Craft
2016.07.20

トミー・リージョーンズも使ってる!? 京都「有次」の庖丁はキレッキレだった!

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 夏の京都を彩る祇園祭も、煎茶献茶祭や琵琶の奉納、後祭山鉾巡行、狂言奉納など、7月31日までまだまだ見どころ楽しみどころは続きます。
 そんな京都の料亭から家庭まで多くの台所を支えるのが、庖丁をはじめとする調理道具を扱う『有次』。カリスマシェフのアラン・デュカスも、あのカトリーヌ・ドヌーヴも、名優トミー・リージョーンズも有次のファンだとか。それでは、日本刀づくりのわざを受け継ぐ有次の庖丁物語第2弾をお届けしましょう。「有次庖丁研ぎの極意」がわかる動画もありますよ!

庖丁
有次庖丁物語其の四●有次の名品「庖丁」

室町時代から続く刀鍛冶のわざが
ここに集結しています!

 刀鍛冶(かたなかじ)から庖丁、手づくりの料理道具へと、いくつもの時代を超えて進化をとげてきた有次の道具の数々。有次のものづくりの姿勢を体現するいくつもの代表作のなかから、今回は庖丁を紹介しましょう。
「ナイフが舶来し、それが日本刀として独自に発達をとげて日本は世界トップレベルの鍛冶の技術を誇るようになりました。お客様の半分は海外の方ですが、日本刀の切れ味を求めてうちの庖丁を求めていただいているのでしょう」と語る、18代当主・寺久保進一朗さん。
 有次の創業者、藤原有次は刀鍛冶のいわば〝親方〟。一子相伝のわざが現在は庖丁に注ぎ込まれています。とはいえ、それは特別な鉄や鋼(はがね)を使うことではありません。江戸から明治にかけて完成された庖丁の型を「日本人の手に合うように考えぬかれたもの」と尊重し、変えずにいること。これが〝有次の庖丁〟を別格にしているのです。
 とはいえ、守りだけでなく攻めの姿勢も。18年ほど前に、鋼の刃をステンレスで挟み込んだ構造の洋庖丁「平常一品(へいじょういっぴん)」を発表。鉄と鋼でつくる庖丁に固くこだわってきた有次が、一般客の熱い要望に応え、手入れのしやすい庖丁を生みました。企画から発売までにかかったのは、実に10年。「10年、20年経ったあとでも丈夫な庖丁であるか」は、真摯にものづくりを続けてきた有次にとって、大きな判断基準だったと言います。
 有次は、家庭向けでも長くて大きい庖丁をすすめています。その大きくてちょっと重たい庖丁を大きく動かせば、刃の厚みが重みとなり、素材の繊維をつぶさず気持ちよく切れることに驚くはず。庖丁のランクは、「本焼(ほんやき)」「上製」「特製」「登録」の4段階ありますが、家庭ではいちばん下のランクの「登録」で十分とか。
 使い続けることで料理の腕が格段に上がるから、手放せない。料理人はもとより、素人が使ってこそ、その実力が発揮される――私たちこそ使うべきなのが、有次の庖丁なのです。

有次庖丁物語其の五●〝有次愛〟が一冊の本になりました!

有次庖丁のイロハ…すべてがここに!
英語表記もあるので外国人にも!

 さて、切れ味どころか料理も美味しくなるという有次の庖丁、興味がわいてきませんか? 今どきホームページももたず(失礼!)、通販もせず、出店しているデパートはあるけれどいずれにしても店頭販売のみという昔ながらの商売を続ける有次。今度の京都滞在の折には錦市場の有次へ…の前に、ここで1冊の本をご紹介しましょう。

9784093884792

 タイトルは『京都・有次の庖丁案内』。著者は有次の庖丁に魅せられた女性、藤田優(ふじたゆう)さん。『和樂』でも、ていねいな取材と楽しい誌面づくりで活躍する編集・ライターです。

「生活道具をメンテナンスすることは暮らしを整えること」
有次が伝えたいのはそういうことなのです

 本をつくることになったきっかけは、3年前の和樂の有次特集。企画を練ったり記事を書くにあたり、取材対象を使ったり味わったり観賞したり楽しんだり…は編集者やライターにとって当たり前のことですが、藤田さんは取材時に有次の社長が語った「包丁が社会に対してできることは山ほどある」という言葉に心をつかまれ、「自分の道具の世話ができるようになったら生活の質が上がる」などの言葉を確かめたくて、まずは1本の三徳庖丁を買い求めたのだとか。そこからはじまった彼女の〝有次庖丁愛〟が、この『京都・有次の庖丁案内』となって書店に並ぶことになりました。
 以下、著者・藤田優さんからのコメントをご紹介しましょう。
「この本の第一の特徴は、有次直伝の〝研ぎ方〟が文章化・イラスト化(一部写真化)されたこと。イラストを見ながら、有次が理想とする研ぎ方で自分の庖丁を研ぐことができます。今や有次錦店の研ぎ教室は半年待ちという人気ぶり。研ぎの依頼も次から次へと舞い込むので、店だけに頼るのではなく自分で研ぎましょう、という提案をしています。庖丁を研ぐというのは、やったことのない人には難しく感じるかもしれませんが、手を動かしてみれば実は単純で簡単な行為。脂の強い青魚を切っても、肉を切ったあとでも、ささっと研げば切れ味が復活します。切れ味が料理の味や見映えを決めるのは、実感ずみの人も多いでしょう。
 生活道具を自分でメンテナンスするのは、日本人が昔からしてきたことです。その繰り返しが生活のリズムにもなり、自分の日常を支え、暮らしが整うのだと有次の社長さんは言っています。そんなこともあって、自分で研ぐという提案のページをつくることは、本の制作にあたってとても大事にしたいことでした。
 本書の中には、コラムとして『瓢亭』の15代当主・高橋義弘さんにも登場いただいていますが、ご自身が厨房に立つ日は必ず、夜ひとり厨房でその日の仕事を振り返りながら庖丁を研ぐ、といった話も入っています。また、有次の三徳庖丁を4本持ち、2本を定期的に研ぎに出し、2本のうち1本をまず切ったり刻んだりするのに使い、切れ味が鈍くなってきたら皮むきやくり抜きに使う――という一般女性の例も。有次はプロだけでなく、個人に寄りそう庖丁の提案をしているので、社長や店の人々、職人さんなどへの取材を通して感じた、使う人のなかに道具愛が育つ、ということも本にしたかったのです」
IMG_1979 (1)京都・有次の庖丁案内』(藤田優著・本体1500円・小学館刊)
有次の庖丁がズラ~リ!このページの裏にある錦店の俯瞰イラストも楽しい!

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有次秘伝の庖丁研ぎを公開!
ちょっと長いですが…見入ってしまいます!

 有次当主による、庖丁の研ぎ方完全マニュアル動画です。シュッシュッシュッと、庖丁を研ぐ音もなんだか心地いいのです。

店舗2枚

有次 錦店

●京都市中京区錦小路御幸町西入ル鍛冶屋町219 9時~17時30分 1月1日~3日休業 ※錦店のほか、京都と日本橋の髙島屋、阪急うめだ本店でも一部商品の取り扱いあり。

撮影/篠原宏明