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2019.04.10

みょ〜に愛おしい。じわじわくる日本画の数々を「へそまがり日本美術」展のレポートで味わう

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毎年春になると「春の江戸絵画まつり」と銘打って、国内随一となる面白い日本美術の展覧会が開催される府中市美術館。ここ数年は特に人気が高まってきていて、首都圏以外の遠方からも続々と熱いファンが詰めかける恒例行事となっています。そんな府中市美術館が、今年の「春の江戸絵画まつり」に選んだテーマは「へそまがり日本美術」。

いつの時代も人々は絵画に対して第一に「美しさ」を求めますが、どうやら日本人には時にわざわざ「美しくない」要素を前面に押し出して絵を描いたり、どう見ても「美しい」とは思えないような作品でも楽しめたりする「へそまがり」な感性も備わっているようです。

本展では、そんなあなたの「へそまがり」な感性を試すかのように、風変わりな面白作品が約120点たっぷりと用意されました。和樂Web編集部では、会期2日目の閉館後に取材許可を頂き、たっぷりその「へそまがり」な作品をカメラに収めてきました。早速、展覧会の概要・見どころと合わせて作品を紹介してみたいと思います。

「へそまがり日本美術」とは

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
展示風景

府中市美術館で「変わった」日本絵画をこよなく愛する金子信久学芸員が監修し、毎年のように開催してきた春の大型展覧会シリーズ。江戸時代の絵画作品を中心に、趣向を凝らした展示で毎年目の肥えたファンを楽しませてくれています。一覧表にしてみると、こんな感じ。


2005年 百花の絵 館蔵の江戸時代絵画と関連の優品
2006年 亜欧堂田善の時代
2007年 動物絵画の100年 1751-1850
2008年 南蛮の夢、紅毛のまぼろし
2009年 山水に遊ぶ 江戸絵画の風景250年
2010年 歌川国芳 奇と笑いの木版画
2011年 江戸の人物画 姿の美、力、奇
2012年 三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る
2013年 かわいい江戸絵画
2014年 江戸絵画の19世紀
2015年 動物絵画の250年
2016年 ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想
2017年 歌川国芳 21世紀の絵画力
2018年 リアル 最大の奇抜
2019年 へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで

この中で、特に人気があったのが、2013年に開催された「かわいい江戸絵画」展。予想以上の大入りで、展示の内容に感銘を受けたお客さんが、次々に図録を購入して帰宅。おかげで、早々に図録が売り切れてしまい、なおも「ほしい!」という全国各地からリクエストが殺到しました。そこで、会期が終わっても一般書店やAmazonなどのネット通販などで広く入手できるよう、ISBN付きバージョンが出版社経由で発売されたというエピソードも残っています。

思えば、この頃から全国各地で「ゆるい禅画」「かわいい浮世絵」「こわい妖怪画」など、技巧的で美しい作品こそが「素晴らしい」とされた、従来までの価値基準からハズレたような作品を特集した展覧会が、全国各地でスマッシュヒットするようになってきたように感じられます。

本展のタイトルにもつけられた「へそまがり」とは、そうした「かわいい」「ゆるい」「こわい」「変な」「ヘタウマ」といった言葉で、従来は別々のカテゴリとして括られていたようなタイプの作品群を、ひとつの大きなカテゴリとして統合する際のキーワードとしてぴったりかもしれません。

美しくないもの、技巧的でない作品を全部集めてみたら、そこから見えてきたものは、日本人が元々もっていた「へそまがりな」ものを愛する独特の感性だったのではないか?というのが本展の趣旨なのです。

そこで、本展で展示されている様々な愛すべき「へそまがり」作品の数々の中から、特に編集部にて厳選した展示のみどころや魅力を5つのポイントに絞って紹介していきたいと思います。

見どころ1 なんでもあり! 自由過ぎるディープな禅画の世界

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
雪村周継「あくび布袋・紅梅・白梅図」 室町時代(16世紀) 茨城県立博物館

ここ数年相次いで開催された禅画の「かわいさ」や「ゆるさ」に焦点を当てた展覧会のおかげで、白隠慧鶴(はくいんえかく)や仙厓義梵(せんがいぎぼん)といった人気の禅僧たちが描いた自由奔放な作品に人気が集まっていますが、本展でもまず鑑賞者を出迎えてくれるのが、豊富に用意された禅画の数々です。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
仙厓義梵「豊干禅師・寒山拾得図屏風」 文政5年(1822) 幻住庵(福岡市)

