【京都】ルーツは刀鍛冶だった!「有次」の庖丁が大人気な理由

【京都】ルーツは刀鍛冶だった!「有次」の庖丁が大人気な理由

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京都の目抜き通りのひとつ四条通りの1本北、約400mの狭い路地に続く錦市場。現在はアーケードになっている「京の台所」と呼ばれるその路地の両脇には、ずらりと“京都の旨いもん”が並び、夕食の買い物をする地元のおばちゃんから観光客まで、今や京都一といってもいいほどのにぎわいぶり。そんな錦市場に昭和56年から店を構えるのが、庖丁をはじめとする料理道具の製造販売からメンテナンスなどのサービスまで請け負う、京都の…いえ、日本の“食”を支える「有次(ありつぐ)」です。おこりは1560年、桶狭間の戦いがあった室町時代の永禄3年から、刀などの刃物をつくる鍛冶職をはじめた藤原有次(ふじわらありつぐ)にあります。日本刀をルーツとする有次の庖丁。その切れ味は、美しい切り口をつくるだけでなく、食材の味をも変え、料理の仕上げをワンランクもツーランクも上げてくれるのです。

では、そんな魔法のような有次の庖丁にまつわる、さまざまな物語をお話ししていきましょう。

名料理人の庖丁拝見!「有次」の庖丁物語

古くから続く料理店がひしめく京都の中でも、名店と呼ばれる店には有次の料理道具がありました。料理人たちは口をそろえて言います、有次でなくては出せない味がある、と。名料理人が使う有次の庖丁の秘密に迫ります。

料亭「瓢亭」の髙橋英一さん

DMA-有次p4−5本番ph204写真の出刃庖丁は、20年来使っているという1尺1寸(33㎝)のもの。同じく有次の7寸5分(22.5㎝)の出刃庖丁は、背骨に硬いこぶがある明石の鯛もしっかりさばくことができる。

南禅寺のそばで約四百年の歴史を刻む、京都随一の料亭「瓢亭(ひょうてい)」。こちらの看板料理といえば鯛のお造り。ねっとりとした断面の身は弾力があり、嚙むほどに甘みが広がる、まさに極上の味わいです。

「瓢亭に鯛を食べにいこか、と言っていただけるよう、記憶に残る味に」と、料理人初の京都府無形文化財保持者である瓢亭14代目の髙橋英一さん。鯛は日本一の明石の天然物で、「嚙み応えのあるひと口大の厚さにするのにいい大きさ」の1.8kgから2.5㎏のものを仕入れます。これを冷蔵庫でうまみを引き出し、お客様が来店する直前にさばいてお造りにしますが、この造り方にもこだわりが。

「うちではヘぎ造りという造り方にします。普通の平造りは繊維を断ち切るため魚の身が割れてしまいますが、へぎ造りは繊維に沿って断面をスカッと切るので歯応えがしっかりするんです」

ここで力を発揮するのが、切れ味鋭い有次の刺身庖丁。明石海峡の激しい潮流にもまれて固く締まった鯛の身も、この庖丁を使い、流れるような動作でお造りにします。瓢亭と有次は40年以上のつきあいで、有次の庖丁はもはや手の一部となっているという髙橋さんですが、「有次さんの庖丁でも手入れが悪かったらあきません」と。切れ味を保つため研ぐのはもちろん、使用後に必ず磨き砂(とぎずな)で磨く。そうした手間をかけた分、応えてくれるのが有次の道具だと、厚い信頼を寄せています。

有次の魅力を語る「スマート珈琲店」の元木章さん

京都「有次」の庖丁が大人気! カリスマシェフ、アラン・デュカスも買い占めた!?3本常備しているという三徳牛刀は9寸のもの。このような長くて重い庖丁が喫茶店で使われるのは珍しい。サンドイッチ用のパン1本をスライスするところからこの庖丁を使う。

昭和7年から京都で愛されている「スマート珈琲店」で、フレンチトーストに次ぐ人気のサンドィッチ(スマート珈琲店ではこう表記します)。その伝統の味には有次の三徳牛刀(さんとくぎゅうとう)が不可欠です。

「シンプルな分、ごまかしがきかないサンドイッチは、“見ても食べても美味しい”が基本。パンの角が立ったほうが美味しそうですし、切り口にも気を配っています」と、店主の元木章さん。余計な力を加えず、有次の牛刀の重みに任せて切ることで、やわらかいパンや具がくずれない、美しい断面のサンドイッチができるといいます。

