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2019.10.03

都内のアート観光に。東洋美術専門美術館、大倉集古館の基本情報と展覧会レポート!

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虎ノ門~神谷町の閑静な高台エリアにあって、道路際からもひときわ目立つ異国風の東洋建築の建物・大倉集古館。

2014年以来、約5年間もの長期にわたって休館していたので、今回のリニューアルを聞いて「待ってました!」と喜んだ美術ファンの方も多いのではないでしょうか?(かくいう僕もその一人。2014年はまだ普通にサラリーマンをやっていたので5年という時間の重みを改めて実感しました!)

では一体、この5年間でどこが変わったのでしょうか?早速リニューアルされた館内の様子を取材させていただくことができましたので、簡単にみどころをレポートしてみたいと思います!

※記事内における「名品展」「桃源郷展」での展示作品については、特別な許可を得て撮影しています。

大倉集古館とは?なぜ長期休館していたの?

大倉集古館についての基礎知識をおさらい

大倉集古館(しゅうこかん)とは、戦前、一大で巨大企業コンツェルン・大倉財閥を作り上げた大倉喜八郎(おおくらきはちろう)が日本初の私立美術館として1917年に創設した東洋美術を専門とする美術館です。設立後、1928年に父・喜八郎が亡くなると、大倉財閥を2代目トップとして継いだ喜八郎の長男・大倉喜七郎(おおくらきしちろう)がさらに拡大発展。以来同館は東洋美術の殿堂として100年以上の歴史を刻んできました。

館外に鎮座する大倉喜八郎の立派なブロンズ像。1915年に制作され、100年以上美術館を見守っています。フレンドリーなアルカイック・スマイルを見ていると、つい隣に座って喜八郎と一緒に記念写真を撮りたくなってしまいますよね!

ちなみにこのブロンズ像、100年前はこんな気さくな感じじゃなくて、聖人を祀った祭壇のような重々しい展示となっていたようです。

引用:「大倉集古館要覧」/国会図書館デジタルアーカイヴより

「古」いものを「集」めるという意味で「集古館」。いわゆる「●●美術館」という一般的な名称ではなく、「神宮徴古館」「泉屋博古館」みたいに、ちょっと古風で通好みの響きがします。

同館で特に東洋の古美術を専門に絵画・彫刻・工芸・墨跡・染織など幅広いジャンルの美術作品を収集。日本美術だけでなく、中国・朝鮮・インドといった東アジア全般の古美術が非常に充実しており、2019年現在、同館では国宝3件、重要文化財13件、重要美術品44件を含む約2500件の美術品を収蔵。リニューアルオープンと同時に開催中の「名品展」でも展示されている国宝「普賢菩薩騎象像(ふげんぼさつきぞうぞう)」は同館の至宝として特に有名です。

重要文化財・如来立像/大倉集古館の正面玄関を入ったところに鎮座する、中国北魏時代(5世紀~6世紀)の巨大な如来立像。三国志でも有名な劉備玄徳の生まれ故郷、河北省涿県から出土しました。裏側の光背部分にも無数の仏像が彫り込まれています。

また、旧大倉財閥グループ傘下の企業は、現在でも各分野で健在。大成建設、サッポロビール、日清オイリオグループ、リーガルコーポレーション、帝国ホテル、帝国劇場など、日本経済を代表する有力な企業がたくさんあります。また、大成建設の前身・大倉土木は鹿鳴館をはじめ、帝国ホテル、歌舞伎座など近代の日本の名建築の数々を手掛けたことでも知られています。

美術館そのものを味わう楽しみ~伊東忠太の建物、谷口吉生の水盤~

名建築家の「技」を楽しむ

正面から見た大倉集古館。派手な反り屋根や屋根上の幻獣が印象的なゴージャスです。

優れた美術館は、国宝や重文など一流の名品を所蔵するだけでなく、美術品を展示するための「建物」や「敷地内」も含め、美術館全体を楽しむことができるものです。そして大倉集古館にはまさに「美術館そのもの」を味わう楽しみがあります。

まずチェックしてみたいのが、戦前を代表する著名な建築家・伊東忠太(いとうちゅうた)の手による独特の建物。良い意味で日本離れした東洋風の外観・内装はまさに伊東忠太建築の真骨頂。また、彼は自分が設計した建築物の様々な場所に自ら考案したオリジナルの幻獣を配置することでも有名です。大倉集古館でも館内外のあちこちに「忠太オリジナル」の幻獣がいますので、ぜひ頑張って探してみてください!

