Culture
2019.10.23

お札の肖像画、初代は女性!誰が描かれたか知ってる? 日本紙幣の歴史を辿ってみた

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2024年に刷新される日本紙幣(日本銀行券)。一万円札は渋沢栄一、五千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎の肖像が採用されることで話題となりました。そういえば「お札=肖像画」のイメージがありますが、お札に肖像画が描かれるようになったのは、いつ頃から…? そんな素朴な疑問を発端に、意外と知らないお札の歴史を辿ってみました。

縦長だ! お札のはじまりは三重県から

時代は江戸よりちょっと前に遡ります。関ヶ原の戦いが起こった1600年頃、現在の三重県伊勢を拠点にしていた商人の間で、最初のお札とされる「山田羽書(やまだはがき)」が流通しました。貨幣の代わりに金額を紙に書き、預かり手形として発行したもので、現在のお札の形とは異なりおふだのような形をしています。

表面には人物や米俵があしらわれ、裏面には神像があしらわれたデザイン。肖像は描かれていません。偽札防止策として、図柄を変更したり繊細な多色刷りをするなど、現代のお札に通ずる工夫も見られます。 参考:伊勢河崎商人館 公式サイトhttp://www.isekawasaki.jp/hagaki/

伊勢は、その歴史的・地理的な特殊性もあり早くから商業が発達していたこと、また御師(おんし)と呼ばれる寺社の参詣者を案内や世話をする者への信用が大きく、彼らを中心とした自治によって信用経済的な萌芽の素地が形成されてきたことが、お札の誕生背景にありました。

国産お札第一号は「水平札」なんて呼ばれてた

1868年(慶応4年)、明治時代の始まりと共に、日本で初めての全国的なお札「太宰官札(だじょうかんさつ)」が誕生しました。しかし政権が不安定で流通も思わしくなく贋造が相次ぐなどしたことから、発行早々に新貨幣との交換を決定。1870年(明治3年)「新紙幣(ゲルマン紙幣)」の製造をドイツに依頼、翌年には「国立銀行紙幣(旧券)」の製造をアメリカに依頼するなど海外の知見をもらいながら、1877年(明治10年)、ついに国産初の洋式紙幣「国立銀行紙幣(新券)」が発行されました。(形も、おなじみの横長の判型へと変化していきます)

ちなみに、このとき製造されたお札にも、肖像は描かれていません。現在の肖像画の位置に水兵が描かれていたことから「水兵札」なんて呼ばれていたそうです。

お札に描かれた初めての肖像は女性だった!

1881年(明治14年)、ついに肖像入りのお札「改造紙幣」が発行されます。お札のデザインに肖像が描かれた理由は、贋札対策。私たちの目には、人の顔や表情のわずかな違いにも気がつく特性が備わっています。これを利用して、贋札対策として肖像を取り入れたのです。

日本で初めて、お札になった人物は、神功皇后(じんぐうこうごう)。古代神話に登場する第14代天皇・仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)の皇后です。このお札以降、平成16(2004)年11月に発行された現在のお札を含めて、合計17人の肖像がお札に描かれますが、女性が登場したのは神功皇后と樋口一葉のみ。2024年に発行される五千円札の津田梅子は3人目の女性の肖像となります(想像以上に、少ない!)。

肖像画で女性3人目となる津田梅子。財務省公式サイト https://www.mof.go.jp/notice.html より。

肖像画に選ばれる条件は大きく2つ

お札に描かれる人がどうやって決まっているのか? 気になりますよね。肖像をはじめとするお札の様式は、通貨行政を担当している財務省、発行元の日本銀行、製造元の国立印刷局の三者で協議し、最終的には日本銀行法によって財務大臣が決めることになっています。お札の肖像の選び方には、特別な制約はありませんが、おおよそ次のような理由で選定されているそうです。

1.日本国民が世界に誇れる人物で、教科書に載っているなど、一般によく知られていること
2.偽造防止の目的から、なるべく精密な人物像の写真や絵画を入手できる人物であること

日本最大・最小のお札のサイズを知ってる?

日本初の肖像入りのお札「改造紙幣」以降、1888年(明治21年)には「改造兌換銀券(かいぞうだかんぎんけん)」が順次発行、明治の終わり1899年(明治32年)に「日本銀行兌換券」が発行、1927年(昭和2年)は金融恐慌が起こり、非常事態を回避するために裏面が白紙の「乙弐百円券」が緊急発行されました。お札のサイズに注目してみると、日本で最大のお札は1891年(明治24年)に発行された「改造百円券」で130×210mm。最小のお札は、飛んで1946年(昭和21年)48×94mmの「A五銭券」でした。

グローバルツール 昭和の懐かしい紙幣コレクション」より48×94mmの「A五銭券」。現在の一万円札が76mm×160mm、iPhone11が約75mm×150mm(大きい!)。それに比べて日本最小のお札がいかに小さいか、お分かりいただけるはず。

激動の時代、昭和に発行された7つのお札

1946年、第二次世界大戦後の混乱の中、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の承認を得て発行されたお札があります。先ほど紹介した日本最小の「A五銭券」を含む7種類をご紹介しましょう。

グローバルツール 昭和の懐かしい紙幣コレクション」左上から時計回りに、聖徳太子の百円札、議事堂の十円札、二宮尊徳の一円札、ハトの十銭札、梅の五銭札、板垣退助の五十銭札、彩紋の五円札

戦後の経済インフレ対策を目的に発行されたお札ですが、敗戦によってそれまで流通していた通貨の価値が急落し、戦後の混乱の中、人々の暮らしも非常に苦しい状況にありました。このようにお札の歴史から、社会情勢や世相が透けて見えてきます。そんな昭和の紙幣を7種、ほぼピン札で収集したのがこちらのセット。歴史の証人と呼ぶべき、希少価値の高い本物のお札は手元にそろえたい貴重な逸品です。

ちなみに動物の入ったお札は珍しいかと思いきや、お札の歴史を振り返ると、ねずみ、いのしし、ライオン、タンチョウ、にわとり、キジなどが描かれています。(2024年の新しいお札にも、動物が登場します!)

世界初の技術も導入!平成から令和へパワーアップ

平成に入ると、お札は偽造防止強化のためのさまざまな技術が駆使され、デザインも変化していきました。2019年(令和元年)現在、私たちにもっとも馴染みのあるデザインは、2004年(平成16年)に発行された福沢諭吉の一万円札、樋口一葉の五千円札、野口英世の千円札。次いで1984年(昭和59年)に発行された新渡戸稲造の五千円札、夏目漱石の千円札も馴染み深いかもしれません。令和の時代、初めて刷新される3つのお札には、肖像の立体画像が回転する最先端のホログラム技術が、お札として世界で初めて導入されます。

左側に帯状に入っているのが最先端の3Dホログラム。財務省公式サイト https://www.mof.go.jp/notice.html より。

現在発行されているお札について、財務大臣は改刷当時「優秀な科学技術国家として、世界に寄与し続ける日本のイメージを表すものとして野口英世を、日本の社会で女性の地位が向上し、男女共同参画社会が進むなど、新しい時代の流れを表すものとして樋口一葉を採用した」と説明していました。常にその時代の世相を反映する、お札の肖像画。令和の時代は、どんな人物が描かれるのか想像が膨らみます。

参考:
国立印刷局 公式サイト: https://www.npb.go.jp/
伊勢河崎商人館 公式サイト: http://www.isekawasaki.jp/