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曇りなき心の月を先だてて浮世の闇を照してぞ行く(伊達政宗)

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Art
2021.04.27

館長による解説も配信中!北斎の肉筆画『夏の朝』徹底解説【岡田美術館】

葛飾北斎と聞くと、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか。迫力ある波しぶきが印象的で、昨年パスポートのデザインにも採用された『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』、あるいはユーモラスな表情が描かれた『北斎漫画』を見たことがあるという人は多いのでは?

こんにちは。和樂web音声コンテンツ担当のサッチーです。最近にわか北斎ファンになった私ですが「冨嶽三十六景や北斎漫画に代表される浮世絵版画の名作を連発したのが北斎ですよね!」なんて、北斎の情報を集積したページ『HOKUSAI PORTAL』をつくることが決まった時に編集長セバスチャン高木に話したところ、

「北斎の魅力はそれだけじゃない!」

と一喝されてしまいました。そんな時に私の耳に飛び込んできたのが、神奈川県・箱根の岡田美術館で北斎の肉筆画を展示するという情報。現在、岡田美術館では映画『HOKUSAI』が2021年5月28日(金)から公開されることを記念して「“画狂人”北斎 特別展示」(期間:2021年4月3日(土)から9月26日(日)まで)を行っています。というわけで、急遽行くことに。

今回話を伺ったのは、展示を担当した稲墻(いながき)朋子学芸員。稲墻さんに北斎が描いた肉筆画『夏の朝』の魅力を伺ってきました(私だけじゃ不安ということで、セバスチャン高木が保護者役としてついてきました)。

稲墻朋子学芸員プロフィール
学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得退学。
2011年より岡田美術館学芸員。専門は日本近世絵画史で、主に肉筆浮世絵を研究。
『美術館で巡る広重「東海道五十三次」の旅』(2016年)、『歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」』(2017年)、『北斎の肉筆画』(2020年)などの展覧会を担当。

映画『HOKUSAI』公式サイトはこちら
葛飾北斎の情報を集めたポータルサイト「HOKUSAI PORTAL」はこちら

北斎の肉筆画『夏の朝』はどこがすごいのか

※ここからは、岡田美術館の稲墻さんと、セバスチャン高木の対談形式でお伝えします。

セバスチャン高木(以下、高木):葛飾北斎の『夏の朝』って名作ですね。

稲墻さん(以下、稲墻):この作品は昔から知られている名品なんです。

葛飾北斎『夏の朝』(部分) 19世紀初頭 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年4月3日(土)〜6月28日(月)】

高木:『夏の朝』という作品は全体としてどのような点が魅力的ですか?

稲墻:まず言えるのは格調の高さです。50代、60代の北斎が描く女性は濃厚で、艶っぽく色気のある雰囲気に変わってきますが、この作品はそこまではいかない、バランスの良い美しさがあると思います。

高木:これはいつ頃の作品なんですか?

稲墻:40代後半〜50代はじめ、葛飾北斎と名乗っていた時期の作品です。

高木:読本の挿絵で大ブレイクした頃ですね。この作品を細かく見ていきたいと思うのですが、衣の裾の描き方が印象的ですね。

葛飾北斎『夏の朝』(部分) 19世紀初頭 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年4月3日(土)〜6月28日(月)】

稲墻:そうですね。私たちはこのギザギザに描かれた線のことを「チリチリ」って呼んでいます。鏡に描かれた顔の美しさはもちろんですが、全体を見ると流れるような体の曲線もいいです。さらに、細部にすごく気を配っていて、どの部分をとっても描き込みがすごいんです。

葛飾北斎『夏の朝』(部分) 19世紀初頭 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年4月3日(土)〜6月28日(月)】

例えば、足元の金魚鉢や鏡の上に置いてある朝顔。人物以外の道具まで丁寧に描いています。これらは絵の物語を伝えていて、金魚鉢と朝顔で「夏」を、房楊枝(現代の歯ブラシ)で「朝」を表しています。小道具を使って季節感と時間帯を表しているんです。

葛飾北斎『夏の朝』(部分) 19世紀初頭 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年4月3日(土)〜6月28日(月)】

高木:この描き込みの半端なさというのはやっぱり北斎ならではなんでしょうか?

稲墻:そうですね。描き込みもすごいのですが、輪郭の線にも工夫があるんです。

この『夏の朝』では、肌の色を墨の線と朱色で描いています。着物は、濃い墨の線と一緒に淡い線を引いて、影のように見せています。輪郭にまでも繊細なこだわりがあるのがよくわかります。

高木:ホントだ、すごい!

稲墻:先程紹介した足元の「チリチリ」とした線などもこれより後になるともっとくどいくらいに描かれています。そういう意味でもこの『夏の朝』はまだ控えめというか、バランスが良い作品だと思います。

高木:他の絵師もこういう「チリチリ」した線の描き方をしていたんですか?