今回のリニューアルに合わせて新設された、建物を半包囲する美しい水盤にも要注目です。ひと目見て勘の良い方なら気づかれていたかと思いますが、東京国立博物館(法隆寺宝物館)、京都国立博物館(平成知新館)、鈴木大拙記念館など、「水盤」のある数々の現代の名建築を手掛けてきた現代の巨匠・谷口吉生(たにぐちよしお)の設計により制作されました。

バルコニーから見ると、美しい水盤が美術館を取り巻くように設置されていることがわかります。水盤の周囲には遊歩道も設けられ、水盤に囲まれて植えられた大きな柳の木が中国江南地方の名勝風景を想起させますよね。

ちなみにこの水盤を作るために、大倉集古館の建物全体を6.5m奥へと移動させる大工事を行ったのだそうです。凄いこだわりですよね。道理でリニューアルに時間がかかるわけです・・・

美術館外の周囲にも様々なみどころが!

館外の敷地内にも、中国・朝鮮の石像や銅製彫刻が。具体的な出自等のキャプションは設けられていませんが、どれも丁寧に作り込まれ、歴史と由緒のありそうな文化財です。

もちろん、改修前も正門を守っていた金剛力士像も健在。ガラスケースなども設置されておらず、力動感あふれる「生」の迫力を思う存分味わってみてくださいね。

こだわり抜いたキュレーションに痺れた!企画展「桃源郷展」

「桃源郷」とは?展示の見どころは?

リニューアルオープンとなる企画展のタイトルは「桃源郷」。陶淵明(とうえんめい)の有名な散文「桃花源記(とうかげんき)」を典拠として、俗世を離れた究極の理想郷としてこの「桃源郷」を主題として制作された山水画や工芸作品が特集された企画展です。

陶淵明「桃花源記」の有名な一節は、高校の漢文の教科書にも掲載されていることもあって、なんとなく内容を覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?そのストーリーの概要はこんな感じ。

中国、東晋の時代(4世紀後半)に湖南地方の武陵に住むある漁師が舟で川を遡っているうちに、満開の桃林に迷い込みます。桃林の奥の洞窟を抜けると、そこには平和な別天地・桃源郷(武陵桃源)が広がっていました。その隠れ里の住人たちは、もともとは秦の戦乱を避けて同地へ隠棲した人たちの末裔でしたが、その後、漢・魏・晋と数百年間もの間、彼らはこの理想郷で俗世間の戦乱とは無縁の牧歌的な生活を営んでいたのです。しばらく桃源郷で歓待された後、漁師は家路への道中、後日再訪できるよう印をつけておきましたが、その後彼は二度と桃源郷へ辿り着くことはできませんでした・・・。

呉春「武陵桃源図屏風」六曲一双・絹本着色 江戸・天明4~5年(1784)大倉集古館蔵/元キミコ&ジョン・パワーズ・コレクションとして戦後長らく米国にあった作品。数十年ぶりの里帰りを果たし、同館へと収蔵!

本展では、陶淵明の散文に描かれた理想郷の情景を着想源にした、古今東西様々な作家が描いた「桃源郷」をテーマとした作品を一挙に集めて約30作品を展示。うち、今回新収蔵・初公開された呉春「武陵桃源図屏風(ぶりょうとうげんずびょうぶ)」をハイライトとする10作品で与謝蕪村・呉春の師弟コンビに力を入れて展示しています。

ワンテーマでここまで集める企画力は只者ではない?!

