日本刀の「残欠」で中世イギリス風「ヴァイキングのナイフ」を作ってみた

日本刀の「残欠」で中世イギリス風「ヴァイキングのナイフ」を作ってみた

目次

日本刀の「残欠」というものがある。

これは何かしらの事情で折れてしまった刀のブレードを指すのだが、蚤の市やネットオークションなどにもこの残欠が数多く出品されている。

日本刀が折れてしまった理由は、いろいろある。無論、自然破損もあるだろう。しかし案外多いのは「規制回避」という理由だそうだ。

日本には銃刀法という法律があり、刃渡り15cm以上の刀剣の所持には登録証が求められる。が、登録証作成の手間を避けるために敢えて刀を折ってしまう、ということがよくあるそうだ。これは和樂Webの同志・あきみずさんに教わったことである。

そこで筆者は、こんなことを考えた。残欠をナイフにしたら面白いんじゃないか?

ヴァイキングの魂「サクス」を作る!

残欠をナイフにする。電動工具のない昔であれば、これはかなり手間のかかる作業だったはずだ。ディスクグラインダーも回転ノコギリも存在しない以上、残欠を炉の中に入れて形成し直さなければならない。

しかし、現代ならAmazonでポチれば強力なトルクを持つディスクグラインダーが手に入る。これがあるから、ただの男に過ぎない筆者でもある程度の工作ができる。

さて、今回手に入れたのはこの刀。ちょうど中央でポッキリ折れた脇差である。まずは下半分のブレードを直していこう。マジックで切っ先のラインを描く。今回は中世前期のイギリスに君臨したサクソン人の愛用したナイフ、即ち「サクス」を作ってみたい。

7~9世紀頃のイギリスはまさに戦国時代だった。アングル人、サクソン人、ノース人、デーン人、ピクト人、ゲルマン人等々、あらゆる民族の集団や勢力が血で血を洗う抗争を繰り広げていた。そしてそれは、ヴァイキングと呼ばれる人々が頭角を現す時代でもあった。

ヴァイキング時代に最も機能的かつ実用的なナイフとして広く利用されていたのが、サクソン人の名称の由来にもなったサクスだ。当時、長剣は貴族や権力者しか持ってないような高級品だった。昔の鍛造技術では、あまり大きな剣は量産することができない。そのような事情から、比較的安価なサクスが民族を超えて普及したのだ。

ヨーロッパ北部は森林が多い地域だから、サクスは木こり道具としての側面もあった。ナイフとは、つまるところ工具である。長大化したスクラマサクスはともかくとして、片手で振り回せる程度のサイズのサクスは木材加工にも多用されていた。長方形の鋼板を斜めに切り落としたような、直線的な切っ先。ボウイナイフに見られるカーブを利かせたクリップポイントは、中世前期の技術水準ではなかなか作ることができなかった。が、カスタムナイフの世界では今でもサクスは人気のある形状でもある。

というわけで、残欠をディスクグラインダーにかけてサクス独特の切っ先を作る。いくら文明の利器を使ったとはいえ、ガッチリ焼入れが施されているブレードを切り取るのは大変だ。もしかしたら切断砥石で切るのではなく、刃物サンダーを使って削ったほうが効率いい作業だったのかもしれない。

これと同時に、ブレードの持ち手の部分にも手を加える。こちらは120番の刃物サンダーを使用。タングになる部分を細くし、筆者の手に合わせる。さて、これで下準備は終わった。ここからが本番だ。いつものように、筆者自慢の砥石にかけてみよう!

日本刀の切っ先をそのまま活用

ブレード下半分のサクスの出来は、後述させていただく。次に説明するのは、ブレード上半分。こちらは当初から切っ先が形成されているから、その分だけ工作も簡単だ。ディスクグラインダーの刃物サンダーを使ってタングを作る。見た目はステーキナイフのようになった。これもかつてのヴァイキングが使ってたのと同じ形……というわけではなく、完全に筆者が「こうしたほうが持ちやすいかな?」と想像して作った形。けれどまあ、何となく、ヴァイキングっぽいじゃないか!?

