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2016.06.09

沖縄の焼き物、やちむんとは?文化を体現するうつわの魅力

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古くて新しい復刻版「やちむん」で
〝今様・琉球古陶〟の魅力と出合う

 17世紀に朝鮮人陶工によって始まったとされる沖縄の焼き物。「やちむん」と呼ばれるこの焼き物は、沖縄の自然や風土を移したような美しくおおらかな魅力に溢れています。
 古くから海外の刺激を受け、さまざまな工芸を発展させてきた琉球王国ですが、17世紀に始まった陶芸文化もそのひとつ。陶工たちは王朝の庇護のもと、暮らしや伝統儀式を彩る陶器を数多く生み出しました。
 そんないにしえの「やちむん」を復刻させたのが、8人の沖縄陶工です。「温故知新」と名付けられたそのシリーズの陶器の美しいことといったら! 〝今様・琉球古陶〟の誕生物語と、その作品(使えるうつわです!)をご紹介しましょう。

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写真/松田さん含め4人の陶工が1990年に開いた共同窯「北窯」。大木の下では陶工が黙々と陶土を練っている。うつわは宮城正享による(ごすゆうはなえもんばち)呉須釉花絵文鉢。しっかり厚みのある頑丈な造形に、力強く走らせた筆の跡が美しい。直径23.4㎝、5,400円

今様・琉球古陶「温故知新」は
こうしてできあがりました

 沖縄の焼き物の、伝統の形と仕事をきちんと残したい。そんな想いで集まった陶工による琉球古陶復刻シリーズ「温故知新」。プロジェクトが始まったのは2年前のことでした。メンバーは、読谷村「茂生窯」(よみたんそん「しげおがま」)の上江洲茂生(うえすしげお)さん、「北窯」(きたがま)の宮城正享(みやぎまさたか)さん・松田米司(まつだよねし)さん・松田共司(きょうし)さん、大宜味村「陶藝玉城」(おおぎみむら「とうげいたまき」)の玉城望さんと若子さん夫妻、本部町(もとぶちょう)の登り窯「江口窯」の江口聡さん、松田米司工房から昨年独立した「陶器工房 風香原(ふうかばる)」の仲里香織さん。それぞれが自身の工房や窯で復刻に取り組んだそうです。
 土選びから窯焚きの方法まで、資料を調べ、研究し、試作と失敗を重ねた末に生まれた陶器は、8人合わせて約120種。2016年2月、ようやくお披露目となりました。
「20代のころから古い焼き物を再現したいという思いがありました。ページが破れるほど飽きず眺めた本『沖縄の陶器』(濱田庄司監修の古陶図録)が、僕の青春」
 と笑うのは、還暦を迎えた松田米司さん。博物館や東京の日本民藝館で見た古陶への敬意と憧れを形にするため、まずは、琉球古陶に影響を与えたといわれる中国や東南アジアの焼き物に向き合います。

うつわで生活が変わる。
それは昔も今も変わらない

「ものをつくるには、その背景を知らなきゃいけない。知るというのはその環境に身を置くこと。でないと、仕事が浅くなる」
 と台湾やベトナムへ。現地の窯を訪ね、技術や風土を知り、琉球古陶とのつながりを体感。その後も、昔のろくろの引き方や釉薬の掛け方を研究し続けました。
「少しは古陶の雰囲気がつかめたかな、と思う。でも、マカイ(碗)も鉢も料理を入れたほうがずっとよく見えるよ。うつわで生活が変わる。それは昔も今も同じだね」