今回本当に驚いたのが、「桃源郷」という非常に限定された山水画の一テーマを追究した展示でありながら、出品される全29件のうち、館蔵品は呉春「武陵桃源図屏風」1点のみだったといいうことです。他はすべて東洋美術に強みを持つ日本全国の美術館・ギャラリーなどの個人コレクターから作品を集めて構成されていたこと。徹底的に日本全国を探し尽くさないとここまで揃うことは有り得ません!お金も時間もしっかりかかっているはず。この贅沢過ぎるキュレーションには脱帽でした!

時代・画家によるモチーフの描かれ方の違いを楽しむ

では具体的にどの部分に注目すればより効果的に比べて楽しむことができるのでしょうか?それは、「桃源郷」が描かれた作品の主要となるモチーフ「漁師」、そして「桃源郷」の村の描かれ方です。

まずいちばんチェックしてみたいのは各作品内に描かれた「漁師」です。中国・宋代から連綿と受け継がれてきた山水画において、「漁師」は俗世間の喧騒から離れ、きままな隠棲生活を謳歌する山水世界に住む「自由」の象徴でした。桃花源記でも桃源郷を発見したのは「漁師」であり、まさに作品の主役として描かれます。しかしその描かれ方は様々。たとえば、桃源郷内に到着して村人と談笑しているシーンだったり、これから洞窟を抜けて桃源郷に漕ぎ出して行くシーンだったり、作品を見比べると作者の個性や作品の時代性が反映され、各作品で違いが明確に際立っています。どの作品が一番「漁師」の気持ちになって没入できるか試してみるのもいいですよね。

特に呉春が描いた作品では、漁師=呉春、桃源郷の高士・陶淵明=与謝蕪村(師匠)と見立てて解釈することで、亡くなった最愛の師へのオマージュを表しているとも取れるのだそうです。

また、桃源郷の描かれ方も千差万別。満開の桃林の中、高士たちが琴棋書画(きんきしょが)に遊ぶ村の様子がしっかり描かれる作品もあれば、遠景に人のいない春の農村風景としてあっさり描かれた作品もあり、これもまた時代や作家によって桃源郷への思いや解釈は変わってくるのだなということを実感できます。

藍釉粉彩桃樹文瓶 景徳鎮窯 清・18世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

もう1点注目したいのは、工芸作品に現れた「桃」のモチーフ。今回集められた工芸作品は、粉彩技法による景徳鎮(けいとくちん)の名品や、精巧な堆朱(ついしゅ)の漆芸作品など、非常にハイレベルな作品揃いで目を奪われました。やはり中国美術では「桃」は「西王母」「東方朔(とうほうさく)」などの道教神話や「桃源郷」エピソードから不老長寿の仙果として、伝統的に吉祥画題として大切にされてきたのだな、と実感します。

中国・明時代の「堆朱」超絶技巧作品から、景徳鎮の明清時代の名品まで「桃」をモチーフとした良品揃いでした。

本展では、大倉集古館の実力と矜持を感じるとともに、本当に贅沢な展示空間を満喫させていただきました。与謝蕪村・呉春の師弟コンビの名作群を筆頭に、江戸絵画・中国絵画・明清時代の各種工芸など各時代や国に応じて個性の違う作家が描いた様々な「桃源郷」を徹底的に比較して鑑賞できるという贅沢な展示空間、ぜひ味わってみてくださいね。僕ももう前期だけで2回行きました!

1Fでは名品展を開催。定期的に展示替えされます

今回のリニューアルオープンに際して目玉となる「桃源郷展」と並行して1Fの展示スペース全部を割いて開催されているのが、大倉集古館の豊富な館蔵品から名品を選りすぐって展示する「名品展」です。(※以下、紹介する作品はすべて大倉集古館蔵)

この「名品展」では、同館の至宝である国宝「普賢菩薩騎象像」をはじめ、絵画・彫刻・工芸・書跡・染織などの各分野における傑作がバランスよく展示。目の超えた上級者でも納得の名品揃いでした。いくつか特に目についたものを紹介しておきますね。

国宝「普賢菩薩騎象像」平安時代・12世紀

同館を代表する仏像の大傑作。リニューアル前は常時出品していましたが、今後は作品保全のため1年のうち見られる期間が短くなる予定。見られるうちにぜひ!

