Art
2019.10.22

16人の超個性派!日本橋三越本店の「山下裕二の隠し球」展で驚きの作品を見つけよう!

この記事を書いた人

「もっとわくわくするような作品が見たい!」「ひと目見て、“凄い”と俺を唸らせる作家はいないのか?!」

そんな貪欲なアートファンの方に朗報です!10月23日から、三越本店・美術特選画廊・アートスクエアにて現役最強の「選球眼」を持ち、新しい日本の現代美術を先頭に立って盛り上げる我らが“日本美術応援団長”山下裕二氏がプロデュースするとっておきの展覧会「山下裕二の隠し球」展が開催されることになったからです!

展覧会では、山下氏が過去20年以上にわたって見続けてきた膨大な作家の中から選びぬかれた、秘蔵の16名の作品が集結。山下氏に見いだされた当初、まだ全く無名の状態だった彼らは、その後研鑽を続けて次々にブレイク。中には大きく知名度を上げて、個展では毎回作品が飛ぶように売れる人気作家へと成長を遂げた人もいます。

本展で選ばれた16名の作品は、どれも個性派揃い。さすが山下氏が太鼓判を押すだけあって、実力とセンスを兼ね備えた凄い作家ばかりです。そこで、和樂Webでは本展に先駆けて本展の見どころや、約半数の出展作家を紹介。山下氏の眼力の凄さや、展覧会の面白さに迫ってみたいと思います!

「山下裕二の隠し球」展とは?

日本美術応援団:今度は日本美術全集だ!

自他ともに認める「日本美術応援団長」として、日本美術の面白さや新たな価値を広く世の中に伝える第一人者として活躍する山下裕二氏。明治学院大学で教壇に立つ傍ら、美術史家・美術評論家としてTV出演、雑誌連載、美術展の監修で多忙を極めるなど、近年その活躍ぶりはとどまるところを知りません。

そんな山下氏が自らに課した使命として「死ぬまで取り組む」と宣言されているのが、明日の日本美術界を担う新人作家の発掘活動です。全国各地の展覧会、アートフェア、ギャラリー等へ「毎日足を棒にして」通い続け、膨大な作家・作品群と出会った中からダイヤモンドの原石を見つけ出し、彼らを積極的に評価する。これにより、新しい日本の現代美術を創造しようとされているのですね。

美術の窓 2019年1月号

山下氏は、長年にわたる発掘活動の成果を、美術専門誌・月刊「美術の窓」で発表し続けてきました。今や同誌で最も注目を集める人気コラムとなったそのタイトルは、「山下裕二の今月の隠し球」。過去14年間、切れ目なく170回を超える連載を積み重ねてきました。連載で取り上げられた作家は2019年10月時点で延べ80名以上。山下氏は、その全員とアポイントを取り、入念な下調べを済ませた上で作家のアトリエへと足を運び、彼らの作品世界を深く探求した上で自らの「推し」ポイントを読者に伝えてきたのでした。

本展では、「美術の窓」で取り上げられた多数の作家の中から、とりわけ山下氏が思い入れのある作家を厳選。絵画、彫刻、版画、工芸など幅広いジャンルから計16名もの作家の代表作品を集めて、彼らのデビューから現在に至るまでの実績を振り返るグループ展となっています。もちろん、三越の「美術特選画廊」で開催されることからわかるように、気になった作家の作品は、一部を除いてその場で購入することも可能です!

出展される「隠し球」作家を紹介!

本展を紹介するにあたり、三越さんから今回特別にいくつか画像をお借りすることができました!そこで、山下氏と作家の関わりや、作家の意外な経歴などとともに、ここでは全16名の中から、10名の出展作家を簡潔に紹介していきます!それでは早速いっていましょう。

隠し球1.前原冬樹

前原冬樹「一刻」2019年、28.0×36.0×3.5cm、桜(一木造)に墨、油彩

2019年にはウッドワン美術館で開催された大規模な個展も好評だった超個性派の木彫作家・前原冬樹(まえはらふゆき)。32歳の時、プロボクサーから一転して木彫作家へと転身。枯れた味わいのモチーフを好んで取り上げ、1点を制作し終えるまで数ヶ月かけることもざらにあるといいます。まさに修行僧のような制作スタイルから生み出される作品は、スーパーリアルな神の如く凄まじい写実性を湛えた超絶技巧作品ばかり。まさに一球入魂のすさまじい集中力で作品が生み出される反面、作品に付けられるタイトルはほぼ全て「一刻」で統一され、そっけないのも面白いですね。

隠し球2.篠原愛

篠原愛「ゆりかごから墓場まで」(From the Cradle to the Grave) 162.0×324.0cm、2010-11、油彩・キャンバス

日々の日常風景や小説やマンガ、アニメといった様々なイメージソースから、妖しく幻想的な美少女を描き、今や最も人気のある若手油彩画家の一人として活躍中の篠原愛。彼女もまた山下氏に見いだされ、飛躍のきっかけを掴んだ一人でした。山下氏と篠原愛が最初に出会った時、彼女は自信を失いかけており、作家活動を辞めて実家へと帰ろうか悩んでいたといいます。山下氏が見いださなければとっくに作家活動を辞めていたかもしれないのですよね。あぶないあぶない。圧倒的なイマジネーションを持つ稀有な才能をもう少しで失うところでした。

本展では、篠原愛のこれまでのキャリアを振り返り、節目となるような重要な作品が展示される予定。一度見たら強烈なインパクトを残す、美醜が絶妙のバランスで配合された美少女が描かれた作品群は要注目です!

