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Culture
2020.05.29

プレイボーイでいられる理由に「政治」あり?政治家・光源氏のシビアな一面【源氏物語】

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光源氏と聞くと、数え切れないほどの女性と恋をした「プレイボーイ」という印象が強いのではないでしょうか。とはいえ、光源氏の本業(?)は、恋愛のスペシャリストではなく、政治家です。

政治家として頂点に上り詰めた光源氏は、自分自身や家族、周囲の人々に対して非常にシビアな一面を見せています。ロマンチックなだけじゃない、政治家として生きる光源氏の顔をご紹介しましょう。

若き日の失敗に学ぶ、政治家光源氏

キラキラ輝く「陽キャ」で「リア充」の光源氏ですが、若き日は政治家としてどん底に落ちたことがありました。

父帝亡き後、光源氏は政治的に弱い立場となり、敵対する右大臣一派の勢力に気圧されてしまいます。まだ若かった光源氏は、そんな自分の境遇や右大臣一派に反発するように、右大臣の娘・朧月夜(おぼろづきよ)に手を出してしまうのです。これがバレたのをきっかけに、光源氏は一時政治から身を引き、遠く離れた須磨の地で暮らしました。

政敵の娘・朧月夜との出会い
『源氏大和絵鑑』菱河師宣 画 国立国会図書館デジタルコレクションより

ものごとがうまくいかない鬱憤を晴らすかのように、恋に溺れ荒れていた当時の光源氏。そんな姿から、まだまだ政治家としては未熟な若さが感じられます。このような失敗もあり、その後の光源氏は政治家としてシビアに生きていきます。

息子の地位安定のために恋を諦める

光源氏は、父帝の妻・藤壺(ふじつぼ)に恋し、こっそり密会して子どもまでもうけます。そして世間にはこのことを悟られないまま、息子は東宮(次期天皇)に即位しました。しかし、もし東宮が不倫の末の子だとバレたら、光源氏と藤壺はもちろん、東宮の地位まで危うくなってしまいます。それにもかかわらず、若き光源氏は「なんとかして藤壺と逢いたい」と危険な恋にのめり込んでいくのです。

しかし、「母は強し」と言うのでしょうか。藤壺は、光源氏の狂ったような恋に危険を感じ、東宮を守るために出家しました。出家するということは、恋はもちろん、この世のあらゆる縁を断ち切るということ。これに光源氏は絶望しますが、同時に政治家として、そして父としての自覚が芽生え、「東宮を守る」という使命を全うします。

息子の地位安定のためには、一世一代の恋も諦める。光源氏にはそんな一面もあるのです。

実母から幼い娘を奪う

光源氏には、明石の御方(あかしのおんかた)との間に娘がいました。言い方は悪いですが、平安時代当時、娘は政治において非常に重要な道具でした。娘が天皇に嫁ぎ男の子を産めば、その子が将来天皇になり、自分が天皇のおじいちゃんとして権力を持てる可能性があるからです。

天皇に嫁ぐ娘には、それ相応の身分が必要です。明石の御方は少し身分が低い女性だったため、光源氏の娘の母としては物足りない。そこで光源氏は、明石の御方の娘を、事実上の正妻で身分の高い紫の上(むらさきのうえ)に育てさせることにしたのです。

この時、娘はまだ言葉も上手に喋れないほど幼く、一番かわいらしい時期でした。そんな娘と離れ離れになる明石の御方は、どれほど辛かったことでしょう。別れの日、母と離れて一人車に乗った娘は「乗りたまへ(訳:お母さんも乗ってくださいな)」と、母の袖を引っ張って無邪気に言うのです。

明石の御方から娘を引き取りに来た光源氏
『源氏大和絵鑑』菱河師宣 画 国立国会図書館デジタルコレクションより

これに涙が止まらない明石の御方。娘を迎えに行った光源氏も、胸が張り裂けるほど辛く悲しく、「何て自分は罪作りなのだ」とうなだれるのです。

しかし、将来わが娘を天皇の后(きさき)にするために、これは致し方がないこと。光源氏は心を鬼にして、実母と娘を引き離したのです。

息子を実力の伴った政治家にするため、厳しく育てる

光源氏には、夕霧という息子がいます。光源氏の七光りを受ける夕霧は、何の苦労もなくエリートコースに進めるはずでした。しかし、光源氏は息子を「二世」として甘やかすのではなく、政治家としての実力をしっかり身に着けさせようと考えます。

これは今も昔も変わらないことですが、名前ばかりが先立って中身の伴わない政治家は、表面上はペコペコされても、心の奥底では周囲に軽蔑されることが光源氏にはわかっていたからです。

そのため、夕霧は当初身分にそぐわない低い官位に叙され、本人や周囲は不満を漏らしました。しかし、夕霧はたちまち頭角を現し、官位としては最高位の太政大臣にまで上り詰めたのです。

良く思わないヤツにはマウンティング

光源氏最愛の妻に、紫の上という女性がいました。紫の上の父は式部卿宮(しきぶきょうのみや)という男性。式部卿宮は、正妻の子でない紫の上をかわいがっていませんでした。さらに、光源氏が政治から追放されていた時期には、世間体を気にして関わりをもとうとしなかったため、光源氏から良く思われていませんでした。

かといって、高貴で上品な光源氏が、表立って意地悪や仕返しをすることはありません。それと気づかれない「マウンティング」で相手と自分の立場の差をわからせてやるのが、光源氏のやり方です。

その詳細はこうです。光源氏は、式部卿宮の50歳の誕生日祝いを盛大に開きました。表向きは、大切な妻・紫の上の父上をもてなすという理由で。しかしこれは、かわいがらなかった紫の上が今幸せであることと、これだけ盛大なお祝いが開ける光源氏の力を見せつけてやるためだったのです。

プレイボーイでいられる理由に「政治」あり

プレイボーイと聞いて、どんな男性を想像しますか?女性をとっかえひっかえ、ちゃらちゃら遊んでいる男……。それもそうかもしれませんが、光源氏がプレイボーイでいられる理由に「政治家としての手腕」が大いに関係していたでしょう。

平安時代、女性は男性の支援がなければ生きていくことができませんでした。そのため、お金も身分もない男と結婚しては、女性は幸せにはなれなかったのです。

光源氏が多くの女性と恋ができたのは、彼に権力や財力があったから。実際に光源氏は、身寄りや後ろ盾のない女性を何人も引き取っています。光源氏がモテたのは、決して“イケメン”という理由だけではありません。

今回ご紹介した場面以外にも、例えば『絵合(えあわせ)』の巻などで、光源氏が政治家としての一面を見せるシーンがいくつもあります。彼の恋愛には、「政治」がつきまとっていることも多く、政治的な視点から光源氏を見てみるのも面白いでしょう。

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。