左:速水御舟「鯉魚」昭和4年(1929)/中:小林古径「木菟図」昭和4年(1929)/右:下村観山「不動尊」大正14年(1925)※~10月14日まで展示

戦前の日本美術院で活躍したエースたちの作品。1930年に、イタリア、ローマで開催された伝説の「日本美術展覧会(通称ローマ展)」に出品された作品です。金泥使いの達人・下村観山(しもむらかんざん)や、琳派・写実主義を折衷して完成に近づきつつある速水御舟(はやみぎょしゅう)、闇夜とピンクの花の対比が美しい小林古径(こばやしこけい)など、傑作揃いでした。

横山大観「夜桜」六曲一双 昭和4年(1929)大倉集古館蔵

横山大観の代表的な人気作品の一つであり、篝火に霞む夜桜を描いた幻想的な構図と、琳派的な豊かな装飾性が美しい作品です。こちらも「ローマ展」に出品された作品。各屏風右隅にワンポイントだけ描かれた、夜空の「群青」の発色が非常に印象的。約90年前に制作された作品とは思えないみずみずしさでした。

国宝・藤原定実「古今和歌集序」平安時代・12世紀 ※~10月14日まで展示

流れるようなかなで書かれた流麗な書跡は、心落ち着く「和」のテイストに溢れた美しさがあります。色変わりの染紙で繋がれた各料紙には、雲母刷りされた花襷文や空刷りの牡丹蓮唐草文なども入れられており、行き届いた手仕事に感銘を受けました。さすがは国宝です!

尾形光琳・乾山「重要文化財・銹絵寿老図六角皿」江戸時代・17世紀 ※~10月14日まで展示

鉄絵での絵付けは尾形光琳が担当、制作は尾形乾山(おがたけんざん)が担当したゴージャスなコラボ角皿。しかも非常に珍しい「六角形」の角皿です。同館で特に著名な名品の一つですね。シブすぎます。

地下スペースにはミュージアムショップが設置

今回のリニューアル工事で増築された地下1Fの一角にミュージアムショップがオープンしていました。ショップでは、「桃源郷展」の図録をはじめ、展覧会関連書籍、絵葉書、クリアフォルダ、一筆箋、メモ用紙、マグネットなどの定番ミュージアムグッズが用意されている他、オリジナルお菓子やハンカチ、お香などの作品にちなんだ小物類も充実。どれも上品でした!

砂糖、水あめ、煮詰めたアメで作った珍しい「有平糖」。ポルトガル伝来の南蛮菓子が発祥の高級和菓子です。

横山大観「夜桜」、普賢菩薩騎象像をイメージして制作されたオリジナルお香。どんな香りがするのか試してみたいです。

地域の新たなランドマークへ!美術館をまるごと楽しめる東洋美術の殿堂

いかがでしたでしょうか?美術館の広報担当の方のお話では、ゆくゆくは大倉集古館を六本木エリアの「ランドマーク」的な存在として外国人観光客も含め、人々に楽しんでもらえる憩いのエリアにしてゆきたいとのことでした。

豊富な館蔵品、水盤に囲まれた美しい建物と、リニューアルされて5年ぶりにパワーアップした大倉集古館から目が離せませんね。ホテルオークラでゴージャスな食事とセットで楽しんでもいいし、1日かけて智美術館や泉屋博古館分館など近隣の美術館めぐりにトライするのも面白そうです。企画展、名品展、建物鑑賞など色々な楽しみ方ができるリニューアルされた大倉集古館、ぜひたっぷり味わってみてくださいね。

展覧会基本情報

展覧会名:「桃源郷展-蕪村・呉春が夢見たもの-」(大倉集古館リニューアル記念特別展)
会場:大倉集古館(東京都港区虎ノ門2-10-3)
会期:2019年9月12日(木)~11月17日(日)
公式HP

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。