初詣など折に触れ訪れる神社。気がつくと、神社について、参拝の作法について、なんとなく「知っているつもり」になっていませんか? そこで、最低限知っておきたいこと「参拝編」をまとめてご紹介します。これで神様とのいい御縁が結べるはず!
◆お話をうかがったのは…
作家・ジャーナリスト 山村明義さん
約20年前から全国の約5000社の神社を参拝し、約1000人の神職を取材。「日本最古の思想文化である神道を、現代にわかりやすく伝えること」を目標に活動を続ける。平成24年には「神道文化賞」を受賞(財団法人 神道文化会)。『神道と日本人』(新潮社)、『本当はすごい神道』(宝島社新書)など著書多数。
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参拝にまつわる素朴な疑問10
1 初詣は有名神社に詣でるほうが効果が高いのですか?
初詣に遠方の有名神社へ出向くようになったのは、明治時代になってから。鉄道など交通網が発達し、鉄道会社が沿線の神社に積極的に参拝誘致を行ったためといわれています。それまで、庶民にとってのお正月は歳神を迎え、家で静かに過ごすものでした。家の前に門松を飾るのも、歳神の依り代とするためです。あなたをいちばんに見守ってくださっているのは、氏神と、その土地を守る産土神です。初詣はまずご先祖様や近所の神社にご参拝を。
2 通常のお参りと拝殿に昇って祈願をするのとの違いはなんですか?
拝殿に昇ってお参りすることを「昇殿参拝」といい、正式な参拝方法です。拝殿の前でお参りするのは、あくまでも略式。神様により近づけるのが昇殿参拝です。
正式参拝では、お賽銭の代わりに「玉串(たまぐし)料」を奉納します。金額は神社によって異なりますが、平均して3千~5千円。神職によって祝詞が奏上された後、神様に玉串を捧げ、祈願します。玉串を捧げると、神様が喜ばれるといいます。年始に、清々しい緊張感をぜひ味わってください。
3 お賽銭に相場はあるのでしょうか?
相場はありませんし、より多く入れたほうが願いが叶うというものでもありません。もともと、お賽銭は刈り入れたばかりの米でした。秋、無事に収穫を終えたことを神様に感謝して、新米を白紙に包み、「おひねり」としてお供えしたのです。賽銭箱に乱暴に投げ入れている人をよく見かけますが、本来はお供えするもの。初詣など参拝客が多くて賽銭箱に近づけない場合は少々許されるとして、できる限り丁重に扱うべきものです。
4 恵方はどうやって決まるのですか?
「恵方(えほう)」とはその年に歳神(恵方神)がいる方角。甲・己が付く年は寅卯(とらう)の方位、丙(へい)・辛(しん)・戊(ぼ)・癸(き)が付く年は巳午(みうま)、庚(こう)・乙が付く年は申酉(さるとり)、壬(じん)・丁(てい)が付く年は亥子(いね)と、それぞれ方位が定められています。恵方参りは、自分にとって恵方の方角にあたる神社にお参りするもの。江戸時代、関西の一部で行われていたものが、徐々に全国に広まったものです。平成26年は甲午(きのえうま)の年にあたり、寅卯の方位(東北東)が恵方となります。自宅の住所を入力すると、地図上に恵方が表示されるサイトやアプリもあります。
産土(うぶすな)の神社が恵方にあたらない場合、恵方の方角になる所まで移動して、あらためて神社を目ざすという方法もありますが、私個人はそこまで方角を気にする必要はないのではないかと思います。産土神に新年のご挨拶をきちんとすることのほうが重要です。
2014年の恵方は東北東。外側の円は十干(じっかん)と十二支を合わせたもの。「干支」はここからきている。十干の中でも色づけされている「甲・丙・庚・壬」は「陽干(ようかん)」とされ、恵方もこれらによって決められている。内側の円は西洋16方位。
5 手水の正しい使い方を教えてください
日本神話は、黄泉の国から戻った伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が「穢れてしまった」と言い、衣服を脱ぎ棄てると、海に浸かって禊をしたと伝えます。日本人の穢れに対する概念、世界に誇る清潔好きはここに始まるのかもしれません。本来、海や川に全身を浸し清めていたものを簡略化した形が、現在の手水になります。基本的に何事にもおおらかなのが神道。気にしすぎる必要はありませんが、柄杓に口をつけるのだけは慎みましょう。
一、柄杓を右手で取り、左手を清める。
二、柄杓を左手に持ち替え、右手を清める。
三、柄杓をまた右手に持ち替え、左手に受けた水で口をすすぎ、静かに吐き出す。
四、左手を清めたら、両手で柄杓を持ち、垂直にする。残った水が柄を伝って落ちるようにして、柄を清める。ここまでを1杯の水で行う。
6 「二礼二拍手一礼」「二礼四拍手一礼」など、神社によって拍手の数が違うのはどうしてですか?
出雲大社や彌彦(やひこ)神社(新潟県)では四拍手。伊勢神宮では、神職に限り、“八開手(やひらで)”といって8回、特殊な拍手を打ちます。それぞれの神社の拝礼作法ですが、今は一般的に2回に簡略化され、拍手が少なくなりました。二礼した後、一度左右の手のひらをぴったりと合わせてから、右をやや下にずらし拍手するのが望ましいとされています。拍手には、神様への称賛の意味があるともいわれます。心を込めて、拍手を打ってください。
7 おみくじを2回引くのはルール違反?
おみくじが神社で出されるようになったのは鎌倉時代。政治に利用されることが多かった分、その役割は重かったといえます。明治9年、熊本で神風連(じんぷうれん)の乱という反乱が起きました。蜂起すべきかどうか占って、3回目でようやく「すべき」と出た結果でしたが、あえなく鎮圧された。よい卦が出るまでと何回も引くよりも、そこにある神様の言葉を深く受け止めることが大事だと思います。
8 古いお守りやお神札はどうすればいいのですか?
お神札は1年間、家の神棚などにお祀りしたら、年末に神社に納め、新しい1年用に新たなお神札をいただくのが望ましいとされます。お守りも基本的には同様ですが、願いが叶うまで身につけていても差し支えありません。お守りは常に持ち歩きます。複数持っても大丈夫。神様はけんかしません。神様の力が宿ったものですから、興味本位で開けたりしないこと。
9 お神札は家のどこに置くのがいいのでしょうか?
やはり望ましいのは神棚です。今は壁掛けタイプや洋室に合うものもありますので、新年に向けて用意してはいかがでしょう。場所としては「家の中心で明るく清らかな所」「南向き、または東向きの高い所」が適しているといわれます。壁に直接貼り付けるのは避けたほうが無難です。神棚の水を替え、毎日手を合わせる。神様はそんな習慣によって、家族を見守ってくれています。
10 喪中にお参りしてはいけないのですか?
神社にお参りしてはいけないのは「忌中」です。故人との関係により3日間ほどから50日までと日数は異なりますが、故人を偲ぶことに専念する期間とされます。忌中が明けると喪中になります。喪中は約1年間続くものですが、悲しみを乗り越え元の生活へと戻る努力をする期間。神社にお参りしても基本的に問題ありません。喪中時は「鳥居をくぐるのは避けるべき」というのも俗信です。
ー「和樂」2014年1・2月号別冊付録「ニッポンの名『神社』102への旅」よりー
イラスト/田渕周平