まず、会場に入るといきなりインパクトの大きな作品が出迎えてくれます。仙厓の手がけた屏風絵です。仙厓といえば、ほぼ年に1回のペースで開催されている、出光美術館の大規模な所蔵品展などで、10分くらいで(?)描いたような極端なゆるかわ系禅画が人気ですが、本展の冒頭で観られるのは、なんと仙厓が生涯で唯一手がけた非常にレアな六曲一双の屏風絵なのです。

屏風絵なので、いくら仙厓といっても真面目(?)に描いているのかな?と思ったら、全くそんなことはなく、いつものゆるかわ路線そのままだったのでした。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
仙厓義梵「豊干禅師・寒山拾得図屏風」(部分図) 文政5年(1822) 幻住庵(福岡市)/よーく目を凝らしてみてみたら、顔を中心として、「いったいこの動物は何なのだろう」と首をかしげてしまうほどデフォルメされた動物たちが。

オープニング作品を通り過ぎて禅画コーナーを見ていくと、選びぬかれた「へそ曲がり」な自由過ぎる作品が次々と出てきます。笑いをこらえるのが厳しい作品もちらほらあります。難しいことを一切考えず、あれこれ突っ込みながら楽しく作品を観ていくのも面白いですね。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
白隠慧鶴「布袋図」江戸時代中期(18世紀後半)/自由過ぎるデフォルメ。プロの画家ではここまでの冒険は絶対にできないはず!

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
惟精宗磐(いせいそうけい)「断臂図」大正11年(1922)早稲田大学會津八一記念博物館/達磨大師に弟子入りするため、自らの「腕」を切り落として覚悟を示そうとする慧可(えか)を描いた有名なシーンですが、なんの緊張感も漂っていません・・・。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
春叢紹珠(しゅんそうしょうじゅ)「皿回し布袋図」江戸時代中期-後期(18世紀後半-19世紀前半)/この謎の皿回しをする禅僧には、「心を乱さずにいれば達者に生きていける」という意味もこめられているのだとか。深い・・・

いかがでしょうか?江戸時代に多数の奇想天外な作品が生まれた禅画の魅力は、「絵を描くこと」が本職ではない禅僧だからこそ自由にイマジネーションを飛躍させることができた「自由さ」かもしれません。でもこうして眼の前にある作品を笑って楽しんでいる我々とは裏腹に、いかに人々を奇抜なビジュアルで「悟り」に向かわせるか、案外悩み抜いて描かれた作品もあるかもしれませんね。

見どころ2 残念! 天は二物を与えず! 下手すぎるお殿様や文化人

そして、本展を観た鑑賞者に最大の衝撃を与えた作品が、こちらの「お殿様」の手がけた「ド下手」な作品群。小学生でも描けそうに見える珍品・奇品がずらりとならんだ一角は強烈なインパクトを放っています。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
徳川家光「木菟図」(みみずくず)江戸時代前期(17世紀前半)養源寺

一番凄いのが、本展チラシのメインビジュアルの一つにも選ばれている徳川家光の描いた作品群。なぜこんなドヘタな作品が21世紀の現在まで大切に守り継がれてきたのか、非常に謎ですよね。しかし、キャプションを読んでみると、なんとなく察しがついてきます。

徳川家光といえば、「生まれながらの」将軍として君臨した、徳川家の威光が最も強かった時代の将軍です。つまり、クオリティが高い・低いは関係なく、家光から作品を下賜された臣下は、それを「家宝」として大切に守り継ぐ必要があったということなのでしょうね。いわば忠誠心を試す「踏み絵」みたいなものであって、「捨てるに捨てられない厄介な家宝」だったのかもしれません。しかし家光には絵画の指南役として最強の御用絵師・狩野探幽が仕えていたはずなのですが、探幽は一体何を教えていたのか・・・いや、誰も家光を止めることはできなかったのでしょうね。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
徳川家光「兎図」江戸時代前期(17世紀前半)/箱の貼紙から、伊予国西条藩の藩主・松平頼英の所蔵品だったことが判明。初代は松平頼純といい、家光のいとこだった人物だそうです。約200年間、西条藩の「お宝」として大切に守り継がれてきた作品なのです。

しかし本展は家光の作品だけではとどまりません。
さらに見ていくと、家光以上の逸材が次々と現われるのです!

