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2019.09.26

9/28公開!映画「春画と日本人」に見る忖度の構造、大墻監督インタビュー

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フィルタをかけないということ

映画「春画と日本人」の大墻監督は、撮影の経緯をこう語ります。

大墻監督: 大英博物館の「Shunga展」開催を知ったとき、私は画期的でとても素晴らしいことだと思いました。ところが日本の「春画展」は難航しているという話を聞いて、疑問を抱き、個人的な興味から取材をスタートしました。あくまでサラリーマン生活の傍ら、週末と深夜・早朝の限られた時間を利用しての撮影・編集だったので、最終的にどういう形になるのか、自分でもよく分からないまま進めていました。ただ、起きていることを丹念に映像と音声で記録しておきたいという気持ちでした。

特定のメッセージを打ち出すことを目的とせずに撮影された映像は、一貫してニュートラルな視点を保っています。

大墻監督: 関係者へのインタビューでも、意図的に「こういう言葉を引き出したい」とか「こういう方向に話題を持っていこう」というものがなかったんです。

しかし結果として「春画展」各関係者のインタビューからは、いくつもの共通の問題意識が浮かび上がってきました。大墻監督は、「春画展」開催の裏側に、「展覧会の自由」「売買の自由」「研究の自由」「出版の自由」という4つの自由を守るための人々の戦いを見出します。

浦上満氏。映画「春画と日本人」より
「春画展」開催の立役者のひとり、コレクターであり美術商の浦上満氏。数々の美術品の流転を目の当たりにしてきた氏であればこそ、日本での「春画展」の開催に大きな意義を見出していた。(映画「春画と日本人」より)

大墻監督: 映像を編集していくうちに、さまざまなテーマの議論を喚起するための、一種の材料として、いろんな方に活用いただける作品になればと思うようになりました。そして、春画のオリジナリティと、春画の収集・保存・研究に努めてきた方々の意図を尊重し、映像にぼかしやトリミングをかけないという判断をしました。ナレーションにも私個人の主張や意見といったものは入れず、あくまで情報を整理することを心がけています。エンターテイメントの映画ではありませんが、観た方それぞれに、なんらかの問いを投げかけるものになったのではないでしょうか。

映画「春画と日本人」は、コレクターや研究者へのインタビューを中心に、春画の優品を無修正で多数紹介していきます。丁寧に編集された映像は、あたかも関係者が寄り集まって、同じテーマのもと意見を交わし合っているようなバランスとテンポを保ち、程よい熱量を有しています。

春画はイケないものなのか?

さて、春画を美術館・博物館で展示すること自体は、来場者への配慮を怠らなければ、決して法に触れる行為ではありません。実際に、永青文庫の「春画展」よりも前に、国内の美術館で春画を展示した例はいくつもあります。

永青文庫「春画展」の様子(映画「春画と日本人」より)
2015年の永青文庫での「春画展」は、18歳未満入場禁止。入り口で年齢確認が行われた。(映画「春画と日本人」より)

早い例では、1998年の福岡市美術館の「大歌麿展」(1998年1月6日〜2月1日)が挙げられます。森美術館(東京・六本木)の開館記念展「ハピネス:アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ」(2003年10月18日〜2004年1月18日)の会場の一角に、春画が展示されていたのをご記憶の方も多いことでしょう。

しかし、春画をメインテーマにした展覧会というと、多くの施設・機関が二の足を踏んでしまいました。(現在もその状況は、大きくは変わっていないと言えます。)当時、実行委員会はさまざまな美術館に開催を打診しましたが、大抵の場合、現場の学芸員が春画の文化的価値を認め、開催趣旨に賛同したのに対し、最終的には「上の判断」で断られてしまったと言います。そして、その最終判断の根拠は、いずれもどこか曖昧でした。

ほとんどの施設・機関が春画展の開催に消極的であったのは、春画そのものの是非というよりも、世の中の反応に、過剰なまでに怯えていたからだったと言えるでしょう。できる限り面倒は起こしたくない。先例のないことはやりたくない。「春画展日本開催実行委員会」が直面したのは、そんな日本の「事なかれ主義」や「お役所体質」でした。

そしてこれは決して春画に限ったことではなかったでしょう。「春画展」開催を目前に控えた2015年7月、東京都現代美術館で開催されていた企画展(「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」2015年7月18日〜10月12日)において、たった一人の来場者の意見から、会田誠の作品「檄」の撤去騒動が起きたことも、2019年の夏を振り返りつつ、いま改めて思い起こしておきたいと思います。

映画「春画と日本人」ポスター
映画「春画と日本人」ポスター。コピーは「日本人は「春画」を知らない」。得体の知れないものに対して、理解を試みるより先に排除しようとする日本の現代社会が浮かび上がる。

しかし、蓋を開けてみれば、永青文庫の「春画展」は、一件のクレームもなく、大盛況のうちに幕を閉じることとなりました。3ヶ月で来場者は21万人(同館の10年分の来場者に相当)を越え、図録購入率20%という快挙を成し遂げます。多くの人の予想に反し、女性の来場者が過半数(55%)を占めたことも話題となりました。そして2016年には、京都の細見美術館に巡回するに至ります。

書いた人

東京都出身、亥年のおうし座。絵の描けない芸大卒。浮世絵の版元、日本料理屋、骨董商、ゴールデン街のバー、美術館、ウェブマガジン編集部、ギャラリーカフェ……と職を転々としながら、性別まで転換しちゃった浮世の根無し草。米も麦も液体で摂る派。好きな言葉は「士魂商才」「酔生夢死」。結構ひきずる一途な両刀。