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2019.02.01

初心者でも手軽に作品を買える! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました

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ここ最近、美術展で作品を観るだけでなく、好きな作家の画集やグッズを購入したり、気軽に「スクラッチアート」「大人の塗り絵」などを試したりと、アートの楽しみ方が広がり、生活の中でより身近な存在になってきています。それでも、「アート作品を購入する」となると、まだまだなんとなく尻込みしてしまいがち。「アパレル会社のベンチャー社長がバスキアを123億円で購入!」「海外のオークションでモネが史上最高の55億円で落札!」などと言われても、なんだか自分とは全く別世界の出来事のような気がしてきます。筆者も美術展に関しては、画廊で開催される小規模な個展も含めて毎年200展ほど通っていますが、作品購入となると全くの未知の世界なのです。

そんななか、日本美術を専門とする東京・京橋の大手画廊「加島美術」で、初心者でも楽しみながら日本美術を手軽に買える入札会イベント「廻-MEGURU-」が新たに始まりました。果たして、日本美術を買える最新の「入札会」とはどんな仕組みになっているのか、どれくらいの価格感なのか、アートオークション初心者を代表して、加島美術にお邪魔してきました!

加島美術の美術品入札会「廻」(めぐる)の「下見会」に参加してきた

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

加島美術で現在開催中の入札会「廻-MEGURU-」は、実は今回が初開催。以前にも加島美術では「七夕入札会」など単発のイベントとして不定期に同様の入札会が開催されていました。ここ最近の日本美術への関心の高まりや市場の活性化を受けて、美術品の「売り手」と「買い手」をよりわかりやすく結びつけ、年に2回「廻-MEGURU-」というタイトルで定期開催することになったそうです。

それでは早速会場内に入ってみましょう。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

1F、2Fと2フロアある加島美術・本社の展示スペースいっぱいに、日本画や茶道具・陶磁器などの工芸作品、書家や歴史上の有名人が残した書跡などが所狭しと並べられています。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

そして、商談スペースにはカタログや入札用の記入用紙などが置かれています。うーん、これをどう使ったらいいんだろう。特に深い予習をせず、全くの初心者として訪問したので、システムがまだよくわかりません。そこで、広報の後藤さんにお話をお伺いしてみました。

美術品入札会「廻」の仕組みとは

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
下見会場に設置された赤い入札箱。雰囲気がよく出ています!

「廻-MEGURU-」の本質は、日本美術を「売りたい」人と「買いたい」人をつなぐためのマーケットプレイスです。広報の後藤さんが示してくれたのが、加島美術のホームページにも掲載されているこの説明図です。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

見ていただくとわかりますが、まず「売り手」は、あらかじめ加島美術に相談し、最低入札希望価格を設定した上で年2回開催される「廻-MEGURU-」に作品を出品します。

一方、「買い手」は加島美術のホームページ上のオンラインカタログや冊子のカタログを見て、買いたい作品を探します。欲しい作品があれば、設定された約1ヶ月間の入札期間中、以下の4通りで入札が可能。

1 専用の入札用紙に作品名と金額を書いて郵送する
2 加島美術のホームページ上に用意された専用入力フォームに記入する
3 入札下見会で見てから、会場内の赤い投票箱に入札用紙を入れる
4 カタログの巻末についている申込書を使ってFAXで入札する

凄いですよねこの「どんな方法でもいいですよ!」と言わんばかりの間口の広さ。初心者にとってこういう親切対応は嬉しいところです。

入札が締め切られた翌日には加島美術のスタッフで開札作業が行われ、複数の希望者がいた場合は一番高い入札金額を入れた人が落札し、取引成立です。サザビーズやクリスティーズといった、欧米の大手オークションハウスが開催する、リアルタイムで購入金額を競り上げていく即断即決型のオークションではなく、官公庁が事業者向けに開催する「一般競争入札」に近いイメージですね。

試しに加島美術のホームページ上で設けられた「廻-MEGURU-」特設ページを見てみると、すでに1月初旬から今回の入札会への出展作品が最低入札価格付きでPDF形式で誰でも閲覧できるように公表されていました。これを見てみるだけでも面白いかもしれません。

ダウンロードはこちら

後藤さんによると、熱心な人は、最初にネットやカタログで欲しい作品を先にチェックしておいて、入札期間中の最後の1週間(1月28日~2月3日)までの「下見会」で本物を見てからじっくり判断する人も多いですよ、という話でした。中には、カタログを見ずに下見会にいきなり来て、その場で直感でサクッと入札していく豪快なお客さんもいるとのこと。それぞれ買い手のペースで自由に楽しんでもらえれば嬉しいです、とのことでした。

「下見会」のメリットは、直接至近距離で作品をチェックできること!

