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2018.09.26

世にも可愛らしい、仏像の姿(かたち)を楽しもう! 三井記念美術館「仏像の姿」展

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ある美術関係者の方に伺うと「仏像の展覧会は必ず人が入る」のだとか。確かに元々の仏像ファン、古寺巡りファンだけでなく、2009年の阿修羅展や『見仏記』(いとうせいこうさん、みうらじゅんさん)の大ヒット以降は、若い女性にもファンが拡大。仏像がテーマの展覧会が大人気になる理由がわかります。

ところで・・・じゃあ「なぜそんなにみんな仏像が好きなのか?」 いやそもそも「仏像って何なのか?」と改めて問われると「?」。「それは仏像だから」としか答えようがないわけです。

現在、東京日本橋の三井記念美術館で開催中の「『仏像の姿(かたち)』〜微笑む・飾る・踊る〜」展は、「そもそも仏像の魅力って何?」「仏像の美しさってどこにある?」という根本的な疑問に答えてくれる、構成&展示になっています。

記者内覧会の開催にあたって同館の清水眞澄館長は「仏像には発注者がいて、発注を受けて制作にあたった仏師がいた。その仏師がどのような思いを込めて制作にあたったのかに思いを巡らせてみたい」という趣旨のことをお話になりました。

思わず笑わずにはおられないヒョットコ顔の仏像

本展覧会では仏像の魅力を「御顔の御表情」「装飾」「動き(ポーズ)」の3つの観点から出陳品を解説してくれています。

仏像は、仏教誕生の地、インドから中国を経て、少しずつ形を変えて日本に伝わりました。日本に伝わった当初は仏像の表情も大陸的な感じでしたが、徐々にふっくらと丸みを帯びた日本的なお顔立ちの仏像へと変化していきます。今回の展覧会で、一つの展示ケースに並べて展示された「菩薩立像」(重要文化財 東京藝術大学)と「薬師如来立像」(重要文化財 聖衆来迎寺)では、その違いを見比べることができます。日本の仏像に「和様」のお顔立ちが登場してきた、初期の仏様の美しさを味わいたいものです。

仏像の姿右の「菩薩立像」(重要文化財 東京藝術大学)は飛鳥時代、7世紀の作。表情にどことなく大陸風の印象がある。一方左の「薬師如来立像」(重要文化財 聖衆来迎寺)は奈良時代、8世紀の作。お顔立ちはもちろん全体的に丸みを帯びて、和様を感じる作風。

ユニークな表情の仏像ということでいえば、ヒョットコみたいな御顔に思わずこちらも微笑んでしまいたくなる「四天王眷属(けんぞく)立像(南方天眷属)」(重要文化財 東京国立博物館)。四天王眷属は東西南北四方を守護する四天王の従者。四天王立像は数多く残っていますが、彫像としての四天王眷属は、この南方天眷属と一緒に展示されている東方天眷属(重要文化財 東京国立博物館)、それに今回展示されていませんが、元々この2体と一具をなしていた西方天眷属(静嘉堂文庫美術館)、北方天眷属(MOA美術館)の4体のみなのだそう。文化財として大変貴重なのはいうまでもありませんが、まずはこの2体の仏像のお顔の愛らしさを楽しんでください。

仏像の姿「四天王眷属立像(右/東方天眷属、左/南方天眷属)」(重要文化財 東京国立博物館)。こんな変わった表情の仏像があったなんて! 左の南方天眷属のヒョットコみたいな顔が印象的。さらに靴が破けていてつま先がみえている! 笑える!

仏像の姿同じく 「四天王眷属立像(右/南方天眷属、左/東方天眷属)」(重要文化財 東京国立博物館)。後ろに回るとヒョットコ顔の眷属が身につけていたのは、獣の皮とわかる。360度全方向から拝見できる展示ケースで、美術作品としての仏像の真価を実感できる。

仏像というと、まず目を閉じた静かな表情の仏様を思いがちですが、そんな穏やかな表情のお顔にも比べてみると様々な静寂の表現が、また不動明王や毘沙門天の忿怒の表情にも、様々な忿怒の表現があることがわかります。

表情と同じように、仏像の形状についても、何となく定型のようなものがあるように思いがちですが、比べてじっくり拝見すると、小さな違いや様々なポーズの仏様がいらっしゃることに気づくでしょう。その違いが生じた背景に何があったのか、仏師達のどのような創作の思いがそうさせたのかなど、思いを巡らせていると興味が尽きません。

タンゴを踊る仏様、一本足打法の仏様

今回出展されている仏像の中で特に注目したいのが、「迦陵頻伽立像(かりょうびんがりゅうぞう)」(個人蔵)。室町時代の一木造ですが、“スカートを翻し、タンゴを踊っているかのよう”といわれるその異形には驚くばかり! こんな形状の仏像が存在したことに驚くとともに、信仰の心を離れて一美術品としてみても「素晴らしい!」という思いになります。

