Gourmet
2020.05.01

1カ月後が待ち遠しい。先人の知恵が詰まった発酵食「金山寺味噌」を仕込んで、ホッとしよ

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炊き立てのごはんに、具沢山の味噌汁、ぬか漬け。
おこもり生活が続くなかで、そんなごく普通の朝ごはんがとても美味しいと感じるこの頃。発酵食って、やっぱり何だかホッとするなぁ。

おっと。大切なイントロダクションの部分が、つぶやきから始まってしまい、大変失礼しました(笑)。

味噌やぬか漬けなどの発酵大国でもある日本。発酵食の魅力はいろいろなところで語られており、私も発酵食が大好きな人間のひとりですが、食べるのはもちろん、実は作るのもとても楽しいんです!

私自身の実感をもとに言えば、「美味しくな~れ」と唱えながら意識を集中して発酵食を仕込むことや、仕上がりを楽しみに熟成されるのを待つことは、不安なニュースが続くなかで、心身の安定にも役立つような気がしています。

そこで今回は、先人の知恵が詰まった発酵食「金山寺味噌(きんざんじみそ)」をテーマに取り上げてみたいと思います。

長期間の熟成が必要とされる通常の味噌とは違って、金山寺味噌は仕込んでから数週間~1カ月程度の短期間で完成するので、手応え(?)を感じやすいのも魅力のひとつです。「今こそ新しい料理にチャレンジしたい!」という方や、発酵食初心者の方にもおすすめです。

金山寺味噌とは?

金山寺味噌というのは、きゅうりやナスなどの野菜が入った甘じょっぱい味噌のこと。味噌汁などに調味料として使う味噌ではなく、そのまま食べられる味噌です。現在は、和歌山県や千葉県、静岡県などを中心に生産されています。

金山寺味噌の由来としては諸説ありますが、鎌倉時代にひとりの僧が中国から和歌山県に戻ってきた際に伝わり、夏野菜を冬も美味しく食べるための保存食として親しまれてきたと言われています。

いろいろな料理に使えるのも魅力のひとつ。野菜スティックや豆腐などに乗せるほか、タルタルソースやタレなどに使ったり、肉や魚のソテーや炒めものなどに加えたりしても美味しい!お酒の好きな方のなかには「味噌と一緒に、ちびちび飲むのが最高」という方もいらっしゃるかもしれません。

そして、何と言っても最大の魅力は、普段の料理に金山寺味噌を加えるだけで、味わい深い料理に変身すること。「ホッとする料理が食べたい(作りたい)」という方にもとてもおすすめです。

江戸時代の健康食「なめ味噌」のひとつ

金山寺味噌のように「(なめて)そのまま味わう」味噌は、通常「なめ味噌」と呼ばれています。
なめ味噌には大きく2種類あり、金山寺味噌は発酵なめ味噌の代表選手です。

・発酵なめ味噌…微生物の力で発酵させることによって作られたもの(金山寺味噌など)
・加工なめ味噌…一般的な味噌に野菜や山菜などの具材を混ぜて作られたもの(ふき味噌、柚子味噌、くるみ味噌など)

なめ味噌は、しょうゆの原型とも言われる「ひしお」などと合わせて、「なめもの」という日本独自の呼び方をされることも。ひしおは、弥生時代から大和時代にかけて作られたとされており、とても古い歴史を持っています。

江戸時代に入ると、加工なめ味噌の食文化がさらに発展。畑仕事などのおむすびの具材から酒の肴まで、人々の胃袋と健康を幅広く支える食材として親しまれるようになります。また、味噌や醤油づくりは徳川御三家の紀州藩の保護を受けて、重要な産業として位置付けられるようになりました。

いざ、金山寺味噌を作ってみよう!

冒頭でも少し触れたとおり、味噌汁などに調味料として使う味噌の場合は、一般的に半年以上の熟成期間が必要ですが、金山寺味噌は仕込んでから数週間~1カ月程度で食べることができます。通常の味噌と比べて早く食べられるようになるのも、こんな時にはとても嬉しいですよね!