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話を聞いてからもう一度画廊内を落ち着いて見回してみると、美術館との違いが一つ明確に感じられる大きな違いがありました。

それは、展示されている作品のほぼ全てが、ガラスケースなしの「裸展示」で至近距離まで寄って鑑賞可能であること。まとまって一定期間展示する美術館だと、作品保護の観点から室内の照明を暗くした上で、ガラスケース越しの鑑賞を余儀なくされます。特に浮世絵や日本画など、日本美術の展示室は非常に暗いので、細部までしっかり観るには、双眼鏡や単眼鏡が必携です。短期間開催だからこそ実現できる贅沢な展示ですね。

また、画廊内のスペースの都合上約400作品ある出展作品全ては展示できないため、表に出ていない作品に関しては、スタッフにお願いすれば気軽に見せてくれます。ちょうど、1F受付横に、その場で絵画作品を掛けてチェックするためのスペースが設けられていました。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
展示されていない作品も、すぐに取り出せるよう箱に入って用意されていました。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
専用の道具を使って、こなれた手付きで作品を展示してくれます。

こんな感じで、スマートな所作で次々と作品を掛け変えて見せてくれます。今回は記事に映えるよう(?)若手イケメンスタッフ・藤田さんに登場してもらいました。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
工芸作品の横には専用の手袋も完備されています。

また、スタッフの立会いの下、茶道具や陶磁器などの工芸作品や彫刻作品を手にとってチェックすることも可能。専用の手袋をつけて手袋越しに手触りなども確認することができます。筆者も、ここで調子に乗って「浮世絵が見たいです」と後藤さんにお願いしてみたところ、応接室で今回出展されている全ての浮世絵作品を見せて頂けることに。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

どうですかこれ?かなり状態の良い歌川広重や喜多川歌麿、歌川国芳らの作品が出展されていますが、非常に明るい光源の下、ガラスケースなしの至近距離で観ると、約150~200年前の錦絵の発色の美しさをハッキリ見て取ることができます。美術館では、まずこの明るさ・距離で観ることができないので非常に眼福でした。

埋もれている作家は安く買えるかも?!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

ところで、カタログをパラパラ見ていると、作家名や作品状態によって値付けはピンキリですが、一様にかなり安く買えそうなことに気付かされます。今回は江戸後期頃から近現代の書画を中心として出展されていますが、美術館でよく見かける巨匠であっても、わずか数十万円程度で入札できてしまうのです。一番高い作品でもせいぜい高級車1台分程度の金額です。何億円もかかる西洋美術や現代アートの巨匠作品とは違い、日本美術は一桁安く買える・・・と噂では聞いていましたが、本当でした!

また、美術史上での人物評価と取引価格が必ずしも一致していないのも注目ポイントです。後藤さんによると、例えば近現代日本画なら「横山大観や東山魁夷、平山郁夫などは人気が高いので、小さな作品でも数百万になることもザラですが、実力はあっても残念ながら知名度が低くなってしまった作家などは、5万円や10万円で買えてしまうケースもよくあります」とのこと。

確かに、探してみると作家によって入札金額の格差が凄いのです。たとえば、大正時代に「三都三園」と称賛され、若手女流美人画家として人気の高かった上村松園と島成園の作品が共に展示されていたのを見て納得。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
島成園「美人図」(400,000円~)

現代でも人気作家として定期的に回顧展が開催される上村松園は小品でも200万円、300万円と簡単に高値がつきますが、島成園は最低入札価格わずか40万円から。軽く5倍以上の価格差がついています。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
木村武山「へちま」(450,000円~)

また、日本美術院黎明期から活躍し、岡倉天心の指導の下、横山大観や菱田春草らと茨城県・五浦でつらい修行時代を共に送った木村武山の作品も安いです。力の入った作品でもわずか45万円という安さ。1000万円クラスの高値で安定的に買い手がつく横山大観に対して、実力的には全く引けをとらないのにこの価格差は凄い!

観るだけでも楽しい「下見会」!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
前田玄以「消息幅」(80,000円~)/歴史上の有名人の書跡も! 豊臣秀吉政権の五奉行、前田玄以の珍しい書跡!