ちなみに、筆者は古い刃物を直す時は「鏡面仕上げ」には絶対にしない。ブレード表面に明確に浮き出ている赤錆はともかく、汚れや黒ズミは敢えて残しておく。賛否両論あるのは覚悟してるが、筆者としては経年変化を大事にしたい。プラモデルには敢えて汚れをつける「ウェザリング」という技法があるのだから、汚いことは悪いことではないはずだ。

ただし、柄で隠れるタングの部分は黒錆加工を施している。また、砥石で刃をつける作業には時間をかける。どんな凝ったナイフでも、切れなければ意味がない。筆者に言わせれば、ナイフとはまず実用的な工具であるべきだ。

というわけで、このブレードも砥石にかける。

「双子ナイフ」の完成

筆者は他にも仕事を抱えているため、作業の着手から完成までに1週間以上かかってしまった。が、ひとまず完成にこぎつけることができた。どちらもタングにはパラコードを巻いているが、筆者としてはこの方法が一番手っ取り早くて握り心地もいい。結び目は解けないよう、布用接着剤で固定した。いざとなれば新しいパラコードを買って巻き直すこともできる。そして今回の仕事は、このサクスを作ったことが最大の成果だと考えている。実を言うと、ディスクグラインダーで切っ先を作った時に「これは失敗するかも」と考えてしまった。切断直後はその切り口が凸凹だらけで、改めて刃物サンダーをかけたり、鉄工用ヤスリやらサンドペーパーやらで何時間もかけて削ったりした。その程度のことは専業の職人であれば日常茶飯事かもしれないが、残念ながら筆者の本業は物書きである。安請け合いした他の仕事に追われながら時間をやりくりしている身分だ。そんな中で自分の思った通りのサクスを作ることができたのは、ある意味で幸運なことだと思う。

失われる文化財

ここで作った2本のナイフは、いずれも銃刀法の範囲内の作品であるということを述べておきたい。

もっとも、残欠とは刃渡りを15cm未満に抑える目的で施されているものでもあるから、こちらが定規を持って思案する必要はあまりないという事情も確かにある。それに、筆者が作るのは工具としてのナイフであり、剣や匕首ではない。どういうことかというと、刃渡り5.5cm以上の諸刃の刃物(銃刀法ではこれを「剣」と呼ぶ)や柄と鞘がピッタリ収まる短刀は日本では所持することができないのだ。が、正直に言えば筆者の技術では「刃渡り5.5cm以上の諸刃の刃物」や「柄と鞘がピッタリ収まる短刀」はそもそも作ることができない。

カスタムナイフの熱処理を請け負うヒーティング業者などはそのあたりに敏感で、ダガーが持ち込まれても処理を断っている。自分自身で刃物の熱処理をしようと思ったら、かなり大掛かりな設備と広い部屋を用意しなければならない。では、既にあるブレードをディスクグラインダーで研削して強引にダガーにしてしまおう……と思っても、元々の形状と構造がそれを許さない場合が多い。いずれにせよ、大金をドブに捨てる蛮勇がなければわざわざダガーや匕首などは作らない。

なお、「ダガー」と「ナイフ」は全く異なる概念の製品であるということも記載しておきたい。それはさておき。

聞くところによると、「銃刀法を守る」という目的のために文化的価値の高い刀までも折られているそうだ。この話を聞いた筆者は、怒りを通り越して呆れてしまった。これは文化の自殺行為ではないのか。こうして記事を書いている今でも、日本のどこかで貴重な刀剣の破壊が行われているかもしれない。それは数百年来伝わる陶器や絵画を焼却する行為に等しい。

その現状に対する憂い、または憤慨が今回の「残欠からナイフを作る」という企画を思い立たせたのか、と問われれば筆者はそれを否定しない。

刃物は人類の英知の結晶であり、守るべき文化財でもある。それを広く伝えるためであれば、筆者は今後も「残欠ナイフ」を手がけるつもりだ。

日本刀の「残欠」で中世イギリス風「ヴァイキングのナイフ」を作ってみた
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