元ボンボンで、今はスーパーミニマリストとして「丁寧な暮らし」を実現している鴨長明さん。この度『方丈記(ほうじょうき)』という随筆を発表し、これが巷で大流行!「人生を改めて考えるキッカケになった」「金遣いの荒い妻が、お金の使い方を見直すようになった」など、大きな反響を呼んでいます。
そしてなんと!今回の大ヒットを記念して、特別に鴨長明さんのお住まい「方丈」にお招きいただくことに!『方丈記』に込めた思いや、スーパーミニマリストとしての暮らしなど、今みなさんが気になっていることをじっくりお聞きしました。どうぞ最後までお楽しみください!
鴨長明プロフィール
1155(久寿2)年生まれ。京都・下鴨神社(しもがもじんじゃ)の禰宜(ねぎ)の次男として生まれる。超おぼっちゃまとして育つが、父の死など不幸が続き、出世コースから外れ50才で出家。『新古今和歌集』に10首もの歌が入選するなど、和歌の名手としても知られる。
スーパーミニマリスト・鴨長明にインタビュー
『方丈記』大ヒットにあたって
――まずは『方丈記』大ヒットおめでとうございます。
鴨長明(以下略):ありがとうございます。日本三大随筆にも選んでいただいたようで、恐縮です。
日本三大随筆
清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』、兼好法師『徒然草』
――冒頭の「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」の例え、率直に「スゴイな」って思いました。自分のnoteにも引用させてもらっています(笑)。
あれは自分でもいい例え思いついたなって思ってます(笑)。ぼーっと川見てたら”降りてきた”って感じですね。最初の一文で読者の心を掴むのが大事なので、そのへんはこだわってます。
▼鴨長明さんの一文を引用したnoteはこちら
和樂web流!「読まれるタイトル」の付け方
――なるほど。和歌の名手なだけあって、言葉選びが素敵だなと感じます。
「歌林苑(かりんえん)」っていう、和歌の世界では超偉い人が主催する歌会グループに入っていたので、そこで色々学ばせてもらいました。あとはもともとボンボンだったので、嗜(たしな)みっていうか。色々あって今は見る影もないですけど(笑)。
自分のために家をつくりたい。四畳半生活を決意したきっかけ
――今回ご自宅にお邪魔しています。ここはどのくらいの広さなんですか?
「方丈」といって、だいたい四畳半ですね。
方丈は、仏教的な意味合いの強い住まいです。僧侶の住まいとしても愛用されていたため、宗派によっては住職のことを「方丈」と呼ぶこともあります。
――四畳半!二人並ぶと結構圧迫感があります。どうしてここに住もうと?
「自分のために家をつくりたい」という思いからですね。
――と言いますと?
ほら、家って、家族のために建てる人が多いじゃないですか。あとは友達を呼んでホームパーティーしたいとか、お金持ちの人なら「財宝をしまっておきたいから家を建てる」って理由も聞きますね。でもそれって、誰かのためであって、自分のためじゃない。私には家族もいないし、無理に友達をつくろうとも思わない。だったら「自分のために家を建てよう」って思いました。自分一人暮らすだけなら、この広さで十分ですね。
――質素ながら、風流なお住まいですね。
書物とか楽器は置いています。でも、琵琶も琴も折り畳み式。狭いのでできるだけコンパクトなものを選ぶようにしています。
スーパーミニマリストとしての「丁寧な暮らし」
――普段の暮らしも質素な鴨長明さんは、世間では「スーパーミニマリスト」って呼ばれているようですが。
もともとボンボンだったので「よく今の暮らしに耐えられるね~」なんて言う人もいますよ(笑)。でも「持たない暮らし」が結構性に合っていて。例えば、ここに来て手放したのは「馬」です。馬に乗らないで自分の足で歩いたほうが健康にいいし、いつでも好きなところに行けて気楽なもんです。持ち物が少ないので、引っ越そうと思えばいつだって引っ越せますよ。
――着るものにもこだわっているのだとか。
今日着ているのは「藤の衣」という、葛(くず)の繊維を編んだものです。一日中麻のパジャマで過ごすこともありますよ(笑)。こだわっているっていうか、あるものを着ているって感じですね。ボンボンだった頃みたいに社交パーティーがあるわけじゃないし、何着てても恥ずかしいとは思わないです。
――食事はどうされていますか?
