和樂web名物、妄想インタビュー。
時を戻して、昔の有名人に会いに行こう! という企画。
そう、すべてはここから始まった……。
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そして、「和樂(web)砲」の呼び名が生まれたのが、この記事。
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和樂webよ、流れ流れてどこへゆく……。
さて、今回は江戸時代の戯作者・井原西鶴(いはら さいかく)さんにアポを取りました。
ごめんくださいませ~。
井原西鶴さんプロフィール
井原西鶴さん(以降、西鶴):はい、どうぞ。ぼろ家ですがね。
ー いえいえ。失礼いたします。あ、こちらほんの心ばかりですが、よろしければお納めください。
すべてが職人の手仕事!葛飾北斎の傑作『冨嶽三十六景』でスタイリッシュな「北斎屛風」つくりました!
西鶴:これはご丁寧にありがとうございます。って、おいおい、こりゃあすげえな。
ー うふふ。さっそくですが、まずは経歴と過去作などをご紹介いただければと思います。
井原西鶴さんってこんな人
西鶴:寛永19(1642)年に生まれた。詳細は秘密だ。15歳ごろから俳諧をたしなみ、西山宗因(にしやま そういん)に学んだ。大変な速度で詠めるのだぞ? 1日に2万3500句詠んだこともある。
ー それはすごいですね! 約3.7秒に1句のペースです。だけど、1日の間には寝ている時間とかもあるから……うーん、想像もつかない速さ!
西鶴:であろう? ふふん。
ー 聞くところによると、25歳で亡くなった奥様のために「独吟一日千句」興行されたとか。
西鶴:……うん。剃髪して僧形になったのも、その年の冬だ。
ー 大変な愛妻家だったのですね。
西鶴:(寂しそうにうつむいている)
ー (しまった……落ち込ませちゃった。本当につらい思い出だったんだな)あ、あの~……、天和2(1682)年に発表された『好色一代男(こうしょくいちだいおとこ)』が大変な人気を博しましたね!
西鶴:……うん。あれが私の浮世草紙第1作なのだが、俳人はじめ広い層に大好評でな、版も重ねた。『諸艶大鑑・別称《好色二代男》』、『西鶴諸国はなし』『椀久一世の物語』『好色五人女』『好色一代女』『本朝二十不孝』と次々に出版してきている。武士や町人の生活を客観的に捉えて描き出したと、評判なのだ。
ー ベストセラー作家ですね!(よかった、ご機嫌直ったかな……)
西鶴:うんうん。でな、辞世の句はこんな風にしようかと思っているんだ。
浮世の月 見過ごしにけり 末二年
(人生50年というけれど、それをうっかり2年も超えて、楽しいこの世の月を見てしまったよ)
ー あわわ……まだまだずっと後に発表してくださいね!
西鶴:お前さんがたの世界では、もうずっと前でしょうけれどもね。
問題の新作『男色大鏡』
ー では、お伝えしていましたように、新作『男色大鏡(なんしょくおおかがみ)』についてうかがっていきたいと思います。
西鶴:うん。
ー 冒頭で「女性は美少年の間に合わせにすぎないのだ」と書かれていますが、これはなんといいますか、少々、女性蔑視が過ぎるといいますか……。
西鶴:まずは最後まで読め。おたくの版元、小学館で出している『井原西鶴集』の2巻には解説も書かれている。『日本古典文学全集39』、だ。
ー ご紹介ありがとうございます! はい、拝読いたしました!
西鶴:…………ならば、分かるだろう。
ー ええ。言わんとされていることは何となく。
西鶴:じゃあ聞かんでもよかろう。
ー まあ。ですが、そこはやはりご本人からお聞きしたいというところでして。
西鶴:…………お前さんは鬼か。
ー どちらかというと「おに」より「お肉」かと(腹つづみ)。
西鶴:はあ、そうかえ(呆れ顔)。
『男色大鏡』とは何ぞや!?
ー 『男色大鏡』は全8巻から成り、前半4巻は武家・町人・僧侶の男性同士の、後半5巻は歌舞伎の若衆の恋愛を描いたお話ですよね。前半、武家ならではの悲哀というか、ちょっと凄惨な場面なんかもあって、怖かったです……。
西鶴:通読した上で来ているんなら、まあ話だけは聞こうかね。
ー ありがとうございます!
