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2019.05.09

超絶技巧が凄い!武士の誇り「印籠」を特集したサムライ・ダンディズム展【展覧会感想・解説・レポート】

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ここ1~2年、アニメ・ゲーム「刀剣乱舞」の大ヒットによって、日本各地で刀剣をテーマとした展覧会の開催が増えました。どの刀剣展も非常に客足が好調で、いわゆる「刀剣女子」と言われるファンが今の刀剣ブームを強力に支えているのは間違いありません。2018年秋に京都国立博物館で開催された「京のかたな」展での長蛇の入場列は、刀剣ブームの盛り上がりを象徴するような「事件」でもありました。

ここに来て、その刀剣ブームにも質的な「好ましい」変化が起き始めているように感じます。アニメとのタイアップを入り口として刀剣展へ通うようになった若い刀剣ファンが、学芸員ともマニアックな刀剣話で盛り上がることができるほど、本格的な刀剣ファンへと育ってきているのです。さらに、刀剣だけでなく「兜」「甲冑」といった武士の装身具や、戦国の歴史や武士たちの生き様などにも興味関心が広がっているようなのです。そんな中、「刀剣」の次に何があるのか知りたいファンにとってうってつけの、凄い展覧会が始まりました。

それが、東京富士美術館で現在開催中の「サムライ・ダンディズム展」です。本展では「薬入れ」として戦国時代頃に生まれ、平和な江戸時代になると、武士のファッション・嗜みとして愛用された「印籠」を大特集。同館の企画展示室に会期を通して235個が集結しました。わずか数センチ四方の小箱に凝縮された武士の嗜み(=ダンディズム)をたっぷり感じられるとともに、江戸時代の名工達が技術力でしのぎを削った「漆芸」における超絶技巧の世界をたっぷりと味わえる屈指の良展示となりました。

早速、その魅力や展示内容を紹介していきたいと思います。

ところで印籠ってなんなの?


扇五節句蒔絵印籠 梶川 江戸時代 19世紀 東京富士美術館蔵

ある程度の年代の方なら、美術ファンでなくても、恐らく殆どの人が時代劇ドラマ「水戸黄門」で「この印籠が目に入らぬか~」と光圀公が悪者に印籠を見せつけるシーンを強烈に覚えていることでしょう。実は僕もいい年した大人になってからも「あぁ、印籠って運転免許証みたいなものだよね。サムライにとっての身分証明書みたいなものなのかな。」と大いに勘違いしておりました。でも、あれはテレビ番組の完全なるフィクション。印籠の本来の用途とはまったく違っているのです(笑)

では、武士たちは、一体何のために印籠を肌身離さず身に着けていたのでしょうか?実は、印籠は、16世紀後半になって普及し始めた当初は「薬」を入れる携帯用薬入れとして日常的に実用されていました


萩蒔絵印籠 江戸時代 18-19世紀 個人蔵

本展でも、まさに江戸時代当時に飲用されていた丸薬とセットで展示されている印籠を観ることができます。写真のように、薬を入れる部屋が4~5個に分かれ、それぞれの部屋がぴったり閉まるように、両サイドに開けられた穴に数ミリ程度の「印籠紐」が通るのが一般的な印籠の構造です。


富士蒔絵印籠 江戸時代  18世紀 東京富士美術館蔵

しかし江戸時代も中期以降になり戦乱のない平和な世の中になると、印籠は本来の役割を失っていきます。平和な世の中になって使われる機会がほとんどなくなってしまった刀や刀装具と同じく、武士の美意識やこだわりを表す重要なファッションアイテムへと変化していきました。

その結果、驚くほど多種多様な印籠が出現。こだわりの強い職人気質の名工たちによって、オーダーメイドで気の遠くなるような時間をかけて作り込まれた超絶技巧アイテムから、趣向をこらした変わり種まで、あらゆる技法や素材を組み合わせて名品・珍品が生み出されていきました。また、幕府や各藩での御用蒔絵師など、全国各地で名工が活躍する一方で、名品を片っ端からコレクションする熱心な数寄者もいたそうです。

本展では、様々な印籠が地域別、名工別、時代別など、多様な切り口で分類整理されて紹介されています。とにかくどれも目移りするほど美しくて面白いのですが、以下、特にみどころと感じた作品を紹介していきます!

