが見られます。

日本が誇る伝統工芸・別府竹細工も必見

もうひとつ、別府で有名なのが竹細工です。このホテルがアートに力を入れた理由でもあるのですが、別府竹細工は日本伝統工芸のひとつであり、長く深い歴史が。その起源は「日本書紀」に記述があり、人皇12代景行天皇が別府に立ち寄った際、お供をした台所方が、シノダケの良質さに気づいてメゴ(茶碗かご)をつくったことがはじまりとされています。その後、室町時代から江戸時代にかけては、行商用のかごや湯治客用の飯かごなど、生活に根づく道具として竹細工は広まりましたが、明治に入り、職人の高度な技術によって工芸品へと発展。昭和に入ると芸術品へとその存在は高まり、竹細工の大家・生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)が人間国宝に指定されるまでになります。

現在でも別府には、全国で唯一の竹細工を学べる公立学校「大分県竹工芸訓練センター」や、あらゆる名品が展示されている施設「別府市竹細工伝統産業会館」があり、別府竹細工の発展に努めています。「伝統産業会館」はホテルからタクシーで10分ほどの距離にあるので、立ち寄るのもおすすめですよ。

それでは館内のアートワークをずらりとご紹介

ふー。前置きが長くなってしまいましたが、なぜこのホテルが、温泉とアートに力を注いでいるのか、これで納得。というわけで、実際にホテル内で観られるアートワークをご紹介します。

最初にも登場した竹細工は、大分県在住のアーティスト・中臣一(なかとみはじめ)による<Prism Ellipse,雲上>。「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」を建設するにあたり生まれた作品で、ホテルが霞がかかるくらい標高の高い位置にあることからイメージしたとか。竹が描くしなやかな曲線、そしてその影が壁に映し出されている様子がとてもきれいです。


ホテル内のアートは九州地方で活躍する作家を中心に展開。中臣氏の竹細工はほかにもあり、<Frill,羽衣>(左)や<Clouds of smoke>(右)など、ホテルを象徴する作品となっています。


こちらも大分在住のアーティスト・運天達也(うんてんたつや)の作品。大分県内の間伐材を再利用したもので、素材は楠、榎、イチョウ。虫食いの跡をそのまま生かすなど、自然の力強さがダイレクトに感じられます。


このように館内にあるアートワークは天然素材を使用したものが多く、重厚な建物とのコントラストが、このホテルの大きな特徴に。ほかにも、スパには鹿児島で活躍する金澤尚(かなざわひさし)による流木のレリーフが飾られていたり、「アクア」というラウンジには大型スピーカーの上にレイアウトされている韓国人アーティスト、チェ・ソクホの作品をはじめ、大分の長谷川絢(はせがわけい)の竹細工、鹿児島の盛永省治(もりながしょうじ)の木の器など、とにかくどのエリアにも、必ずといっていいほど作品が飾られているのです。そしてそれが、きちんとインテリアとして調和されているところが素敵。美術館とは違う、アートをもっと身近に感じられる貴重な体験となりそうです。別府らしい、どこか朗らかなムードも表れており、それがラグジュアリーホテルでありながらもリラックスした気分で滞在できる理由でもありそうです。


ミュージアムショップのようなエリアも。作家による美しい竹細工が実際に購入できるのも、このホテルならでは。


もし1日おこもりするなら、ライブラリーも要チェックです!ブック・ディレクター幅允考(はばよしたか)氏率いるBACHがセレクトした、別府や日本の伝統文化に関連する書籍がずらり。ゆっくり読書しながらオフの日を過ごすのも至福の時間ですよね。

さてさて気になる温泉はどんな感じ?

ホテルの施設についてもう少し。温泉は、露天風呂および予約制の家族風呂を完備。露天風呂は大分のダイナミックな自然を表現したデザインで、使われているのは別府石。そこに植栽を施し、あたかも昔からこの温泉があったかのような演出をしているそう。泉質は硫黄の強くない単純温泉(かつ温度も低め)なので、ついつい長湯してしまいます。ちなみに温泉までは浴衣と竹かごで行けるのですが、浴衣の柄は、江戸時代から続く大分の染物屋・太田旗店がデザイン。海、竹、関サバ、椎茸…別府の自然や名産をグラフィック化させたオリジナルです。これがモダンでかわいい!露天風呂の暖簾にも同じものが使われていました。

客室やディナーもこんなに豪華なんです

最後に、気になる客室とレストランについても。今回泊ったのは62平米のデラックスツインでしたが、そのほかプレミアムキングやスイートなどを含め全89室あります。休日を、この豪華ながらも温もりのある空間でゆったり過ごすなんて、とても贅沢ですよね。

ディナーで訪れたレストラン「アトリエ」は、季節の食材を使ったコースのみですが、魚や肉、野菜、どれも豊かな大分だからこその“旬”がいただけます。プレゼンテーションの仕方も洒落ていて感激。約1か月ごとにメニューは変更されていくそう(写真は9月取材時のもの)。

いかがでしたでしょうか。ここ数年、全国各地に新しいホテルが続々と建設されていますが、「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」は、ラグジュアリーでありながら別府の魅力も十分に感じられる、ほかにはない新感覚のホテルではないでしょうか。アート鑑賞はもちろん、温泉にゆっくり浸かったり、インフィニティプールのあるラウンジ「アクア」でお茶したり…宿泊しなくとも楽しめる場所なので、ぜひ訪れてみてください。

■DATA
ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
住所:大分県別府市大字鉄輪499-18
公式サイト:https://anaicbeppu.com/

書いた人

編集プロダクションからファッション誌のエディターに。ファッション以外に挑戦したくなった矢先に「和樂」に捕縛される。商品開発を主に担当しているが、早くもアパレルに着手し始め、人生の矛盾を感じている。