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2019.08.13

写真OK!今度の三国志展は1800年前の出土品をリアルに体感する注目展!【美術展レポート】

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中国古代史の中でも、時代や国を超えて語り継がれてきた「三国志」の世界。広大な中国を3分割し、名将達が武力と知略をかけて戦いを繰り広げ、天下を争った物語には壮大な歴史ロマンが詰まっています。横山光輝の漫画、吉川英治の小説、コーエイテクモゲームスのゲーム、川本喜八郎の人形劇など、様々な形で繰り返し語り尽くされ、世代を越えて日本人に愛されてきました。

2019年夏、その「三国志」の壮大な世界の「リアル」な史実に着目した大規模な展覧会が東京国立博物館 平成館で開催中。日本中から熱いファンが駆けつけている他、館内には中国語も結構目立ちます。展示を構成した東京国立博物館主任研究員・市元塁氏が10年越しで中国にラブコールを送り続け、中国全土から約160件もの貴重な文物・美術品が東京に集結した、ファン垂涎の展覧会。和樂Webチームも本展をしっかり取材し、その魅力や見どころをたっぷりと見つけてまいりました!早速レポートしてみたいと思います!

「リアル」な三国志の時代を掘り下げた展覧会

関羽像(かんうぞう)青銅製 明時代・15~16世紀 新郷市博物館蔵

「三国志」といえば漢たちの熱い友情やスケール感の大きい戦いなどを思い起こしますよね。実際、10年前に累計100万人以上の来館者を集めた巡回展「大三国志展」では、「物語でたどる三国志」が大きくクローズアップされ、「三顧の礼」「赤壁(せきへき)の戦い」など「三国志演義」での有名なシーンやエピソードにちなんだ日中における後世の美術品・文物などがロマンたっぷりに紹介されました。

対して本展はというと、より徹底的に「リアル」な三国志に着目したのが特徴。2008年、奇跡的に発見された曹操のお墓「曹操高陵」(そうそうこうりょう)からの出土品13件を皮切りに、2000年代以降の最新の発掘成果や近年の学術論考に基づいた、三国時代の出土品を中心に展示が組まれているのです。

考えてみれば、本当にこれは贅沢なことです。18世紀や19世紀といった、比較的まだ多数残っている近代の美術品ではなく、約1800年前の王墓や遺跡から出土した古代史の一級歴史資料(しかもほとんどが日本初来日)が中国に行かなくても東京でまとめて観られるのですから。しかも、今回は博物館側の「英断」により、来館者は今まで味わえなかった楽しみ方ができるのです。それは・・・

画期的!嬉しいことに展示室内の「全作品」が写真撮り放題


そう、なんと今回の展覧会は展示室内の「全作品」が写真撮り放題なのです!!(※映像作品は除く)

これまでも、SNSへの投稿や記念写真のために展覧会出口付近などで一部の展示を含めた「写真撮影コーナー」などが設けらることはよくありました。また、東京国立博物館の本館・東洋館などの常設展示は基本写真撮影OKです。しかし、大規模な特別展において、フラッシュや三脚、自撮り棒を使わないという条件さえ満たせば、【全作品フリー】で写真撮影が来場者に開放されたことはほぼなかったのではないでしょうか?

ほとんどが初来日となる中国全土から集められた貴重な文物は、これを逃せば今度はいつ日本に来てくれるかわかりません。ぜひ、気に入った展示風景や作品があれば思い出のためにも写真として持ち帰りたいですよね。そこで、本稿では、和樂Webにて特にオススメの注目ポイントを5つ紹介してみたいと思います。(※撮影の注意事項については展示室内パネルや公式Webサイトをご確認下さい!)

和樂Web編集部オススメ!5つの注目ポイントとは?

