日本文化の入り口マガジン和樂web
5月10日(月)
如何なる馬鹿も馬鹿といはれては怒る (杉村楚人冠) 映画「HOKUSAI」公式サイトはこちら
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
5月10日(月)

如何なる馬鹿も馬鹿といはれては怒る (杉村楚人冠) 映画「HOKUSAI」公式サイトはこちら

読み物
Culture
2020.06.08

江戸っ子は宵越しの銭は持たない?江戸町民の金銭感覚や収入と支出・レジャーも紹介

この記事を書いた人

「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」と言われるように、その日に稼いだお金はその日に使ってしまうのが「粋(いき)」という考えが、江戸時代の町民たちにあったようです。

江戸に暮らす庶民はどのくらい稼いで、何にそのお金を使っていたのでしょうか?江戸時代の町民の懐(ふところ)事情や金銭感覚をご紹介しましょう!

※本記事では1700年に制定された公定相場で換算、1両を10万円としています。

6畳一間に家族で暮らす!裕福な江戸っ子は一握り

江戸に暮らす町民のほとんどは「長屋」と呼ばれる集合住宅に暮らしていました。平均的な長屋の一室は、台所がついた約6畳ほどの空間。今の1Kマンションを想像していただくといいでしょう。そこに親子3人で暮らす家庭もあり、トイレは共同、お風呂は公衆浴場を利用していました。隣の部屋との壁は部分的に障子であったりするほど薄いもので、プライバシーはほとんどゼロ。しかし、家賃の平均は約6,000円とお手頃だった上、税金は地主や家主が肩代わりしてくれていました。

このような家に住む庶民が江戸の住民の7割ほどを占め、裕福な商人はほんの一握りでした。

江戸っ子の花形職業「大工」の収入と支出

江戸は火事が多発していたため、大工は町民の中でも比較的高給取りで花形の職業でした。江戸後期に書かれた『文政年間漫録』によると、妻と子どもが1人いる大工の年収は約270万円。だいたい以下のような労働スケジュールになっており、地震や火事の直後で人手が必要な際は、早出・残業をすることもありました。

【大工の一般的な労働スケジュール】

8:00  仕事開始
10:00 30分休憩
12:00 お昼休憩
14:00 30分休憩
18:00 仕事終了 

労働時間約8時間

『大工上棟之図』絵師:国貞

収入270万円に対し、支出は食費・家賃・被服費・交際費などを含めて約250万円。比較的裕福な大工でも、年間の黒字は20万円にしかなりません。これでは、宵越しの銭を”持たない”のではなく、”持てない”のが実情だったとも考えられます。

子どもも貴重な労働力

比較的裕福な家庭でもほとんど黒字が出ないということは、もっと貧しい家庭はどのように生活していたのでしょうか。そこで活躍するのが「子ども」です。江戸では、子どもたちも貴重な労働力。商人の家庭ではお店の手伝いや使い走りに大忙し。それ以外の子どもは、草花やシジミ、飴菓子、お汁粉、雑煮などを売ってお金を稼いでいました。

裕福な家庭の女の子は、三味線や踊りなどの習い事をすることもあり、熱心な「教育ママ」もいたことが『浮世風呂』などの書物に書かれています。

どんなに貧しくても、江戸っ子が大切にしていたこと

江戸に暮らすほとんどの家庭は、とても裕福とは言えない暮らしをしていました。しかし、江戸っ子がどんなに貧しくても大切にしていたことが2つあります。

子どもの教育

 
子どもは貴重な労働力でしたが、だからといって勉強を怠っていたわけではありません。江戸には「寺子屋」という学習塾のようなものが数多く開設され、「読み・書き・そろばん」などを学びました。授業料は一律ではなく、家庭の経済状況によって調整されており、貧しい家庭でも子どもを寺子屋に通わせるのが一般的。将来の道を開くための投資として、勉学が非常に重視されていたことがわかります。

『寺子屋書初』絵師:豊国

レジャー・趣味

充実した余暇を過ごすのが、粋な江戸っ子というもの。レジャーや趣味の中でも特に人気だったのが「植物」です。自宅で園芸を楽しんだり、植物園に鑑賞しに出かけたりしていました。「浅草花やしき」も、もとは江戸時代につくられた植物園だったのです。この他に歌舞伎も大人気で、男性は遊郭に遊びに行くことも楽しみのひとつでした。

芝居小屋で賑わう猿若町
『東都繁栄の図(中村座)』絵師:広重

江戸っ子はお金のかからない趣味を見つけるのも得意。小鳥や金魚、虫などをペットとしてかわいがったり、本は買わずにレンタルして読んだりしていました。今の「100円ショップ」のような、低価格な均一料金の店も流行しており、予算が少なくても気軽に趣味を楽しめたようです。

江戸っ子の金銭感覚に学ぶ

ほとんどの家庭が貧しい暮らしをしていた江戸。しかし、貧しいながらもレジャーや趣味を楽しみ、子どもへの「投資」も忘れませんでした。宵越しの銭を持たないことが粋とされた背景には、お金に執着するのがかっこ悪い・災害が多くいつ全てを失うかわからない・人口が多い江戸では仕事にあぶれることがなかったなど、さまざまな要因が考えられます。

少子高齢化が進む今の日本では「宵越しの銭を持たない」という感覚はなかなか理解できませんし、貯蓄は非常に重要なことです。しかし、江戸っ子の生活を見ていると、将来への投資や、自分の生活を充実させるためにお金を使うことも大切だと気付かされます。

アイキャッチ画像:『東海道五十三次 石薬師其二 大工与四郎』絵師:豊国
花形職業の大工は、浮世絵の題材にもなった。

※本記事の画像は全て国立国会図書館デジタルコレクションより引用しています。

▼江戸時代のクイズを家族で楽しもう! 和樂webおすすめ書籍
江戸を楽しむ! 絵ときなぞなぞ

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。