そのへんの草とか木の実とか、その日手に入ったものを食べています。もちろん、お腹いっぱい食べられるなんてことはないですよ。だからその分、つまらないものでもすごくおいしく感じるんです。ボンボンの頃には味わえなかった幸せですね。幸せって、意外とそのへんに落ちているものなんですよ。それにみんな気付かないだけで。貴族連中には「負け惜しみ」って思われるでしょうけど(笑)。
――「丁寧な暮らし」というより「適当な暮らし」に感じます。
誰が言い出したか知らないですけど、別に丁寧じゃないですよ。ただ、周りにある草花を摘んだり、山の頂上から景色を眺めたりする生活。有名人の墓参りをすることもありますね。忙しい人にはそれが「丁寧な暮らし」に見えるんじゃないですか。
世の中の「無常」を見つめる
――ここでの生活、お一人で寂しくはないですか。
そりゃ寂しいですよ。昔のことを思い出しているときに、猿の鳴き声が聞こえてきたりなんかすると、もう涙流しちゃいますね。山鳥の声が両親の声に聞こえるときもあります。「あ~、浮世離れしちゃったなぁ」って切なくなります。ある意味、ボンボンの時の方が浮世離れしてたとも言えますが(笑)。
――権力争いや飢饉、大地震など、多くの困難に直面した鴨長明さん。最後に読者の方に一言お願いします。
川の流れのように、そして、浮かんでは消えていく泡のように、この世に変わらないことなんて何一つありません。今、当たり前と思っている日常も、天災や疫病などで、いつ失われるかわからない。「この災害が終息したら、さすがに日常が戻るだろう」と思った矢先、疫病が流行したこともありました。
いつ変わるかも失われるかもわからない。命ですらそんなものなのに、ましてや家や物に心を尽くすのは馬鹿げていると思いませんか。本当に厳しい危機に直面したら、どんな宝物も二束三文の価値にしかならないんですよ。
――なるほど。令和のコロナ禍でも、途端にマスクの価格が上昇したり、緊急事態宣言が発令されたりと、先行きの見えない生活が続いています。鴨長明さんのお言葉で、今自分が何を大切にすべきかわかったような気がします。本日はありがとうございました。
あとがき
日本三大随筆と言っても「一体何のことやらサッパリわからん」「受験で本の名前と作者名だけ覚えたきり」なんて方も多いでしょう。特に『方丈記』は、『枕草子』『徒然草』と比べマイナーな作品です。
そんな『方丈記』を、一体どんな人が書いたのか、また、どのような内容が書いてあるかを少しでも知ってもらいたいと思い、インタビュー形式で本文をまとめました。
今回ご紹介した内容は『方丈記』の後半部分。前半には地震や飢饉など、当時京都で起こっていたあらゆる災いについて、鴨長明ならではの視点で書かれています。
全体を通してそんなに長い話ではないため、興味をもった方はぜひ、現代語訳を呼んでみて頂ければと思います。
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▼漫画で読むなら、水木しげるさんの作品も。 方丈記 (小学館文庫―マンガ古典文学)
おまけ
読者の方からこのような質問をいただきました。
鴨長明って働いていないのにどうやって生活費を得ていたのでしょうか?
鴨長明はとんでもないお坊ちゃまで、10歳にも満たない子どもの頃、従五位下という位を授けられるほどでした。その後出世コースから外れたとはいえ、歌人として後鳥羽上皇にも目を掛けられるほどの超人です。幼い頃ほど裕福ではないにせよ、方丈でつつましく暮らすには十分な財産や、歌関連での収入はあったと思われます。
また当時の「出家」ですが、出家後の生活もお金がかかるので、面倒を見続ける後見人や財産が必要でした。
そう聞くと「ボンボンの悠々自適生活じゃん」なんて思っちゃうかもしれません。ただ鴨長明は、保元の乱や平治の乱が起こる激動の時代に幼少期を過ごしました。また十代の頃には妻子がいたとも言われます。多くの死に触れ、妻子とも別れ、ちやほやされた生活も長くは続かず……。方丈に引きこもりたくなる気持ちもわかるなぁ~!
参考書籍
日本古典文学全集『方丈記』