今、日本のみならず世界で空前の日本刀ブームです。海外では侍ソードとも呼ばれています。「刀剣が実戦で使われた戦国時代!武将と名刀の伝説を一挙紹介」など、和樂では刀剣にまつわる記事を多く掲載していますが、今回は刀剣について学ぶ初心者のために、基本的な解説をお届けします。
日本刀・刀剣にまつわる4つの疑問
まずは日本刀のイロハを、京都国立博物館研究員で金工のスペシャリストの末兼俊彦(すえかねとしひこ)さんに聞いてみました!
Q1.名刀の条件ってなんですか?
A.見る人それぞれに名刀があります。美しいから名刀。凄いエピソードがあるから名刀。戦国セレブが所持していたから名刀。全部「あり」です。もちろん「鉄がよく練られ、加工が巧(うま)い=名刀」のような基準もありますが、魅力はひとつじゃない。見る人それぞれが理想の刀を見つけられるのが日本刀のよさであり、それは同時に日本美術の魅力でもあるんです。
Q2.日本刀って時代によって違うんですか?
A.はい、違います。日本刀は、その時代の戦い方に合う形でつくられました。始まりは鉄の「直刀(ちょくとう)」。その登場は古墳時代でした。以降、馬上で戦った平安時代の上級武士は長くて反りの大きな太刀。徒歩で戦った戦国時代は短い打刀(うちがたな)というふうに。桃山時代に描かれた屏風絵には、かぶき者が打刀を持つ姿も描かれています。ただし産地や作者によっても違いは生まれるし、砥(と)ぎ直しなどで形や刃文(刃の模様。作者や時代の特徴が現れる)が変わった刀もあります。砥ぎ師は刀を砥ぐ際、スクラッチングの技で自分が美しいと思う刃文を描いた。メークを施したわけです。私たちが見ているのは、多様な要因を含む形なんです。
Q3.日本刀、どこが本名でどこがニックネーム?
A.たとえば…「太刀(たち)」が本名、「安綱(やすつな)」が刻銘、「童子切安綱(どうじきりやすつな)」が通称です。どの刀剣も、正式名称は「太刀」や「刀」「短刀」です。その後に入る銘は作者自身が刻んだもので、記されるのは作者名や所有者名、産地や時代など。無銘の名刀もあります。「名物 〇〇」や「号 〇〇」はニックネーム。だれがいつ呼び始めたのかは刀によって異なりますが、主に「所有者名」「刀の特徴や状態」「伝説やエピソード」が元になっています。「童子切安綱」は、丹波国(たんばのくに)の大江山に住む鬼・酒呑童子(しゅてんどうじ)を源頼光が斬った逸話から、その通称がつけられました。
名物 童子切安綱(めいぶつ どうじきりやすつな)[太刀 銘 安綱]国宝 平安時代 伯耆国 安綱作 刃長80.0㎝ 反り2.7㎝ 切先長 3.1㎝ 東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
Q4.日本刀ってひとことで言うとなんですか?
