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2020.05.01

ダメって言われると余計に燃える!江戸の非合法コンテンツ「春画」のエロス

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エロスとは「生への欲求」を意味する言葉である。対するのが「タナトス(死への欲求)」。ここ日本には「生」をとことん追求した文化がある。それが「春画」だ。春画と聞いて何を思うか?ただのエロ本、卑猥なもの……。そんな見方をしている人が多いと思うが、実は日本の技術が集結した一流の作品なのである。

「生」への凄まじいパワーと、日本人の想像力・技術力が生み出した春画。その背景を知れば、春画への見方が大きく変わるだろう。

※記事中の画像は、適宜トリミングを施しています。

あの円山応挙も!春画は日本を代表する芸術家によって描かれた

春画には何が描かれているかというと、みなさんお察しのとおり「男女(同性同士も)の性行為」である。今の私たちの感覚では、そのような絵を著名な芸術家が描き賃金を得ていたとは考えにくいかもしれない。しかし、江戸時代には「版元から春画の依頼を受けてこそ一流」と言われるほど、非常に芸術性が高いものだったのだ。

画:鈴木春信 男性同士の性交の様子。一人は女性に見えるが女装した男性である。このような男性同士・女性同士の春画も多く描かれた。

春画を描いた絵師には、菱川師宣・喜多川歌麿・葛飾北斎・鈴木春信などの有名な浮世絵師のほか、狩野派や土佐派の者、そして国宝『雪松図屏風』を遺した円山応挙までもが名を連ねていた。

▼円山応挙の作品について詳しく知りたい方はこちらをチェック!
若冲よりもすごいかも?!円山応挙の美術展へ行く前に。その天才っぷりを解説【注目美術展】

禁止するから余計に燃える!「享保の改革」で春画は躍進

有名な芸術家が描いていたからといって、リアルに性描写された春画が何のお咎めもなかったわけではない。江戸幕府からはたびたび春画の発行が禁止された。特に春画が重大な危機に直面したのが、第8代将軍徳川吉宗が主導した「享保の改革」である。その後も「江戸時代の三大改革」と呼ばれる寛政の改革や天保の改革でも取り締まられた。

公に禁止されたことで、春画は非合法のコンテンツとして地下に潜る。そのためかえって活気づき、政府の検閲を受けるものより贅沢で豪華な材料を使うことができた。そして著名な絵師たちは、ニックネームを使って地下活動を続けたのである。

画:喜多川歌麿

明治以降いよいよ春画は猥褻物として排除されてしまうが、最近また注目を集め始めている。上質で魂がこもった作品は、何があってもその価値を失うことがないのだろう。

愛とユーモア、生のエネルギーが漲る春画

春画に女性が単体で描かれることはあまりない。そして、描かれた女性が苦しみの表情を浮かべたり、凌辱されたりすることもない。春画に描かれた男女の交わりには、愛とユーモアを感じ取ることができる。

画:喜多川歌麿

その理由に、春画の読者に女性がいたことが挙げられるだろう。現代では、女性が表立ってそのような書籍を購入するのことは奇異に受け取られてしまう。しかし江戸時代は春画が嫁入り道具にもなったほど、女性の生活にも浸透していた。

和樂webライター伊藤公一氏の所蔵するコレクション。「さるお方から譲り受けた」とのこと。作者不明

それがいいか悪いかは別として、江戸時代は男女ともに性をおおらかに楽しめる時代だった。エロス=生への欲求を、誰もが享受できたのだ。

春画は絵はもちろん、詞書(ことばがき)を読むのも面白い。絵と同様に、かなり生々しくリアルな会話が楽しめる。残念ながらここでは紹介できないので、書籍等でトリミングなしの画像とともにじっくり楽しんでほしい。

同上

春画からは、絵師や職人たちの計り知れないエネルギー、読者の楽しむ姿、我こそはと豪華な春画を描かせた富豪、嫁入り道具に持たせて子が授かることを願う親心など、さまざまな生のエネルギーを感じる。決してタナトス=死への欲求を感じることはない。

※アイキャッチ画像 画:菊川英山

和樂web編集長セバスチャン高木が春画について語る! 音声コンテンツ『和樂webの日本文化はロックだぜ!ベイベ』はこちら

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書いた人

「下ネタは人類の共通言語だ」をモットーに、下ネタを通して日本の歴史の面白さを伝える。中の人は女子校育ちの耳年増。男の目の届かない花園で培った下ネタスキルを活かしたい。