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 いっぽう、国内で唯一、薪の窯で赤絵を焼いているのが、上江洲茂生さん。泡盛の似合う酒器など、華やかな中に品格のある赤絵を生み出します。戦後、沖縄の赤絵再興に尽力した陶工・小橋川永昌(こばやかわえいしょう)に師事した上江洲さんですが、実はここ十年ほど赤絵を中断していたそうです。「温故知新」のために窯のつくり直しから始めたというその窯は、なんとドラム缶!
「ガス窯と違って温度計もないし、一度で少ししか焼けないから効率も悪い。4回焚いて全部ダメだったこともある。それでも、ガス窯とは赤のツヤが違うよ。薪の窯はツヤが出すぎないのがいい。なにごともやりすぎない。昔の陶工はそうだったはずです。絵も描きすぎないで、ちょっと我慢する」
 古い柄を自分のものにするのは難しい。何度も何度も、描き続けるのだそうです。
「マネするだけなら一瞬だけど、自分のものにするのは3年かかる。だから、いつもポッケにノートを入れてスケッチしているよ。描き続けていれば、行き詰まっても仕事が前に進みやすいから」
 古陶と向き合うほかのメンバーを見て、ベテランも若手もみな真剣、と上江洲さん。
「復刻といっても、焼き物にはつくり手の人柄が出る。そこが面白いね」

i写真左上から時計回りに/「北窯」の登り窯。共同窯として県内最大規模の13連房を誇る。/松田米司さんのマカイ(碗)や鉢。「沖縄の古陶には媚びない美しさがある。それを再現したい」/読谷村「茂生窯」の上江洲茂生さんは1949年生まれ。「温故知新」のチームでは一番のベテラン/チームの最若手、仲里香織さんのかわいらしい面取湯呑(手前)は3,240円/松田米司さんの黒釉彫絵瓶子(くろゆうほりえびんしー)10,800円。20年以上憧れ続けた19世紀の壺屋焼(つぼややき)を再現したもの/かわいい赤絵の花器は上江洲さん作。高さ10㎝、5,400円

DMA-150508-1370写真/宮城正享さんの鉢。草を結わえて判子(はんこ)にし、釉薬をつけて絵付け。口径23㎝、5,400円

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写真/「いい焼き物のほめ言葉? よく〝がんじゅうちゅらさー〟とか〝ちゅらがんじゅう〟とか言いますね。大地にしっかり立つような頑丈さや健やかさに、美(ちゅら)を感じるという意味です」と、作陶中の松田米司さん。チューカー(急須のこと)は、米司さんの双子の弟・共司さん作。高さ13㎝、17,280円

〝復刻された琉球古陶〟は
こんなに魅力的!

 8人の陶工が古陶の復刻を試みた「温故知新」。琉球王国時代につくられた琉球古陶を忠実に再現したものもあれば、大正期の琉球古典焼にならった作品や、伝統の形を元に、現代の暮らしに合うようアレンジを加えたものもあります。ここでは、現代陶工による〝復刻された古陶〟を、カテゴリー別に分類。古陶本来の使われ方や意味とあわせてご紹介しましょう。

飯碗や平鉢など「日常のうつわ」

 沖縄独自のうつわといえば、マカイ(写真左上、右下)。沖縄の言葉で「碗」を意味します。口径に対して高さが低いのが特徴ですが、つくられた時代によって、碗の広がりや厚みも変わります。鉢(写真右上、左下)や皿など大量につくられた日常の食器には、内側に釉薬を輪っか状に削り取った〝蛇の目〟が見られます。登り窯で焼く際、うつわを何枚も重ねるため、高台がのる部分をあらかじめ削っておくのです。その〝蛇の目〟も、長く使っていると落ち着いた風合いに変化します。

x写真左上/仲里香織のオーグスヤーマカイ(緑釉碗)。松田米司工房でマカイを数多くつくってきた若手の作。口径19㎝、6,920円
写真右上/松田米司のフィーガキーマカイ(振り掛け碗)。湧田窯時代のうつし。古いマカイにならい、薄く成形している。口径14.4㎝、3,240円
写真左下/宮城正享の呉須釉菊花絵文鉢(ごすゆうきくかえもんばち)。古陶独特の白い肌を出すため、昔から使われてきた稀少な白土を、化粧土として使っている。口径17.4㎝、3,240円
写真右下/宮城正享の呉須飴釉点打花文鉢(ごすあめゆうてんうちはなもんばち)。口径23㎝、5,400円

