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2016.03.01

三井記念美術館で開催されたお雛様に魅入られる【2016年 内覧会狂想曲】

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三井記念美術館「三井家のおひなさま 特集展示 三井家の薩摩焼」

会期 2016年2月6日(土)~4月3日(日)

三井記念美術館2

 春一番が吹き、梅の花も今を盛りと咲いています。梅の次は桃。うめももさくら、と春がやってきます。

 桃といえば、おひなさま。ということで、2月6日から東京日本橋の三井記念美術館で開催中の「三井家のおひなさま 特別展示 三井家の薩摩焼」展の模様をご報告いたします。

三井記念美術館

 そもそもひな飾りが今日のような形になってくるのは江戸時代はじめのこと。節句に、人形(ひとがた)を体の悪い部分にあて、それを流すなどして厄を落とした形代(かたしろ)の風習と、平安時代以来宮中などで行われていた「ひいなあそび」が結びつき、発展してきたのだと言われているようです。

 今回の展示の中でも見られる立雛(たちびな)は、そんな歴史を知ることができる、古い形式のひな人形。日本の文化史の奥深さを実感できるものといえるでしょう。

まさに圧巻!豪華絢爛なひな飾り

 今回の特別展の圧巻はなんといっても一番大きな展示室4に飾られた、豪華絢爛なひな飾りの数々です。特に中央に展示された段飾りは、ひときわの華やぎオーラを発しており、三井家の財力、そして多くの芸術家、工芸家、職人たちへのpatronageを続けてきたことで、日本の文化を強く支えてきた同家の存在の大きさを知ることができます。

 上の写真の、中央に展示されたひな人形は、北三井家十一代・高松氏の長女、浅野久子氏のもので、数年前までは実際に浅野家で飾られていたものだそうです。なんでも、その制作には「立派な家一軒分」の費用が投じられたということで、その期待に応えようとした職人たちの矜持と、その矜持に惜しみない支援をした三井家の存在の大きさを今更のように感じます。

三井記念美術館 image2

 このひな飾りには右側に、御所の紫宸殿になぞらえた御殿付きのひな人形が展示されており、こちらも見逃せないものです。御殿付きのひな人形といっても、現代ではあまり馴染みのないものですが、江戸時代後期以降、上方を中心に流行したものだそうです。

 確かに、昨今のひな人形、ひな飾りに慣れ親しんだものには、内裏様が二組付いていたり、五人囃子も二組付いていたり、豪華極まりないその姿には圧倒されるばかり。

 もうひとつ、これも昨今のひな飾りにはあまり見られないものとして、「犬筥(いぬばこ)」がいくつか展示されています。犬筥は、犬の形状をした雌雄一対のもので、嫁入りに際し持参し、初夜の枕元にもおかれました。犬は多産、安産の象徴。ひな飾りにも一緒に飾れたそうです。

 今回の展覧会では、ひな飾りだけでなく、春のこの時期にぴったりの数々の華やいだ茶道具も展示されています。貝合わせを使用した蛤香合など、見ているだけで心に春のうららかな光が溢れてきそうです。

三井記念美術館 image4

 そしてそして!  今回どうしても見逃してならないのが、樂家三代道入(ノンコウ)作の『赤楽茶碗 銘 鵺(ぬえ)』 2014年に重要文化財指定を受けた名茶碗。「鵺」という銘、そしてその命銘の由来となった刷毛で施された黒の斑紋の持つ独特の空気感! ぜひともじっくり鑑賞いただきたいと思います。

さすが三井家の薩摩焼

三井記念美術館3

 今回の展覧会の名前にも入っている「特別展示 三井家の薩摩焼」についても一言。薩摩焼といえば、金彩などが施された派手なものを思い起こす人が多いと思いますが、今回の展示の中には、それとは全くイメージを異にする、白薩摩もいくつも展示されています。

 そもそも豊臣秀吉の朝鮮出兵時に連れてこられた陶工によって、慶長年間に開窯した薩摩焼。変化が生まれるのは1900年のパリ万博。この時以降超絶技巧とも呼べる装飾を複雑に施し、派手に金彩した薩摩焼に人気が集まり、多くつくられるようになります。それゆえ、薩摩焼というと金彩のある派手なものを思い浮かべる人が多くなったというわけです。

 沈壽官造のものなど、貴重な薩摩焼の数々。三井家が所蔵してきた薩摩焼が、これだけ一挙に公開されるのは初めてということで、こちらも必見の特別展示となりました。

 一雨ごとに春の光が溢れるこの時期。華やかで幸福な気持ちになるおひなさまと三井家の至宝ともいえる茶道具や薩摩焼の数々を見に、三井記念美術館に足を運ばれてはいかがですか?

 会期は4月3日までです。