Culture
2019.12.11

神保町でランチするなら、学士会館でクラークカレーを!美しい建築の魅力や歴史も紹介

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新陳代謝の早い東京の街にあって、そこだけ時間の流れがゆっくりと感じる建物があります。神保町駅からほど近い、神田錦町の「学士会館」。黄土色のスクラッチタイルを全面にまとった建物は、重厚かつ端正な洋館建築。「学士会館」の名称と、中折れ帽に背広の紳士が出入りする光景に尻込みするかもしれないけれど、大丈夫。宴会場やホテル、そしてレストランは一般客も使うことができるのです。

アーチ型の入り口の横に、平成15年(2003年)に復元された大灯籠がある

学士会館とは?

そもそも「学士会館」とはなんなのか。旧帝国大学(現在の国立7大学-北海道大・東北大・東京大・名古屋大・京都大・大阪大・九州大)出身者の親睦と知識交流を目的とした同窓会「学士会」のための建物。日本も戦前期までは大学卒業者が少なかったことから、大正6年には「学士様なら娘をやろか」(奥野他見男著)という小説が流行していたのだとか。(のちに映画化までされています)現代と比べて学士の威厳がかなり高かったのですね。かつては会員のための施設でしたが、現在は一部を除き、一般利用が可能となっています。

(左)談話室、(右)赤絨毯の廊下

学士会館は関東大震災後の昭和3年(1928年)に震災復興建築として建設。当時としては珍しい4階建て鉄骨鉄筋コンクリート造は、日本の耐震工学を確立した佐野利器(さの・としかた)が構造設計、弟子の高橋貞太郎(たかはし・ていたろう)がデザインを手掛けています。高橋貞太郎の設計した建物は高島屋東京店や前田公爵邸(元東京都近代文学博物館)など今もいくつか残っています。完成の9年後の昭和12年(1937年)には、丸の内ビルヂング(現存せず)など数々のオフィスビルを設計した藤村朗の設計により、建物後方に新館を増築。旧館のデザインを踏襲しながらも、新館がどこか軽やかな印象なのは、当時の日本の建築文化がたった9年ながら急速に進歩していたことがうかがえます。学士会館は平成15年(2003年)には国の登録有形文化財に指定されています。

(左)玄関ホール天井飾り、(右)新館階段踊り場のステンドグラス

昭和11年(1936年)の2・26事件では東京警備隊の司令部が置かれ、戦時中は屋上に高射機関銃陣地を設置。金属回収令では玄関の灯篭は供出されましたが、創業から使っていた金のカトラリーはなんとか供出をまぬがれたのだとか。終戦後はGHQに接収され、高級将校の宿舎や倶楽部に。接収されていた間も、もともとの従業員が働き続け、クリスマスには将校らが感謝のダンスパーティーを開いて従業員をねぎらったというエピソードもあります。長い歴史を耐え抜いた建物は、東日本大震災でもほぼ無傷でした。

メインエントランス扉の押・引のレトロな書体

建物の見どころ

階ごとに違う形の窓が規則正しく並んでいるのがこの建物のチャーミングなところ。最上階の小さな半円形の窓台は、さながらシンプルな服にとめたブローチのように建物に可憐な華を添えています。知を表すオリーブの木の紋章があしらわれたアーチ型の入り口から階段を上がり、真鍮製のドアノブに手を掛ければ、そこからは昭和初期のゆったりした時の流れに。ドアノブ上の「押・引」のクラシカルな書体はお見逃しなきよう!レリーフが施された白い天井、凝ったデザインの照明、優雅な階段の手摺、敷き詰められた赤絨毯。格調高い雰囲気はさすがです。

201号室の奥にはオーケストラ用バルコニーが設けられている

1階は和洋中のレストランとカフェ、2・3階は結婚式や会議などにも使える大小の宴会場、4階にはホテルの客室があります。宴会場やホテル、そしてレストランは学士会の会員でない一般客でも利用可能。1階には「談話室」なる一角があり、こちらも一般客にオープンされています。あくまでも「談話」ですから、低い声のトーンで落ち着いてゆっくりと話し合っているのが似合うのでしょうね。2階の宴会場は利用者しか入れません。201号室は創業当初のインテリアがほぼそのまま残る優雅な空間。某ドラマの有名な土下座シーンはここで撮影されたのだとか。どこを切り取っても絵になる建物内では、ファッション雑誌などの撮影がしばしば行われています。4階の会員倶楽部室や5階の読書室は会員以外は使用できません。

THE SEVEN’S HOUSEのクラークカレー(1,280円 税込)

クラーク博士ご推奨のランチを

旧館入り口横のカフェ「THE SEVEN’S HOUSE」のランチではクラークカレー(1,280円 税込)がおすすめ。これは北海道大学内のレストランで提供しているクラークカレーを学士会館風にアレンジしたもの。北海道大学に赴任したクラーク博士が帰国の際に「Boys be ambitious(少年よ、大志を抱け)」と言ったことは有名ですが、そのクラーク博士が栄養失調気味の生徒に栄養バランスの良い食事を推奨していたのはあまり知られていないエピソード。米飯に偏っているのが良くないと思われ、毎食をパンの洋食とするよう推奨した一方で、寮則では「生徒ハ米飯ヲ食ベルベカラズ。但シ、ライスカレーハコノ限リニアラズ」とカレーのときだけは米飯を許されていたのだとか。現在のクラークカレーはじゃがいもやズッキーニなど数種類の野菜と牛肉が添えられた豪華なものなので、当時のカレーの様子とはかなり違うと推測されるけれど、「現代にクラーク博士がいたらこのようなカレーを考案したのでは」と北海道大学のレストランでは説明しています。

「THE SEVEN’S HOUSE」のクラシックな空間で、銅像の渋ダンディなクラーク博士と会食する妄想をしながら、贅沢なカレーを堪能して取材を終えたのでした。おいしい建築、ごちそうさま。

◆学士会館
東京都千代田区神田錦町3-28
https://www.gakushikaikan.co.jp/

◆THE SEVEN’S HOUSE
9:30~22:00(L.O.21:00)
https://www.gakushikaikan.co.jp/restaurant/sevenshouse/