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
伊達綱村「日輪図」江戸時代前期-中期(17世紀後半-18世紀前半)仙台市博物館

こちらは外様の雄藩・仙台藩58万石の当主・伊達綱村が描いた”絹本着色”の本格派作品であります。太陽しか描かれていないシンプルな作品・・・といえば作品なのですが、果たしてこれは絵なのでしょうか?禅僧が3分で描いた、というのならまぁ納得です。でもなんだか筆に迷いがありそうだし、太陽も力なくヨレていますよね。参勤交代、辛かったんでしょうか(笑)

本格派絵画に挑戦したのは、お殿様だけではありません。日本を代表する文化人が描いた屈指の「へそまがり」文人画も展示されています。

それがこちら。

・・・

・・・

・・・

・・・!!!

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
夏目漱石「柳下騎驢図」大正時代前半頃(1912-16)

えっ!?

少しくど目ではありますが、筆者が取材させていただいた時に、本作と初めて向かい合った時の衝撃を、なんとか文章で表現してみました。いや、これは凄い。「ゆるかわ禅画」とも「文人画」ともまた違う、圧倒的な弛緩した空気感が漂う面白さ。

こちらはお殿様ではなく、日本を代表する文豪・夏目漱石の手がけた文人画。小説家としてだけでなく、漱石は美術評論家・美術コレクターとしても活躍しました。しかし自ら文人画家として作品まで残しているとは知りませんでした。

それにしても、作品の醸し出すなんとも言えない脱力感がたまりません。

そして、自宅に帰り、購入した公式図録に掲載されていた漱石のコメントを見て絶句。漱石は、当時交流があった画家・津田青楓に宛てて、こんなことを書いているのです。

「只崇高で難有い気持のする奴をかいて死にたいと思ひます」
「文展に出る日本画のやうなものはかけてもかきたくはありません。」

(※原文ママ)

まさにツッコミどころ満載。なんと、本人は自分自身で「上手い」と思っているフシがあるのです!公式図録での解説にもあるように、まさに漱石は文人画界のドン・キホーテなのでありましょう。ある道において「極めた」天才というのは、色々な意味で独自の美的感覚やセンスを持っているのだな、と強く感じさせられた作品でした。

見どころ3 明治時代にも洋画界にヘタウマブームが吹き荒れた?!

そして展示は後半へ。本展では江戸絵画だけでなく明治~昭和に至る近代・現代からも、「へそまがり」な作品が多数展示されているのです。

近代以降に日本の「へそまがり界」に大きな影響を与えたとされるのが、アンリ・ルソーの「ヘタウマ」絵画。本展では、ルソー独自のデフォルメされた人物像に触発された明治期の洋画家たちがルソーの美意識に影響されて手がけた作品がいくつか展示されていました。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
アンリ・ルソー「フリュマンス・ビッシュの肖像」1893(明治26)年頃 世田谷美術館/画面中央に描かれた軍人が空中浮遊しているように見える、密かに人気のあるゆるかわ作品。

また、それとは別に、明治以降、欧米から入ってきた表現主義やキュビスムといった新しい絵画の潮流に触発され、独自のへそまがり感性を爆発させた洋画家たちの作品も非常に楽しめます。たとえば・・・

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
小出楢重「めでたき風景」昭和元年(1926)大阪中之島美術館

フォービスムやキュビスムに影響を受けつつも、自らの作品制作においては苦悩の連続だったとされる小出楢重。最先端の画技を駆使して、あえて日本的な画題を取り込んで風景画を屏風絵に描いた意欲的な作品。・・・なのですが、勢いのある筆さばきが余白たっぷりな屏風の上で踊る姿は、どことなく抜けた感じが否めません。じっと見ているとゆるすぎる風景にだんだんと癒やされる感じもします。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
萬鉄五郎「仁丹とガス灯」大正元年(1912)頃 岩手県立美術館

また、こちらも東北の街の夜景にひときわ鮮やかに赤く輝くネオンサインを大胆な筆さばきで描こうとした作品。・・・なのですが、どうにも画面中央部に大胆に置かれた「仁丹」という2文字に完全に目が固定されてしまいます。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
萬鉄五郎「仁丹とガス灯」(部分図)大正元年(1912)頃 岩手県立美術館

どうでしょうか、この圧倒的な存在感とユニークさ。鉄五郎はきっと仁丹が好きだったのでしょうね。そしてこれには森下仁丹のTwitter広報担当者さんも、感心されていました。ひょっとしたら萬鉄五郎が手がけた本作は、超ロングセラー・仁丹の売上にかなり貢献したのかもしれませんね。

見どころ4 かわいすぎるへそ曲がり作品も?!

