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2019.09.13

現代根付の知られざる世界。名工・齊藤美洲を訪ねて 

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美洲根付の美の魅力

ムチを想像して、美しいS字を描く

次に根付の造形について、お話いただきました。美洲先生の根付は見れば齋藤美洲の仕事だと分かるものです。その特徴の一つとして見られるのが「ひねり」。曲線を描くことで、造形的な美しさと骨格が伝わる強度が備わっています。その曲線を想定するためのモデルがムチだといいます。


「豊年踊り」 象牙、犀鳥嘴 高さ4.5cm

「動物を作る時のデザインは、一本のムチを考えればいい。ムチを持つところが頭で、首のライン、背骨のライン、尻尾の先までをムチがうねる動きに置き換えて考えると、美しい線ができるでしょう。背骨のラインが決まると、その左右に手足を付けていく。一本のつながりができて、動きも出ます。大きなS字を描くことで、一つの美の基本に沿っていくわけです」

美しい曲線に行き着くまでのヒントは、美術学校で学んだクロッキーにあったのだそう。

「1分ポーズの人体クロッキーでは必ず全身を一本のムチに見立てます。その一本のムチのカーブのラインを見極めないと短時間では描けません」

美洲先生の根付は、置くと立つものがほとんど。根付は帯に引っ掛けて使いますが、根付によっては立たせることを想定して制作されたものも少なくありません。とはいえ、このひねる動きをした動物の根付が立つということにも驚かされ、魅了されてしまいます。

「なぜ根付が立つことにこだわるかというと、彫刻の要の一つは、バランスなんです。ポーズが片足であっても、バランスを完全把握した彫刻であれば立ちます。

古典根付でも、あえて立つ事を強調したバランスを見せる根付というものがあります。例えば、小さい人が大俵を担いでいる根付で、俵が大きく一見立たないように見えますが、置けば立つと。すると注目を集めることができるでしょう。江戸時代に根付は自慢のネタでしたから」


「女占師」 鹿角、べっ甲(裏彩色) 高さ12.4cm

抽象形に落とし込むことで生まれる美

美洲先生が輸出用の根付を作っていた頃に年間で制作した数は、約千点。この時期に、今の美洲根付を形づくる一つの要素である「アブストラクト(抽象形)に落とし込む」視点を発見したのだとか。

「私が粗彫りをして、次の工程をする職人さんに渡していきました。1日に5個ほど仕上げることもありましたから、早く仕事をするにはどうすればいいかと考えたわけです。根付に必要な大きさに材料を切って、削ろうというときに『ここが手で、ここが頭』といちいち割り振っていたら、到底早くできない。その時に着想を得たのが、造形を一旦アブストラクト(抽象形)に落とし込む方法です。

例えば、オリジナルの根付に粘土のような柔らかい素材で覆って全て真っ平らにしたら、一つのアブストラクトができるでしょう。そこには作りたい形が確実に入っています。ですから、オリジナルが入ったアブストラクトが球であれば、まず球をつくって、あとはそこから彫り出していけばいい。これは、根付彫刻方法の重要な要素の一つの発見でした」

書いた人

もともとはアーティスト志望でセンスがなく挫折。発信する側から工芸やアートに関わることに。今は根付の普及に力を注ぐ。日本根付研究会会員。滑舌が悪く、電話をして名乗る前の挨拶で噛み、「あ、石水さんですよね」と当てられる。東京都阿佐ヶ谷出身。中央線とカレーとサブカルが好き。