仏像の姿「迦陵頻伽立像」(個人蔵)。室町時代、15世紀の作。なんともユニークなポーズの仏像。

“迦陵頻伽”は、極楽浄土に住む想像上の鳥で、上半身が人間で下半身が鳥。この仏像でも、人間としての上半身の表情と、鳥である脚の表現の対比が何とも珍妙でユーモラス。なにより翻るスカートの躍動感が見事! もちろん全方向から拝見できる展示ケースなので、その姿、形状を横からも是非是非鑑賞ください。

一方、「阿弥陀如来及び両脇侍像」(重要文化財 四天王寺)の両脇侍のポーズは、まるでフラミンゴ打法のよう。片脚を後方に折り曲げ、一本足で立っていらっしゃる。体をねじったポーズといい、これまた実にユニーク! 今では阿弥陀如来の両脇侍として阿弥陀三尊像を形成していますが、元は中尊の釈迦如来とは別の仏様だったのだとか。しかもこの2体の両脇侍、肩から先は後年に付け替えられたものだと考えられているそうです。現在、観音菩薩、勢至菩薩のお姿をされている両脇侍が元々はどんなお姿だったのか? どうしてこのような形になったのか・・・ちょっとした“仏像ミステリー”です。

仏像の姿両脇侍とも、それぞれ内側の脚を後ろにL字形に折り曲げた、珍しい仏像。平安時代、9世紀の作。今では、中央に阿弥陀如来、向かって右側に観音菩薩、同じく向かって左側に勢至菩薩として、三体で阿弥陀三尊像を形成しているが、元は別々の仏様だったと推定される。

もうひとつ、形状の面で注目いただきたいのが「毘沙門天立像」(重要文化財 東京国立博物館)。一見すると、普通にお立ちになっている仏様にみえますが、よくよくみてみると、わずかの体のひねりや表情が絶妙なのです。軽く浮かした右脚、重心をどっしりのせた左脚、ぐっと左に入った腰・・・。上半身から足先に向けて流れるような体のラインは実に人間的で、その表現は写実的。

仏像の姿「毘沙門天立像」(重要文化財 東京国立博物館)。平安時代、十二世紀の作。体のしなり、両脚への体重のかかり方など、微妙な体の動きに、逆に躍動を感じるから不思議。

動きのある仏像というと、慶派の仏師たちによる筋骨隆々の彫像を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、この毘沙門天立像様のような、“静かな表情の中の微妙な動き”に潜むリアリティに着目することで、仏像をみる楽しみがさらに拡大することでしょう。

仏教彫刻における超絶技巧を堪能せよ!

この「毘沙門天立像」(重要文化財 東京国立博物館)は、玉眼を施した初期の作例といわれています。同時に、前面に施された彩色、截金(きりかね)がよく保存されていて、完成当初の華やかな姿が目に浮かぶようです。

彩色、截金、そのほかにも超絶なる金工の技術、複雑な造形を生み出す木彫技術等々・・・。仏像には当時の最高の装飾技法、工芸技術が投入されていたことがよくわかります。

仏像の姿「観音・勢至菩薩立像」(称名寺、神奈川県立金沢文庫保管)。細く切られた金箔を貼る「截金(きりかね)」という技法で、華やかに装飾されているのがわかる。細部の装飾にも眼を凝らして鑑賞することで、仏像にかけた仏師たちの執念が理解できるはずです。

今回の「『仏像の姿』〜微笑む・飾る・踊る〜」展。重要文化財16件を含む計42件の仏像と、東京藝術大学文化財保存学による模刻仏像16件が展示されます。

三井記念美術館の展示ケースでみる仏像は、信仰の対象であるだけではなく、実に見事な彫刻美術品であることを強く感じました。純粋に美術品としての美しさと驚きを私たちに与えてくれるのです。特に360度全方向から鑑賞できる、展示室1は圧巻!

筆者は南河内で生まれ育ち、母の実家が北葛城だったこともあり、幼少より「仏像はお堂の中でみなければ意味がない」と思っていましたが、今回はそんな観念が完全にぶっ飛びました。

清水館長がおっしゃったように、「仏像は仏師がつくる。仏師はそこにどのような思いを込めたのだろうか」と考えつつ拝見していると、仏教彫刻、美術作品としての仏像の美しさや意義やその意味するところがわかってくるようです。

仏像の姿

本展の会期は11月25日 日曜日まで。本コラムでご紹介しなかった貴重な作品がまだまだ満載! 見応え十分! な展覧会です。写真の美しい図録も是非ご購入することをお勧めいたします。

文/橋本記一

「仏像の姿(かたち)」〜微笑む・飾る・踊る〜

会期 開催中〜2018年11月25日
会場 三井記念美術館
公式サイト