Craft
2019.09.13

現代根付の知られざる世界。名工・齊藤美洲を訪ねて 

この記事を書いた人

後世の作家に向けて

作家性、独自性を求められる現代根付に対して、独特の感性でつくられた古典根付がもともと持っている根付らしさ、型について、どの程度踏襲する必要があるのでしょうか。美洲先生によると、「使えるということ」が大前提にあるといいます。

「要するに根付は使用目的のある工芸だから、それにかなわないと根付とはいえないでしょう。

また歴史的に見ても、根付の型から外れたものは、消えていきます。コレクターの思う根付の概念から外れていると、どんなにすごいテクニックを持っていようが、以降出てこないということがありますね。コレクターは肌で根付が何であるかを知っていますから」

つまり、帯に提げる必然性がない現代でも使えることが前提としてあり、そこに作家独自の個性をもって造形を作るという二つの要素で今の「現代根付」が成立しているといいます。

美洲先生は後世の作家についても気にかけておいでです。ただ、時代的に徒弟制は消滅し、弟子と云う言葉も無くなりました。

「仕事場で仕事を見せ合ってアドバイスすることはあるけれど、聞いた人が、どう理解して作品向上の糧にするかに懸かってくる時代なのでしょうね」

先代の仕事や古典根付を見て覚える環境にいらした美洲先生は、環境が変化した今の作家について、「どれくらい自分がいいと思う、感動する核心に出会えるかということが大切です。そのためには、数を見て経験することです」と語ります。

根付の歴史の分岐点を経験し、「現代の根付とは」という問いに応えた根付師・齋藤美洲は、現在もフロントランナーとして先端を走り続けています。

プロフィール

齋藤美洲

1943年生まれ。東京都出身。埼玉県在住。1962年から父・齋藤昇齋に師事。1977年に「根付研究会(現・国際根付彫刻会)」が発足し、会長を務める。1994年まで「国際根付彫刻会」の会長に就任。

書いた人

もともとはアーティスト志望でセンスがなく挫折。発信する側から工芸やアートに関わることに。今は根付の普及に力を注ぐ。日本根付研究会会員。滑舌が悪く、電話をして名乗る前の挨拶で噛み、「あ、石水さんですよね」と当てられる。東京都阿佐ヶ谷出身。中央線とカレーとサブカルが好き。