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2020.02.21

お寺の「精進カレー」レシピを公開!合わせて知りたい禅の教えも解説

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禅の教えに基づく精進カレーといつものカレー、何が違うんだろう。

「お味噌汁には何も傷つけるものが入ってない。自分で作ると安らぎも一緒に食べることになる」というようなことを、料理研究家の土井善晴先生が言っていました。禅では「不殺生戒(生き物をむやみに殺してはならない)」「作って食べることも修行のうち」という考え方があるそうです。土井先生は料理の世界で悟りの境地に至ったのですね。

凡百の衆生としては、禅寺に教わったレシピで精進カレーを作って食べて、仏様の心に触れてみようと思います。

4月8日「はなまつり」はカレーの日?

2019年に「お寺で薬膳カレー教室」というイベントが行われました。場所は、愛知県名古屋市にある曹洞宗のお寺・正壽寺(しょうじゅじ)。

4月8日は、仏教の開祖であるお釈迦様の誕生日を祝うため、「はなまつり」というお祭りが行われます。正壽寺のはなまつりでは、お下がりのお菓子や甘茶が振る舞われます。「お釈迦様はインド出身。カレーもインド由来」ということから、正壽寺では精進カレーのふるまいも。日本中の仏教界では宗派を超えて「4月8日はカレーを食べよう」というムーブメントが起こっているそうです。

この取り組みを知った「いきかた研究所∞大人の食育塾 やわるしす」から、正壽寺に声がかかり「お寺の精進カレーを薬膳の視点からひも解く」をコンセプトに開催されたのが、前述の「お寺で薬膳カレー教室」。薬剤師・国際中医薬膳師の資格を持つ講師により、お寺のカレーが紹介されとても賑わったそうです。

薬膳とは中国発祥の食事療法。陰陽五行説をベースにしており、この考えはカレーとの親和性がバッチリ。カレーはさまざまな食材の「酸っぱい」「苦い」「甘い」「辛い」「塩辛い」の味の集合体。これは、陰陽五行のうち「五味」(酸・苦・甘・辛・鹹[かん=塩辛い])の原則とよくマッチするのです。スパイスの中には漢方薬として使われるものもあるし、丁寧に作ればいい香りも相まってセラピー効果も抜群。

作ってみると、あらおいしい!

正壽寺の早坂ひろかさんがレシピを教えてくれました。

【材料 4人分】
高野豆腐 25g
こんにゃく 100g
にんじん 250g
しめじや舞茸などきのこ数種 250g
セロリ 100g
トマトピューレ(カットトマト缶でも可) 500g
赤味噌 50g
塩 少々
生姜 50g
カレー粉 大さじ3(市販のカレールー可)
オリーブオイル 大さじ1
ローリエ 1枚
水 1リットル

【作り方】
1. 高野豆腐をぬるま湯で戻し、水けを切りブレンダーやミキサーでミンチ状にする。
2. こんにゃくを一口小に手でちぎる。
3. にんじん・きのこ・セロリを好みの大きさに切る。
4. フライパンにこんにゃくを入れ空炒りする。
5. 鍋でオリーブオイルを温め、1の高野豆腐を焦げないように炒め、2と3を加え炒める。
6. 火が通ったらトマトピューレと水、ローリエを入れて煮る。
7. 小鍋にカレー粉を入れ弱火で炒め、香りが立ったら味噌を入れ木べらで練る(分量外の水を入れると練りやすい)。
8. 6に7を入れ煮込む。
※市販カレールー使用の場合は、6の段階で大さじ2の赤味噌を溶き、ルーを入れる。

わが家でも作ってみました。ちなみにごはんはいつも玄米食で、今回は白米+もち麦です。

小麦粉不使用ゆえシャバシャバ系ながら、うまみたっぷりのスープにうっとり。普段は、玉ねぎを長時間炒めてあめ色にし、にんにくもしょうがもガッツリきかせるストロングスタイルが好みですが、やさしいやさしい精進カレーにやられてしまいました。動物性たんぱく質は入っていないのに、こんにゃくと高野豆腐ミンチが肉以上の存在感を示してくる!

ひろかさんにあれこれと聞いてみた

レシピを考えたのは、正壽寺のひろかさん。どんなきっかけで発案したのかを聞くと、

「修行道場では、命をいただく対象の食材に敬意を払い、食べ切る(使い切る)ことを大切にしていると学びました。私は寺の嫁で、修行をしたことがなかったため、実際にどのように行われているのか興味を持ちました。自分の家庭料理では余剰が出てしまうことが多かったからです。

ましてや、道場で大人数の食事の用意は、どれだけ注意をしても過不足が出るはず。急な来客や欠席者もあるはずですから。それについて、修行経験のある住職にたずねると『余った煮物をカレーにすることもあるんだよ』と教えられ衝撃を受けました。そこで、自分でも試しに作ってみたのがきっかけです。精進カレーという響きがおもしろく、味もいいため以後はなまつりで振る舞うようにしました」

ひろかさんが言うように、カレーは作るのも食べるのも楽しいですよね。余り食材を使い、食べきればこれも立派な修行のうち。

日々の営みの中で知る、禅の教え

禅と聞くと、坐禅をイメージする人が多そうです(お寺では第1月曜7~8時に「あさの坐禅会」を実施中。季節のお粥つきで大人気!)

坐禅も大切な修行ですが、「生きていてこそ坐禅が行える」というのが考え方の根底にあります。

「調理、食事、に限らず洗面・排泄・掃除・入浴・就寝など、生活する上で当たり前の行い、それら全てを仏の行いとして実践することが禅です」とひろかさん。つまり、行く、住まう、坐る、臥すつまり寝るという日常の行いすべてが自分の心次第で尊くなるというわけです。

ところで、教えていただいたレシピは肉不使用でした。肉食はいけないことなのでしょうか?

「食べるということは、命をつなぐことです。この私の命をつなぐために、生きとし生けるものたちの命をいただくのが食事です。動物には命があるけれど、植物には命はないのか? そんなことはないと思います。すべての食事をありがたくいただく、そしてつながせていただいた命をせいいっぱい生きることが大切です」と、力強い回答が。そして、次のように続けます。

「初期の仏教では農耕を禁じられていました。しかし、仏教が中国へ伝わった際、寺院の多くは山間部に建立され、人里離れた地域では布施に頼って修行を行うことが叶わなかったのです。そこで僧侶たちは農耕で命をつなぎ修行を行うことを選択しました。しかし、植物を育てて収穫することも殺生と捉えることができませんか? 己のために殺生することを禁じた仏の教えに背く苦渋の選択だったろうと想像します」

つまり、「菜食はよいが肉食は悪い」ではなく、私たちは常にさまざまなものに支えられて生きていることに感謝することが大事というわけですね。

取材協力=正壽寺
愛知県名古屋市西区則武新町1-8-2
https://www.shoujuji.com/
2020年は4月4~6日10~16時、お寺の本堂ではなまつりを開きます。その他、第1月曜7~8時は「あさの坐禅会」(※要予約 きせつのお粥つき)、第3金曜19時半~21時「キャンドル瞑想ヨガ」など、気楽に禅の教えに触れられるイベントを実施中!

いきかた研究所∞大人の食育塾 やわるしす
http://yawarusis.com