無数の矢が飛び交ったとされる「赤壁の戦い」など三国志の時代における水上戦をイメージした展示室内。写真撮影ポイントです。

見どころ1:ハイレベルな陶磁器!曹操高陵で発見された「白磁」の凄さとは

曹操高陵の墓室の実寸大再現

2008年から2009年にかけて、河南省安陽市で発掘調査が行われた「西高穴(せいこうけつ)2号墓」は、当初誰を埋葬した陵墓なのか不明でした。その後、「魏武王」と記した石牌や、三国時代の特徴を示す副葬品が出土したこと、古記録との照合結果から、なんと魏を創建した曹操の墓「曹操高陵」と認定されたのです。本展では、その曹操高陵から出土した貴重なアイテムが13件来日。

展示コーナーには、曹操高陵の陵墓内を模した神秘的な展示空間の中で最初に待っているのが本展のハイライト展示の一つでもある白磁のツボ・罐(かん)です。

罐(かん)白磁 後漢~三国時代(魏)・3世紀 2008~2009年、河南省安陽市曹操高陵出土 河南省文物考古研究院蔵

えっ、ツボ??? なんか地味じゃね??!・・・と普通は思いますよね。

でも、この白磁のツボが曹操高陵の中で見つかったことは、まさに歴史的な快挙なのです。

なぜかというと、これまで最古の「白磁」は6世紀中頃の「北斉」で見つかったものが最古とされていたのですが、今回の発見によって、白磁の起源とされる年代が一気に約300年も更新されることになるからなんです。でも、パッと見た感じでは普通の白いツボにしか見えず、何が凄いのかよくわかりませんよね。一見誰でも作れそうに見えますし。

でも、この「白磁」、見た目以上に素材や技術力を必要とするやきものなんです。古代のやきもの先進国、中国だからこそ作れた磁器なんです。日本では17世紀、ヨーロッパでは18世紀になるまで自前で作ることすらできませんでした。(日本での「白磁」の発祥は、秀吉の朝鮮出兵の際に日本に連れ帰った朝鮮人陶工・李参平が17世紀前半、はじめて伊万里焼を焼いた時とされています。ヨーロッパでは、各国が競う中、1709年にドイツのマイセン窯が試行錯誤の末に初めて焼成に成功したのでした。)

このように、「白磁」の生産においては、中国と他地域の技術格差は実に1000年以上もあったのです。そんなやきもの先進国・中国において、さらに300年も白磁の起源が遡ることになるのだとしたら、まさに陶磁器の歴史自体が書き換わる非常に画期的な発見と言っても良いかと思います。

手前:神亭壺(しんていこ)青磁 三国時代(呉)・鳳凰元年(272)1993年、江蘇省南京市江寧区上坊出土 南京市博物総館蔵

また、白磁以外では「青磁」もぜひチェックしておきたいところ。後に龍泉窯など世界的な青磁の名窯を輩出した「呉」の支配地域は、3世紀当時からすでに青磁の名産地として中国全土で知られていました。日本では「古越磁」と呼ばれるこの時代の青磁は、青色というよりはほとんど灰色がかった黄土色にしか見えませんよね。でも、同時期の日本ではまだ赤茶色の弥生土器や土師器といった素焼きの土器しか作れなかったのですから、これもまた驚異的な技術力と言って良いでしょう。

神亭壺(しんていこ)(部分) 青磁 三国時代(呉)・鳳凰元年(272)1993年、江蘇省南京市江寧区上坊出土 南京市博物総館蔵

ぜひ、「リアル三国志」のハイライトである白磁のツボをじっくりと味わってみてくださいね。

見どころ2:家や倉庫までお墓に入れた?!意外性あふれる三国時代の副葬品

四層穀倉楼(よんそうこくそうろう)土製、彩色 後漢時代・2世紀 2009年 河南省焦作市馬村区王多白荘出土 焦作市博物館蔵

さて、古代中国の出土品と言えば、非常に有名なのが「秦」の始皇帝が作った巨大なお墓に埋められた「兵馬俑」。中国では、殷や周といった古代王朝が栄えた時代には、王侯貴族の死と共に、大量の金銀財宝と一緒に王に仕えた侍従や兵士、動物たちが生きたまま王の墓に入れられる「殉葬」という風習がありました。あの世でも生前同様に安寧に暮らせるようにとの計らいです。しかし、さすがにそれでは財政的・人的資源の損失が大きすぎますよね。そこで時代を下るにつれ、ハードな「殉葬」の儀式は下火になっていきます。替わって、実物を模して木や陶器で造られた人形や財宝類、家屋などの模型を「明器」(副葬品)としてお墓の中に入れることで、王たちはあの世へと送り出されるようになったのです。