稲墻:これは北斎の特徴だと言われています。

高木:滑らかなシルエットと細部への描き込み、「チリチリ」した線と3つ魅力をお伺いしましたが、他にはどんなところに特徴があるんでしょうか。

稲墻:絵自体は後ろ姿を描いているのですが、顔は鏡の中から見えるという演出も素晴らしいです。

葛飾北斎『夏の朝』(部分) 19世紀初頭 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年4月3日(土)〜6月28日(月)】

稲墻:この絵は、主題の読み解きもすごく興味深いんです。よく見ると、鏡に写った女性はお歯黒をつけていますよね。眉も剃っていないことから、子どもを産んでいない若奥様ということがわかります。さらに、作品の右上部に目を移すと、男性の着物が衣桁(いこう)にかかっています。これはどういうことかというと、奥に男性が寝ているということを暗示しているんです。

高木:なんだか色っぽい絵を想像してしまうのはわたしだけでしょうか。

稲墻:(苦笑)。どちらかというと、夫が起きてくる前に早く起きて身を整える様子を描いた絵なのではないでしょうか。ですので、いじらしいというか、初々しい女心を描いたものだというふうに見ています。

この絵を描く前、北斎は俵屋宗理(たわらやそうり)や画狂人北斎と名乗っていました。この時期は江戸という時代が美人画の黄金期で、北斎も美人画を描いていました。ですが、この後北斎は美人画をほとんど描かなくなっていきます。北斎の美人画の最盛期にあたるという葛飾北斎期のこの作品は貴重なものです。

今回『夏の朝』は一点だけ別に展示して集中してご覧いただけるようにしました。

葛飾北斎 『冨嶽三十六景 山下白雨』 天保2〜4(1831〜1833)年 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年4月3日(土)〜5月27日(木)】

葛飾北斎『傾城図』(部分) 19世紀前半 岡田美術館蔵 【展示期間:2021年6月29日(火)〜9月26日(日)】 『夏の朝』の後は『傾城図』を展示。こちらは北斎が50代の頃の作品

現在、岡田美術館では、映画『HOKUSAI』の劇中で使用された『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の版木(アダチ版画研究所所蔵)も展示中なので、そちらもお見逃しなく(2021年6月28日(月)まで)。

4月30日(金)は北斎の魅力をライブ解説!

今回は映画『HOKUSAI』の公開記念として『夏の朝』をはじめとする岡田美術館収蔵の北斎の作品を、岡田美術館館長小林忠先生が徹底解説! さらに美術に触れることが趣味というアイドルの和田彩花さんも参加! 和樂web編集長(『HOKUSAI PORTAL』編集長)セバスチャン高木が番組ホストをつとめ、北斎の魅力を語り尽くします。普段はなかなか聞くことができない、北斎の人物像にも迫る予定ですので、ぜひご視聴ください。視聴方法は以下をご参照ください。

日時: 2021年4月30日(金)19時〜20時(最大延長20時30分)
番組名:映画『HOKUSAI』公開記念 葛飾北斎のドラマティックすぎる人生に迫る 今夜開講!! 【北斎大学】-HOKUSAI COLLEGE-
URL:https://bals.space/theater/198/
参加費:無料
視聴方法:時間になりましたら上記URLをタップしてください
※ライブ放送は終了しましたが、上記URLより引き続きアーカイブ配信をご覧いただけます(2021年6月28日(月)まで)。

岡田美術館 詳細

住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
開館時間:午前9時〜午後5時(入館は4時30分まで)
休館日:12月31日、1月1日、展示替期間
入館料:一般・大学生 2,800円、小中高生 1,800円
公式サイト

おまけ。手の置き方がこなれてるとの声も。

美女に囲まれ悦に入るセバスチャン(岡田美術館玄関にて)

5月28日(金)劇場公開! 映画『HOKUSAI』

『HOKUSAI』5月28日(金)全国ロードショー(C)2020 HOKUSAI MOVIE

工芸、彫刻、音楽、建築、ファッション、デザインなどあらゆるジャンルで世界に影響を与え続ける葛飾北斎。しかし、若き日の北斎に関する資料はほとんど残されておらず、その人生は謎が多くあります。

映画『HOKUSAI』は、歴史的資料を徹底的に調べ、残された事実を繋ぎ合わせて生まれたオリジナル・ストーリー。北斎の若き日を柳楽優弥、老年期を田中泯がダブル主演で体現、超豪華キャストが集結しました。今までほとんど語られる事のなかった青年時代を含む、北斎の怒涛の人生を描き切ります。

画狂人生の挫折と栄光。幼き日から90歳で命燃え尽きるまで、絵を描き続けた彼を突き動かしていたものとは? 信念を貫き通したある絵師の人生が、170年の時を経て、いま初めて描かれます。

公開日: 2021年5月28日(金)
出 演: 柳楽優弥 田中泯 玉木宏 瀧本美織 津田寛治 青木崇高 辻本祐樹 浦上晟周 芋生悠 河原れん 城桧吏 永山瑛太 / 阿部寛
監 督 :橋本一 企画・脚本 : 河原れん
配 給 :S・D・P ©2020 HOKUSAI MOVIE

公式サイト:https://www.hokusai2020.com

書いた人

編集長から「先入観に支配された女」というリングネームをもらうくらい頭がかっちかち。頭だけじゃなく体も硬く、一番欲しいのは柔軟性。音声コンテンツ『日本文化はロックだぜ!ベイベ』『アートラジオ』担当。ポテチと噛みごたえのあるグミが好きです。