3つにカットし、切り口がお客様に見えるように並べたサンドイッチは、パンからのぞくふわふわの玉子、シャキッとした野菜が食欲をそそります。「庖丁といえばこれ、というほど代々お世話になっている」という元木さん。50年ぶりにこの店を訪れる人にも喜ばれる、変わらない味づくりの名パートナーです。

有次の魅力は“長く使えて修理が利く”

と、18代当主・寺久保進一朗さんは言います。そんなものづくりの姿勢に共感し、惜しみなく力を注ぐ職人たちの仕事場を訪ねました。

「昔ながらのつくり方で手を抜かずにやるのが、有次の庖丁。火を相手に仕事をするには目と勘だけが頼りです」と話してくれたのは、鍛冶職人の江渕浩平さん。鋼と鉄で構成される庖丁は、このふたつを火にかけて叩き合わせ(鍛接)、磨いて形を整えます。再度火に入れて刃の温度を高めたら、水に漬けてひと息で冷まします(焼き入れ)。このあとさらに細かな工程が加わりますが、こうして有次の目ざす「刃物の切れ味が長持ちする」庖丁がつくられるのです。江渕浩平さんは鍛接と焼き入れを行い、弟の利憲さんが仕上げを担当。兄弟で有次の出刃庖丁を製造しています。

鍛冶職人写真/鋼と鉄の鍛接にはベルトハンマーを使う。叩く分だけ鋼が減るので、回数は最小限にハンマーを当てることが求められる。

有次の鍛冶職人のなかで、48歳の江渕さんは“若手のホープ”。とはいえ、ご自身は30年のキャリアを重ね、「今だったら、どんな注文が入ってもできる、と思えるところが以前とは違いますね。40歳を過ぎて老眼が入ってきたら、焼き入れもラクになったしね(笑)。余計なものが見えなくなった分、目が落ち着いてきたのかな」と。焼き入れは、もっとも集中を要する作業だといいます。

「温度は待ったなし、ですからね。刃の元から先まで同じ熱さに保って焼かないと焼きムラができて、その部分は刃がもろくなってしまう。温度を判断するには、自分の目しかない。800℃前後が理想なのですが、気を抜けば一気に1000℃まで上がってしまいますから」

焼き入れには松炭(まつずみ)を用い、手で風を操りながら丹念に焼きます。鍛えられた目と勘が頼りのこの作業、今では庖丁の産地と呼ばれる所でも、できる職人は少ないとか。「目に見えないところにいっぱい手をかけるのが有次のやり方。要求はキツイですけれど、自信をもって自分のつくった庖丁を売ってくれる。それが励みになります」

錦市場の人気店「有次 錦店」

「有次」のすべての商品が並ぶ錦店。錦店の名のもととなる錦市場は、平安時代からの歴史をもつ京都を代表する食の市場です。

有次が錦市場に店を構えたのは昭和56年。前身の店は錦市場のほど近く、堺町四条にありました。といっても、有次が小売を始めたのは昭和20年ごろのこと。それまでは、有次の社員が商品を携えて料理店に出向き、料理人の意向を聞き、庖丁をはじめとする料理道具をあつらえていました。室町時代から続く歴史をもちながら“知る人ぞ知る存在”だった有次が、錦市場への出店をきっかけに、国内外から集まる食のプロフェッショナルや一般の人々に広く知ってもらう「場」を得たのです。

店舗

このような歩みで生まれた錦店には、店のつくりにも3つの特徴があります。ひとつめは、陳列商品の多さ。店内には、定番といわれる商品のすべてが常に並んでいます。有次のオリジナル商品だけでも、その数およそ550種類、1800点! ほかにセレクト商品を含む多種多様な道具が並び、その品ぞろえに感嘆します。

さらに驚くのは、この大量の商品は陳列場所が変わらないということ。たとえ年に1、2個しか売れないものでも、店の奥にしまわれることはありません。それは、いつお客様が来ても目当てのものが見つけやすいようにという配慮から。ゆきひら鍋を例にとっても、サイズが1.5㎝異なれば柄の長さも角度もそれに合うものになるのが有次の製品。手に取って見比べてもらうために、できる限りの種類を並べることは店として当然のことだといいます。

ふたつめ、みっつめの特徴は……また次回、ご案内しましょう。

◆有次 錦店
住所 京都市中京区錦小路御幸町西入ル鍛冶屋町219
営業時間 9時~17時30分
定休日 1月1日~3日休業
※錦店のほか、京都と日本橋の髙島屋、阪急うめだ本店でも一部商品の取り扱いあり

撮影/唐澤光也、篠原宏明、ハリー中西、戸田嘉昭

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