隠し球3.山口英紀

山口英紀「still life series #06 -tiny prayers-」27.3×27.3cm、2019年、紙本水墨

「墨」と「硯」だけで気が遠くなるような工程を踏んで細密な水墨画を描く山口英紀(やまぐちひでき)の本職は、国語の教師。大学卒業後、浙江省・杭州の中国美術学院に留学し、中国文化についての高度な教養を身につけるとともに篆刻や水墨技術をマスター。

若くして文人的な素養に精通した山口さんですが、その作品のクオリティの高さや作り込みへの徹底したこだわりは、文人の「余技」を遥かに超えたものなのです。(いや、経済的な工数感覚を度外視して制作されるので、ある意味「余技」にしかならないのかもしれませんが・・・)

隠し球4.盛田亜耶

盛田亜耶「生命の連鎖-受胎告知」133.0×163.0cm、2017年、切り絵 © Aya Morita,Photo © Tomonori OZAWA

作品画像を見て、まずパッと頭に思い浮かんだ感想は「丁寧なドローイング作品だな。鉛筆かボールペンの細密画か、版画作品なのかな?」でも、手元で資料を見てびっくり。なんとこの作品、「切り絵」なのです。まさに超絶技巧。こういう作品は絶対に画像だけでなく実物を見てみたいものですよね。一体どうやって作っているのか、在廊されている時にぜひ聞いてみてくださいね。

でも「切り絵」というと、どうしても本格的な絵画や彫刻、陶磁器などと比較すると何となく低く見られてしまいがちですが、そうした既存の価値観や権威に一切とらわれず、「凄い作品は凄い」と評価する眼を持っているのが山下氏の凄いところ。盛田亜耶も、東京藝術大学在学中に山下氏に早々に見いだされたのでした。

隠し球5.大川心平

大川心平「東京」50号、209年、油彩・キャンバス

子供姿の作者を中心として、画面いっぱいに放射状に広がっていくのは、作者の記憶の中に所狭しと収められたノスタルジックな町の風景。描かれた絵画空間は物凄い情報密度ですが、妙な統一感もあって見れば見るほど不思議と安らいでくる安心感もあります。

タイトルに「東京」とあるとおり、「古き良き東京」を象徴するような懐かしいあれこれを大画面の中に見つけては、自分の中の記憶を探っていくのも面白いですよね。

隠し球6.近藤智美

近藤智美「歌舞伎羅漢図」193×97cm、2016年、油彩・キャンバス

図録に掲載されるのは、伝統的な「五百羅漢図」を換骨奪胎し、様々なギャルを描き加えた衝撃的な構図の「歌舞伎羅漢図」。山下氏が発掘する作家は、美大で正規の美術教育を受けた作家に限らず様々な経歴の作家が多いですが、近藤智美は中でも異色すぎる経歴の持ち主。「新幹線で上京しそのまま渋谷へ。東京へ行ったらヤマンバをやろうと決めていました」と18歳で広島から渋谷に上京。その後似顔絵作家から画家へとステップアップを果たす中、山下氏と画廊で出会ったのです。「彼女の存在そのものが作品なのかも」と喝破した山下氏のコメントも非常に印象的でした。

隠し球7.蒼野甘夏

蒼野甘夏「野ねずみカンタータ」20号、2019年、紙本彩色

東京を中心とした既存に画壇からは距離を置き、北海道で正統派の日本画を描き続ける蒼野甘夏の作品は、異色な個性派揃いの本展の中ではもっとも端正で落ち着いた作品群の一つでしょうか。山下氏の熱心なファンの方は、2015年の既刊「驚くべき日本美術」(集英社インターナショナル)のカバーにも取り上げられたことからご存知の方も多いかもしれませんね。

山下氏の推しポイントは、中世、近世からの水墨画技法や、繊細な毛描き、工芸的なセンスを盛り込んだ箔捺しなど、伝統的な日本美術のエッセンスを受け継いだ高い技量。なにより、「美しい発色の薄塗り」に要注目とのこと。

隠し球8.中里勇太

中里裕太「夜の獣」120.0×58.0×280.0cm、2011年、樟に彩色

ソフトバンクのCMにも出てきそうなキリッとした表情の端正で技巧的な柴犬の木彫作品は、一度見たら忘れられない凛々しい美しさがあります。僕も昨年、前原冬樹と共に上野・旧平櫛田中邸アトリエで開催されたブレイク前夜の若手木彫作家15人のグループ展「XYLOLOGY(キシロロジー)」で初めて見たのですが、その精巧で凛々しい美しさに見惚れてしまいました。

ちなみに中里勇太自身もまた「隠し球」のコーナーは学生時代からの愛読者だったそうです。作品が山下氏の目に止まり、実際に掲載されたことで「この道で行くぞ!」という覚悟を強く後押しされたのだとか。

