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2016.12.02

「東海道中膝栗毛」の弥次さん喜多さんも愛用? 印傳屋 上原勇七の印伝の魅力に迫る

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創業一五八二年 印傳屋上原勇七

染色した鹿革の上に、小花柄やトンボ柄の型紙を重ね、その上から漆をヘラで摺り込む熟練の職人たち。静かに型紙を剝がすと、革の表面にぷっくりとふくらんだ漆の模様が浮かびあがります。
s_DMA-0414 0052革に型紙をのせ、漆を塗りつける。

山梨県に古くから伝わる甲州印伝(こうしゅういんでん)は、漆を塗り付けて防水性を高めた鹿革を用いた工芸品。戦国時代の1582(天正10)年にこれを始め、人気を博したのが「印傳屋」遠祖の上原勇七(うえはらゆうしち)です。
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印伝の語源は“印度伝来の革”。元来は、正倉院宝庫内に見られる印伝足袋や、東大寺に残る奈良時代の文箱など、ごくごく稀少な高級品でした。「江戸時代になると、一切合切を入れる“合切袋”(がっさいぶくろ)や煙草入れなど、庶民の実用品として広まります。実は、十辺舎一九(じっぺんしゃいっく)の『東海道中膝栗毛』(とうかいどうちゅうひざくりげ)にも『腰に下げたる、印伝の巾着を出だし、見せる』と書かれているんですよ」とは、甲府市の本店で伺った話。現在では、財布からバッグまで400以上ものアイテムがつくられています。
s_DMA-0414 0193明治時代の合切袋。

印伝の主な技法は、前述の「漆付け」のほか、色と模様を重ねる「更紗」(さらさ)、鹿革を煙で染色する「燻べ」(ふすべ)の3種類。いずれも昭和30年代までは、上原勇七の名を襲名した家長だけに口伝される秘法でした。また、印傳屋のものづくりを大きく特徴づける華やかな模様は、全部でなんと400パターン以上。
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ほとんどの型は、名うての伊勢型紙職人による手づくりです。小刀の切っ先で微細な型を彫るため、1枚制作するのに1か月以上かかることもざら。そんな唯一無二の革工芸を、親子2代、3代にわたって愛するファンも少なくありません。

s_DMA-0414 0188江戸後期には数件あった印伝細工所も、今は「印傳屋」一軒のみ。

可憐で華麗な伝統模様は今も昔も使う人を喜ばせ、天然の漆は10年20年経つごとに色が冴えわたる――「印伝は実用の美。伝統は“もの”自体に宿るんです」。若い職人の言葉が、誇らしげに響きます。

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-2014年和樂7月号より-