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2019.12.19

チロルチョコ誕生のきっかけは?愛され続ける定番お菓子の歴史と秘密

この記事を書いた人

日本人なら誰しもが一度は食べたことがあるであろう定番お菓子のひとつ、チロルチョコ。
実は50年以上も前から販売されている超ロングセラー商品だってご存知でしたか?

現在も毎月のように新商品が登場し、子供から大人まで幅広いユーザーの心をつかみ続けているチョコレート。

このように長い間愛される秘密はどこにあるのでしょうか?

今回はその理由を探るべく、チロラー(チロルチョコファン)歴10年以上の私が、チロルチョコ株式会社の松尾利彦会長にお話を伺ってきました!

チロルチョコの誕生からロングセラーアイテムになるまでの軌跡

チロルチョコはどのようにして生まれ、そしてどのような軌跡を歩んで現在のような盤石な人気を保ち続けているのか。まずはそのチロルチョコの歴史を紐解いてみました!

チロルチョコ誕生のきっかけとは?


-チロルチョコ株式会社の前身である松尾製菓株式会社は、明治36(1903)年福岡にて創業。以降100年以上も続く老舗企業です。もともとは砂糖菓子を販売する会社として始まりましたが、昭和37(1962)年にチロルチョコの販売をスタートさせたのだそう。一体どのような経緯でチロルチョコは生まれたのでしょうか。

松尾:チロルチョコができた昭和30年代は、洋菓子の勃興期。戦後日本が次第に豊かになってきて、戦前ポピュラーではなかったチョコレートやアイスクリームといったお菓子の大衆化が広がった時代でした。

そういう背景を踏まえて、私の父である二代目社長が「これからは伝統的なお菓子ではなく、新しいお菓子に挑戦しよう」と思い立ち、チョコレート事業に乗り出したそうです。

-最初から「チロルチョコ」という名前でスタートしたのでしょうか?

松尾:当初は「松尾のチョコ」のような名前で売っていたらしいんですが、父がチョコレートならやはりハイカラな名前が良いんじゃないかと思ったそうです。

そこで、具体的な経緯は定かではありませんが、オーストリアにあるチロル州から名前を取ったと聞いています。チョコレートはヨーロッパから来たお菓子ですし、またチョコレートにはミルクを使用しますよね。美味しいミルクからできた本場のチョコレートを連想させるような、のどかで自然あふれる雄大なヨーロッパの風景をイメージしたのではないでしょうか。

3つ山タイプの復刻版チロルチョコ

-チロルチョコはもともと3つ山の長方形でしたが、今のような形になったのはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

松尾:当初は、3つ山のチョコレートを1個10円で売っていました。今のチロルチョコを3つ繋げたような形です。

けれども、物価上昇などで値上がりを余儀なくされ、一時1個30円まで上がりましたが、やはり初心に返ろうということで再び1個10円に戻すことにしたんです。

その際、3つ山を1つ山にしたことで、今の正方形になりました。

コンビニがきっかけで拡大したチロル人気

-今でこそ誰もが知る定番商品ですが、松尾会長が社長に就任した当時は、主に駄菓子屋さんでの販売に限られていたというチロルチョコ。その知名度が全国に広がったきっかけは、コンビニエンスストアへの進出だったそうです。

松尾:僕が社長になった約30年前は、ちょうどコンビニが出始めの頃だったんです。
それを見て、これからは駄菓子屋さんじゃなくてコンビニを中心に売っていこうと思いました。スーパーなどに比べると、「新しい時代の駄菓子屋さん」というイメージがあったので、これならいけるかなと。

けれども、やはり最初のうちは苦労しました。新参者で店に商品を置いてもらうのは大変でした。

特に1個10円の小さなチョコレートなんて、コンビニでもなかなか首を縦に振ってもらえません。でも僕は絶対売れると思っていたので、まずは売れるという実績を作らねば、と考えました。

その後ようやく北海道のセブンイレブン限定でテスト販売させてもらうことができたんです。そこで読み通り売れて、実績を残せたのがコンビニ進出の出発点ですね。そのあと色んな変遷はありましたが、結果的に全国に展開することができました。

チロルの種類は300以上!商品開発の秘密とは

-ここからは話題を変えて、現在のチロルチョコ事情を深堀り。
毎月いくつもの新商品が発売されており、今やその種類は300以上にも上っているとのこと。一体どのように商品開発をしているのでしょうか?

松尾:半分は社内で考えていますが、もう半分はエリアや小売りチェーンから具体的な味やテーマが指定されています。

このようなコラボの流れは、いちごみるくのキャンディで知られている「サクマ」さんがきっかけでした。

そのあと、セブンイレブンさんからもお話をいただいたんですが、当時そういったコラボするという前例がなかったんです。

だから、一社だけ贔屓しているように見えるので良くないと、当初社内の営業部などからは反対意見もありました。でも、「それなら今後他社からの要請はすべて平等に受けることにすればいい」という形で収まりました。

それ以降、少しずつ小売りと連携した限定商品が増えいき、今の商品開発に繋がっています。

四国限定のポンジュースチロルチョコ

小売業の方って仕事柄トレンドに敏感な部分もあるので、色んなお題を提案してくれる。我々としても、具体的に依頼してくれた方がアイディアを出しやすいですしね。

ちなみに最近ではチーズ系が多いです。例えば、バスチーがローソンでヒットしましたよね?だから、似たようなもの作ってほしいという依頼とか。

同じようなお題があると、どのように差別化するかというのが重要になってくるので、そこは知恵を絞らなきゃいけないところですね。

直撃!人気のチロルチョコTOP3とは!?