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】 
長沢蘆雪「菊花子犬図」(部分図)江戸時代中期(18世紀前半)

先日まで東京都美術館にて好評開催されていた「奇想の絵画」展でも長沢蘆雪が描いた「犬」をモチーフにしたトートバッグが会期早々に売り切れるなど、「かわいい犬」を描くことにおいては師匠・円山応挙を凌ぐともいわれる長沢蘆雪。本展では、生涯で多数の「かわいい犬」を描いてきた芦雪の作品の中でも、群を抜いてかわいい作品が2点登場。師匠・円山応挙の作品と見比べられるような展示の工夫も嬉しいところです。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
長沢蘆雪「狗子図」(部分図)江戸時代中期(18世紀後半)滴水軒記念文化振興財団(府中市美術館寄託)

見どころ5 思わず顔をしかめたくなる「苦味」を感じる作品群って?!

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
岸駒「寒山拾得図」江戸時代中期(18世紀後半)敦賀私立博物館

筆者が個人的に非常に感銘を受けた作品群が、本展の展示後半で特集された「苦味」のある作品です。一瞬、「苦味」って何なのだろう・・・と考え込んでしまいましたが、キャプションや公式図録をよく読み込んでみて納得。

金子学芸員の解説によると、わたしたちが苦いモノを飲んだり食べた時に思わず顔をしかめてしまうような、あの独特の味覚である「苦さ」のイメージに例えて、「なんとなく嫌な感じ」「不穏な感じ」といった、美しさ以外のネガティブな感情を思い起こさせるような「ほろ苦い要素」を含んだ作品が「苦みのある作品」であるとのこと。

江戸時代の人々は、単に美しい作品だけでなく、あえてこうした「苦み」のある作品を床の間にかけて愛でることがしばしばあったようです。それは描く方も鑑賞する方も「へそまがりな」感性があってこそ成り立っていたものなのでしょう。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
岸駒「寒山拾得図」(部分図)江戸時代中期(18世紀後半)敦賀私立博物館

上図は、奇人・変人とされた二人の仙人「寒山」「拾得」の二人をセットで描いた「寒山拾得図」です。室町時代頃から描かれ続けた定番中の定番のモチーフですね。江戸時代になり、時代が下るにしたがって、人間というより半分妖怪みたいな顔つきで描かれることが多くなっていく仙人たちですが、岸駒のこの作品で二人が顔面に浮かべるねっとりとした「笑み」の表情は、底知れない気持ち悪さを喚起するかもしれません。これぞ「苦味」がよく味わえる作品というわけです。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
祇園井特「美人図」江戸時代中期-後期(18世紀後半-19世紀前半)

こちらも負けていません。江戸時代における京都画壇の黄金期、18世紀後半~19世紀前半に活躍した浮世絵師・祇園井特のとびきりインパクトのある肉筆浮世絵(大首絵)です。舞妓をリアルすぎるくらい誇張して描くことで、純白のおしろいの下に隠された「グロテスクさ」を確信犯的に際立たせています。

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】
長沢蘆雪「老子図」(部分図)江戸時代中期(18世紀後半)敦賀市立博物館

また「苦味」を感じる作品は「気持ち悪い」作品だけではありません。絵を見ているだけで力が抜けていくような、哀愁漂うやるせない作品もあります。それが長沢芦雪の描いた「老子」。人生の達人であるはずの老子が、世の中の全てに疲れ切ったような呆然とした表情を浮かべる様子は、ある意味で強烈なインパクトを残しました。

「裏」日本美術史とも言うべき、異色の作品群を堪能する

規格外の面白さ!「へそまがり日本美術」で異彩を放つ日本絵画を見逃すな!【展覧会レポート】

美しくない作品、ヘタな作品、変な作品・・・本展では、あらゆる時代の様々なジャンルにおける、美術史的に見ると「イレギュラー」な作品が多数展示されました。しかし、こういった作品が現代まできっちりと守り継がれ、こうして一同に介することができたのも、日本人が「へそまがりなもの」をこよなく愛するDNAを持ち合わせていた何よりの証拠なのでしょう。

展覧会に足を運んでみて、「なぜだかわからないけれど、無性に心惹かれてしまう」作品と出会ったら、作品の前で自分自身を見つめてみるのも面白いかも知れませんね。思わぬ「へそまがり」な自分に出会えるかもしれませんね。前後期で展示替えもたっぷりありますので、ぜひ2回、3回と楽しんでみてくださいね。

展覧会基本情報

展覧会名 「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」
場所 府中市美術館
会期 2019年3月16日(土)〜5月12日(日)
前期 3月16日(土)~4月14日(日)
後期 4月16日(火)~5月12日(日)
※展示替えあり
特設サイト

文/齋藤久嗣

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。