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2020.05.12

天下三名槍のひとつ、蜻蛉切。槍の名手・本多忠勝が愛用した武器の特徴とは

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鋭い斬れ味から名前(愛称)が付けられた刀剣はたくさんあります。

有名な戦国武将が愛用したものの中にも、ちょっと先端に止まっただけの虫が真っ二つになってしまった、という、ものすごい伝説を持つ槍があります。

その名も「蜻蛉切(とんぼきり)」。

蜻蛉切とは?

蜻蛉切は、笹の葉のような形をした「大笹穂槍(おおささほやり)」で、天下三名槍(てんかさんめいそう・天下三槍とも)の1つに数えられています。※その他の2槍は「日本号(にほんごう)」、「御手杵(おてぎね)」。
この槍は、家康に過ぎたるもの(身の丈に合わない、贅沢なもの)あり、と讃えられた戦国武将で、徳川四天王にも数えられている本多忠勝が愛用したものです。

刃長は1尺4寸4分弱(43.6センチ)、平三角(ひらさんかく)と呼ばれる、上から手元に向かって見ると三角形の底辺が非常に長い形をしていて、重量約499グラムという、かなり軽いものとなっています(通常の刀の平均は800グラム~1キロ程度)。表に樋(ひ)と呼ばれる溝が4本、裏には幅広な樋の中と下部に彫刻が施されているのも、軽さの理由かもしれません。

裏の彫刻は、下から上に、蓮台(れんだい:仏様が座る台座)・長梵字(不動明王?)・三鈷柄剣(さんこづかけん:不動明王の持っている剣)・観世音菩薩の梵字・阿弥陀如来の梵字・地蔵菩薩の梵字が彫られており、修験道的な要素を強く感じさせます。

忠勝の子孫である三河(現在の愛知県東部)の岡崎藩主・本多家に伝わり、静岡県指定文化財となっている、姿も彫刻も非常に美しい槍です(現在は個人蔵、佐野美術館寄託)。

名付けの由来

戦場で槍を立てていたところ、飛んできたトンボが先端に触れ、その瞬間に真っ二つになってしまった、というエピソードから名付けられました。
また、別の説として、忠勝が槍の名手だったため、槍を振るとトンボを斬り落とす、と言われており、忠勝の槍をこう呼ぶようになった、というものもあります。

しかしトンボは前だけに進むことから勝虫(かちむし)と呼ばれ、縁起がよいと武家に大切にされてきた虫です。斬っちゃってよかったのでしょうか……(もちろん、意図して斬ったのではありませんが)。

千子正真とは?

蜻蛉切の作者は、有名な村正(初代)の一門、千子正真(せんごまさざね)です。大和の金房(かなんぼ)派、三河文殊(みかわもんじゅ)と同じ人ではないか、とも言われますが、銘の雰囲気が大きく異なるため、千子派の正真と金房派の正真は別人の可能性もあります。蜻蛉切の銘は村正一派のほうに似ているでしょうか。ただ、正真の作風はあまり村正に似ていないとも言われ、別の場所に工房を構えていた可能性も指摘されています。

正真の刀は、持ち手部分である茎(なかご)が魚のたなごのお腹のような形をした「たなご腹」という特徴的な形をしており、刃文は全体にまっすぐな直刃(すぐは)で手元に近い部分だけうねる「腰乱(こしみだれ)」というスタイルがよく見られます。

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アイキャッチ画像:葛飾北斎『桔梗に蜻蛉』(メトロポリタン美術館所蔵)

書いた人

人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。