Art

2025.02.26

あなたは共通点がわかった?「モネVS浮世絵」5つの画題で見比べ!・後編

19世紀のパリ芸術界で、いち早く浮世絵に惹かれ蒐集していたモネ。そのためか、「浮世絵の影響?」と思われる作品がいくつもあるのです。そんな作品を見比べると、モネの〝浮世絵♥ラブ〟がよくわかります!

前編はこちら

モネと浮世絵 見比べ3「花」 園芸好きのモネは庭の花をクローズアップ!

1883年、43歳のモネはパリを離れ、ノルマンディー地方のジヴェルニーに移住。
豊かな自然に恵まれた地で、園芸愛好家の本領を発揮したモネは、〝花の庭〟と〝水の庭〟に色鮮やかな花を植え、丹精しました。
そんなジヴェルニーで見出したモチーフが〝花〟。睡蓮に注目するより前の話です。
西洋絵画でも花は描かれてきましたが、花瓶に生けた花の絵は「静物画」とされ、ほとんどは風景の一部。
その点、モネが描いた花は生命力に満ち、従来の西洋絵画にはない斬新なものでした。
一方で、モネの構図は中国絵画に由来する「花鳥画」に通じるもので、その伝統を受け継ぐ浮世絵には、まるでお手本にしたかのような花の絵がいくつも! これは偶然の符合でしょうか?

葛飾北斎『翡翠 鳶尾艸 瞿麦』

花と鳥をデザイン的に組み合わせ、「花鳥画」の基本を押さえたシリーズ作品のひとつ。モネの『アガパンサス』の茎から花の、流れるようなラインは、本図の鳶尾艸の描写と似ている。自然界の花のとらえ方に、共通性が感じられる。●葛飾北斎(かつしかほくさい)『翡翠 鳶尾艸 瞿麦(かわせみ しゃが なでしこ)』 中判錦絵 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

クロード・モネ『アイリス』

第1次大戦が勃発した1914年、モネは睡蓮をテーマに大装飾画の制作を開始。そのため、自宅の池の周りに植えた花を観察し、花を中心にした本作を完成。花もモネにとって重要なモチーフだった。●油彩・カンヴァス 1914~1917年 200.0×200.7cm シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Art Institute Purchase Fund, 1956.1202

モネと浮世絵 見比べ4「女性」 傘のさし方も風をはらんだ着衣もそっくり!

初期のモネは優れた人物画を描いていました。
ですが、光を取り入れた印象派の画風にシフトしていくうち、画題のメインも風景に…。
それが、40代半ばになった1880年代半ばの一時期、風景の中の人物を描く連作に取り組み、ここに掲載している日傘をさした女性を題材にした左側の2作品がその代表例。また、『舟遊び』(国立西洋美術館)のように小舟に乗った女性の連作もこの時期のものです。

今回、ジヴェルニーのダイニングの写真を見て、どんな浮世絵があるか確認していたら、なんと傘を差した女性を描いた三枚続きの美人画が! 
モネが描いた3タイプの日傘の女性は、浮世絵に描かれた傘をさして歩くきものの女性たちとよく似ています。もしかしたら、モネの浮世絵への傾倒は、私たちの想像を超えていたのかもしれません。

歌川芳虎『隅田川雪見』

傘をさすしぐさや向きなど、モネは浮世絵をお手本にしたのだろうか? ●歌川芳虎(うたがわよしとら)『隅田川雪見(すみだがわきみ』 大判錦絵三枚続き 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1307786 (参照 2024-12-12)

クロード・モネが描いた日傘をさした女性

左/『日傘をさす女性(右向き)』 右と同時期に、シュザンヌをモデルした連作。人物描写や作風は右ページと変わらないように見えるが、人物を背景に溶け込ませようとする画家のまなざしには大きな違いがある。愛情と安らぎのなせる業か。●油彩・カンヴァス 1886年 131.0×88.0㎝ オルセー美術館 写真提供/Album(サイネットフォト) 中/『日傘をさす女性(左向き)』 右の作品の約10年後の作は、亡き妻に代わり、パトロンだったオシュデ家の三女シュザンヌがモデルに。モネはやがてオシュデ家未亡人と再婚し、シュザンヌの父に。本作もまた、愛に満ちた作品である。●油彩・カンヴァス 1886年 131.0×88.0㎝ オルセー美術館 写真提供/Alamy(サイネットフォト) 右/『散歩、日傘がさをさす女性』 3作のうち本作だけは、印象派を旗揚げして間もない1875年の作。背に光を受けている女性は妻のカミーユで、左奥には長男ジャンの姿が。カミーユの仕草や草むら、雲など、どれもが動きを感じさせ、画面には当時モネが目ざした、色彩と光が集約されているという。● 油彩・カンヴァス 1875年 100.0×81.0㎝ ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon, 1983. 1. 29

モネと浮世絵 見比べ5「街路」 西洋絵画に学んだ浮世絵の遠近法を逆輸入!?

モネと浮世絵との出合いは1867年のパリ万博より早く、本格的に蒐集を始めたのは1870年代と考えられています。
1860年代に新時代の西洋美術の旗手として頭角を現したモネが、当初から浮世絵の影響を受けていたことは、多くの作品から感じられます。
当時、パリで人気を集めていたのは広重や北斎。特に風景画が注目されていました。
広重の『名所江戸百景 猿わか町よるの景』は、モネのコレクションにもある一枚。西洋絵画の遠近法を独自に消化した広重の名画から、モネはインスピレーションを得ていたようで、初期の作品のなかには、街路の表現が酷似した作品が見受けられます。

歌川広重『名所江戸百景 猿わか町よるの景』

最晩年の『名所江戸百景』で大胆な構図を追求した広重は、どこまでも商店が続く一本道と、月明かりを受けた人々の影で、江戸の夜を楽しげに表現。モネにとって、ジヴェルニーのダイニングを飾るこの図の影響は大きかったようだ。●歌川広重(うたがわひろしげ)『名所江戸百景 猿わか町よるの景(めいしょえどひゃっけい さるわかちょうよるのけい)』大判錦絵 安政3(1856)年 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

クロード・モネ『オンフルールのバヴォール街』

Claude Monet, 1840–1926.
“Rue de la Bavole, Honfleur” (Street Rue de la Bavole in Honfleur), c. 1864.
Oil on canvas, 55.9 × 61 cm.
Inv. 48.580
ノルマンディー地方の港町オンフルールに今も残る街路を、モネはドラマティックに描写。その秘密は、視線を引きつける浮世絵風遠近法と、左側からさす光による陰陽表現のコントラストの強さにある。●油彩・カンヴァス 1864年ごろ 55.9×61.0㎝ ボストン美術館 写真提供/AKG(サイネットフォト)

※本記事は雑誌『和樂(2024年12・2025年1月号)』の再編集・転載です。

Share

和樂web編集部


構成/山本 毅、古里典子(本誌)
おすすめの記事

な、なんだこの絵は!葛飾北斎がマネやゴッホ、世界の芸術家たちを熱狂させた理由

和樂web編集部

“美人”と聞いて男性が思い浮かばないのは、なぜ?【日本画家・木村了子のイケメン考察 】vol.1

連載 木村 了子

250年の歴史を誇るロイヤル コペンハーゲンの記念コレクション。浮世絵の影響といまも息づく職人技を追って

PR 和樂web編集部

カレー研究家は葛飾北斎の夢を見るか?浮世絵の染料で実際にカレー作ったった!

タケナカリー

人気記事ランキング

最新号紹介

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア