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2019.11.11

雨の日でも楽しめる!熊本城を眺めながらお買い物「picnic」は熊本観光におすすめ

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熊本城のすぐ近くに、不思議な白い時計台がある。丁度宿泊していたホテルの隣にあった建物で、ホテルの窓からは真正面に熊本城が見えた。城は23時までライトアップされており、周りに工事途中のクレーンや足場などが一緒に見えた。平成28(2016)年4月に発生した熊本地震により、石垣の崩落、長塀の倒壊、瓦の落下などの大きな被害を受け、以降復旧作業を進めている。令和19(2037)年に城全体の復旧完了を予定しており、2019年10月現在では大天守の外観の修復が終了し、日曜・祝日のみ見学ができる状態となった。

震災があらゆる出来事のきっかけとなる。

時計台の一階には「ポアンカレ書店」という不定期で営業している古書店が入り、二階では「picnic(ピクニック)」という飲食店が営業している。この店のオーナーで、「薫さん」の愛称で親しまれる山口薫さんに、この場所やお店についてなどお話を伺った。

お話を伺った「picnic」のオーナー、山口薫さん。「BOW」のシャツを着てカウンターに立つ

ピクニックをはじめる

店が入っているこの建物は、昭和47(1972)年12月に建てられ、当時はガソリンスタンドだった。もともと「ポアンカレ書店」は、熊本出身で建築家、作家である坂口恭平さんが東日本大震災の後、東京から熊本に戻り活動場所としていた「ゼロセンター」内に作ったツリーハウスの書店だった。店主は、当時も今も選書が面白い牛島漁さん。「ゼロセンター」を手放すことになった彼らがこの時計台を見つけて持ち主を探して会いに行き、貸してもらえるようにお願いをして今に至る。
「ポアンカレ書店」がこの建物にオープンした当初、薫さんは友人でもある坂口さんから「二階で飲食やってみたら?」と提案される。

薫:その時、頭の中でその映像がパァーッと浮かんで、店をやってみたいな、と思い始めました。その後、熊本地震があって。「ポアンカレ書店」の様子を見に立ち寄り、店主の牛島くんに「お店大丈夫だった?」と尋ね、二階でお店をしたいことも伝えました。「いいね!」となって、この建物の持ち主の方に二人でお願いに行き、二階を別店舗として貸してもらえることになりました。が、運転資金はなかったのです。笑

建物の内装には不安があった。そこで、「OPEN STUDIO」の高光太郎さんへ相談をする。

薫:地震がおこった年で、内装業者はもちろん忙しい。建物が鉄骨ブロック造だったので、鉄と言えば「OPEN STUDIO」の太郎君と思い浮かびました。「私ここでお店したいんだよね」と、とりあえず電話で相談してみたら、すごく応援してくれて心強かった。資金もどーしようかなと不安だらけでしたが、お金はないけど、カウンターだけは彼に作ってもらおうと決めてました。

「OPEN STUDIO」の太郎さんが作成した解体できるカウンター

次何があるかわからない故、とにかく完成させないお店、場所にしたいと思い、全て解体できるカウンターにしたいと太郎さんに伝える。上の天板は自分たちでのせるだけでよく、足もジョイントを外せば簡単に解体できるカウンターが、この空間の中で一番初めに設置された。

薫:太郎君にお願いをしたカウンターのフレームが出来上がった時、「あー、いいな、美しいな」って、もう完成したような気持ちになりました。いや実際には出来てないけど!笑
とても丁寧で素敵なフレームのおかげで、店内のイメージが決まっていきました。

「picnic」開業前にアルバイトをしていた熊本のソウルフード「ちょぼ焼き」を提供する「松本家」に、たまたま土建業の知り合いが二人来店した。「松本家」のオーナーが、薫さんが店を出したいのだとあらかじめ話してくれていた。

友人二人が酒を飲みながら作り上げた、創意工夫された棚には酒が並ぶ

薫:二人とも、面白そうね!と、快く内装をやってくれることになって。本職が終わった後に、放課後の部活感覚で作業してくれて、大変ありがたかった。友人たちもみんな酒を呑みながら、楽しんでペンキ塗りやらしてくれて。皆に感謝しかない。

薫:床に穴が空いたら、鉄板をあてる。これが増えていったら何か分からなくなるけど、かっこいい。だんだんとできていく方がいい。みんな自由に楽しみながら作ってくれて、自分からもイメージは出すけど、それ以上のものが出来たがっていたりして面白い。

店のロゴの意味

お店のロゴは、熊本出身のイラストレーターYoneこと、米村知倫(よねむらとしのり)さんによるもの。

薫:長い付き合いのヨネ君から聞いたこのロゴの意味が「雨や風の時、うれしい時疲れている時、雨宿りや休憩させてくれる日陰をつくってくれる存在が薫さんで、そこでpicnicするイメージです」とメールが来て、その時涙がでました。

カウンターの上の器

カウンターの上には器がずらり。これらの器に、かおるさん手作りの食事やおやつが盛られる。

薫:全て熊本の作家さんの作品で、大半が天草の「森山陶器」さんのもの。カウンターに座られると、キッチン内の作業が丸見えで、緊張しちゃう。器を積み重ねてたら、なんとなく距離がうまれるでしょ。気持ちが大事。素敵でしょ。

カウンターの上に吊るすヤマメ

雑多な店内でも一際目立つ存在であるヤマメの張り子。どこか飄々とした表情が憎めない。岐阜県飛騨市の平野明さんの作品。

薫:10年以上前かな、今はもうないけど、当時熊本に「Gallery Koen(ギャラリーコーエン)」という店があって、そこで購入しました。ぷっくりしてかわいいけど、最近ネットで調べたらヤマメらしい形に変わってた! 私は自分のが一番好き。家にずっと置いていたけど、ここが合うなと思って吊るしています。

出来ることをシンプルにやろう

この店で最初に決めたことは、店の冷蔵庫におさまることだけをしよう、ということだった。

薫:メニューは無駄なこと、出来ないことはやらないで、出来ることをシンプルにやろう、と。いろんな料理ができるというわけではないので、自分の中でこれなら大丈夫だ、というものを確実にだそうと。食材も無駄にせず使って、身の丈以上はやらない。季節を感じるもの、自分が食べたいと思った料理を提供して、なくなりそうになったら次を作ります。

手書きのメニューは都度更新されてゆく

料理の完成より、作る過程の方が好きだという。インスタグラムに綴る日々の画は、完成した料理ではなく、作っている途中のものが多い。

薫:日々をこなすうちに、切る、鍋の中の様子、湯気、におい、その過程がたまらなくなってきて、楽しくてすごく集中するんです。自分にとって曼荼羅みたいなもんだなと。料理自体は普通なんですけど、それをお客様がおいしいと言ってくれると、こっぱずかしいですけど、とっても嬉しいです。

「picnic」定番メニュー3品をご紹介

おにぎりと漬物

有明海苔を使用したおにぎりと、自家製の梅干し・野菜の漬物は、「picnic」といえばの定番メニュー。実家の食卓を思い出すような、ほっとする味わい。

南蛮豆

「南蛮豆」は、大豆と牛肉のトマト煮で、ご飯にもお酒にも合う。いい牛肉が手に入るとのことで、黒毛和牛が使用されている。

手作りケーキ

かおるさん手作りのケーキは、チーズケーキや季節の果物を使用したものなど日により様々。この日はバーボンショコラケーキ。焼きたてにバーボンをじゃぶじゃぶと浸し、一晩寝かせている。天草で作陶するZOZOGAMAの赤い器に、濃い茶色が映える。温かいチャイと一緒に。

景色、風、空を感じるお店

料理の過程が好きだったり、この店の中にあるものの感覚、音楽や味覚が同じお客さんが集まってくる。

薫:好きなもので溢れかえって散らかっているけど、適当に、気楽でいられる店。窓からとテラスからの景色、風、空、とても気持ちよく毎日過ごしています。是非、来られる方には感じてみて欲しいです。ピクニックの醍醐味です。

お客さんから「保健室」と言われているこの店の最大の魅力は、薫さんとのおしゃべりの時間。「久しぶりね!」と、お客さんの顔も覚えている。

今日も熊本城の修復と一緒に、「picnic」も店と料理を作っている。
白い時計台の2階へ上ってみてください。

picnic 店舗情報

営業時間:14:00~23:00(木曜定休)
住所: 〒860-0846 熊本県熊本市中央区城東町5-18 2F
インスタグラム:
https://www.instagram.com/chaos.picnic/

撮影/田中慎一朗

書いた人

商品の企画やらデザインやら相談やらを受けている他、おもいでのはとばコレクションを運営している。そんな経歴上、絵を描くことが得意と見られがちだが、新聞記者の最終面接で敗戦した過去を引きずる。人、場所、ものに興味があって、繋げることを企てる。 http://omoide-no-hatoba.com