Craft
2017.06.22

手間と根気で紡ぐ美しい布!人の手でしかできない匠の技を伝える

この記事を書いた人

細い細い糸づくりが命 自然布の夏衣

苧麻(ちょま)や芭蕉(ばしょう)で織られたひんやりと涼しい織物は、日本の蒸し暑い夏をしのぐのに、どれほど愛されてきたことか。軽く、肌離れがいい、ひんやりとした着心地と、水に通せば通すほどしなやかに育つ天然の植物繊維の力は、人の手が加わってこそ生まれるものです。植物の茎から繊維を取り出し、いくつもの準備を経て、指と爪で細く細く裂(さ)いたものを績(う)んで【つないで】長い糸をつくるのは、大変な労力です。

新潟の風土を著した江戸後期のベストセラー『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』では、現在の小千谷縮(おぢやちぢみ)にあたる越後縮に触れている段があり、糸について「中品以上に用ふるを績(うむ)にはうむ所の座をさだめおき、体(たい)を正しくなし呼吸につれて手を働せて為作(わざ)をなす」とあり、細い糸づくりは心構えからして違うことを伝えています。また、民藝の祖・柳 宗悦(やなぎむねよし)は、『芭蕉布物語』(1942年刊)の中で「この績む仕事ほど単調なものはありません。同じ仕種を何回繰り返さねばならぬのでせうか」と感嘆しています。
小千谷より軽く、より涼やかにと江戸時代に改良された麻布の贅小千谷縮

こうした作業を、現代人が行うことの大変さは容易に想像できます。戦後、高度で伝統ある技術を守ろうと、越後上布(えちごじょうふ)・小千谷縮、芭蕉布(ばしょうふ)、宮古上布(みやこじょうふ)は、いずれも国の伝統的工芸品や重要無形文化財に指定され、後継者育成に力を入れてきました。
dma-PH008濃い藍色に浮かび上がる繊細な十字絣の神わざ宮古上布
越後儚い透け感を支えるのは雪国が育んだ手間と根気 越後上布

「糸の績み手は70代、80代と高齢化しているので、生産効率も落ちています。数字からは見えてこない深刻な状況です」とは、喜如嘉(きじょか)芭蕉布事業協同組合理事長である平良美恵子(たいらみえこ)さん。苧麻も同様で、上布は特に均質で細く丈夫な糸が欠かせません。「糸はあるのですが、着尺用の細い糸が足りないのです」とは、宮古織物事業協同組合の専務理事、上原則子(うえはらのりこ)さん。美しい布を守り伝えたいと、織り手を目ざす若い人が少なからずいる中で、糸という根本の美を支えるものが揺らいでいるのです。
dma-PH008のコピー民藝の祖・柳宗悦が奇蹟と呼んだ南国の陽に光る健やかな布 喜如嘉の芭蕉布

最新の実状報告

小千谷縮、越後上布の平成24年度生産数は、33反(越後上布30反、小千谷縮3反)。織り手は塩沢地区で25名、小千谷地区で9名。績み手30〜40名。(小千谷縮・越後上布技術保存同人会調べ)

藍染め十字絣の宮古上布の平成24年度生産数は14反。十字絣の織り手は10人前後。組合では毎年講習生を募集し、後継者育成に力を入れている。(宮古織物事業協同組合調べ) 

喜如嘉の芭蕉布の平成24年度生産数は、着尺換算で130反。織り手は18人前後。績み手は50名前後。沖縄本島北部の喜如嘉にある芭蕉布会館で後継者育成を行っている。(喜如嘉の芭蕉布保存会調べ)