本展では王侯や武将などの墓から出土したゴージャスな「明器」の数々が出品されています。中でも是非見て頂きたいのが、こちらの建物や倉庫の模型です。

五層穀倉楼(ごそうこくそうろう)土製、彩色 後漢時代・2世紀 1973年、河南省焦作市山陽区馬作出土 焦作市博物館蔵

これは凄い!別棟と空中回廊でつながっていますよね。現代でもなかなか個人の邸宅でここまでの斬新なデザインは見かけません。三国時代、実際にこういう建物が流行っていたのかもしれないと想像するとちょっと楽しくなります。

三連穀倉楼(さんれんこくそうろう) 土製、彩色 後漢時代・2世紀 2005年、河南省焦作市建設銀行工地出土 焦作市博物館蔵

つづいて、こちらの穀倉も変わっています。3つの大きな甕に建屋が支えられた斬新なデザインで、穀倉には階段とベランダを通じて出入りすることができる仕様。穀倉には細密に着色され、非常に丁寧に作られていますね。相次ぐ戦乱や低温により農作物の確保が大変だったこの時代、食料確保は王侯豪族たちの関心事だったのだなと思わされます。

儀仗俑(ぎじょうよう)(部分)青銅製 後漢時代・2~3世紀 1969年、甘粛省武威市雷台墓出土 甘粛省博物館蔵

こちらは、涼州(現在の甘粛省)から出土した、董卓(とうたく)と関連があったとされる有力武将「張将軍」の副葬品の一つ、儀仗俑(ぎじょうよう)。「張将軍」は三国志には記述がないものの、青銅で丁寧に造られた武装した馬に乗る騎兵たちや、非常に精巧に作られた馬車・牛車の隊列から、当時相当有力な軍閥の有力者だったことが伺い知れます。なお、騎兵をよく見てみると、両足を固定する「あぶみ」を使っていません。三国時代の騎手は、相当に高い騎乗能力が要求されたのではないでしょうか。

見どころ3:意外に「かわいい」三国志!素朴すぎる動物たちの造形

羊尊(ようそん) 青磁 三国時代(呉)・甘露元年(265)1958年、江蘇省南京市草場門外墓出土 南京市博物総館蔵

展示を見ていくと気付かされるのが、副葬品(明器)として作られた陶磁器などの文物にあしらわれている数々の動物たちの姿。この造形が、非常にかわいくて素朴なんですよね。中世以降、中国美術といえば、壮大さや豪華絢爛さが目立った作品や、精緻な文様が配置され、写実的に表現された工芸や絵画など、リアリズムが重視された作品が多いイメージでしたが、古代史だけは別のようです。抽象的な文様や素朴な造形は、意外にも日本のゆるカワ系の工芸美術に近いものを感じます。

銅鼓(どうこ)(部分)青銅製 三国(呉)~南北朝時代・3~6世紀 1964年、広西チワン族自治区藤県和平区古竹郷出土 広西民族博物館蔵

牛車(ぎっしゃ)青磁 三国時代(呉)・3世紀 2006年、江蘇省南京市江寧区上坊一号墓出土 南京市博物総館蔵

せっかく写真撮り放題なので、近代以降とは確実に違う、古代中国における独特の美的感覚をたっぷり写真に持ち帰ってみるのもいいですね。

見どころ4:日本古代史との接点を探す楽しみもあります!

「偏将軍印章(へんしょうぐんいんしょう)」金印 金製 後漢時代・1世紀 1982年、重慶市港北区聚賢岩付近収集 重慶中国三峡博物館蔵

魏・蜀・呉が覇を争った3世紀前半、すでに中国と日本の間では交流がありました。たとえば、三国時代より少し後の3世紀後半にまとめられた「魏志倭人伝」(ぎしわじんでん)において、西暦238年以降、卑弥呼が帯方郡を通じて魏に使者を送り、中国皇帝から「親魏倭王」(しんぎわおう)の称号を賜ったエピソードはあまりに有名ですよね。(ちなみに、「魏志倭人伝」は「三国志」の一部なんです。知ってました?!)また、それより少し前に書かれた1世紀の「後漢書」にも、朝貢に訪れた倭国の王に対して、「漢委奴国王」(かんのわのなこくおう)の称号を授けたとの記述も有名です。