西鶴:はいはい。
ー 先ほどうかがったように愛妻家ですし、男女の恋愛を扱った『好色シリーズ』を多数書かれていますし、別に女性がめっぽう苦手、ということでもないのですよね?
西鶴:無論。だいたいね、女性が「間に合わせ」なわけがなかろうよ。ちっと考えれば分かるだろう。
ー ではなぜ、女性を敵に回すような、あんな過激な発言を?
西鶴:お前さん、本を読むときってなあ何を求めるかい?
ー え、まさかの質問返し!? ええと、その世界に浸って、ほんのひと時、現実世界から離れて……。
西鶴:だろうよ。だったら分かるだろう。
ー ……取材にうかがうということでご著書や解説を読みましたから、個人的には一応理解できます。が、それでは読者に伝わりません。
西鶴:読者に娯楽を提供するのが、作家の務めだろうがよ。ああ書いときゃあ喜ぶだろう。
ー 読者に対するサービス精神だと。
西鶴:おうよ。
ー サービス、なんですか。
西鶴:そうだって言ってるだろう。過激な発言、毒舌はみんな好きだろう?
ー みんな、かどうかは分かりませんが、まあ毒舌タレントは人気ですねえ。でも、やっぱり女性を軽視した発言というのは問題です。
西鶴:話の対象が女性でも男性でもその他のことについてでも、相手を軽視した発言が問題なんだろうよ。だが、私は別の意図からこれを書いた。そして、『男色大鏡』はそのへんの認識がお前さんがたの時代とは違う、江戸時代の作品なのよ。
ー ええ~。その通りなのかもしれませんが、なんだか釈然としません。
西鶴:でもってお前さん、○○砲、って銘打つにはちいっと手ぬるすぎないかね、さっきから。これも読者のことを考えて、きちんと構成していくのがプロの仕事ってもんよ。自分をいい子に見せようなんざ、素人のやることよ。
ー う、ごもっともっ……! 西鶴先生を見習って精進いたします!
西鶴:返り討ちさね。かっかっか。
ー む、無念……。
西鶴:ノリだけはまあ素人に毛が生えているかねえ。かっかっか。
と、そんなこんなで西鶴先生へのインタビューが終わりました。一方的にやり込められた感しか残りません。くっそう。
しかし西鶴先生、○○砲についてずいぶんお詳しいですねえ。どうせ万年ぺーぺーですよ~だ。
……あれ? なにかずっと引っかかりを感じていたのですが……。
「どうして弊社の昭和48年の出版物をご存知なのですか?」
!!!!!?????
も・し・や…………!?
あとがき
井原西鶴は江戸前期の1642-93(寛永19-元禄6)に活躍した俳人・浮世草子作家です。
出自や家系は不明ですが、一説に大坂の富裕な商家に生まれ、本名を平山藤五(ひらやま とうご)といったと伝わります。三十四歳で妻に先立たれた後は、独り寂しい日々を送ったといわれています。
『男色大鏡』作中ではけちょんけちょんにけなしている男女の恋を描いた『好色一代男』『好色一代女』『好色五人女』など「好色もの」の作者として知られ、この作品も好色物シリーズの総まとめのような形で企画されたと見られています。
西鶴はこの後も『武道伝来記』『日本永代蔵』『武家義理物語』『嵐無常物語』『色里三所世帯』『新可笑記』『好色盛衰記』『世間胸算用』『西鶴置土産』など多数の作品を発表し、52歳で亡くなりました。
『男色大鏡』は、過去作と対応するような筋を組み込んだり、極端な発言やデフォルメで読者を笑わせようとしたり、といった箇所が多いとされ、それがそのまま西鶴の本心というわけではないようです。現代でもエンターテインメントに毒舌家の需要があるのと似た感覚なのかもしれませんね。でも、蔑視発言は現代において絶対NGです。
参考文献
・『日本古典文学全集39 井原西鶴集2』小学館
・『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館
・『世界大百科事典』平凡社
・『デジタル大辞泉』小学館
・『国史大辞典』吉川弘文館
アイキャッチ画像:井原西鶴『男色大鏡 8巻』国立国会図書館デジタルコレクションより