隠し球9.山本温

山本温「tsukiji#1(連作 TSUKIJI 築地百景-αより)18.0×25.5cm、2019年、木版、ed.9

本展で唯一の「版画」作品を手掛ける作家、山本温(やまもとおん)。山下氏がこうした隠し球の面々と最初に接点を持つきっかけは、個展案内が描かれた1枚の「DM」によってもたらされることが多いようですが、山本温の場合もDMが決めてとなりました。「築地市場、浅草、三ノ輪、勝どき、有楽町、池袋、佃・・・平成時代の新版画を目指しています」というキャッチフレーズに心惹かれた山下氏がギャラリーに出かけたことで「隠し球」としての取材が決定。

彼女の作風でもっとも心惹かれるのは、馴染みある日常風景を淡い色感でとらえ、どこか懐かしさが漂う叙情的な作品へと仕上げる独特の「目線」です。心なごむ平成の新版画、ぜひ実際の作品と心ゆくまで向き合ってみてください。

隠し球10.尾﨑慶子

尾﨑慶子「帰れない3」21.0×29.7cm、2019年、油彩・キャンバス

最後にぜひ見ておきたいのが、ある意味「隠し球」中の「隠し球」と言えそうな尾﨑慶子の作品。なんとこの人、美大出身者でもなんでもなく、普通の専業主婦だった人で、なんと40代になってから絵を習い始めたという超遅咲きの作家なのです。まさに純粋な作品本位で絵を向き合う山下氏でなけれ、この奇跡的な「スカウト」は絶対不可能だったでしょう。

尾﨑慶子の作品の魅力は、山下氏も講評する通り、淡い光に包まれた昭和レトロな女性像。和製フェルメールのような静謐さ、懐かしさに包まれた作品は非常に中毒性が高いです。試しにネットでいくつか「尾﨑慶子」と検索してみてください。絶対「生で見たい!」と強く感じると思います!

図録購入がオススメ!

取材時に、三越の担当者の方から展覧会の公式図録を見せていただいたのですが、非常に力の入った好編集でしたのでオススメです!出展作家16名全員の代表的な出品作品とともに、作品解説として山下裕二氏が月刊「美術の窓」で「今月の隠し球」としてその当時に作家を取り上げた各コラムが全文掲載されています。これが本当に面白い!

当時、山下氏がその作家と初めて出会った際のエピソードや、作品のファーストインプレッションなどが山下氏独特の絶妙かつカジュアルな筆致で臨場感たっぷりに描かれ、ぐいぐい読ませてくれるのです。「広島のギャル、渋谷のヤマンバを経て絵描きとなる」(近藤智美)「遅咲きの完全専業主婦、昭和レトロを描く」(尾﨑慶子)とか、強烈なインパクトのあるタイトルにも注目。思わず「どんな作家なんだろう?」とぐいぐい引き込まれていきます。実際、このコラムで「セーラー服と三白眼」とタイトルを付けて紹介された星野有紀さんは、その後しばらく「三白眼の絵の人」と呼ばれるようになったのだとか。

一連のコラムを熟読すると非常によくわかるのが、山下氏の確かな作品に対する「選球眼」です。既存の権威や流行に乗った安易な企画に流されることなく、既存の権威やしがらみに縛られることなく、良いと思った作品を見逃さない鋭い目線はさすがの一言。毎日大量の作品を見歩く中、ほぼ偶然とも思えるような作品との一期一会の中で、ピタリと将来性を持つ作家を探るという、山下氏の「美術漬け」の日常が楽しく読めるコラムは絶品でした。

また、山下氏に見いだされた作家がその後どうなったのかを作家自らのコメントで読めるのも面白いです。寡黙過ぎる前原冬樹氏のたった1行のコメント(図録を買ってのお楽しみ!)

現代美術への入門編としても最適の展覧会。画像越しでは伝わらない作品の凄みを味わいたい!

唯一無二のオリジナリティを持つ作家、余人が到達できない凄まじい技量を持つ作家、既存の画壇や時代の流行の枠にとらわれない規格外の面白さがある作家、それぞれ非常にユニークな才能を持つ16人の何がそんなに凄いのか?!山下氏は彼らのどこに「才能」を見出したのか?

答えは、きっと展覧会場で作品と対峙した時にあなたの心の内に浮かび上がってくるはず。

ぜひ、会期中に足を運んで山下氏が選び抜いた16名の「隠し球」を存分に味わってみてくださいね。きっとワクワクするような新しい驚きが待っているはず。普段、現代美術をあまり見たことがない・・・という人にこそ、入門編としても非常にオススメの展覧会です。和樂Webでは全力で「山下裕二の隠し球」展を応援しています!

展覧会基本情報

展覧会名:「新人からカリスマ作家まで、渾身の16球 山下裕二の隠し球」
会場:日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊・アートスクエア
会期:2019年10月23日(水)~28日(月)※最終日は17時閉場
監修:山下裕二
協力:月刊「美術の窓」
公式サイト:https://www.mitsukoshi.mistore.jp/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0163.html

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。