A.武士の精神的な支え。野球でいう「抑えのエース」です。実は日本の刀ってメインの武器ではないんです。平安時代、馬に乗って戦った上級武士の主要武器は弓と矢。太刀や腰刀(こしがたな)も常に備えてはいましたが、あくまでもいざという局面でのみ使うサイドアーム。日本刀は武器であると同時に、精神的な支えにもなっていたといえるでしょう。かつて足利尊氏像とされていた武家の肖像画にも太刀が描かれていますが、この時代の主要武器も弓矢でした。時代が下り、主要武器が槍や鉄砲になってもそこは変わりません。つまり、日本刀は野球で言う永遠のリリーフ投手。「抑えのエース」だったのです。
これだけ知っておけば大丈夫! 日本刀専門用語
1.銘(めい)
刀の作者が自分の名前や日付などを刻み入れます。ここで、刀の情報がわかります。
2.茎(なかご)
流派によって形が異なる、刀の柄(つか)に納まる部分。ここに銘が刻まれています。
3.棟区(むねまち)
刀身と茎の境目です。
4.反り(そり)
刀身の湾曲やその度合い。「反り◯㎝」という場合は、実線で示した部分の寸法です。
5.刃長(はちょう)
棟区から切先までの直線の長さ。刀の寸法は、まずここを記します。
6.棟(むね)
刀身の背にあたる部分で、峰(みね)ともいいます。背で討つのが「峰打ち」。
7.刃先(はさき)
「パッと見で白い部分」が刃で、そのエッジが刃先。刃以外の黒っぽい部分は「地(じ)」「地鉄(じがね)」といいます。
8.刃文(はもん)
刃(白い部分)に現れる模様。まっすぐな刃文を「直刃(すぐは)」、それ以外は「乱れ刃」といいます。
9.切先(きっさき)
先端部分で、「鋒(きっさき)」とも書きます。切先の刃文を「帽子(ぼうし)」といい、作者や時代の特徴が表れます。
口に出して言ってみたい! 日本刀の業界用語
「ふんばりが強い」
力強い語感ですが、刀身の優美なシルエットを褒める言葉です。柄に近い腰の部分の幅に対して、先端の幅がぐっと狭くなっているときに、「ふんばりが強い」「ふんばりのある姿」といいます。古い太刀(たち)に多いスタイルです。
「にえがつく」
「錵」「沸」と書いて「にえ」と読む。刃文と地鉄の境目に浮かぶ、粒子の粗い輝きのこと。刃文に夜空の星のような輝きが見えたら、すかさず「よく沸(にえ)がついていますね」「肌に強い地沸(じにえ)が見えます」。褒め言葉です。
「肌がつむ」
刀の肌に対していう言葉です。鉄がよく叩かれ、肌目がきめ細かくなった状態を「肌が詰む」と表し、「肌がよく詰んでいる」と褒めます。細かい板目状の模様が見えたら「小板目(こいため)肌がよく詰んでいる」と言えばよいのです。
知らなかった日本刀、刀が語源のことば
普段、生活の中でなにげなく使っている言葉の中には、日本刀に関する言葉が語源となっているものがたくさんあります。今回は、そんなカタナ語をちょっとご紹介。本来の意味を知ることで、今までと言葉の使い方が変わってくるかもしれません。
名物 三日月宗近(めいぶつ みかづきむねちか)[太刀 銘 三条]国宝 平安時代 刃長80.0㎝ 東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
【相槌をうつ】
刀工が交互に槌(つち)を打ち合わすことから転じて、相手に同意を示すこと。
【おりがみつき】
本阿弥家(ほんあみけ)が刀に鑑定書(折紙)を付けたことから、間違いないモノを指す。
<h3″>【しのぎを削る】
鎬(しのぎ)=刀と刃の間の稜線。鎬が削れるほどの斬り合いが転じて、激しい争い。
【真打ち】
御神刀(ごしんとう)を打つ際、一番よい刀が真打(しんう)ち。転じてその世界で一番格上の者。
【すっぱぬく】
すっぱ=忍者。忍者が刃物を不意に抜くさまから秘密を暴(あば)くことをいう。
【せっぱつまる】
せっぱとは鐔(つば)を押さえる金具。身動きできないほど追いつめられた状態。
【そりが合わない】
刀と鞘(さや)の反り具合が合わないと鞘に収まらない。転じて気が合わない様。
【単刀直入】
刀一口で単身敵陣に斬り込むことから、前振りなしで本題に入ること。
【付け焼き刃】
刃を失った刀に焼き刃だけを足す風習から、急場しのぎで習得するさま。
【とんちんかん】
トンテンカンという槌音がこう聞こえたことから、辻褄(つじつま)が合わない様子。
【めぬき通り】
目貫(めぬき)とは柄(つか)の中央を留める飾り金具。転じて、町の中央のにぎやかな通り。
【焼きを入れる】
刃物を焼き鍛えることから、人に活を入れたり制裁を加えたりすること。
【やさぐれる】
やさは鞘(家)のこと。鞘から外れることが転じて、家出・投げやりなさま。
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