スター印籠職人の高級品がずらり!

江戸時代には、武士の礼装として欠かせない存在となった印籠。本展では、江戸~明治時代におけるスター職人たちが手がけた、美術工芸品として鑑賞に耐えうる高級品がズラリ。約400年の印籠の歴史の中で著名な名工や工房は、ほぼ全て網羅されています。そこで、まずは、特に見逃せない「職人別」「工房別」にいくつか作品を紹介していきたいと思います。

見逃せない職人1:独創性と技術力では随一! 柴田是真

独創性や技術力の高さで、幕末~明治にかけて国際的な人気を博した柴田是真(しばたぜしん)。数々の漆塗りの技法を発明・再発見し、各種生活調度品や刀装具、櫛、印籠、漆絵での絵画制作など、あらゆる分野で一流品を制作し続けた天才肌のマルチクリエイターです。1890年には帝室技芸員にも任命されました。


百華香籠蒔絵印籠 柴田是真 江戸時代 19世紀 弘化4年(1847)個人蔵

他の蒔絵師たちが金銀による派手な装飾に走りがちな中、柴田是真の制作した印籠は余白をしっかり活かし、デザインとしての独創性や華美さを抑えた風流な美しさを追求した作品が多いように感じました。

見逃せない職人2:江戸時代に活躍した幕府御用蒔絵師

江戸時代、優秀な蒔絵師は絵画における狩野派のように、幕府に仕え、蒔絵を専門とする幕府御用達の「御用蒔絵師」として取り立てられました。御用蒔絵師は、江戸城本丸に設けられた御細工所で幕府や将軍家のオーダーに応じて武具や調度品を中心にあらゆる蒔絵作品を手がけました。

もちろん御用蒔絵師は印籠も作ります。梶川派・古満派・幸阿弥派・山田派といった複数のブランドが、伝統的な徒弟制度の下、工房全体でブランド力を維持し、幕末まで高いクオリティの作品を作り続けました。(このあたりの名前は覚えておくと、硯箱や香合、机など他の漆工芸作品を鑑賞するときにも役に立ちます)


菊壽蒔絵印籠 梶川常巌 江戸時代 17-18世紀 個人蔵/現在でも複数の作品が現存する他、綱吉の同時代に記された様々な歴史資料に「菊壽の蒔絵したる御印籠をたまふ」と記述が残っています。当時の武士にとって、将軍から印籠を拝領することは最高に栄誉なことだったのでしょうね。

犬公方として有名な5代将軍、徳川綱吉。この人は何か一つの趣味を見つけるととことんハマる人なのか、綱吉は印籠を集めることにも熱心だったとされます。綱吉は、自らの印籠好きだけにとどまらず、家臣達への褒賞にも自ら監修した印籠を下賜していました。その綱吉が家臣に下賜した印籠を制作したのが、梶川派初代となる梶川常巌(かじかわじょうがん)。元々は大坂の蒔絵職人でしたが、その評判を買われ幕府に登用されて江戸へ移りました。梶川派の作品には、職人の名前ではなく単に「梶川」と銘が入れられることも多いのですが、組織的な分業体制で一定の品質をキープしつつ、工房全体を一つのブランドとして維持しようとしていたのですね。


格子投桐蒔絵印籠 幸阿弥長孝 江戸時代 18世紀 高円宮家蔵

つづいて、室町時代から江戸末期まで19代にわたって御用蒔絵師を務めてきた幸阿弥派の作品。初代幸阿弥道長(こうあみみちなが)が、足利8代将軍義政から同朋衆として「幸阿弥」という名前を下賜されてから、足利・徳川両幕府において御用蒔絵師として最高の地位を守ってきました。幸阿弥派で一番目を引いた作品は、江戸後期に活躍した15代・幸阿弥長孝が制作した、スタイリッシュな現代風デザインの印籠です。

