Craft
2019.09.12

中部国際空港国際線ターミナルのラウンジで飛騨の家具と出合った!

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中部国際空港の国際線出発ロビーに、その展示会場は存在する。

19番ゲートと20番ゲートの間にちょうどすっぽり収まるように、『飛騨の家具ラウンジ』というものがある。筆者はよく東南アジア諸国に仕事で飛び立つが、実は中部国際空港はあまり利用したことがなかった。理由は簡単で、いつも羽田発クアラルンプール経由のエアアジア機に乗るからである。が、この時は同じエアアジアでも名古屋発バンコク経由の便が手頃な価格で売られていた。貧乏物書きは辛い。

ただ、何事もプラス思考で考えなければ個人事業主はやっていけないという事情もある。今回も一番安いチケットを選んだからこそ、こうして記事のネタになるようなことに巡り合えた。

飛騨地方は「木の世界」

さて、飛騨の家具である。

飛騨とは岐阜県北部の山間部で、独特の文化が形成された土地だ。日本は島国でもあるが、同時に山国でもある。そのような国では「隣町=異文化」というような状態で、山が人を隔てているから個々の文化にも差異が出てくる。

誤解を恐れずに言えば、飛騨地方はまさに「異世界」だ。行政上は岐阜県だが、平野部である濃尾地方とは文化の境界線で区切られている。

飛騨地方は「木の世界」である。

世界平均よりも降水量の多い日本では、木は重要な材質だった。そうである以上、その木を伐採して加工するプロ集団がどこかにいるわけで、近世以前の日本には欠かせない存在だった。今でも木工分野で彼らの技術が継承されている。

が、木材を加工する産業とそれを支えている林業が敵視されていた時代もあった。

90年代前半、筆者はまだ小学生だった。が、あの頃の大人たちが言っていたことはよく覚えている。この頃から自然環境保護の問題が叫ばれるようになったのだが、当時は「森林伐採」に焦点が当てられていた。

確かに、アマゾンの熱帯雨林やシベリアのツンドラ地帯の木々を無造作に切り取る行為は問題だ。しかしプロの林業集団が計画的な伐採を行うことに関してはどうだろうか?

当時は「すべての森林伐採は自然環境を破壊する」という言説が横行していて、林業の役割を論じる者は少なかった。現代になって、ようやく再生不可能プラスチックの使用をやめて木工製品を見直そうという意見が出てくるようになった。

そして日本は「木の国」であり、我々の先祖は緑の自然と共に生きてきた人たちだ。その歴史が培った技術が、環境破壊問題に悩む国際社会で見直されつつある。

木製ならではの「味わい」

飛騨の家具ラウンジには、4企業の製品が並ぶ。飛騨産業株式会社、日進木工株式会社、柏木工株式会社、株式会社シラカワという顔触れだ。

飛行機を待っている間、旅客はここでくつろぐことができる。が、いざ腰掛けてみると製品のクオリティーの高さに驚かされる。まず、どの製品も接合部があまりない。大きな曲線を描いている設計のものも少なくないが、それを極力1枚の材質で仕上げようという工夫が見て取れる。そしてその接合部も、1mmの段差なくピッタリとくっついている。いくら加工の容易な木という素材とはいえ、これだけ精密に寸法を合わせられるのだろうか。

木製の家具には、妙な硬さがない。触れば触るほど、垢が付着すればするほど、そこに柔らかさと味わいが出る。これがいわゆる「経年変化」であるが、ここにある家具も10年後には姿を変えているはずだ。金属やプラスチックの製品では、このような変化は楽しめない。

林業の衰退が招く自然破壊

木工製品は、結果として自然環境を保護する役割を果たす。それは先述の通りであるが、我々現代人は「手を加えるべき自然」についてもっと考察する必要がある。

誰も山に入らなければ森林規模も順調に回復する、というのはあまりにも単純な発想だ。現在、日本の山間部で問題になっているのは「竹林の増加」である。林業が衰退して誰も山に入らなくなると、繁殖力の強い竹が他の木々を駆逐してどんどん広がっていく。

しかも、竹は保水力に乏しい植物だ。竹林に雨が降ると、土砂崩れを起こしやすくなる。沿岸部の住民が津波を恐れるように、山間部の住民は土砂災害を恐れる。去年7月の西日本豪雨は、保水力のない山の斜面がいかに脆弱かを知らしめるきっかけになった。

どの木を伐採し、どの木を育むのか。それを熟知する林業従事者は、日本列島の自然環境を司っていると表現しても過言ではない。そして伐採、というよりも剪定した木は家具にして、人々の生活に役立てる。これほど合理的なサイクルは他に見ることができない。

その上、国際社会ではプラスチックゴミの問題にスポットが当てられるようになった。経済先進国が発展途上国に対してプラスチックゴミを輸出する行為は、当事国の首脳を文字通り激怒させている。専門家からは「立場の弱い国へ問題を押し付けているのでは」という声もあるほどだ。
いずれにせよ、プラスチック製品に変わる材質が求められている。

このような状況下で、日本の伝統工芸品が果たしていく役割は決して小さなものではないだろう。