-その時々のトレンドや季節等に応じて、長年さまざまなチロルチョコが発売されてきましたが、その中でも特に人気のものはどの商品なのでしょうか?

松尾:コーヒーヌガー、ミルク、そしてきなこもちですね。

きなこもちはバラエティパックに入ってる一品でしたが、セブンイレブンのバイヤーさんから「これは面白いから単品売りしてみては?」というお話をいただいたんです。

そして、実際に単品で売ってみたら大ヒット。想定外の売れ行きで、3年くらいは欠品続きで小売店側からは叱られっぱなしでしたね。翌年倍の設備を用意してもその倍売れて、次の年にさらに倍の設備を整えてもまだ欠品で。

あと、最近発売された「生もちきなこ」も評判がいいですね。専用の機械を導入して作ったので、今までの「きなこもち」とは製法が全然違うんです。より“もち感”をリアルに再現できるようなプレミアムな「きなこもち」を目指していたので、かなりこだわりました。

-また、社内ではセブンイレブン限定で発売された、ロイズとコラボした生チョコも評判が良かったとのこと。「生もちきなこ」をはじめ、プレミアム路線のチロルチョコも最近よく見られますが、その発端はこの生チョコチロルだったそうです。

松尾:通常チョコレートはだいたい賞味期限が1年ですが、ロイズのブランドとコラボした生チョコレートは1か月。

当時そういうチョコレートを扱うという前例はありませんでした。もちろん、小売り側や問屋側も未体験。メーカーと卸、小売りの三社の息を上手く合わせないと流通させることが難しいものでしたが、結果的にすごく評判が良くて。

高級感という新しい側面でブランディングができたので、これが今のプレミアム路線に繋がっています。

プレミアムシリーズのルビーチョコ

長く愛される秘訣は「愛」と「変化」

東京都・千代田区にある本社1Fのチロルチョコショップ

-100年という長い歴史を刻みながら、常に新しいものにチャレンジし続けているチロルチョコ株式会社。そして、チロルチョコ自体も50年以上愛されるロングセラー商品です。これほどまで愛され続ける秘訣は「愛」だと松尾会長は語ります。

松尾:送り手が愛を持っていればかならずそれは伝わる。テレパシーみたいなものですよ。
これはモノでもサービスでも全てにおいて言えるんです。

例えば、僕が今愛用している「Tabio」の靴下。最初は何の先入観もなく足を通したんですが、その時不思議なことに作り手の愛を感じたんです。

抽象的だけれども、食べ物だっていくら素材が良くても調理人の愛がこもっていなければ、美味しくなかったり、嫌な気持ちになったりする。

サービスも心を込めたサービスと口だけのサービスって絶対わかるんです。商品にも社員にも、そしてお客様にも誠心誠意を尽くすことが何よりも大事です。

あと、続けるためには変化も必要。
その時代に合わせて事業やサービスをどう変えていくかということです。

例えどんなに愛情をこめてお菓子を作っても、そのお菓子が時代に合わなくなったら存続できません。弊社の場合は、初代が会社を立ち上げ、二代目がチョコレートに挑戦、そして三代目の私がコンビニに商品を置いて販売チャネルを拡大しました。

時代に応じてそういう変化ができたから、今日まで繋げてこれたと思っています。

東南アジアから始めるチロルチョコの新たな歴史

-そして今、ご子息である四代目社長も新たな挑戦を試みているといいます。それは東南アジアへの進出。今まで日本から海外に輸出は行っていましたが、今回はベトナムに同社初の海外拠点として工場を建設するそうです。

松尾:ベトナムでの工場建設の発端は人手不足。既存の工場では商品を作りたくても人手が足りなくて、潜在需要にこたえられないという問題があったんです。

でも国内で人手不足は解消できそうにない。
そこで海外に目を向け、白羽の矢を立てたのがベトナムでした。
東南アジアはこれからの成長も期待できますし、中でもベトナムは色々とメリットも多かったので、ここに工場を作ることを決めました。

当面は100%日本への輸出向けで考えていますが、ゆくゆくは東南アジアにチロルチョコを広める拠点になればいいと思ってます。

-ベトナムをはじめとした東南アジアでもチョコレートは人気なのでしょうか?

松尾:人気ですよ。ただ、今まで東南アジアの小売りは露店が多く、温度面でチョコレートは置けなかったんです。けれども、最近はコンビニが増え、冷房設備が完備された店舗が並ぶようになってきました。そういったインフラが整いつつあるので、チョコレートを売れる場が徐々に広がってきているんです。

そういう変化をきちんととらえて対応していくことが、ビジネスをやる上で大事なこと。

このプロジェクトは、20年30年かけて進めるものになるので、現社長である息子の代での“企業の変化”ということで成功できればと思っています。

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ゆるぎない愛情と確かな先見の目で、いつの時代も私たちに感動を届けてくれているチロルチョコ。
1粒の小さなチョコレートから広がる大きな可能性に、今後も期待が膨らみます。
松尾会長、ありがとうございました!

書いた人

広島出身。ライター&IT企業会社員&カジュアル着物愛好家。その他歌舞伎や浮世絵にも関心がアリ。大学卒業後、DTMで作曲をしながらふらふらした後、着物ムック本の編集、呉服屋の店長を経て、現在に至る。実は10年以上チロルチョコの包み紙を収集し続けるチロラーでもある。