漆工芸で採用される山水や花鳥といったデザインは、美しくはありますが現代に生きる我々の実生活の中で取り入れるとなると、やや気合が必要かもしれません。しかし、中には大きく時代を先取りしたかのような、現代でも通じるようなモダンでスタイリッシュなセンスを持った現代風のデザインで制作された印籠もあるのですね。

優れた御用蒔絵師はまだまだいます。徳川家光に見出され、初代・古満休意(こまきゅうい)が御用蒔絵師に就任して以来、江戸末期まで優美な作風で活躍した古満派の作品も見逃せません。古満派の末裔では帝室技芸員に就任した明治時代のスター蒔絵師・柴田是真を輩出しています。


月秋草鹿蒔絵印籠 古満寛哉(2代)江戸時代 19世紀 個人蔵

最後に紹介するのは、幕府の「御印籠師」として、印籠だけを専門とした印籠蒔絵師・山田常嘉(やまだじょうか)です。やはり古満、梶川同様に、江戸初期に徳川将軍家が京都から召出しました。以後、8代にわたって将軍家の印籠・刀装具を専門に幕末まで徳川家に勤めました。


日本地図蒔絵印籠 山田常嘉(4代)江戸時代 18-19世紀 個人蔵

山田常嘉の作品で面白かったのは、日本地図をデザインに取り入れた「遊び心」のある印籠です。お土産用のキーホルダーみたいなデザインからは、実用性を失った印籠が、ファッションだけでなく「贈答用」「観賞用」といった用途でも重宝されていたことを強く想起させました。

見逃せない職人3:幕府御用蒔絵師以上の待遇?! 蜂須賀家の御用蒔絵師、飯塚桃葉

幕府だけでなく、大名家に召し抱えられた蒔絵職人もいました。その代表格が、阿波徳島藩主・蜂須賀重喜に召し抱えられた飯塚桃葉(いいづかとうよう)です。飯塚桃葉は、幕府御用蒔絵師の筆頭格である幸阿弥家をも上回る、15人扶持という破格の待遇で蜂須賀家に迎え入れられました。江戸檜物町の藩邸に住み、あらゆる蒔絵技法を得意とした、凄腕蒔絵職人です。


群蝶蒔絵印籠 飯塚桃葉(初代)江戸時代 18世紀 清水三年坂美術館蔵/本展でも清水三年坂美術館所蔵の作品が多数出品。同館より出品された作品は、幕末・明治の優品揃いです。

見逃せない職人4:琳派系のデザインが得意! コラボの達人・原羊遊斎

特に「琳派」の作風に近く、印籠をはじめ様々な漆工芸作品において、尾形光琳風のデザインを好んで採用した人気蒔絵師が、原 羊遊斎(はらようゆうさい)です。印籠以外にも茶道具や女性用の櫛など、幅広く漆芸の世界で活躍した江戸中期の蒔絵師です。

特に、大名茶人・松平不昧(まつだいらふまい)のアイデアや江戸琳派の創始者・酒井抱一(さかいほういつ)の下絵を元に制作したコラボ作品が多数残されています。本展で注目したいのが、酒井抱一が「下絵」ではなく直接印籠本体へ絵付けを担当したこの印籠。酒井抱一と原羊遊斎の芸術家同士の篤い交流があったことを感じさせるとともに、非常に希少価値の高い作品です。


月梅蒔絵印籠 酒井抱一絵 原羊遊斎 江戸時代 19世紀 個人蔵

その他にも沢山の名人達の作品が陳列されています。どの職人が自分の感性とぴったり合うのか探しながら観ていくのも面白いですね。

変わり印籠も多数! 江戸工芸の全てが詰まった印籠

印籠づくりには、日本伝統の漆工の技が全て凝縮されていると言っても過言ではありません。平蒔絵、高蒔絵、研出蒔絵、沈金、螺鈿、etc・・・。また、印籠本体に使用された素材も、紙を漆で固めた基本的なものから、木製、竹製、象牙製、金属製など、多数のバリエーションが生み出され、素材に応じた加工技術が惜しみなく使われました。

江戸時代に大発展した印籠には、江戸時代に存在したほぼ全ての工芸分野で蓄積された技術やノウハウ、アイデアが応用されました。まさに「超絶技巧のデパート」となっていたのです。ですから、江戸時代は非常に多くの発想豊かな「変わり種」の印籠が制作されました。いくつか紹介していきましょう。