ところで、作品を買わなきゃ画廊には入れないの?と思うかもしれませんが、そんなことはありません。「普通に作品を見に来ていただくだけでもいいので、ぜひお越し下さい。日本美術の楽しさを少しでも感じて頂ければうれしいです」とのこと。

改めて色々作品を見てみましたが、知らない作家の作品と出会えたり、巨匠がリラックスして描いた軽妙洒脱な小品に面白さを見つけたり、かわいく描かれた小動物たちを近くで愛でたりと、気づいたら「下見」ではなく普通に美術館のように作品を楽しんでいました。

たとえば、筆者が個人的に気になった作品群ベスト5を挙げておきます。せっかくなので価格付きで紹介しておきますね。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
大橋翠石「雙豹之図」(※部分図)(600,000円~)/ネコ科の動物を描かせたら天下一品の、知る人ぞ知る動物画の名手・大橋翠石の作品。どことなく可愛さを感じます。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
鈴木其一「餝鎧図」(480,000円~)/奇想の系譜展でも出展される江戸琳派随一の個性派画家

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
長沢芦雪「海老図」(※部分図)(800,000円~)/画面を埋め尽くす巨大なエビはまさに奇想画家芦雪の十八番! インパクト抜群の作品

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
土方稲嶺「登龍門図」(400,000円~)/これまで見た中で一番激しい「鯉の滝登り」を描いた作品。しぶきを挙げて滝に立ち向かう勇ましい鯉の見応えが凄い!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!
河井寛次郎「呉洲扁壷赤青」(1,100,000円~)/程よい抽象性、美しい彩色、見た瞬間に河井寛次郎とわかる明確な個性!

様々な作家の作品がまんべんなく展示されているため、あまり聞いたことのないマイナーな作家でも、ハッとするような作品に出会えたりします。たとえ買わなかったとしても、自分の中でレパートリーが増えたような気分になれるので楽しいですよ。

今回の「廻」でのオススメ作品は?

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

そして、せっかくなので最後に今回の「廻-MEGURU-」でのお得な要注目作品をいくつかピックアップしてもらいました。最初は気軽に見繕ってもらおうと思ったのですが、翌日までじっくり練って、Excelのリストにしてメール添付で送って頂きました。「公開しても良いですよ」とのことなので、目の肥えた加島美術の社員さん特選の作品を、コメント付きでいくつか紹介しておきますね。価格と一緒に見ると、美術鑑賞とはまた違った楽しさがあります。

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!渡邊省亭「三社図」(250,000円~)/加島美術が強力にプッシュする渡辺省亭作品。底値からは上がってきましたがまだまだお手頃価格!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!田中一村「木蓮図」(580,000円~)/昨年、佐川美術館などで生誕110周年大型展で話題をさらった田中一村の掘り出し物!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!熊谷守一「金魚」(700,000円~)/鑑定書付き!珍しい熊谷守一の淡彩画!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!幕末三舟の三幅対作品(山岡鉄舟「忠臣以心殉君」、勝海舟「丈尺之水安能容萬斛之舟」、高橋泥舟「吹落蘆花雪満船」)(150,000円〜)/幕末遺墨鑑定委員会鑑定証書付きな上、三人揃ってこの価格はかなりの掘り出し物!

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!棟方志功「幾山河の柵」(400,000円~)/アートマーケットでは不動の人気を誇る棟方志功がこの価格はお得!こちらも鑑定書付き!

日本美術を「買う」ことでもっと身近な存在に

初心者でも手軽に作品を買える?! 加島美術が開催する美術品入札会「廻-MEGURU-」の入札会場を見てきました!

いろいろ楽しく見て回っているうちに、あっという間に90分が経過。下見会に参加してみて感じたのは、「あれ、これなら普通に作品が買えてしまうかも?!」という驚きでした。中には非常に高い作品もあるにはありますが、それでも現代アートのように億単位ではありません。そして、私たちが普段美術館でよく見かけるような、日本美術史に名を残す巨匠たちの作品であっても、大半の作品はわずか数十万円出せば買えてしまうのです。

そして、敷居が高く近寄りがたい古美術の取引を、初心者でも安心して参加できる「廻」の透明性の高いシステムは画期的でした。「ぜひ一度作品を購入してみて、暮らしの中に取り入れることで、日本美術をもっと身近な存在として感じてみて下さい。」と後藤さん。美術館でどうしても欲しい!という作家の作品を見つけたら、こういった入札で思い切って購入してみるのも面白そうですね。

文・撮影/齋藤久嗣

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。