Craft
2019.10.07

北海道阿寒湖アイヌコタンの木彫り作家、瀧口健吾さんの作品がカッコいい!

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「見た瞬間に感激してもらえる作品をつくれたら、このうえない喜びです」そう話すのは、阿寒湖温泉で活動する木彫り作家の瀧口健吾さん。2019年10月12日にBEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIOで発売されるコラボレーションアイテムでは、サラダサーバーや木彫りの熊などを制作しています。

阿寒湖に暮らす人々と生活の手仕事

北海道釧路市、阿寒摩周国立公園の西のエリアに位置する阿寒湖温泉。この街にあるのが、120人ほどのアイヌの人々が暮らす「阿寒湖アイヌコタン(集落)」です。この地で人々は、仕事に勤しんだり食事を楽しんだり子育てするのと同じように、生活の手段のひとつとして、さまざまなものづくりをしています。

そんな阿寒湖温泉に暮らす人たちとfennicaによる、2年の歳月をかけてつくりあげたオリジナルアイテムが、2019年10月12日〜20日にBEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIOにて展示・販売されます。そこで今回は、彼らがどんな生活をしながらものづくりを続けているのかお話をうかがいました。

健吾さんのつくるバターナイフ

アイヌコタンにある「イチンゲの店」。木彫りの置物からキッチンツール、アクセサリーなど店内には所狭しと木彫の品々が展示されています。

このお店の2代目である健吾さんは、今回の企画で、サラダサーバーやバターナイフ、木彫りの熊などを制作しました。

「お話をいただいたときは、ものすごく嬉しかったですね。こういうイメージで彫ってくれ、とリクエストをもらうのも嬉しかったし、そのリクエストに応えてものが完成したとき喜んでもらえたのが嬉しかったですね。大変だったのは数。バターナイフは特に数が多かったので、苦労しました。でもそんなときも妻や母が作業を手伝ってくれたり。今回のコラボはいろんな人の助けがあってできたし、僕だけじゃつくれなかったと思います」

とにかく好きなものを彫れ!

北海道のお土産と聞いて「木彫りの熊」を思い浮かべる人も少なくないのではないでしょうか。阿寒湖温泉に数多くある土産店、その軒先に並ぶのも、やはり木彫の置物です。健吾さんの父・瀧口政満さんは、そんな阿寒湖温泉でその名を知らぬ人はいない、偉大な彫刻家のひとりでした。

父・瀧口政満さんの作品

「親父が亡くなったのは、2017年。父は今僕が彫っているこの場所で、いつも木彫りをしていました。…父の作品が、円空(※)の作品に似てる…? ありがとうございます、実はうちの犬の名前もエンクウなんですよ(笑)。父が好きだったんです」

※円空(えんくう)・・・江戸時代前期の仏師。一説に生涯に約12万体の仏像を彫ったといわれている。

幼い頃から父にさまざまなことを教わったのかと思いきや、健吾さんはそんなことはなかったと語ります。

「僕が彫り始めたのは20歳。父は16歳に木彫りを始めたので、それに比べたら遅いスタートです。実は、父からはほとんど何も教わっていないんですよ。本州の大学を中退して北海道に戻ってきてからは、刃物の研ぎ方教えてもらったくらいかな? とにかく好きなものを彫れ!とだけ言われました。だからお店に並べても、僕の作品はなかなか売れなくて。悔しくて。すごく悔しくて。10年くらい彫ったあと、木彫を一度やめて、酪農の仕事をしていたこともあります」

今回のコラボレーションのなかにあるサーバーは、健吾さんが父の作品からインスピレーションを受けて作ったもの。

「手前にあるのが父がつくったサーバー。左利きの母のためにかたちが一般的なものと逆なんです。これにインスピレーションをうけて、今回新たにサーバーをつくりました」

文様に意味を求めすぎない

健吾さんのつくるものに刻まれているのは「モレウ(渦巻き文)」や「アイウㇱ(括弧文)」などのアイヌの伝統文様。ただし、そこに、深い意味を求めすぎないようにしていると話します。

「きちんと学ぶのも大切ですが、僕の場合は体系的に文様の意味を習ったわけではありません。だから文様の意味は?と聞かれても答えるのがむずかしいんです。そもそも、アイヌの文様はつくる人によって違うし、それぞれの地域や家で家紋のような役割を果たしてきたもの。山で熊に襲われたときすぐに誰かわかるように着物に文様を施した、なんていわれています。だから、僕がナイフや置物に刻む文様は、パッと見た瞬間に心をつかむものであるかどうかが大切だと考えています。シンプルに、これはきれい!すごい!と感激してもらえるのであれば、このうえない喜びです」

とはいえ人の心を動かす文様は、すぐに生まれるものではありません。伝統的につくられてきた文様をベースに、どんなパターンをかたちづくるか、試行錯誤しながらつくりあげていきます。その作業は、必ずしもスムーズとは限りません。

「毎日9時に起きて、3時に休憩して、夜まで彫るのがルーティンです。でも行き詰まることもあるので、気分がのらないときは、思い切ってラーメン食べに行ったり、家族を連れて遊びにでかけたりもします。逆に朝7時から彫って、もうやめなさい!と妻に叱られるまでずーっと彫るときもあるし(笑)。良いものをつくるために、好きなときに、好きなだけ彫っていますね」

この土地だからできる木彫

プライベートでアイヌ語の勉強をはじめ、アイヌの舞踊や儀式へも参加する健吾さんですが、アイヌ文化に愛着を持つようになったのは、大人になってからのこと。

「大学を中退して北海道に戻ってきてから、滝川でカムイノミ(アイヌの神様へ捧げる儀式)を初めて見たとき、涙が出るほど感動したんです。火を囲んでアイヌ語で祝詞を唱えていて。それまでは正直、アイヌ文化の良さを何もわかっていませんでした」

健吾さんの彫ったイタ(お盆)。「この街でものづくりしている人なら誰でもこれくらいのイタは彫れちゃうよ」と健吾さん

アイヌ文化と作品制作は別物だけれども、深いところで繋がっている…健吾さんは「例えば、僕が全く違う土地で制作をしていたらつくるものも全く違うものになっていた」と語ります。最後に、これから彫りたい素材やモチーフについて、うかがいました。

「今彫っているのは、カツラの木。これは『良い予感』というタイトルの作品です。このほかにも動物や魚の骨、角、アフリカの木や豆…既成概念にとらわれず、おもしろいと思った素材をいろいろ試しています。これから挑戦したいのは、自然の木の味わいを生かした彫刻。いつか父のような、大きな像を彫ってみたいですね」

BEAMS fennicaコラボレーション 詳細

「アイヌ クラフツ 伝統と革新 -阿寒湖から-」
“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマにするBEAMSのレーベル「fennica(フェニカ)」と阿寒湖エリアのアイヌのものづくりのコラボレーションによる、新作コレクション。作品の展示販売のほか、トークショーやライブイベントも開催。

販売場所:BEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIO
販売期間:2019年10月12日〜20日
公式サイト(イベント情報):https://www.beams.co.jp/news/1660/
公式サイト(特集):https://www.beams.co.jp/special/fennica_things/vol7/