まず、非常に目を引いたのが、蒔絵と一緒に青貝のカラフルな「螺鈿」を併用した富山県の名産、杣田細工(そまたざいく)の技術を応用して制作された印籠です。杣田細工は、17世紀後半に富山藩主・前田正甫が青貝師の杣田清輔(そまだせいすけ)を京都から招き入れ,藩の青貝師として登用したことから、富山藩の名産品として江戸時代を通じて発展していきました。特に明治維新後にその細密な技巧と華美な装飾がヨーロッパ人に受けて、多数の高級品が海外へ輸出されています。


林和靖螺鈿印籠 杣田光之 江戸時代 19世紀 文久2年(1862)個人蔵

また、他の工芸品と違って、和紙だけでなく木製や象牙製、鉄製など、様々な素材を使って制作されたのも、印籠ならではの特徴。今となっては動物愛護の観点から制作されることはほとんどなくなりましたが、像などの動物の牙を使って彫り込まれた「牙彫」で制作された変わり印籠は、彫師の鬼気迫る技巧ぶりを感じることができます。


秋草猪彫印籠 江戸時代 18-19世紀 東京富士美術館蔵

また、「彫漆」技術を駆使して制作された印籠もあります。木や和紙で固めた下地の表面に何十回と紅漆を塗り重ねて分厚い層を作ってから、レリーフのような様々な文様を掘り出すことデザインした「堆朱」(ついしゅ)という技術で作られた印籠。非常に手がかかっています。


雲龍堆朱印籠 江戸時代 18-19世紀 東京富士美術館蔵

そして、最後に紹介するのは、外見こそ「印籠」の形をしていますが、中身はまったく別物という一品を。なんと本作は、印籠の形をした懐中時計なのです。時計師の独創性と遊び心が発揮された、まさに江戸職人のものづくりへの飽くなきこだわりが爆発した一品。


鼈甲蒔絵枠時打印籠時計 江戸時代 19世紀 セイコーミュージアム蔵 ※前期展示(~5月12日)

もうここまで来たら、印籠でもなんでもなくて、印籠の形だけ借りた別のものになっています(笑)西洋から学んだ機械式時計(=からくり)の知識を応用して制作された、凄いやりすぎ超絶技巧作品です。

印籠界の曜変天目?! 世界に4つしかない「雪華文」の印籠

2019年春は、世界に3つしかない「曜変天目」茶碗が各地の美術展で同時公開されて非常に話題になっていますが、印籠の世界でも非常に美しく、かつ希少価値の高い作品が存在します。それが、原 羊遊斎が研出蒔絵と平蒔絵で雪の結晶のデザインを彫り込んだ「雪華文」の印籠です。

雪華文印籠は、古河藩主・土井利位(どいとしつら)が顕微鏡観察によってスケッチした雪の結晶をまとめた書物「雪華図説」に掲載された図像を参考に原 羊遊斎が制作し、土井家の贈答品として活用されたといいます。現在、世界中に現存する雪華文印籠は、曜変天目同様わずかに4点。その4点のうち、国内に現存する3点全展が、本展の期間中(前期)に集結しているのです。これは見逃せませんね。


雪華文蒔絵印籠 原羊遊斎 江戸時代 19世紀 永青文庫蔵 ※前期展示(~5月12日)

単眼鏡の貸し出しサービスを使おう!

美術館で印籠のような細密工芸を見るなら、本当は手にとって至近距離で観察したいですよね。でも、それは流石にできません。ですから、展示品の詳細までじっくりと楽しむなら、単眼鏡やルーペ、双眼鏡といった鑑賞の助けになる道具が欠かせません。特に最近流行している「美術鑑賞」専用の単眼鏡が手軽でオススメではありますが、手に入れるにはそれなりの出費がかかりますので、購入するのはちょっと・・・という方もいらっしゃるかもしれません。

