美しい金沢城や兼六園周辺に点在する美術館の数々。そしてお茶屋文化健在の茶屋街。1泊2日で金沢の“美”を堪能する、「日本美めぐり旅」の第一弾をお送りしましょう。(シリーズ化…を検討中!)
城下町金沢で1泊2日の旅
茶屋街や城下町風情と楽しむ武家美術の最高峰にほれぼれ
兼六園にお茶屋街、前田家の名宝から現代アートまで。古都・京都とは異なる美しさをたたえる金沢が今に伝える文化は、加賀百万石藩主・前田利家(まえだとしいえ)の入城に始まります。前田家が統治した約300年にわたり、この街はさまざまな美術工芸に研鑽をつみ、茶の湯や庭園、料亭など趣味文化を花開かせました。日本美に出合う美術館への旅・金沢編は、広坂(ひろさか)地区を中心にめぐるのがおすすめです。
「金沢市立中村記念美術館」と「石川県立美術館」に現代アートの「金沢21世紀美術館」、そして「兼六園(けんろくえん)」や「金沢城公園」。これらはすべても広坂交差点を中心にした一帯にあります。このあたりは美術ファンにうれしい見どころ密集地。小立野(こだつの)丘陵という水と緑に恵まれた台形型の地形で緑も多く、にぎやかな観光地にありながらゆったりした気分で歩けます。
金沢へ到着したらまずは辰巳用水の水音が響き、本多(ほんだ)の森に抱かれるようにして立つ「石川県立美術館」へ。前田家の美術品をはじめ、美術工芸に秀でた土地ならではのお宝が勢揃いの美術館です。ここでじっくり観賞したいのが、野々村仁清(ののむらにんせい)の『色絵雉香炉(いろえきじこうろ)』。黒壁にスポットライトというドラマチックに演出された空間での展示は、さすが国宝! さすが美術館を代表する作品!
ほかに、尾形光琳(おがたこうりん)の『蒔絵螺鈿野々宮図硯箱(まきえらでんののみやすずりばこ)』や俵屋宗達(たわらやそうたつ)の『槇檜図(まきひのきず)』、深いグリーンとブルーが競演する古九谷の名品『青手桜花散紋平鉢(あおでおうかちらしもんひらばち)』など、名画・名工・名器に加え、〝刀剣女子〟も震える武具・刀がざっくざくです。
写真/石川県立美術館所蔵の久隅守景『四季耕作図』より
「石川県立美術館」石川ゆかりの優れた美術工芸を紹介
美術工芸の盛んな土地に伝わる匠の技を、さまざまな美術品に見ることができる石川県。そんな地域性に富んだ美術品を収集するだけでなく、文化財の保存修復や技術者の育成をはかり、博物館的な研究を行うなど、活動は多岐にわたる。2016年3月26日(土)まで「婚礼調度の美」展を開催。2016年4月19日(火)~6月7日(火)までの会期では、写真の久隅守景『四季耕作図』(重要文化財)や、前田家名宝の数々がお目見えします。
石川県金沢市出羽町2-1 9時30分~18時(観覧券発券は17時30分まで、季節により開館時間が異なる場合あり) 無休(年末年始、展示替え期間は休館) コレクション展入場料360円(第1月曜は無料)、企画展入場料は展覧会によって異なる http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/
町中が屋外美術館のような金沢。生活の息遣いにさえ美意識が
そろそろ夕暮れ迫る時間。もうひと歩きするためにタクシーを拾って「ひがし茶屋街」や「主計町(かずえまち)茶屋街」へ。出格子(でごうし)や弁柄(べんがら)塗りの板塀、瓦をのせたひさしに揺れるのれんを眺めながら、加賀棒茶で人気の茶舗や漆器の店を覗いたり。〝ザ・美しきニッポンの町並み〟でのぶらぶら歩きも「日本美めぐり旅」に欠かせません。
さて、今夜は捕れたての魚と伝統野菜で一献、といきましょうか。
金沢立ち寄り案内1
「茶房一笑」「加賀棒茶」のふくよかな風味でひと休み
加賀藩の製茶奨励政策とともに歩んだ「丸八製茶場」。献上加賀棒茶でおなじみの同社が営む、ひがし茶屋街のお茶屋カフェがここ。格子越しに往来を眺めながら、香ばしいお茶とお菓子でひと息つきたいもの。ショップとギャラリーも併設しています。石川県金沢市東山1-26-13 10時~18時 月曜定休(祝日の場合は営業、翌日休業) ※棒茶、煎茶、玉露、抹茶、各1,080円(お菓子付き)
金沢立ち寄り案内2
「喜八工房」現代の生活に溶け込むモダンデザインの漆器も
安土桃山時代を起源に、木地(きじ)をろくそでひく独特の製法で発展してきた山中漆器(やまなかしっき)。「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」「木地の山中」といわれるように、特色が異なる漆器の各産地が石川の工芸を支えてきました。その山中一の老舗である「喜八工房」の金沢店では、継承されてきた技術と現代の生活に沿うデザイン力を発揮。日常漆器を手ごろな価格で提供しています。石川県金沢市東山1-26-7 10時~18時 不定休
金沢立ち寄り案内3
「味處 大工町 よし村」加賀野菜と旬の魚をカウンターで!
金沢の季節の味をいただくならここ。加賀野菜を使った素材の個性もしっかり味わえる品、郷土料理の治部煮(じぶに)、お造りから鍋料理とさまざまに楽しむ日本海の魚介。食の都金沢の実力を存分に楽しめます。石川県金沢市大工町22 11時30分~14時、17時~22時30分(L.O.22時) 日曜定休 ※昼は4,000円からのミニ懐石などを予約のみで営業、夜のコースは6,000円から。
写真/和漢洋を混用した明治建築の神門は、金沢城とともに町のシンボル
旅の二日目は神社参拝で清々しくスタート
翌朝は、前田利家・松子夫妻を祀る尾山神社から。1日を神社参りで始めるのは、なんともすがすがしいものです。和漢洋を混用した明治建築の神門(写真上)は、金沢城とともに町のシンボルです。
尾山神社からぶらぶら歩いたら、再び広坂エリアの「金沢市立中村記念美術館」へ。 加賀藩主・前田家の膨大な名宝にあちこちで出合える金沢ですが、前田利家の金沢入城から約300年、前田家は政治経済のみならず、芸術や芸能など文化の発展にも尽くしました。特に蒔絵や金工、九谷焼(くたにやき)や加賀友禅(かがゆうぜん)などの工芸品は、加賀藩が手厚く保護育成を図ったため、素晴しい美術品と技術が残りました。
それらを観賞できるのが、金沢の名士・中村栄俊(なかむらえいしゅん)が収集した美術品を所蔵する「金沢市立中村記念美術館」です。茶人でもあった氏のコレクションは、古九谷(こくたに)や加賀蒔絵(かがまきえ)など見応えのある茶道具が豊富。敷地内には旧邸宅や茶室もあり、金沢の茶の湯の世界に浸ることができます。
美術工芸から骨董、風情ある町並みに加賀料理。金沢の美意識を満喫する2日間
「金沢市立中村記念美術館」で茶の湯の世界などを堪能したら、「金沢21世紀美術館」や骨董店、雑貨店などを覗いてみて。日本美術や武家美術とは異なる、現代アートや用の美に触れて、旅を締めくくるとしましょう。金沢駅に戻る前には街の台所、近江町市場というお楽しみも残っています。北陸の幸を土産に復路新幹線へと乗り込んだら、「日本美めぐり旅」の金沢編も終了です。
撮影/佐藤敏和