日々のなごみに欠かせない「茶器」

 沖縄でよく飲まれているのが、さんぴん茶(=ジャスミン茶)。按瓶(あん びん)(あんびん/写真左)は、王朝時代に水差しとしてつくられた陶器ですが、近年は、さんぴん茶を注ぐうつわとして使う人が増えています。按瓶より小ぶりなのが、陶製の急須、チューカー(写真右下)。お茶用のチャージューカーと、お酒用のサキジューカーがあります。昔は泡盛用として重宝されていましたが、現在は茶用が主流。湯のみ(写真右上)は、沖縄の碗、マカイの形から派生したものです。
n写真左/江口 聡の按瓶。持ち手も陶器でつくられ、本体と一体化している。高さ21㎝、22,470円
写真右上/仲里香織の面取湯呑(めんとりゆのみ)。口径9㎝ 3,240円、左・松田米司の白土面取湯呑(しろつちめんとりゆのみ)。貴重な白土だけを使ってろくろを引いた。口径8㎝、3,240円
写真右下/松田米司の赤絵梅竹文(あかえうめたけもん)チューカーは、沖縄県立博物館にある古陶のうつし。28,080円

沖縄の酒・泡盛のための「酒器」

 種類も数も多いのが、沖縄のソウルリカー泡盛のための器。嘉瓶(ゆしびん/写真右)は贈り物用の泡盛を入れて使った酒瓶です。渡名喜瓶(となきびん/写真左)は、仏壇や墓前に泡盛を供えるためのもの。同じ使い方をするものが瓶子(びんしー)です。細長い注ぎ口のカラカラ(写真中上)は泡盛の注器。蓋も持ち手もないものが多いようです。「鬼の腕」の別名をもつのはタワカシ(写真中下)。泡盛を詰めて中国や本土へ運んだ器とされています。
q写真左/松田米司の渡名喜瓶。壺屋焼より古い湧田窯(わくたがま)時代の形を復刻。胴部には「飛びカンナ」という技法で模様がほどこされている。高さ15.5㎝、12,960円
写真中上/松田共司の呉須釉丸文(ごすゆうまるもん)カラカラ。高さ11㎝、10,800円。
写真中下/上江洲茂生の赤絵タワカシ。蓋付き。高さ35.5㎝、20,000円
写真右/玉城望の白釉嘉瓶。白化粧土の上に透明釉を2回掛けたため、釉薬が二重に垂れている。高さ36.5㎝、49,680円

王朝時代を継ぐ「伝統の形」

 古陶の中には、沖縄独自の生活文化や食文化を伝える形もたくさん存在します。9枚の花びらをもつ盛皿(写真左)は、王朝料理に使われた食器。「9」を最上級の吉数とする中国文化の影響が見られます。丁字風炉(ちょうじぶろ/写真右下)は、王朝時代からつくられていた香炉。上部に湯と丁子(クローブ)を入れ、下に入れた炭で湯を温めて使いました。また、手のひらサイズの油壺(写真右上)は、髪につける鬢付油用。香水瓶にも通じる愛らしさが感じられる器です。
o写真左/玉城若子の緑釉花形盛皿(りょくゆうはながたもりざら)。9つの花びらを1枚ずつろくろで成形し、カットして付ける手間のかかる方法でつくられた。長径25㎝、15,000円
写真右上/松田共司の灰釉流掛油壺(かいゆうながしかけあぶらつぼ)。黒釉の上から灰釉を流し掛けている。高さ9.5㎝、6,000円
写真右下/玉城 望の丁字風炉。現代の家でも楽しめるよう、サイズを小さくした。高さ14.8㎝、20,000円

今様・琉球古陶「温故知新」はここで買えます

「ふくら舎」
沖縄の手工芸を扱うセレクトショップ。「温故知新」のプロデュースも手がけています。今回紹介した「やちむん」はここで購入可能。在庫がない場合、注文可能な商品もあり。
沖縄県那覇市牧志3-6-10桜坂劇場内 10時~20時 無休

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撮影/篠原宏明