Culture
2018.09.06

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート

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今、最も注目される若手歌舞伎俳優・尾上右近さんの第四回自主公演「研の會」が8月26日、27日に国立劇場小劇場で行われました。今回、右近ことケンケンが挑戦した演目は、上方和事の代表的な役「恋飛脚大和往来 封印切」の忠兵衛。そして、歌舞伎舞踊の「二人椀久」椀久でした。昨年は女形でしたが、今回はどちらも立役です。私は26日、演劇評論家の犬丸治さんと観劇させていただきました。犬丸さんの言葉を借りながらレポートさせていただきましょう。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート国立劇場の楽屋にて、ケンケンが忠兵衛の顔をする(化粧する)様子。

「封印切」は心理劇です

「恋飛脚大和往来 封印切」の忠兵衛。まずは、「封印切」のあらすじを簡単に説明しておきましょう。大坂淡路町の飛脚屋・亀屋の養子・忠兵衛は遊女梅川と愛し合っていましたが、金に詰まって遊び仲間の八右衛門に届いた為替金を使い込んでしまいます。梅川の身請けを巡り、八右衛門と意地の張り合いとなった忠兵衛はとうとう切ってはならない小判の封印を切ってしまい、ついにお尋ね者となり、梅川とともに郷里の大和へ落ちていくという話。忠兵衛という若者が見栄や人目を気にして一線を越えてしまうという、若者の弱さが描かれた心理劇なのです。

ネイティブな上方言葉が話せなくては演じられない役

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート八右衛門演じる中村亀鶴(右)と、追いつめられる忠兵衛を演じる尾上右近。

今回、ケンケンは、曾祖父六代目尾上菊五郎の音羽屋の芸系に連なる江戸歌舞伎ではなく、上方歌舞伎、和事に初めて挑戦したのです。実はこの役、ネイティブな上方言葉が話せなくては演じられないと言われてきたものです。ところがケンケン、実に見事な上方言葉でやってのけました! やはり、耳がいいんですね。でも、それだけではないのです。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポートまるで錦絵のような役者顔。

「よくぞここまでやったなと思います。坂田藤十郎、中村鴈治郎の系統のもので鴈治郎から教わったものを忠実に演じつつも、彼なりの味というものを加えてよくやっていました。彼は今どきない古風な味わいの役者顔。昔で言うと、實川延若や三代目中村時蔵のような、いわゆる錦絵のような役者顔です。まずそれが上方の芝居に非常によく生きていましたね。そして、偉いなと思ったのは、前半に梅川とじゃらじゃらするところがありますが、あそこは東京の人がやると案外照れちゃうところで、不自然になってしまうんですが、そこを突っ込んでやっていたところがよかったと思います。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート封印が切れた瞬間、放心する忠兵衛。

前半部分にそういう場面があるからこそ、後半の悲劇が非常に引き立つ。転調して行く仕方がとてもうまかった。彼の中でうまく計算できていたんだと思います。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート心の闇を引き受けて…。

特に、封印を切ったあとの放心した状態や、引っ込み方は、自分の心の闇をちゃんと引き受けて、最後去って行くという若者の影のようなものをとてもよく表現できていたと思う」と、犬丸さんも絶賛でした!

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート花道を引っ込む忠兵衛。

ちなみに、“封印切”(ふういんぎり)といいますが、もともと宝永7年ごろに起きた公金横領事件を元に書かれた近松門左衛門の本「冥途の飛脚」では自分で封印を切るそうです。それが、歌舞伎「恋飛脚大和往来」になると、自分で封印を切ったのでは同情できないということから、“封印切れ”という感じで、偶然に封印が切れてしまいます。ケンケンの忠兵衛は、「“あ、しまった!”と思った後に、もう自分は落ちて開き直っていくしかないんだという思い入れの重さがきちんとできていたと思いました」と、犬丸さん。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート

椀久、美しすぎます!

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート

一方、歌舞伎舞踊「二人椀久」。大坂御堂筋の豪商だった椀屋久兵衛(椀久)は、新町の傾城松山と深く馴染み、豪遊の限りを尽くした挙げ句に座敷牢に閉じ込められてしまいます。のちに物狂いとなり座敷牢から逃出すこともしばしばで、やがて京都の養生先で亡くなったとも、安治川で水死したとも伝わります。その物語を江戸に置き換え、初世尾上菊之丞が振付けたものが本作です。亡き中村富十郎や中村雀右衛門が得意としたところです。踊りの名手ケンケン、流石の舞台でした。尾上流特有のシャープで品のよい踊り。そして、ともかく美しい。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポートまるで浮世絵のような松山太夫(右/中村壱太郎)と椀久。

「椀久も忠兵衛と同じで闇をかかえながらも、暗くならずに趣向としての、最後の苦悩シーンまでの踊りの中で、幻として消えて行くという感じの孤独というか淋しさという影を非常によく表していました」と、犬丸さん。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート美しいふたりの踊りに、会場からは溜息が漏れます。

二演目通して観ると、心の中にぽっかり穴が空いた若者二人という感じでうまく話が通っていました。相手役を勤めた壱太郎さんとも息の合ったコンビでよく似合っていました。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート今後も期待高まる名コンビ。

「壱太郎さんとしても、同じ年代くらいの役者で上方のものができる若手がなかなかいないですから、ちょうど同世代の若者として、とてもいい顔合わせになると思いますよ」と、犬丸さん。

おまけ画像!

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポートカーテンコールの感謝の気持ちを込めたハグ。

幕が降りて劇場が拍手喝采の中、カーテンコールで二人が登場したとき、感極まって思わず松山太夫をハグする椀久!微笑ましいです。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポートはい。楽屋でもこんなふうに仲良しのふたり。

歌舞伎界のホープ!尾上右近さんの自主公演「研の會」徹底レポート

こちらは、劇場のグッズ売り場でゲットしたカレーです!! カレー大好きのケンケンが試食、監修した遊び心満載のビーフカレーだということでつい購入(でも、もったいなくて食べられません)。

そして、「研の會」のパンフレットには、なんと来年、第五回「研の會」開催決定の告知がありました!東京、京都、二都市開催だそうです。楽しみですね!!!

●京都芸術劇場春秋座/2019年8月28日(水)、29日(木)
●国立劇場小劇場/2019年9月1日(日)、2日(月)

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文/新居典子 撮影/桑田絵梨

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尾上右近の日本文化入門_INTOJapaaaaN