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2016.10.28

若冲生誕300年を締めくくる佐野市吉澤記念美術館の《菜蟲譜(さいちゅうふ)》

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若冲イヤーも残すところあとわずか、関東エリアで若冲を見る最後のチャンス!

2016年の日本美術界で最も話題を集めたのは、生誕300年という節目の年を迎えた伊藤若冲だったと言って異論はないでしょう。
 
入場まで2時間待ち、4時間待ちというニュースが話題になった東京都美術館の「若冲展」をはじめ、各地の美術館で催された特別展は多くの日本美術ファンで大にぎわい。まさに〝若冲イヤー〟の今年を締めくくる、関東エリアで最後のビッグ・イベントが、佐野市吉澤記念美術館で開催される特別企画展、東と西の蕪村[伊藤若冲《菜蟲譜》期間限定公開]です。

動植物を慈しむ心が表れている若冲唯一の絹本の絵巻物

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《菜蟲譜》は、若冲にとって唯一の絹本(けんぽん)着色の画巻。11mにおよぶ巻物を開いていくと、前半には四季の野菜や果物、後半になると蝶や虫、爬虫類などの小さな生物が次々に現れ、最後にはかわいいガマガエルが登場。約100種もの野菜や果物、約60種もの昆虫や爬虫類はどれも、どこかユーモラスでかわいらしく、青物問屋の主人であった若冲の、小さい命を慈しむような眼差しが感じられます。

実はこの《菜蟲譜》は、昭和2(1927)年10月に恩賜京都博物館(現京都国立博物館)で開催された展覧会「斗米庵(とべいあん)若冲画選」に展示されたのを最後に所在不明となり、幻の名作とされていた時期がありました。
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再び存在が明らかになったのは、展覧会から73年後の平成11(1999)年。栃木県佐野市の旧家・吉澤家が、伝来する美術品を町に寄贈するために蔵の調査を行っていたときに発見されたのです。

幻の名作と言われていた《菜蟲譜》は展覧会「斗米庵若冲画選」の図録でしか見ることができず、しかもそれは白黒印刷の部分図のみ。長い年月を経てようやく現れた実物はなんと、美しく彩色された長大な画巻で、初めて目にした人々がいかに驚き、感心したのかは想像に難くありません。

菜蟲譜 題字

《菜蟲譜》を改めて見てみると、巻頭には大坂の書家・福岡撫山(ふくおかぶざん)による題字が墨書され、巻末には大坂の詩人・細合半斎(ほそあいはんさい)による跋文(ばつぶん)があり、大きなトウガンの絵の中の落款(らっかん)「斗米庵米斗翁行年七十七歳画」から、若冲が数え77歳のころに描いたものとされます。
 
40代で完成した『動植綵絵』(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)の写実的で鮮烈な色彩から長い年月を経て描かれた《菜蟲譜》の野菜や果物、小さな生き物たちには、若冲が身につけた軽妙にして洒脱な味わいが凝縮されているかのようです。
菜蟲譜 跋文

平成11年の発見直後に応急的な補修が行われた《菜蟲譜》は、平成21(2009)年7月に国の重要文化財の指定を受けたあと、平成23~24(2011~2012)年にかけて本格修理が行われました。そして、昨年修理が完成した画像から2件の高精細の複製がつくられました。そのうち、紙本は2016年4月から常設展示されていて、最新技術でつくられた絹本が2016年に開催された特別企画展 東と西の蕪村【伊藤若冲《菜蟲譜》期間限定公開】で初めて公開されました。
菜蟲譜 落款

特別企画展 東と西の蕪村
【伊藤若冲《菜蟲譜》期間限定公開】(会期終了)

与謝蕪村(よさぶそん)と伊藤若冲はともに、1716年に生まれた江戸時代を代表する絵師。ふたりの生誕300年を記念して開催される展覧会では、今年、東京都美術館の「生誕300年 若冲展」で展示されて人気を集めた《菜蟲譜》をゆっくりじっくり鑑賞できるまたとないチャンス。会期中には東京文化財研究所との共同研究によって昨年新たに製作された複製の初披露も行われます。

若冲生誕300年を締めくくる佐野市吉澤記念美術館の《菜蟲譜(さいちゅうふ)》

もうひとりの与謝蕪村は「菜の花や月は東に日は西に」の句でおなじみの俳人であり、文人画(南画)や俳画を完成させた絵師。現在の大阪府に生まれ、20~30代にかけて関東に滞在して俳句や絵の基礎を築きました。関東に赴いた理由は、蕪村が師事した早野巴人(はやのはじん)のちの夜半亭宋阿(やはんていそうあ)が栃木県烏山出身であったとされ、今の茨城県の結城(ゆうき)や下館(しもだて)、栃木県の宇都宮(うつのみや)に住んでいた同門の仲間や縁者たちの支えがあったとか。本展では関東滞在の初期の作品や、初めて「蕪村」の号を用いた句集『宇都宮歳旦帖』などをはじめ、蕪村が上方に戻ってから最晩年にかけての絵画や俳諧の優品を展示。初公開の作品や資料、公開の機会が極めて少ない作品を目にすることができる貴重な機会です。 

佐野市立吉澤記念美術館

住所/栃木県佐野市葛生東1-14-30  
ホームページ 
会期/平成28年10月29日(土)~12月11日(日)(会期終了)
開館時間/9時30分~17時 
休館日/月曜(10月31日、11月7日、11月14日、11月21日、11月28日、12月5日)、祝日の翌日(11月4日、11月24日)
観覧料/一般510円(大学生以下・障害者手帳等をお持ちの方は観覧無料 ※学生証・障害者手帳等をご提示ください)