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2018.09.04

名画「牛乳を注ぐ女」の ピッチャーは岡山産!?フェルメール備前焼ピッチャー誕生物語

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鈍い艶ときらめきをもち、ざらっとしているようでいてなめらかな肌。茶褐色とも錆茶色(さびちゃいろ)ともいわれる神秘的な色。2017年に日本遺産にも登録された日本六古窯(こよう)のひとつ、岡山県の備前地区で作陶される備前焼の特徴です。この素焼きのやきものと、生涯オランダのデルフトで作画を続けたフェルメールの名作「牛乳を注ぐ女」には、何やら親和性が…? 備前焼の窯元、一陽窯(いちようがま)の木村肇(はじめ)さんと和樂による、商品開発の物語をお届けします。

これって備前焼っぽくない? すべてはこのひらめきから生まれました

牛乳を注ぐ女

ことのはじまりは、編集部での商品開発会議。特集「若冲とフェルメール、美の三原色」にちなんだ商品をつくって、誌上通販するべくの打ち合わせの場でした。編集長とデスク、ふたりの担当編集の4人が編集部の一角に集まります。

若冲の「鳥獣花木図屏風」をモチーフにしたブラシをつくろう、ゾウの絵柄はかかとブラシで、つめブラシにはヒョウがいいんじゃない、とか。江戸切子のグラスは何をモチーフにしようか、とか。好き好きに思いついたことを口にし、そこにかぶさるくらいの勢いでディテールのアイディアが浮かんでくれば、「これはイケる!」となるわけです。商品開発の現場では、このノリがきっと大事。

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そんななかでフェルメールの資料に目を通していたところ…。「これって備前焼っぽくない?」フェルメールが「牛乳を注ぐ女」で描いた茶色いミルクピッチャーが、備前焼に見えたのです。

牛乳を注ぐ女ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」アムステルダム国立美術館 ©Rijksmuseum,Amsterdam/PPS通信社

一度言葉にしたら、もう備前焼にしか見えません。折しも備前焼の窯元、一陽窯の木村肇さんへの取材を控えていた時期でした。「取材でお会いする、木村さんにつくってもらえないかな?」

ということで、さっそく打診。「フェルメールの『牛乳を注ぐ女』のピッチャーを、つくっていただけませんか?」という唐突なお願いを「面白そうですね!」と、木村さんは快く受けてくださいました。

信楽(しがらき)、丹波(たんば)、越前(えちぜん)、瀬戸(せと)、常滑(とこなめ)と並び日本六古窯のひとつである備前焼。釉薬をかけず、絵や模様を施さないのが特徴で、粘度が高く金属成分を多く含む土の性質や、高温で長時間の焼成が、独特の風合いをもつ茶褐色のやきものをつくり出します。

牛乳を注ぐ女10日間かけて1200℃まで温度を上げるので、「落としても割れにくい」といわれるほど堅牢に。

そんな備前焼でフェルメールのピッチャーをつくる。一枚の絵の、ほんの一部分しか見えていないピッチャーの全体像を想像しながら形にする。なかなかハードルの高い依頼でしたが、木村さんの好奇心と探求心に火が付いたよう。

牛乳を注ぐ女別企画の取材時に「ちょっと挽いてみましょうか」と、数分で形にした木村さん。この時点でほぼ完璧だったが、これ以前に木村さんは熟考していた。

「フェルメールが生きたのは17世紀のオランダ。これは本当に牛乳だったのだろうか、山羊の乳だった可能性はないかなど、考えてしまって。酪農家の知人に聞いてみたら、ちょうどその時代にオランダでホルスタイン種の飼育もされはじめたようなので、やっぱり牛乳で間違いないのではないかと」(木村肇さん)

牛乳を注ぐ女ブレイクタイム中の一陽窯にて、でき上ったばかりのピッチャーにアイスティーを入れて。

絵の中の女性や、その時代を生きた人々の生活にまで思いを馳せてでき上がった“フェルメールピッチャー”。アイスドリンクを入れたり、ワインのデキャンタージュに使ったり、花器にしたり…商品の詳細はこちらでご紹介します