土製 三国時代(魏)・3世紀 1951年、山東省聊城市東阿県曹植墓出土 東阿県文物管理所 蔵

このように、後漢~三国時代にかけては、日本の古代史とも密接なつながりがあったことから、本展で観られるいくつかの陵墓から発掘された明器などの副葬品の中には、なんとなく日本の埴輪を思い起こさせるような造形の展示もありますし、いくつかの「金印」からは、福岡・志賀島で発掘された「金印」を思い起こさせるものがあり、古代の日本文化がすでに大陸から一定の影響を受けていたことを感じさせてくれます。

方格規矩鳥文鏡(ほうかくきくちょうもんきょう) 青銅製 後漢~三国時代(魏)2~3世紀 1955年、遼寧省遼陽市三道壕一号壁画墓出土 遼寧省博物館蔵

こちらは、三国時代に遼東を支配していた公孫氏の墓から出土した青銅鏡。三国志(魏志倭人伝)には、公孫氏が支配した朝鮮半島西北部の帯方郡に「倭国」も属していたという記述があるので、当時の公孫氏と日本の間には、交流があったのかも知れません。

本展では、まさにこの公孫氏の陵墓から出土した方格規矩鳥文鏡(ほうかくきくちょうもんきょう)と、日本の古墳時代の青銅鏡の共通点を探る比較検証について、展示パネルで詳しく読めるようになっています。古代の歴史ロマンを感じますよね。

見どころ5:日中で愛され続けてきた「三国志」の物語世界

横山光輝『三国志』原画 新書判第25巻「赤壁の前哨戦」光プロダクション蔵 ©横山光輝/光プロ

本展は「リアル」な三国志にこだわって展示構成が続いていますが、とはいえ、熱心な三国志ファンにもきちんと配慮した展示にもなっているのが特徴。展示の要所要所には、「桃園の誓い」「赤壁の戦い」など、横山光輝『三国志』でのハイライトシーンの「原画」が展示されているというこだわりよう。これは嬉しいですよね。

横山光輝『三国志』新書判 原画 第1巻「桃園の誓い」光プロダクション蔵 ©横山光輝/光プロ

さらに、グッズコーナーでも横山三国志の存在感が凄い!

トートバッグ(全2種)各2,700円

クリアファイル、マグネット、ポストカード、トートバッグ、Tシャツなど、横山光輝『三国志』の印象的な名シーンがあしらわれたデザインのグッズが大量に用意されています。横山三国志ファンにはたまりませんよね。

また、川本喜八郎のNHK「人形劇 三国志」ファンも要注目。展示室内には、9体の人形が専用ディスプレイで配置され、展示を盛り上げてくれています。普段、渋谷ヒカリエの「川本喜八郎人形ギャラリー」では一部しか撮影できないので、今回全点撮影可能なのは非常に嬉しいところです。

川本喜八郎 NHK「人形劇 三国志」より 左から孟獲、諸葛亮 飯田市川本喜八郎人形美術館蔵 ©有限会社川本プロダクション

リアルな出土品で中国古代文明の面白さが体感できる展覧会!

獅子(しし) 石製 後漢時代・2世紀 山東省淄博市臨淄県学署旧蔵 山東博物館蔵

いかがでしたでしょうか?古代の出土品が中心のため、一見すると特別な派手さは感じないかもしれません。しかし、一つ一つの出土品を丁寧に見ていくと、陶磁器や青銅器などの技術レベルの高さ、動物たちの意外にゆるカワな造形美、地域ごとに特色のある出土品など、古代中国のスケール感の大きさ、悠久の歴史を感じられるはずです。

色々な角度から楽しむことができる今回の三国志展は、2019年夏、絶対見逃せない展覧会の一つです。ぜひお気に入りの展示を見つけて、思い出を写真として持ち帰ってみてくださいね。

展覧会基本情報

展覧会名:日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
会場:東京国立博物館 平成館(〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9)
会期:2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
公式サイト

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。