そんな方にもおすすめしたいのが、本展におけるビクセン社のアートスコープ(単眼鏡)の貸し出しサービスです。売店レジで申し出ることによって、毎日先着30名まで、ビクセンの4倍モデルを無料で借りることができます。4倍モデルならピント合わせもやりやすいですし、遠くからだとなかなかわからないような、印籠表面で駆使されている蒔絵の各種技法までバッチリ見て取ることができます。

また、展示室内の数箇所では、ビクセンの「6倍」ハイエンドモデルも設置されています。これも助かりますよね。ピント合わせは少しコツが要りますが、凄い威力なのでぜひ時間があればこちらを現地で試してみてくださいね。

常設展示も見どころ抜群

また、東京富士美術館では、同館のコレクションを楽しめる常設展示も非常に充実しています。サムライ・ダンディズム展と合わせて楽しんでみてくださいね。

西洋美術コレクション

東京富士美術館といえば、充実した西洋美術コレクションの常設展示がトレードマーク。しかもこちらは著作権が切れている作品は、自由に写真撮影が可能なのも嬉しいところです。今回も楽しみにしていたのですが、なんだかいつもと少し展示構成が違っているようです。学芸員さんに聞いてみたら、実は中国で東京富士美術館展が開催されているため、主要な油彩作品は中国に貸出中とのこと。しかし、その分普段は常設展示で滅多にお目見えしないレア作品が掛かっているので、これはこれで非常に見ごたえがありました。普段行きつけている人ほどおすすめです。

新館常設特別企画「マン・レイ・ワールド」

面白かったのが、西洋美術コレクションに続いて新館常設特別企画として特集されている「マン・レイ・ワールド」。マン・レイといえば、パリ・ニューヨークでダダイスム、シュルレアリスムなど現代アートのメインストリームで活躍した現代美術の巨匠ですが、本展では東京富士美術館が所蔵する写真、絵画、オブジェ、映像など様々な「意外性あふれる」作品全78点を紹介。マン・レイといえば、同時代の文化人を写した肖像写真やレイヨグラフ、ソラリゼーションといった写真技法で世界的に有名になりましたが、東京富士美術館の所蔵品はマン・レイの意外な一面を見せてくれる展示が特徴です。

カフェもオススメ!


印籠を観て、西洋美術を観て、さらにマン・レイの意外な作品群も楽しめば、きっとそろそろ心地よい疲れが溜まってきているはず。そこで、帰宅する前にぜひ足を留めたいのが、美術館玄関を入ってすぐ右手に見えるカフェ・レストラン「セーヌ」です。こちらは、カフェメニューはもちろん、ちょっとしたランチ程度の食事も楽しめる本格的なカフェ・レストランなのです。

今回は、春限定のデザートプレートをいただきましたが本当に美味しかったです。季節限定メニューなども用意されているので、ぜひ立ち寄ってみて下さいね。

印籠展としては過去最高規模の235点が出品! 江戸文化の奥深さを感じられる好展示です!

印籠は、将軍家から貧乏侍まで、あらゆる階層の「武士」が礼装として身につけた江戸時代を代表する男性のファッションアイテムでした。しかし、ライフスタイルの変化によって日本人の身の回りから印籠が姿を消して以来、日本ではファッションアイテムとしてはもちろん、美術工芸品として「印籠」を楽しむ習慣は薄れていきました。その一方で、印籠は浮世絵などと同じく海外のコレクターに大人気で、オークションで値が張る高級品を中心に、未だに海外流出が止まらないのだそうです。

国内では10数年ぶりとなったサムライ・ダンディズム展では、美術品としての鑑賞に耐えうる印籠の一級品が、過去最高規模の235点揃いました。超絶技巧なのはもはや当たり前。わずか数センチ四方の箱の中に職人が美意識とこだわりを凝縮させた印籠の面白さを、思う存分楽しんでみてくださいね。

西洋美術の名品やマン・レイ特集と合わせると、少なくとも半日はたっぷり腰を据えて楽しめる美術館です。ぜひ期間中に足を運んでみてはいかがでしょうか?

展覧会情報

展覧会名「サムライ・ダンディズム」
会場 東京富士美術館
会期 2019年4月2日(火)~6月30日(日)※会期中展示替あり
公式サイト

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。