まず、金山寺味噌を仕込む上でぜひ用意したいのが「金山寺麹」。初めて聞いたという方も多いと思うので、少し説明をしていきますね。

*金山寺麹とは?


本格的な金山寺味噌を作るためには、金山寺麹を使うのがおすすめ。これは、麦麹・豆麹・米麹を混ぜ合わせたものです。3種類の麹を用意して自分で手作りすることもできますが、あらかじめブレンドされた「金山寺麹」を使うと手軽です(金山寺麹は、インターネット通販などで入手することができます)。
もし金山寺麹が手に入らない場合は、麦麹や米麹などで代用してください。

*金山寺味噌のレシピ

地域や家庭ごとにさまざまなレシピがありますが、今回はお子さんやアルコールに弱い方も安心して食べられるように、みりんや焼酎を使わない作り方で仕込んでみました。

〈材料〉
・金山寺麹(*)(または麦麹や米麹)800g
・野菜(なす、きゅうり、にんじん、ごぼうなどお好みで) 計400g
・きび砂糖(またはてんさい糖)100g(~150g)
・自然塩 大さじ1+ 80g
・蜂蜜 大さじ3~4

・湯冷まし50㏄程度

・大葉や新生姜などの香味野菜(お好みで)少々

〈作り方〉
1.野菜を細かくカットする。塩(大さじ1)を振って野菜を塩揉みする。1時間以上置いてから、水気を絞る。

今回は、なす、にんじん、新ごぼうを使いみました。大きさは好みですが、同じくらいの大きさに切り揃えると、見た目がきれいに仕上がります。

2.麹と塩、砂糖をボウルに入れて、よく混ぜ合わせる。
*少し食べてみて、好みに合わせて砂糖の量を調整する。砂糖が多い方が保存性は高まる。

3.2のボウルに1の野菜と蜂蜜、香味野菜を入れて混ぜる。様子を見ながら少しずつ湯冷ましを加えて混ぜ、密閉容器に詰める。

全ての材料を混ぜ合わせたところ。今回は青じそを7~8枚加えました。

4.表面を平らにして、上から手で押さえて空気を抜き、1キロ程度の重石を乗せる。1日1回は底からしっかりとかき混ぜる。

仕込みから3日目。全体が少しずつなじんできました。

冷暗所で保存して数日~1週間ほど経過した頃から、味がなじんできます。味を見て美味しく感じるようになってきたら、冷蔵庫に入れます。冷蔵庫でも発酵はゆるやかに進みます。早めに冷蔵庫に入れるようにすると、カビが生えたりアルコール臭が発生したりする心配が少ないです(冬場など寒い時期に仕込む場合は、最初は発酵しやすいように温かい場所で保管するようにしてください)。

春~夏にかけての暖かい時期であれば、数週間~1ヵ月位で食べ頃になります。我が家では、好みの味になったら小分けにして冷凍保存しています。

1ヵ月後が待ち遠しくなる

2020年4月現在、心配なニュースが続き、先行きの見えない不安を感じている方も多いと思います。

かくいう私自身も、外出は最小限に抑えて、人と会うことも控える毎日。いわゆる「非日常」の暮らしを送っていますが、そんななかで心と身体の助けになっているのが昔ながらの発酵食だと最近よく感じています。

発酵食は食べて美味しいのはもちろん、仕込んで待つのも楽しい。
心を込めて発酵食を「育てる」ことは、少し大げさかもしれませんが、明るい未来がやって来ますようにという願いにも通じるかもしれません。

数週間~1カ月程度で完成する、金山寺味噌。お子さんなど家族と一緒に、作ってみるのもいいかもしれません。心にも身体にも美味しい、とびきりの味噌に仕上がりますように。

〈参考〉
・『江戸の健康食』(小泉武夫著/河出書房新社)

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/